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第3章 二日目、そして事件が起こる
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朝は六時半に起床。カーテンの向こうからは、すでに強い日の光が感じられた。ここが登山小屋ならば、朝寝坊な時間だろう。だが長い船旅の後の島の宿と考えれば、「なかなか早起きだと言えるんじゃないか……」そんなことを考えながら、僕はベッドから抜け出した。隣を見れば、三輪さんの姿はすでにない。どこへ行ったのやら。
大きく伸びをして、体の強張りをほぐす。よく眠った朝のストレッチは気持ちが良い。やはり昨日は疲れていたのだろう。ベッドに寝転ぶと同時に寝入ってしまったようだ。
廊下に出て洗面場で顔を洗う。鏡に映る自分の顔は、なかなか血色が良く元気そうだ。さあ島暮らしが始まった。いったいどんな日になるのだろう。
部屋に一度戻って着替え、そのまま一階のロビーへ向かう。階段の下からは香ばしいコーヒーの香りが漂っていた。ロビーまで降りてくると、案の定、置かれたソファーセットで三輪さんが一人、私物のタブレットを見ながらインスタントのコーヒーを飲んでいた。
「おう、アオイ、起きたか」
「おはようございます。早いですね先輩は」
「いや、さすがの俺も疲れとったみたいや。起きたのはついさっきやわ」
「なにか、おもしろいニュースでも?」
三輪さんの手元を指差し尋ねる。
「いやとくにでかい話はない。世の中平和でなによりや。それより気になるんはこれや」
立ち上がりながらタブレットを僕に差し出し、温水ポットのある台へ向かった。どうやら後輩にモーニングコーヒーを淹れてくれるらしい。ありがたい先輩だ。
タブレットの画面には、台湾周辺の天気図が表示されている。台湾島の南東付近で等圧線が非常によろしくない円形を描いていた。
「あれ、こいつフィリピン沖から西に迷走するんじゃなかったでしたっけ。これじゃあ九州地方は、台風の直撃じゃないですか」
「ああ、このままなら今夜あたりから風が強くなり、明日の夜か明後日には嵐やな」
香ばしい湯気のあがるカップを三輪さんは僕に手渡してくれた。
「インスタントやぞ」
「先輩に淹れていただけるだけで、僕は果報者ですよ」
「よう、わかってるやないか。それはそうと、せっかくの島旅なのについてないな」
「テレビの天気予報はどう言ってます?」
「どこの会社も俺たちの予想と大差ないわ」
そう言いながら三輪さんは、テーブルの上に置かれたテレビリモコンのスイッチを入れた。
NHKの朝のニュースが映るが、パリッとしたスーツ姿のキャスターが話す内容は、この秋に予定される国政選挙についてだ。次の天気予報は六時五十五分ごろだろう。
まあしかし、登山が趣味の僕らは、テレビの天気予報をあまり当てにはしていない。基本は天気図を見て自分たちで今後の天気を予測することだ。山では、この先数日間の天気の予測が命に関わることもある。だからこそ他人事にせず、自分で判断しなければならない。
とは言っても、プロが行っている天気予報はやはりよく当たるので、当てにはしてないが非常に参考にしているのだが……。
「それで、今日の予定はどうなってます?」
面白くもないテレビから目を離し、三輪さんに伺いを立てる。今回の旅の財布は先輩である。いくら気心の知れている相手とは言え、自由に遊びまくるわけにはいくまい。
「俺は朝食後に海洋大の面々と事故のあった浜へ献花に行く予定や。昨夜、藤田さんが誘ってくれはった。お前は好きにしたらええ」
「いや、そんな水臭い。ここまで来たんですから、僕も手を合わせに行きますって」
「そうか? ええんか? いや付いて来てくれたら嬉しいわ」
いつもは強引に話を進めるくせに、ずいぶんとしおらしいセリフである。たぶん僕が同行するのを期待していたのだろうが、言い出しかねているところが本当に憎めない人だ。モーニングコーヒーのサービスも、これのせいか。ズズッとコーヒーを飲む。うん、熱くて美味しい。頭がシャッキリとする。
「それで、港までの足はどうするんです?」
島の地図に描かれた、日ノ出集落と美鈴浜の位置関係を思い出す。イラスト風にデフォルメされていたので正確ではないだろうが、車道を戻って湖頭峠の交差点から向かう形では、かなりの長距離になりそうだ。
「確か、日ノ出浜から美鈴浜へと向かう歩道が地図に描かれてましたよね」
僕は鞄から昨日見た観光地図を取り出す。
「それは石階段を登って展望台を通る道や。でも、そのルートは五年前の台風で向こう側へ降りる道が崩れたまま、使えへんらしい」
「五年も前から壊れたままなんですか?」
「離島はどこも財政難やって言うからな」
三輪さんは肩を竦めて大袈裟に首を振る。改めて地図を見てみれば、確かに問題のルートには赤いバツ印が付いていた。
「俺とお前なら突っ切れるかもしれんが無理することはない。今回は竜二さんが車を出してくれるいう話や」
「なるほど、それなら安心ですね」
「あのワンボックスは大きかったからな」
「それで時間は決まってるんですか?」
「いや、この後の朝食の時に、決めようって言ってはったわ」
「朝食後ですか」
不意に空腹を覚え、受付カウンターにある掛け時計を見上げた。今は朝の六時五十分をまわったあたりか。朝食は七時からのはずだ。そのまま目線を食堂入り口のドアに向ければ、ガラス越しに人が忙しく動く気配が見えた。石田さん夫婦が用意をしているのだろう。
「もうすぐですね。ところで海洋大の人たちを見かけませんね。まだ寝てるのかな?」
「さっき敦子さんに聞いたんやけど、俺が起きるより前に全員揃って浜に出たらしいわ」
「え、もうですか?」
「まあそう言うても、俺が下に降りたんが六時二十分くらいやからな。俺らも夏の山やったら、とっくに歩き始めとるやろ」
やはり皆がすでに活動している時間に寝てたと言うのは、ちょっと恥ずかしい。
「朝の浜辺で、何か面白い生物が見れるんですかね?」
「そうやろな。ま、もう戻ってくるやろから、あとで高遠さんにでも聞いてみたらええ」
大きく伸びをして、体の強張りをほぐす。よく眠った朝のストレッチは気持ちが良い。やはり昨日は疲れていたのだろう。ベッドに寝転ぶと同時に寝入ってしまったようだ。
廊下に出て洗面場で顔を洗う。鏡に映る自分の顔は、なかなか血色が良く元気そうだ。さあ島暮らしが始まった。いったいどんな日になるのだろう。
部屋に一度戻って着替え、そのまま一階のロビーへ向かう。階段の下からは香ばしいコーヒーの香りが漂っていた。ロビーまで降りてくると、案の定、置かれたソファーセットで三輪さんが一人、私物のタブレットを見ながらインスタントのコーヒーを飲んでいた。
「おう、アオイ、起きたか」
「おはようございます。早いですね先輩は」
「いや、さすがの俺も疲れとったみたいや。起きたのはついさっきやわ」
「なにか、おもしろいニュースでも?」
三輪さんの手元を指差し尋ねる。
「いやとくにでかい話はない。世の中平和でなによりや。それより気になるんはこれや」
立ち上がりながらタブレットを僕に差し出し、温水ポットのある台へ向かった。どうやら後輩にモーニングコーヒーを淹れてくれるらしい。ありがたい先輩だ。
タブレットの画面には、台湾周辺の天気図が表示されている。台湾島の南東付近で等圧線が非常によろしくない円形を描いていた。
「あれ、こいつフィリピン沖から西に迷走するんじゃなかったでしたっけ。これじゃあ九州地方は、台風の直撃じゃないですか」
「ああ、このままなら今夜あたりから風が強くなり、明日の夜か明後日には嵐やな」
香ばしい湯気のあがるカップを三輪さんは僕に手渡してくれた。
「インスタントやぞ」
「先輩に淹れていただけるだけで、僕は果報者ですよ」
「よう、わかってるやないか。それはそうと、せっかくの島旅なのについてないな」
「テレビの天気予報はどう言ってます?」
「どこの会社も俺たちの予想と大差ないわ」
そう言いながら三輪さんは、テーブルの上に置かれたテレビリモコンのスイッチを入れた。
NHKの朝のニュースが映るが、パリッとしたスーツ姿のキャスターが話す内容は、この秋に予定される国政選挙についてだ。次の天気予報は六時五十五分ごろだろう。
まあしかし、登山が趣味の僕らは、テレビの天気予報をあまり当てにはしていない。基本は天気図を見て自分たちで今後の天気を予測することだ。山では、この先数日間の天気の予測が命に関わることもある。だからこそ他人事にせず、自分で判断しなければならない。
とは言っても、プロが行っている天気予報はやはりよく当たるので、当てにはしてないが非常に参考にしているのだが……。
「それで、今日の予定はどうなってます?」
面白くもないテレビから目を離し、三輪さんに伺いを立てる。今回の旅の財布は先輩である。いくら気心の知れている相手とは言え、自由に遊びまくるわけにはいくまい。
「俺は朝食後に海洋大の面々と事故のあった浜へ献花に行く予定や。昨夜、藤田さんが誘ってくれはった。お前は好きにしたらええ」
「いや、そんな水臭い。ここまで来たんですから、僕も手を合わせに行きますって」
「そうか? ええんか? いや付いて来てくれたら嬉しいわ」
いつもは強引に話を進めるくせに、ずいぶんとしおらしいセリフである。たぶん僕が同行するのを期待していたのだろうが、言い出しかねているところが本当に憎めない人だ。モーニングコーヒーのサービスも、これのせいか。ズズッとコーヒーを飲む。うん、熱くて美味しい。頭がシャッキリとする。
「それで、港までの足はどうするんです?」
島の地図に描かれた、日ノ出集落と美鈴浜の位置関係を思い出す。イラスト風にデフォルメされていたので正確ではないだろうが、車道を戻って湖頭峠の交差点から向かう形では、かなりの長距離になりそうだ。
「確か、日ノ出浜から美鈴浜へと向かう歩道が地図に描かれてましたよね」
僕は鞄から昨日見た観光地図を取り出す。
「それは石階段を登って展望台を通る道や。でも、そのルートは五年前の台風で向こう側へ降りる道が崩れたまま、使えへんらしい」
「五年も前から壊れたままなんですか?」
「離島はどこも財政難やって言うからな」
三輪さんは肩を竦めて大袈裟に首を振る。改めて地図を見てみれば、確かに問題のルートには赤いバツ印が付いていた。
「俺とお前なら突っ切れるかもしれんが無理することはない。今回は竜二さんが車を出してくれるいう話や」
「なるほど、それなら安心ですね」
「あのワンボックスは大きかったからな」
「それで時間は決まってるんですか?」
「いや、この後の朝食の時に、決めようって言ってはったわ」
「朝食後ですか」
不意に空腹を覚え、受付カウンターにある掛け時計を見上げた。今は朝の六時五十分をまわったあたりか。朝食は七時からのはずだ。そのまま目線を食堂入り口のドアに向ければ、ガラス越しに人が忙しく動く気配が見えた。石田さん夫婦が用意をしているのだろう。
「もうすぐですね。ところで海洋大の人たちを見かけませんね。まだ寝てるのかな?」
「さっき敦子さんに聞いたんやけど、俺が起きるより前に全員揃って浜に出たらしいわ」
「え、もうですか?」
「まあそう言うても、俺が下に降りたんが六時二十分くらいやからな。俺らも夏の山やったら、とっくに歩き始めとるやろ」
やはり皆がすでに活動している時間に寝てたと言うのは、ちょっと恥ずかしい。
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