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第3章 二日目、そして事件が起こる

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 朝食は、分厚く香ばしいベーコンと卵が二個の目玉焼きにサラダとコンソメスープ。薄切りパンをこんがりと焼いたトーストは食べ放題で、バターをたっぷり塗ってベーコンをのせて食べるとたいへん美味い。三輪さんはすでに三枚目のトーストに手を出している。

「トースト、おかわりしますか?」

 コーヒーが入ったポットをテーブルに持って来てくれた竜二さんが、空になったパン用バスケットを覗いて聞いてくれた。

「じゃあ、一枚お願いします。先輩は?」
「おう、それじゃあこっちも、もう一枚!」
「はいはい、昨日の船でパンがいっぱい届きましたから、たくさん食べてくださいね」

 そうか昨日、竜二さんが火曜の船で新鮮な食物がいろいろ届くと言っていたが、島の暮らしではパンなんかも、外からやってくる貴重な食品の一つなんだな。そんな自分の知らない、その土地ならではの知識が得られるのも旅の醍醐味だろう。

 台風が来るということで、残念な気分になってしまったが、旅の楽しみは何も海水浴をするだけじゃない。

 海洋大の面々は我々が食堂に入った七時ちょうどに、海から戻って来た。その後は各自がシャワーを浴びたり、着替えたりして、いまは隣のテーブルで賑やかに朝食をとっている。何か興味深い発見があったのだろうか。伊藤さんと村上さんがタブレットと厚手の図鑑のような本を見ながら議論し、それを後ろから水戸さんが覗き込んでいた。

 コーヒーを片手に、ぼんやりと隣のテーブルに目を向けていると、不意に高遠さんと目が合った。にこりと微笑んでくれるが、どこか陰りのある表情が気になる。他のメンバーに比べ彼女は昨日到着したばかり。やはり疲れているのだろうか。彼女の皿には、手付かずのベーコンエッグが残されたままだった。

 七時五十分に全員が朝食の席を立った。その場で、リーダーの藤田さんから、我々東京組を含む全員に今日の予定説明がある。

「今日の午前は、事前に説明した通り美鈴浜へ献花に行く。竜二さんが車を出してくれるので、八時三十分に玄関に集合してくれ」
「何か、運ぶものや個人装備ありますか?」

 海洋大三年生の村上さんが挙手のうえ、先輩に質問している。昨夜の砕けた感じと比べると、格式ばっているような気もするが、海洋大は船を使っての実習もあるそうだ。単なる先輩後輩関係だけでなく指揮系統がしっかりとしているのだろう。よく見れば、海洋大生は全員が姿勢正しく整列している。

「研究会の予算で購入した花輪は、昨日、高遠が運んで来てくれた。そんなに大きなものではないので、僕が持っていく。あと各自が手向けてもらう花は、敦子さんにご用意してもらったので、お礼を言っておいてくれ」

 昨日見た高遠さんのカートには花輪が入っていたのか。他にも色々と入っているのだろうが、ずいぶん大きいなと思っていたのだ。

「今回は献花のあと、僕は三輪さんに当時の状況を説明する」

 そこで藤田さんは、こちらに目をやった。三輪さんが黙礼を返す。

「他のメンバーは各自自由にしてもらって良いが、場合が場合なので、水辺での採集活動や遊ぶような真似はなしにしてくれ」
「それは、当然よね」

 飯畑さんが賛意を示し、周囲も頷いている。

「あとは水筒や記録用のカメラなど、各自の判断で持ち物は用意すること。スマホはここと同じく電波は通じない。現地での滞在は一時間くらいの予定だ。他に質問は?」

 全員から無言の返事があり、その場は解散となった。
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