【完結済み】君が見た海を探しに 〜風の島の冒険〜

阪口克

文字の大きさ
59 / 85
第5章 三日目の午後、そして再び事件は起こる

11

しおりを挟む
 その次に手をあげたのは僕と高遠さんだった。三輪さんが僕の目を見て頷く。

「僕と先輩は、ずっと同じ部屋にいました。そしてその部屋に高遠さんも来ています」

 僕の証言に、
「そうやったな。俺とアオイはずっと同じ部屋にいて出てへん」
と、三輪さんは同意してくれる。

「そして高遠さんが来はったのが」
「三時半ごろだったと思いますが?」
と自信なさげに、高遠さんが僕の顔を見た。

「はい。高遠さんが僕たちの部屋に来たのは午後三時半で間違いないです」
「そのあと彼女は、一度外へ出はったな」

 先輩は完全に独立した司会に徹するらしい。

「そうです。三十分ほどしてからです。高遠さんは自室へ一度戻り、四時六分にまた僕たちの部屋に来ました。僕は時計を見てます」

 そう証言し、高遠さんに間違いないか目で確認する。彼女は心細げに、しかししっかりとした動作で頷いた。

「他に、何か話せる人はいませんか?」

 三輪さんが皆を見渡すが、これ以上のアリバイ証言は出てこなかった。そして次第に、全員の目が二人の人物に集中する。村上さんは小刻みに震えながら、テーブルに置いた手を見つめ、飯畑さんは血の気の引いた顔で正面を向いたまま固まっていた。ゴクリ……、誰かが唾を飲み込む大きな音が響く。

「これだけで何もお二人のうちどちらかが犯人というわけやないです。しかし、」

 三輪さんがそこまで言ったところで、ガタンと大きな音を立て飯畑さんが立ち上がった。

「当たり前よ! なんで私が和花ちゃんを殺さなきゃならないの!」

 目を剥いて三輪さんに怒鳴り散らす姿には、美しく冷静だった飯畑さんの面影もない。

「飯畑さん、落ち着いてください」

 隣に座った高遠さんが、その手をとって座らせようとするが、

「これが落ち着けるわけないわ。みんな私を犯人にするつもりなんでしょ!冗談じゃない。そんなの、そんなの……」

 そう言って、彼女の手を振り払った。飯畑さんの瞳からは、溢れるように涙が流れ出している。

「それに、それに、あなた。あなたも自分にはアリバイがありますよなんて、呑気に構えてるけど、あなただって怪しいわ」

 飯畑さんの怒りの矛先が三輪さんから、高遠さんへ移った。そうなのだ。高遠さんも、犯行は可能だったはずである。

「どういうことですか」

 静かに、高遠さんは飯畑さんに問うた。殺人の容疑者の一人になると名指しされたにもかかわらず、彼女の冷静さは変わらない。反対に飯畑さんの苛立ちは治らないようだ。

「どう言うも、こう言うもないわ。和花ちゃんを殺した犯人は、頭を殴ってから胸をナイフで切り裂いた、そうよね?」

 荒々しい口調で三輪さんに確認をとる。

「そうだと思います。頭に傷が一つ、そして腹から胸にかけてナイフの傷がありました」

 恐ろしい事実を三輪さんは淡々と認めた。

「そうよね。私も見たわ。それなら、そんなことなら、あの可哀想な和花ちゃん。彼女は小柄で力も弱かった。そんな彼女が標的なら、最初から覚悟さえ決めていれば五分もあれば犯行は可能なはずよ。そうでしょ?」

 そう言って、傍に座る高遠さんを睨んだ。

 飯畑さんが言いたいことはわかる。やろうと思えば、そして友人として油断したところを狙えれば、犯行は十分もあればできる。だから三時から三時半の間、そして四時ごろの数分間。これらのアリバイがない高遠さんも犯人たりえるのだが、

「いえ、それはないです。高遠さんは犯人ではないと思います」

 思いも掛けない人物から、新しい証言が出て来た。皆の視線が、今度は竜二さんに集まる。

「どういうことでしょうか?」

 冷徹な司会者三輪が、善意の証言者である竜二さんに続きの話を促す。

「こういうことです。私と妻は台風対策に一階の窓の雨戸閉めや玄関の戸板、外の片付けなどをしていました。そして裏に並ぶ自転車を、母屋横の倉庫へ移したんです」

 そこまで言ったところで、彼は妻を見た。

「その作業を始めたのが、午後四時を過ぎてからでした。そうだよな?」

 夫の問いかけに、妻である敦子さんはコクリと頷き、

 「台風情報から四時のワイドショーに番組が変わった後だから間違いないわ」自信を持って断言した。

「その時に、自転車を片付けた時に、あれはなかった?」

 何がと三輪さんは言わない。しかしそれが何かは、ここにいる全員が知っている。

「はい。あれば気づかないはずない。全部の自転車や農具を、倉庫に運ぶのに二十分以上かかってます。水戸さんが、あそこで殺されたのは四時二十分よりも後のはずです」

 そう言い切った竜二さんの証言で、高遠さんが犯人である可能性はほぼ無くなった。

「あああ」
 飯畑さんが、言葉にもならない嗚咽を漏らして崩れ落ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

僕らの10パーセントは無限大

華子
青春
 10%の確率でしか未来を生きられない少女と  過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと  やたらとポジティブなホームレス 「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」 「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」    もし、あたなら。  10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と  90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。  そのどちらを信じますか。 ***  心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。  追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。  幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

処理中です...