憂鬱症

九時木

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26 動物と人間

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 何でもない一日を過ごしていた。
 仕事帰りに、私はまた近所を道草していた。

 外では、霧スプレーをかけたような雨が降っていた。
 雨粒は弱々しく傘を滑り、目の前で落下した。

 散歩の帰り道には、ごま油のにおいがした。
 時刻は午後6時半。きっと、近所の誰かが夕食の準備をしているに違いなかった。


 私は家に帰ると、つまみを机の上に広げた。
 ナチュラルチーズとタコキムチ。そんな塩分たっぷりのつまみが、私は好きだった。

 私はそれが体に染みるのを感じながら、ちまちまとつまんだ。
 酒が手元にないのがもどかしかったが、それでも十分に味を堪能した。


 食後、私は胃を休めるためにしばらくぼんやりとしていた。
 ただ飯を食い、水を飲んでいるだけの時間。特別なことは何も考えず、存在しているだけの一日だった。

 私はそんな暮らしについて、特に幸せを感じることもなければ、不幸を感じることもなかった。

 食事をし、休憩をする。他の動物がそうしているように、ただ生き物としての営みを済ませただけのことだった。

 「もっと幸せを感じるべきではないだろうか」

 という懸念が脳裏をかすめたが、これは何とも人間らしい強迫観念のように思えた。


 私にとって、日常は大抵つまらないものだった。
 朝昼晩に飲み食いし、夜に眠る。頭の中が混雑することも多いが、結局生き物がしているのはそれだけだった。

 私は、荒涼とした平地でライオンが寝そべっているのを想像した。直後、人間もそのようであれば良いと思った。

 動物には、憂鬱感というものがあるのだろうか。
 自分には何の価値もないと絶望し、世界に何の期待もしないということがあるのだろうか。


 世界に何の期待もしないというのは、有り得る話だった。動物は人間よりも欲の少ない生き物のように思われたからだ。

 だがそれを憂鬱感と呼ぶには、少し違和感があった。
 人間が世界に何も期待しないのは、無欲だからではなく、絶望しているためにそうするのだ。

 キルケゴールは、絶望はいかにも人間らしい感情だと言った。今になって、その意味が何となくわかるような気がした。
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