憂鬱症

183 スプーン

　午前の仕事が終了し、私は昼食用の席へ座っていた。
　プラ袋からコンビニで買ったグラタンを取り出し、職場の電子レンジで温めた。


　グラタンが温まり、いざ食べようとした時、私はある異変に気がついた。

　プラ袋の中に、スプーンが入っていなかった。
　店員がつけ忘れたのだろう。私はグラタンを食べることができず、途方に暮れていた。

　私は上司に声をかけ、スプーンがないかと尋ねた。

　「ちょっと待っててくれる？すぐそこにあるから」

　上司はそう言うと、冷蔵庫の中から自分のスプーンを取り出した。

　私が申し訳なさそうにしていると、上司はにっこりと笑い、私に言った。


　「使っていいよ。どうせ俺は昼飯食べないし」

　「その代わり、すごく冷えているスプーンだけどね」と、上司はにやりと笑った。

　もらったスプーンは、冷蔵庫の中にあったせいか、確かに思い切り冷えていた。

　まるでアイスでも食べるためのものかのように冷たく、グラタンとの温度差が感じられた。

　周りにいた社員が私たちの会話を聞いていたのか、次々と吹き出した。

　私は冷えきったスプーンを持ちながら、そっとマカロニをすくい上げ、静かに食べ始めた。


　私は、今度は店員からスプーンを2つもらい、1つを上司に返そうかと思った。

　しかし、かえって遠慮させる可能性もあったので、結局は止めておくことにした。

　スプーンはプラスチック製で、使い切りのものだったので、勿体ないが捨てた。

　私は一度きりのスプーンにありがたみを感じながら、昼食を食べ終えた。