上 下
17 / 85
第2章 一日目

14

しおりを挟む
 磨き上げられた厚い木板の階段を登り、ペンションいさり火の二階へと出る。どうやらこの建物は横に長い長方形で、階段はその中央付近にあるらしい。

 出たところが廊下になっていて、右と左へ続いていた。角から覗いてみれば、左右どちらも同じつくりで、廊下の両隣にそれぞれの部屋のドアが並んでいる。

「俺らの部屋は202やったな」

 登ってきた階段の正面のドアには207のプレートが張られ、その右隣に見えるドアには206、左に見えるドアには208のプレートが張られている。

「じゃあ、こっちですかね」

 廊下を右に進んでいくと突き当たりの部屋は、201と204だった。

「あれ違ったみたいですね」
「ああ、階段側が若い数字やったんやな」

 二人して回れ右をし、来た道を戻ると、階段側の部屋は201、そして洗面場と階段を通り過ぎ、 我らが202号室があり、203号室、そして突き当たりに外階段へ出るドアがあった。203の真向かいは高遠さんの209号室だ。

「僕たちの部屋は2階の202ですね?」

 わかり切ったことを改めて確認すると、三輪さんも重々しくうなずき、くじらのキーホルダーがついた鍵を鍵穴へと差し込んだ。右へ捻ると「カチリッ」と思いがけず大きな音が廊下に響き渡る。

「うわあ」

 宿の部屋に初めて入る時は、いつも子供じみた歓声が出てしまう。部屋の大きさは十二畳ぐらいだろうか。木材をふんだんに使った床と壁に、白い木製サッシの大きな窓が、とても明るく清潔な雰囲気を醸し出していた。

 部屋の入り口横にトイレと作りつけのクローゼットがあり、室内設備は二つのシングルベッドと、窓際の木製テーブル、藤製の椅子が二脚に、小さな冷蔵庫が一つと、シンプルかつ実用的なつくりで、居心地は良さそうだ。

「気持ちの良い部屋ですね!」

 僕はレースのカーテンを開けてみたが、残念ながら、そこにバルコニーはなかった。木製サッシの窓の外には、緑豊かな深く大きい山の連なりが見える。どうやらこちらの並びの部屋はペンションの裏側、オーシャンビューとは反対の方角で、バルコニーも設置されていないらしい。少し残念……。

 ふっくらと整えられたベッドの上に倒れ込む。白くパリッとしたシーツの触感が心地よい。今の時刻は何時だろうか。夕食まで一眠りすることにしよう。気がつけば、隣のベッドから三輪さんのゴーっというイビキが響いている。スマホのアラームを午後五時三十分に合わせたところで、僕の意識はあっという間に途切れたのだった。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

とある夫婦の平凡な日常

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

吾、京町家で文豪気分の『缶詰泊』なるものを体験す

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

【R-18/番外編】この狂った世界で私達はささやかな幸せを求める

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:17

水神様と俺

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

【意味が分かると怖い話】ハロウィンの夜

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...