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第3章 二日目、そして事件が起こる
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ペンションから美鈴浜の駐車場までは、車で二十分弱の距離だという。ペンションを出て日ノ出旧集落の手前で曲がり、昨日も通った山際の細い道を走ると、湖頭峠の交差点に差し掛かる。
その交差点を今度は右へと曲がった。そのままワンボックスカーは北へと進んでいく。道はいつしか舗装道路から砂利混じりの土の道に変わった。ただし道の整備は悪くないようで、車が大きくバウンスするようなことは少ない。
「この先が北の古浜港で、もともとは沖ノ港の漁師さんたちの風待ち港だったんですよ」
ハンドルを、しっかりと握りながら竜二さんが解説してくれる。
「昨日、敦子さんも同じことをおっしゃってましたが、風待ち港というと?」
「どこの島にもあるのかなあ? この辺は天候の変化が激しい上に、海流が大きく動く難しい海なんです。それで沖ノ港から北の海へ漁に出た船は、天候の悪化なんかのときには古浜港へ逃げていたのですよ」
「日ノ出港は、また違ったんですか?」
「日ノ出港は、昔は沖ノ港の町とは別の集落だったのです。今じゃ考えられないけどね。そうすると沖ノ港の漁師にとっちゃ、日常的には使いづらかったんでしょう」
「それで、古浜港ができたんですね」
「そうらしいです。古浜の湾内は水深が深くて波も穏やかだからね。まあそんな古浜港が使われてたのも、ずいぶん昔のことですよ」
「日ノ出港には、もう石田さんご夫妻しかおられないのですか?」
「そうですね。もともと私も沖ノ港の出なんですが、妻と結婚したあと、10年前に日ノ出に宿を作って引っ越しました。そん時はもう日ノ出の集落も三世帯か四世帯くらいだったかな。あとは櫛の歯が抜けるように、どんどん減っていって、気がつけばうちだけ」
竜二さんはそう言ってワハハと笑い出した。
「さあ、着きましたよ」
竜二さんが宣言すると、車を左に急旋回させ、ブレーキを踏んだ。どうやらここが美鈴浜の駐車場らしい。助手席の藤田さんは、停止と同時に助手席から降車し、素早くすぐ後ろの乗降口のドアを開けてくれた。
「お疲れ様。足元が悪いんで気をつけて」
「ありがとうございます」
流石に手を取ってはくれなかったが、なかなか気の利く人だ。
降り立ってみれば、すぐ目の前が石の多い浜だった。我々のいる駐車場が美鈴浜海岸の端っこらしく、こちら側から前方へ緩い弧を描くようにして長い海岸線が続いていた。海岸の背後には急峻な崖が立ち上がり、荒々しい岩が連なっている。逆に駐車場から来た道の方角を振り向くと、一部に草が生い茂った岩だらけの荒地が続き、その向こうに小さくコンクリートの構造物が見える。そこが風待ちの古浜港なのだろう。さっきまでは陽気なところを見せていた海洋大の面々も、今では誰も軽口を叩くものはいない。誰もが、暗い目で前方の海を見つめていた。
「よし、じゃあ行こうか」
藤田さんの号令に皆一様に頷き合い、砂利混じりの駐車場を海岸線へ向けて歩み始めた。
美鈴浜という可愛らしい名前がついているが、そこに何か特別な施設があるわけではない。非常に石が多くて、素足で歩くのは危険そうだ。もっとも水棲生物を探索するには良いのかもしれない。
「この辺りの波打ち際に、大島くんは打ち上げられていた」
波打ち際に沿って、しばらく歩いた先で藤田さんは立ち止まった。
「打ち上げられて? 彼は陸地まで戻ってきていたんですか?」
三輪さんが驚いている。僕もてっきり、海上で発見されたと思っていた。
「波に連れて帰ってもらったんでしょう。ただ小橋さんは……」
「サンダルが見つかったと聞いてますが」
さすがに先輩の声も硬い。
「ああ、その近くに片方が落ちていた」
波が寄せる一点を彼は指差す。
「藤田さんが見つけられたんですか?」
「そう、最初に発見したのは俺と伊藤、そして村上だ。自転車で方々を探していて、たまたまここへも来たんだが」
「その時にはもう」
「俺はすぐに自転車で宿へ戻って緊急連絡を入れた。伊藤と村上が人工呼吸などの救命処置をしたそうだが、残念ながら……。公式な記録では、俺が電話を入れたのが午後五時五十四分となっている。だから発見したのは五時十五分ごろだったはずだ」
そう言って、藤田さんは目を閉じた。その時の光景を思い出しているのだろう。
「同じ時に、女性が海に浮いているのを見た人がいると聞いたんですが」
これは以前も、三輪さんが高遠さんに尋ねていた話だが、
「それは警察にも聞かれたが、正直、誰が言ったのかもわからない。あの時は混乱していたから。島の消防団か誰かから間違った情報が出たのだろうと……」
案の定、藤田さんの説明も歯切れが良くない。そんな重要な点が有耶無耶になったりするものだろうか?
「その後は、誰もその話をしては?」
「少なくともうちのメンバーで、それを見たって証言したものはいない」
藤田さんは、この話はこれで打ち切りだという感じで、全員に集合をかけた。そして発見場所だという海岸線に並び海に花を流す。続いて藤田さんの発声の後、黙祷をし、僕たちの慰霊の旅は終わった。涙を流している人もいるなか、三輪さんは今までに見たこともない怖い顔をして、海の彼方を見つめていた。
その交差点を今度は右へと曲がった。そのままワンボックスカーは北へと進んでいく。道はいつしか舗装道路から砂利混じりの土の道に変わった。ただし道の整備は悪くないようで、車が大きくバウンスするようなことは少ない。
「この先が北の古浜港で、もともとは沖ノ港の漁師さんたちの風待ち港だったんですよ」
ハンドルを、しっかりと握りながら竜二さんが解説してくれる。
「昨日、敦子さんも同じことをおっしゃってましたが、風待ち港というと?」
「どこの島にもあるのかなあ? この辺は天候の変化が激しい上に、海流が大きく動く難しい海なんです。それで沖ノ港から北の海へ漁に出た船は、天候の悪化なんかのときには古浜港へ逃げていたのですよ」
「日ノ出港は、また違ったんですか?」
「日ノ出港は、昔は沖ノ港の町とは別の集落だったのです。今じゃ考えられないけどね。そうすると沖ノ港の漁師にとっちゃ、日常的には使いづらかったんでしょう」
「それで、古浜港ができたんですね」
「そうらしいです。古浜の湾内は水深が深くて波も穏やかだからね。まあそんな古浜港が使われてたのも、ずいぶん昔のことですよ」
「日ノ出港には、もう石田さんご夫妻しかおられないのですか?」
「そうですね。もともと私も沖ノ港の出なんですが、妻と結婚したあと、10年前に日ノ出に宿を作って引っ越しました。そん時はもう日ノ出の集落も三世帯か四世帯くらいだったかな。あとは櫛の歯が抜けるように、どんどん減っていって、気がつけばうちだけ」
竜二さんはそう言ってワハハと笑い出した。
「さあ、着きましたよ」
竜二さんが宣言すると、車を左に急旋回させ、ブレーキを踏んだ。どうやらここが美鈴浜の駐車場らしい。助手席の藤田さんは、停止と同時に助手席から降車し、素早くすぐ後ろの乗降口のドアを開けてくれた。
「お疲れ様。足元が悪いんで気をつけて」
「ありがとうございます」
流石に手を取ってはくれなかったが、なかなか気の利く人だ。
降り立ってみれば、すぐ目の前が石の多い浜だった。我々のいる駐車場が美鈴浜海岸の端っこらしく、こちら側から前方へ緩い弧を描くようにして長い海岸線が続いていた。海岸の背後には急峻な崖が立ち上がり、荒々しい岩が連なっている。逆に駐車場から来た道の方角を振り向くと、一部に草が生い茂った岩だらけの荒地が続き、その向こうに小さくコンクリートの構造物が見える。そこが風待ちの古浜港なのだろう。さっきまでは陽気なところを見せていた海洋大の面々も、今では誰も軽口を叩くものはいない。誰もが、暗い目で前方の海を見つめていた。
「よし、じゃあ行こうか」
藤田さんの号令に皆一様に頷き合い、砂利混じりの駐車場を海岸線へ向けて歩み始めた。
美鈴浜という可愛らしい名前がついているが、そこに何か特別な施設があるわけではない。非常に石が多くて、素足で歩くのは危険そうだ。もっとも水棲生物を探索するには良いのかもしれない。
「この辺りの波打ち際に、大島くんは打ち上げられていた」
波打ち際に沿って、しばらく歩いた先で藤田さんは立ち止まった。
「打ち上げられて? 彼は陸地まで戻ってきていたんですか?」
三輪さんが驚いている。僕もてっきり、海上で発見されたと思っていた。
「波に連れて帰ってもらったんでしょう。ただ小橋さんは……」
「サンダルが見つかったと聞いてますが」
さすがに先輩の声も硬い。
「ああ、その近くに片方が落ちていた」
波が寄せる一点を彼は指差す。
「藤田さんが見つけられたんですか?」
「そう、最初に発見したのは俺と伊藤、そして村上だ。自転車で方々を探していて、たまたまここへも来たんだが」
「その時にはもう」
「俺はすぐに自転車で宿へ戻って緊急連絡を入れた。伊藤と村上が人工呼吸などの救命処置をしたそうだが、残念ながら……。公式な記録では、俺が電話を入れたのが午後五時五十四分となっている。だから発見したのは五時十五分ごろだったはずだ」
そう言って、藤田さんは目を閉じた。その時の光景を思い出しているのだろう。
「同じ時に、女性が海に浮いているのを見た人がいると聞いたんですが」
これは以前も、三輪さんが高遠さんに尋ねていた話だが、
「それは警察にも聞かれたが、正直、誰が言ったのかもわからない。あの時は混乱していたから。島の消防団か誰かから間違った情報が出たのだろうと……」
案の定、藤田さんの説明も歯切れが良くない。そんな重要な点が有耶無耶になったりするものだろうか?
「その後は、誰もその話をしては?」
「少なくともうちのメンバーで、それを見たって証言したものはいない」
藤田さんは、この話はこれで打ち切りだという感じで、全員に集合をかけた。そして発見場所だという海岸線に並び海に花を流す。続いて藤田さんの発声の後、黙祷をし、僕たちの慰霊の旅は終わった。涙を流している人もいるなか、三輪さんは今までに見たこともない怖い顔をして、海の彼方を見つめていた。
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