【完結済み】君が見た海を探しに 〜風の島の冒険〜

阪口克

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第3章 二日目、そして事件が起こる

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「この浜は、珍しい生き物がとても多いの」

 波が残した水たまりを、拾った木の棒で突いていた僕の背後に高遠さんがやってきた。

「そうなんですね。ここにはどんな生き物がいるんですか?」
「色々いますよ。メジナやイシダイ、アオリイカにカンパチなんかも釣れます」
「え、美味しそうなのばっかり」
「ふふ、受けそうな名を上げましたからね」
「あ、やっぱり? じゃあ僕が知らないような生き物も?」
「もちろん。海の中ではトラギスやツバメウオ、イソギンポなんかは種類も多くて興味深いわ。あと泥が多めの海岸付近にはスナガニやモズクガニの仲間が多いし、ここのように石や岩が多めの海岸ではフジツボやカメノテ、それに牡蠣もいますよ」
「えー、牡蠣ですか!」
「フジツボや牡蠣は、岩にしっかりと付着してるからハンマーで叩いたりして捕るのよ」
「他にも貝はいるんですか?」
「ツメタガイにベッコウガサ、マツバガイ、ヒザラガイ……、貝類は簡単な説明をするだけで半日はかかっちゃいますよ」

 やはり海とそこに暮らす生き物が大好きなのだろう。いかにも素人が思いつきそうな質問にも、丁寧に説明してくれる高遠さんの声は、とても楽しそうだった。

「じゃあ、ここの海岸は水棲生物を研究する人には良い場所なんですね」
「そうね。だから私が入学する以前から、ここへは良く来ていたみたい。もちろん二年前も毎日、ここへ観察に来ていたわ」
「二年前ですか……」
「昨日の車の中で、私がこの浜のことを言っていたの、覚えてる?」
「確か岬の向こうの浜は離岸流が強いって」
「正解。よく覚えてました」

 彼女は冗談めかして褒めてくれた。そこで僕は立ち上がり、高遠さんの方を振り返る。彼女は少し恥ずかしそうに、そして寂しそうに、微笑んだ。目元には涙の流れた跡がある。

「あの時は、ただ危険な海流の一つだと聞き流しましたが、離岸流っていうのは?」

 僕は出来の悪い生徒のまま問い返す。

「浜から沖へと流れる強い潮流のことかな」
「それは、非常に危ないってことですよね」

 僕の素人質問に、彼女は力強くうなずいた。

「そうなんです。向井くんも気をつけてね。それに取り込まれたら、泳いでも体力が間に合わない。一気に沖まで連れて行かれるわ」
「大島さんは、それに捕まったと?」
「警察の方の推測ですけどね。離岸流は沖まで流れるけど、いつまでもまっすぐってわけじゃないの。いつしか周囲の流れと影響しあい、場合によっては出発点と同じところまで戻ってくることもある」
「今回の場合は?」
「最終的には、少し横にずれて浜の方へ戻って来たんだと結論づけられました。しかし残念ながら、大島さんの体力は持たなかった」

 再び、彼女の瞳に涙が溢れ出す。

「流れに乗っていれば、無事に戻れるわけじゃないんですね」
「彼は、大島さんは、中高校生の頃から海の生き物に夢中で、あちこちの島を訪ねては膨大なデータを集めてたって聞いたわ」

 いつの間に僕たちに近づいたか、後ろから水戸さんが話の流れを引き取った。

「でもこの島は、ちょっと外に出ればもう外洋だから。いくら海に詳しい大島さんでも、パニックになってしまったのかな……」

 そう説明してくれる彼女の左手は、涙を流す高遠さんの背中をさすっていた。

「今のは公式な見解なんですか」

 僕は何に腹を立てているのだろう。つい、少し硬い口調で聞いてしまった。

「ん、どういうこと?」

 水戸さんもびっくりしたようだ。

「いや、水戸さんの考えがどうとかじゃないんですが、警察や海上保安庁とかの所見はどうだったのかと思って」
「ああ、そういうこと。大島さんが結局どこにいたか確定はできなかったみたい。ただ総合的にみると、今説明した形に落ち着くと」
「小橋さんはどうなったんですか」
「彼女のことは本当に情報が少なくて。ただ彼女の荷物は、そこの岩場で見つかり、片方のサンダルもここで見つかったので、同一の場所から流されたと最後は結論づけられた」
「そう、ですか」

 少し向こうでは、藤田さんが身振り手振りで海の方を指差し、三輪さんに何やら説明している。多分、今僕が聞かされたのと同じ話をしているのだろう。
 気がつけば高遠さんは、僕と水戸さんから離れ、海岸線へと歩いて行った。彼女はそして、波打ち際に座り込むと、その黒く磨かれた革靴が、小さな波に濡れることを気にもせず、愛おしそうに水の流れに手を浸していた。
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