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第2章 一日目
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高遠さんと三輪さんが宿帳に署名をし、僕の手にペンと帳面がまわってきたところで、玄関ドアの開く音がした。ゾロゾロと数人が入ってくる気配もする。
「高遠、着いたんだ」
どうやら西国海洋大水生研の面々らしい。
「飯畑さんに藤田さん、久しぶりです。やっと来れました。あれ後ろにいるのは?」
「村上だよー、忘れんなよ高遠」
「ああ村上くんだったのか。やっぱりキャンパスにいる時と雰囲気が変わるのね。気づかなかったわ。ごめんね」
長旅の末に仲間と会えて、彼女の声は嬉しそうだった。会話の内容からすると、先輩二人と同期一人ってところかな。
「三輪さん、向井くん、紹介しますね。私と同じ水生研の仲間で、先輩の飯畑さんと藤田さん、それに同学年の村上くんです。みんな、こちらは船で一緒になった三輪さんと向井さんよ。東京からいらしたの」
「よろしくお願いします。東都文化大学四年の三輪旅人と言います」
「やあ、よろしく。僕は西国海洋大学水産獣医学部五年の藤田哲郎です。可愛い後輩が世話になりましたね」
そう言って三輪さんの右手をガシっと握ったのは、小麦色の肌が大きく盛り上がった大柄の男性だった。
「こんにちは、三輪の後輩で向井向葵です」
「おう!」
大男は僕に向き直り、同じくガシッと握手してきた。握り込む力が強い。
「向井くんだね、藤田です。よろしく。こっちは、同じく五年の飯畑と三年の村上だ」
「どうも。生物学部三年の村上です」
「こんにちは。藤田くんと同じ獣医学部五年の飯畑苺香よ」
「え、いいはた、いちかさん?」
僕は思わず口に出す。人の名前を聞いて大声で問い返すとは、相変わらず失礼だ。
「ふふ、ちょっと変わった名前よね」
「す、すみません」
「ううん、いいのよ。果物の苺に香という字をつけて、いちかって読むの」
そうか、苺香と書くのか。可愛らしい名前だな。でも眼前の飯畑苺香さんに、可愛いという表現は少し馴染まないかもしれない。僕はまじまじと彼女の顔を覗き込む。高遠さんとは、また違ったラインの美人と言っていいだろう。
シャープな頬の線に、力強く引き締まった口元、形の良い切れ長の目……、それらが美しく調和した顔立ち。可愛いと言うよりは、凛々しいと言う表現が似合う女性だった。その言動からも、なんとなくピシャッとした歯切れの良さを感じる。
パンッパンッと手が叩かれ、僕のあまりにも失礼な黙想を高遠さんが断ち切った。
「さあ、みんな。向井さんたちは東京からの長旅だったのよ。一度解放してあげて」
「ありがとうございます。まあひとまず荷物を置きに行ってきますわ」
「そうだ忘れてた。少し待ってくださいね」
書きそびれて手に持ったままだったペンで、自分の下宿の住所と署名を宿帳に書き入れた。三輪さんと高遠さんのサインの上には、藤田さんや飯畑さん、村上さんの名前も見える。
ほかに同じ日付で「伊藤健一」「水戸和花」の二人のサインがあった。おそらく高遠さんと同じ水生研のメンバーなのだろう。
「おい、アオイ、行くぞ!」
「あ、すみません。それでは皆さん、また」
「またな向井くん。部屋はみんな二階だ。夕食は食堂で一緒だから、その時に残りのメンバーを紹介するな」
藤田さんの言葉に飯畑さんも村上さんも、ウンウンと頷いている。そうだな。家を出てから何時間移動したのだろうか。船酔いのせいもあって気力体力共に限界だ。流石にそろそろ、ふかふかベッドに横になりたい。フラフラと階段の方角へ進もうとしたところで、
「あの」
高遠さんが、先ほどとは少し違う影ある声で我々を呼び止めた。
「三輪さん、カフェでお聞きしたお話は、私から皆に説明しておいて良いですか」
白い両の手は体の前で固く握られ、緊張しているのがわかる。
「ええ、お願いしますわ。俺の方も悲しい話を何度もするんはしんどいから」
三輪さんは努めて軽く明るい調子で返す。そして、「じゃあ、あとで」と、少し暗くなった空気を吹き飛ばすように手を挙げた。訝しげな表情で二人のやりとりを見ていた藤田さんが、これに応えてガシッとOKのガッツポーズをし、飯畑さんと村上くんがシュッと敬礼してくれた。
なんとなくだが、やはり海に携わる人たちの動きってキビキビしているように感じる。
「高遠、着いたんだ」
どうやら西国海洋大水生研の面々らしい。
「飯畑さんに藤田さん、久しぶりです。やっと来れました。あれ後ろにいるのは?」
「村上だよー、忘れんなよ高遠」
「ああ村上くんだったのか。やっぱりキャンパスにいる時と雰囲気が変わるのね。気づかなかったわ。ごめんね」
長旅の末に仲間と会えて、彼女の声は嬉しそうだった。会話の内容からすると、先輩二人と同期一人ってところかな。
「三輪さん、向井くん、紹介しますね。私と同じ水生研の仲間で、先輩の飯畑さんと藤田さん、それに同学年の村上くんです。みんな、こちらは船で一緒になった三輪さんと向井さんよ。東京からいらしたの」
「よろしくお願いします。東都文化大学四年の三輪旅人と言います」
「やあ、よろしく。僕は西国海洋大学水産獣医学部五年の藤田哲郎です。可愛い後輩が世話になりましたね」
そう言って三輪さんの右手をガシっと握ったのは、小麦色の肌が大きく盛り上がった大柄の男性だった。
「こんにちは、三輪の後輩で向井向葵です」
「おう!」
大男は僕に向き直り、同じくガシッと握手してきた。握り込む力が強い。
「向井くんだね、藤田です。よろしく。こっちは、同じく五年の飯畑と三年の村上だ」
「どうも。生物学部三年の村上です」
「こんにちは。藤田くんと同じ獣医学部五年の飯畑苺香よ」
「え、いいはた、いちかさん?」
僕は思わず口に出す。人の名前を聞いて大声で問い返すとは、相変わらず失礼だ。
「ふふ、ちょっと変わった名前よね」
「す、すみません」
「ううん、いいのよ。果物の苺に香という字をつけて、いちかって読むの」
そうか、苺香と書くのか。可愛らしい名前だな。でも眼前の飯畑苺香さんに、可愛いという表現は少し馴染まないかもしれない。僕はまじまじと彼女の顔を覗き込む。高遠さんとは、また違ったラインの美人と言っていいだろう。
シャープな頬の線に、力強く引き締まった口元、形の良い切れ長の目……、それらが美しく調和した顔立ち。可愛いと言うよりは、凛々しいと言う表現が似合う女性だった。その言動からも、なんとなくピシャッとした歯切れの良さを感じる。
パンッパンッと手が叩かれ、僕のあまりにも失礼な黙想を高遠さんが断ち切った。
「さあ、みんな。向井さんたちは東京からの長旅だったのよ。一度解放してあげて」
「ありがとうございます。まあひとまず荷物を置きに行ってきますわ」
「そうだ忘れてた。少し待ってくださいね」
書きそびれて手に持ったままだったペンで、自分の下宿の住所と署名を宿帳に書き入れた。三輪さんと高遠さんのサインの上には、藤田さんや飯畑さん、村上さんの名前も見える。
ほかに同じ日付で「伊藤健一」「水戸和花」の二人のサインがあった。おそらく高遠さんと同じ水生研のメンバーなのだろう。
「おい、アオイ、行くぞ!」
「あ、すみません。それでは皆さん、また」
「またな向井くん。部屋はみんな二階だ。夕食は食堂で一緒だから、その時に残りのメンバーを紹介するな」
藤田さんの言葉に飯畑さんも村上さんも、ウンウンと頷いている。そうだな。家を出てから何時間移動したのだろうか。船酔いのせいもあって気力体力共に限界だ。流石にそろそろ、ふかふかベッドに横になりたい。フラフラと階段の方角へ進もうとしたところで、
「あの」
高遠さんが、先ほどとは少し違う影ある声で我々を呼び止めた。
「三輪さん、カフェでお聞きしたお話は、私から皆に説明しておいて良いですか」
白い両の手は体の前で固く握られ、緊張しているのがわかる。
「ええ、お願いしますわ。俺の方も悲しい話を何度もするんはしんどいから」
三輪さんは努めて軽く明るい調子で返す。そして、「じゃあ、あとで」と、少し暗くなった空気を吹き飛ばすように手を挙げた。訝しげな表情で二人のやりとりを見ていた藤田さんが、これに応えてガシッとOKのガッツポーズをし、飯畑さんと村上くんがシュッと敬礼してくれた。
なんとなくだが、やはり海に携わる人たちの動きってキビキビしているように感じる。
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