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第四章 女神に一目惚れした少年と報われない恋

100 宇宙と輪廻と銀河系の神々

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 輪廻は宇宙全体の全ての世界に繋がっている。

 つまり、輪廻の世界は1つだけということになる。

 道理でソラは他の恒星系の事も知っていたんだ。


「じゃあ、そのとてつもない大きい世界を作るために、ソラ様は犠牲になったの?」

「そういう風に語られているみたいね。でも、あたしが輪廻の世界で漂っている理由は、人間を作ったためよ」


 あれ? この部分も違う……。


「次の場所はー……ここ!」


 運転席にいる夢羽は周囲の事を気にせず、局員用カバンから手紙を取り出し、その座標をカーナビに入力した。

 ちらっと見えた切手には、お祭りのような風景が描かれていた。


「人間作ったから、魂を割ったの?」


 私は夢羽に構わず話の続きをした。


「そんな感じかなー。人間を作るために、その基礎となるものの魂を生贄にしたと言った方がいいかな」


 生贄って……。女神だから何でもありだな……ただの人だったら無理だけど……。


「人間作るのに必要だったら、あたし達ソラ様のこと復活できない?」


 車の操作を終えた夢羽は、ソラに質問を投げかけた。たしかに、夢羽の言う通りだ。


「大丈夫だよー。もうこの太陽系の陽の気に、今の人間の形が固定化されたからね。だから、復活できるよ」

「そういうのがあるんだね。他の恒星系にも人間っているの?」

「うん、いるね。全く同じ所もあれば、肌の色、身体の形が違う所もあるよ。魔力が血液みたいに身体の中に流れている人間がいる恒星系もあるね。色々だよー。そこの恒星系でも神が生贄になってるわ。その神が基礎となってるの」


 すごい……! 他の恒星系も旅してみたい!


「風羽がすごいワクワクしている顔してるやっさ。知識欲?」

「なんでわかったし……。そうだよ。許されるのなら、全恒星系の人間、動物の生態系を記録したいね」

「そこまでの規模だと、木星全域を図書館にしないとだねー……いや、もっと必要かも……あ! 人間だけに絞ったら問題なさそうね」


 ソラが何か独り言をぶつぶつと言っている。そんなに生物いるのか……。


「そういえば輪廻で思い出したんだけど、あのハクって人、唯一神になってこの宇宙を輪廻の世界で覆い尽くしたいって言ってたやっし? それって可能だば?」


 夢羽は後ろを向き、ソラを見る。


「そういえばそんな事言ってたね。どうなの? ソラ様」

「うーん……唯一神になるってことは、数多の神々を全て滅ぼすってことだから不可能だけど、輪廻の世界で覆い尽くしたい、か……」


 ソラは考え込む。


「そんな事言ってたのですね。私と一緒に仕事をしていた時は、一言もそんな事言ってなかったです」


 ルイはうーんと考え、そして首を捻る。


「そんな事計画しているのか! 腹立たしい……!」


 ゲンは通話越しでもわかるくらい怒りを露わにしている。


「そういえば、何でゲンはあんな所に閉じ込められていたば? たぶんハクにだよね?」

「ああ、たぶんハクにだ。何でだろうな?」

「どこに閉じ込められていたの?」


 ソラが興味津々に聞く。


「そういえばソラ様は知らなかったね。ゲンは輪廻の世界にあった牢の中に寝ていたよ」

「え? 輪廻の世界? 牢? 人工物なんてないはずなのに……」


 ソラは不思議そうな顔をしている。


「あとゲンを助ける時、ハクが待ち構えていたね」

「ハク……。あ! 顔が白くて見えなかったのって、もしかすると輪廻が関係しているかも!」


 ソラは何かに気づいた様子。


「たぶんだけど、あの白い身体、この世界では身体の維持できないのかも……えーっと、霊体が維持できない状態になってたわ」

「でもそんな切羽詰まった感じはしなかったけどなー」


 原初の女神が実は原初ではなかった事と、唯一神ではなかった事にショックは受けてたけど。


「消えてくれたら俺は嬉しいが、今はそれよりも邪気を集めて何かを企んでるって事が重要だろ」

「そうだね。輪廻の世界の邪気が異様に濃いってマールス様も言ってたしね」


 私がそう言うと、ソラは驚いたような顔をした。


「輪廻に陰の気が溜まっている? ……それはすごくまずいね……」


 そう言うとソラは、すごく真剣な顔をして窓の外を見た。


「輪廻の世界に陰の気が溜まるとどうなるば?」

「んー……結果的に神が誕生するわ」

「「「は!?」」」「おー!」


 1人を除いて、驚きのあまり声を張り上げてしまった。


「それがなんでまずいば? 誕生することは良い事やっし」


 ごもっともだけど……。


「生まれる事は良い事だよ。だけど、場所が場所だからね……」

「輪廻の世界?」

「うんそう。輪廻の世界には生き物は存在しない。神であってもね」


 そうなんだ! てっきりいるものだと思ってた。


「神が生まれたらどうなるの?」

「この場合は生まれる前が問題ね。輪廻の世界にも元々陽の気、今で言う霊気だけが溜まっている空間なの。そこに陰の気である邪気が溜まり始めると、魂が出来てしまう。んで、ここから仮説なんだけど、その魂をもっと大きいものにしようと輪廻が動き出して、陰の気の多い夢の世界と現世の宇宙を……」

「宇宙を?」

「ハクの言った通り、輪廻の世界が覆い尽くしちゃうわけ」


 え? 偶然にしては出来すぎている気がする。もしかしたら、誰かがハクに入れ知恵をしているかもしれない。


「野郎の計画と一緒じゃねーか! 一般人に邪気を集めさせていたんだろ? それに、実験を成功させないといけないとか言ってたんだよな?」

「たしかに言ってたやっさ。ハクを止めないと!」


 ゲンと夢羽は意気投合している。


「止めるって言ったって、私達ができる事はブラックリストの星に行って、夢の主の行いを阻止することしかできないよ」

「まあ今回みたいに、ハクの邪魔をすることはできたので、今はそれでいいと思いますよ……少し気になったのですが、なぜ輪廻の世界は存在しているのですか? あと、覆い尽くされた世界に生まれた神は何をするのですか?」


 ルイが隣のソラを見る。


「えーっと、1つ目のなぜ輪廻の世界が存在しているのかだけど、簡単な話で、勝手に魂が出来ないように分けているのよ。あたし達の身体の中にもある魂は、陽の気と陰の気それぞれ半分ずつで出来ているからね」


 たしかこの話、マールスに教えてもらったな。

 ルイは初耳だったようで、少し驚いた顔をしている。


「2つ目だけど……あ、これも仮説なんだけど、輪廻に覆い尽くされたら膨張し続けている宇宙が一気に縮こまり、無に帰すとされていると言われているわ」


 ルイは想像以上だったのか、苦笑いしている。


「あれ? そしたら、生まれた神は無に残ってるってことだよね? もしかして、輪廻で誕生する神って1柱ではないんじゃない?」

「風羽ちゃん気づいたみたいね。何柱誕生するかは不明だけど1柱でないことは確実だよ」

「やっぱり! だとしたら、無に残った神々は銀河の数と同じでしょ」

「ご名答! まあ、銀河系の神々も自分がどうやって誕生したかまではわからないから仮説なんだけど、無からビッグバンを起こし、宇宙を作って銀河を作ったのは銀河系の神々だよ」


 なるほど……。ということは、今の宇宙の前にももしかしたら別の宇宙があったとして、そこは輪廻に覆い尽くされて無に戻ったのかもしれないってことか……。


「おっかないな、輪廻の世界。じゃあ今やるべき対策は、輪廻の世界に邪気を集めさせないことだな」


 ゲンの通話から書いているような音が聞こえる。


「あと1つ心配事があって、ルリアス達みたいな鬼人と呼ばれる身体に入った人達の、ストレスという名の陰の気が溜まってないかなって」


 ソラはルイを見て悲しそうな顔をしながら言う。


「たしかに心配ですね。私はともかく、他の方々がすごく気になります」

「現状って、自身の身体を維持するための日銭稼いでいる感じだよな。どうにかならないのか? これ」

「維持するための費用がかなりかかるんですよね。材料が貴重みたいで、それを採る事ができる夢の星もあまりないですね」


 ゲンとルイが鬼人の身体について、リモートプチ会議を開いているように見える。

 鬼人の身体ってお金かかるんだ……未練を解消したいのに、そんなんじゃいつまで経っても解消できないね……。


「とりあえず鬼人の件はまた今度じっくりと考えようかー。うり、着いたよ」


 夢羽が前の方を指した。そこには、次の目的地の夢の星が見えていた。


「もしかしてここって……」

「うん、カーニバルの星だねー」


---


 星に降りると、すぐ目の前にお祭り会場のようなキラキラとした空間があり、人がガヤガヤと騒いでいる音も聞こえてきた。


「ここが最近噂のカーニバルの星……」

「賑やかやっさー。ここのどこがブラックリストだば?」


 すごく警戒しているルイと、首を傾げている夢羽。


「私もブラックリスト入りしているって情報と、最近からこの夢の星の内容がずっとカーニバルで、帰還した局員がいないくらいしか知らないよ」


 ノートをめくってそのページを開いたが、やはりそれ以外の情報は書かれていなかった。


「祭りだったら楽しんじゃいましょ! 何か起きたらその時に対処すればいいし」

「だぁるね! レッツゴー!」


 夢羽とソラはカーニバル会場へと歩を進めた。


「風羽さん。切手は何枚集まりましたか?」

「えっと、26枚だね」

「では、ここと次で28枚ですね。それまで付き合いますね。その後私は旅立ちます」

「もう決心ついたんだね……」

「はい。もう残す未練は1つだけですから」


 そう言ってルイはカーニバル会場へと入っていったソラを見る。


「ん? 戻ってくる?」

「ぎゃあああ! 逃げてー!!!」


 夢羽とソラは引き返してきた。


「……ん? 何か後ろにいない?」


 その後ろに、たくさんの人がよだれを垂らしながら走ってきた。


「うげ……ルイさん、逃げるよ」

「はい!」


 私達はカーニバル会場から離れるように、走って逃げた。
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