【完結済み】君が見た海を探しに 〜風の島の冒険〜

阪口克

文字の大きさ
25 / 85
第3章 二日目、そして事件が起こる

6

しおりを挟む
 ペンションから美鈴浜の駐車場までは、車で二十分弱の距離だという。ペンションを出て日ノ出旧集落の手前で曲がり、昨日も通った山際の細い道を走ると、湖頭峠の交差点に差し掛かる。
 その交差点を今度は右へと曲がった。そのままワンボックスカーは北へと進んでいく。道はいつしか舗装道路から砂利混じりの土の道に変わった。ただし道の整備は悪くないようで、車が大きくバウンスするようなことは少ない。

「この先が北の古浜港で、もともとは沖ノ港の漁師さんたちの風待ち港だったんですよ」

 ハンドルを、しっかりと握りながら竜二さんが解説してくれる。

「昨日、敦子さんも同じことをおっしゃってましたが、風待ち港というと?」
「どこの島にもあるのかなあ? この辺は天候の変化が激しい上に、海流が大きく動く難しい海なんです。それで沖ノ港から北の海へ漁に出た船は、天候の悪化なんかのときには古浜港へ逃げていたのですよ」
「日ノ出港は、また違ったんですか?」
「日ノ出港は、昔は沖ノ港の町とは別の集落だったのです。今じゃ考えられないけどね。そうすると沖ノ港の漁師にとっちゃ、日常的には使いづらかったんでしょう」
「それで、古浜港ができたんですね」
「そうらしいです。古浜の湾内は水深が深くて波も穏やかだからね。まあそんな古浜港が使われてたのも、ずいぶん昔のことですよ」
「日ノ出港には、もう石田さんご夫妻しかおられないのですか?」
「そうですね。もともと私も沖ノ港の出なんですが、妻と結婚したあと、10年前に日ノ出に宿を作って引っ越しました。そん時はもう日ノ出の集落も三世帯か四世帯くらいだったかな。あとは櫛の歯が抜けるように、どんどん減っていって、気がつけばうちだけ」

 竜二さんはそう言ってワハハと笑い出した。



「さあ、着きましたよ」

 竜二さんが宣言すると、車を左に急旋回させ、ブレーキを踏んだ。どうやらここが美鈴浜の駐車場らしい。助手席の藤田さんは、停止と同時に助手席から降車し、素早くすぐ後ろの乗降口のドアを開けてくれた。

「お疲れ様。足元が悪いんで気をつけて」
「ありがとうございます」

 流石に手を取ってはくれなかったが、なかなか気の利く人だ。
 降り立ってみれば、すぐ目の前が石の多い浜だった。我々のいる駐車場が美鈴浜海岸の端っこらしく、こちら側から前方へ緩い弧を描くようにして長い海岸線が続いていた。海岸の背後には急峻な崖が立ち上がり、荒々しい岩が連なっている。逆に駐車場から来た道の方角を振り向くと、一部に草が生い茂った岩だらけの荒地が続き、その向こうに小さくコンクリートの構造物が見える。そこが風待ちの古浜港なのだろう。さっきまでは陽気なところを見せていた海洋大の面々も、今では誰も軽口を叩くものはいない。誰もが、暗い目で前方の海を見つめていた。

「よし、じゃあ行こうか」

 藤田さんの号令に皆一様に頷き合い、砂利混じりの駐車場を海岸線へ向けて歩み始めた。

 美鈴浜という可愛らしい名前がついているが、そこに何か特別な施設があるわけではない。非常に石が多くて、素足で歩くのは危険そうだ。もっとも水棲生物を探索するには良いのかもしれない。

「この辺りの波打ち際に、大島くんは打ち上げられていた」

 波打ち際に沿って、しばらく歩いた先で藤田さんは立ち止まった。

「打ち上げられて? 彼は陸地まで戻ってきていたんですか?」

 三輪さんが驚いている。僕もてっきり、海上で発見されたと思っていた。

「波に連れて帰ってもらったんでしょう。ただ小橋さんは……」
「サンダルが見つかったと聞いてますが」

 さすがに先輩の声も硬い。

「ああ、その近くに片方が落ちていた」

 波が寄せる一点を彼は指差す。

「藤田さんが見つけられたんですか?」
「そう、最初に発見したのは俺と伊藤、そして村上だ。自転車で方々を探していて、たまたまここへも来たんだが」
「その時にはもう」
「俺はすぐに自転車で宿へ戻って緊急連絡を入れた。伊藤と村上が人工呼吸などの救命処置をしたそうだが、残念ながら……。公式な記録では、俺が電話を入れたのが午後五時五十四分となっている。だから発見したのは五時十五分ごろだったはずだ」

 そう言って、藤田さんは目を閉じた。その時の光景を思い出しているのだろう。

「同じ時に、女性が海に浮いているのを見た人がいると聞いたんですが」

 これは以前も、三輪さんが高遠さんに尋ねていた話だが、

「それは警察にも聞かれたが、正直、誰が言ったのかもわからない。あの時は混乱していたから。島の消防団か誰かから間違った情報が出たのだろうと……」

 案の定、藤田さんの説明も歯切れが良くない。そんな重要な点が有耶無耶になったりするものだろうか?

「その後は、誰もその話をしては?」
「少なくともうちのメンバーで、それを見たって証言したものはいない」

 藤田さんは、この話はこれで打ち切りだという感じで、全員に集合をかけた。そして発見場所だという海岸線に並び海に花を流す。続いて藤田さんの発声の後、黙祷をし、僕たちの慰霊の旅は終わった。涙を流している人もいるなか、三輪さんは今までに見たこともない怖い顔をして、海の彼方を見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

僕らの10パーセントは無限大

華子
青春
 10%の確率でしか未来を生きられない少女と  過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと  やたらとポジティブなホームレス 「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」 「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」    もし、あたなら。  10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と  90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。  そのどちらを信じますか。 ***  心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。  追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。  幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

処理中です...