【完結済み】君が見た海を探しに 〜風の島の冒険〜

阪口克

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第3章 二日目、そして事件が起こる

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 食堂のドアが開き竜二さんと敦子さんが、スナック菓子の入った器とウイスキーの水割りセットがのったお盆を持って現れた。

「こちらのお酒とおつまみは、三輪さんから頼まれました。おごりだそうですよ」と笑顔の敦子さんが、テーブルに並べてくれた。

「三輪さんから? ありがとうございます」

 水戸さんの声が華やぐ。

「いや、こんなことくらいしか。このままじゃあ、眠れないですしね」と照れ臭そうな我が先輩は、なかなか洒落たことをする。

「すみません」飯畑さんが頭を下げる。確かに、みんなこのまま部屋に戻ることはできないだろう。
「じゃあ、みなさん、あまり気を詰めないでくださいね。私たちは奥にいます。何かあったら連絡ください。あとビールは勝手に食堂の冷蔵庫から出してください。遠慮はなしですよ。ビールの方は、うちのおごりです」

 そう言うと、石田さん夫妻は奥の自宅へと帰っていった。宿としてはこのような事件が起こり、本当に迷惑な状況だろうに、落ち込んでいる我々に対して、優しい心遣いが感じられ、ありがたい。

 早速、水戸さんが水割りの用意を始めていると、その間に三輪さんは食堂からビンビールを六本も持ってきた。

「ちょっと、ちょっと待ってくださいよ先輩、持ってきすぎでしょ!」

 あまりの本数に、思わず大きな声が出てしまう。

「アホかお前、せっかくのご好意に遠慮する奴は、アホやで、アホ」
「アホって、いくらなんでも多いですって」
「アホやなホンマ。こういう時に遠慮して一本とか二本とか、セコいもらい方するのが恥ずかしわ。もらう時は、堂々とせなあかん」
「堂々って、えええー」
「いや、そうですね。こっちは七人いるんですから、ビール六本なら、うん大丈夫です」
「そうやろ。そう思うやろ。村上はんは、よう分かってはるわ」

 唐突に会話に入って自分を援護する村上さんの肩をガッシリと掴み、先輩は上機嫌だ。

「そうね、じゃあまずは冷たいところを一杯飲みましょうか」

 水戸さんがウイスキーのボトルを一旦置いて、ビールの栓を抜きグラスに注ぎ始めた。

「はああ」

 これみよがしに額に手を当てて溜息を漏らす僕を見て、飯畑さんや藤田さんも少しだけ笑っている。僕たちの、ほんとにアホみたいなやりとりで、ここにいる人たちの気分が少しでも解れたのなら、まあ良しとしよう。

 この夜の飲み会は、十二時前にお開きとなった。みな疲れていたのだろう。眠くなるために飲んでいるのに、飲めば飲むほど神経が昂るような、そんな酒になってしまった。それでもやはり一番気疲れていたのか、藤田さんはソファーに倒れ、寝息を立てている。

「珍しいですね、藤田さんがこんなに早く酔い潰れるなんて」と言いながら、水戸さんがテーブルの上を布巾で拭き始めた。

「仕方ないですよ。伊藤さんのご実家への電話が、かなり辛かったようでしたから」高遠さんも散らかったグラスを集め始める。

「そろそろお開きにしようか」

 三輪さんの宣言で、全員でソファー周りをザッと掃除し、二階へ上がることになった。

「藤田さんは、どうしますかね」と村上さんが高遠さんに聞いている。
「このまま、ここで寝かしておけば」

 夏の盛りだし、確かに風邪を引くことはないだろうが、

「そうもいかないでしょ。石田さんにもご迷惑だし」と飯畑さんが反論した。
 我々しか客はいないが、流石に玄関入ってすぐのロビーではまずいだろう。

「俺が部屋まで、背負っていきますわ」

 先輩が手を挙げると、早速、藤田さんの肩に手をかけた。

「じゃあ、お願いしようかしら」

 飯畑さんもホッとしたようだ。いそいそと藤田さんが担がれるのを手伝っている。

 長身で怪力の三輪さんだが、大柄の藤田さんを背負って階段を上がるのは大変そうだ。藤田さんの部屋207号室は階段を登ってすぐのところ。

 皆でゾロゾロと廊下まで来たところで、「アオイ、藤田さんのポッケに鍵ないか」と、三輪さんから声がかかった。

「あ、ちょっと待ってくださいね」

 背負われた藤田さんのズボンをまさぐると、右の前ポケットに硬い感触がある。手を差し込めば、イルカのキーホルダーがついた鍵が出て来た。イルカには207と描かれている。

「先輩、ありました」
「よし、はよ開けろ。さすがに俺もだめや」

 慰霊祭に、海岸線の探索、自転車移動して懸垂下降、そしてその後の諸々だ。さすがの鉄人三輪も、そろそろ限界のようだ。僕は手早く鍵を鍵穴に差し込んでドアを開けた。

 三輪さんがベッドに藤田さんを下ろすと、飯畑さんがその体に夏掛けを掛ける。部屋の窓のところで水戸さんがカーテンを閉めていた。外は弱い雨が降り出しているようだ。サラサラと屋根を叩く雨音が心地よい。さてこれで僕もやっと眠れる。もうフラフラだ。思わずよろけた僕を、高遠さんが支えてくれた。

「大丈夫? 向井くん」
「あ、すみません。大丈夫です」
「何が大丈夫や。もう寝ろ。ほれ部屋の鍵」

 三輪さんが、僕にクジラキーホルダー付きの202号室の鍵を投げよこしてくれた。

「先に寝てろ。中から鍵かけんなよ。あとこの部屋の鍵どないした?」

 僕は手に握ったままだった207号室の鍵を振って見せ、高遠さんに「よろしくお願いします」と言って渡すと、トボトボと自分の部屋へ歩いて帰った。

 部屋に戻った僕は、そのままベッドに突っ伏す。何分か経ったのちに三輪さんが戻って来た気配を感じたが、もう何も覚えてはいない。深い深い泥のような眠りの世界に、僕は沈んでいくばかりであった。
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