憂鬱症

九時木

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101 物書きの病

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 オランザピン、バルプロ酸、インチュニブ。
 私は就寝前の薬を飲み、そっとベッドに横たわった。

 その日はたっぷり13時間眠っていた。
 活動した時間といえば、日中にショッピングモールを歩き回っている時くらいだった。


 私は足の疲れを感じつつも、今夜はそう深くは眠れないだろうと予想した。

 熟睡するにはあまりにも目が冴えていた。時間を持て余した私は、祖母からもらった幸福の本にふと手を伸ばした。

 本をパラパラと読み進めてみたが、どのページにも「神を信じよ」と書かれており、私はそれを呆然と眺めているだけだった。


 私は本を閉じ、天井を見つめた。
 ぼんやりとしているうちに、私は、昼に比べて気分が良くなっていることに気づいた。

 昼は希死念慮が渦巻き、『クープランの墓』を流しながら、死のロープに首をかける自分を想像していた。

 一方、夜は陽気になり、一人部屋であれこれと明日の予定を膨らませている。

 まるで人が変わったようだった。昼の私は刺々しく悲観的であるのに対し、夜の私は穏やかで楽観的だった。


 私は、自分は気分の波が激しいのだと思った。
 それを精神医学的には、気分変調症と言うのかもしれないし、躁鬱というのかもしれない。

 何にせよ、私は何らかの病を患っているようだった。

 服用中のバルプロ酸は、そんな気分の波を抑える薬だったし、アリピプラゾールもまた感情を穏やかにする薬だった。

 主治医はむやみに病名を言わなかったが、処方箋からして、私が情緒に何らかの問題を抱えていることは確かなようだった。


 私は、高揚を抑えられない躁病患者だろうが、絶望から逃れられない鬱病患者だろうが、どうでも良いと思った。

 気分の波があることを否定できなかったし、むしろ波の激しさによって物書きが進むのならばそれで良かった。

 主治医はそんな衝動的な私にインチュニブを処方することで、何とか過度な物書きを緩和させようとしてくれていた。

 しかし、私の方はもう治療になど興味がなくなっていた。
 私はただ物書きの衝動にのまれ、それを狂ったように愛した。

 一度物書きに手をつけると、しばらくは推敲を止められなかった。時を忘れ、時には仕事を放棄して書き続けることがままあった。


 私は、自分には物書きは止められないと悟った。
 これはもうどうしようもないことなのだと、そう思うことにした。

 私の目的はそれを止めることよりも、いかに続けるかということに転換していた。

 もはや、持病のせいなどではなかった。

 それは意地のようなもので、何か成果を得られるわけでもないのに、何としてでもすがりたいという思いがそこにはあった。


 よくわからないが、私はとにかく何かを書きたいらしかった。

 生活を犠牲にしてでも書くべきものは何だろうかと考えてみたが、答えは出なかった。

 何の目的もなく、ただ書きたいという衝動だけを持っていると思うと、馬鹿馬鹿しくてたまらなかった。

 しかし、筆は止まらなかった。
 そろそろこの衝動に新たな病名を付けた方が良いのかもしれない。だが、なかなかどうして良い名前が浮かばない。
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