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第5章 三日目の午後、そして再び事件は起こる
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その次に手をあげたのは僕と高遠さんだった。三輪さんが僕の目を見て頷く。
「僕と先輩は、ずっと同じ部屋にいました。そしてその部屋に高遠さんも来ています」
僕の証言に、
「そうやったな。俺とアオイはずっと同じ部屋にいて出てへん」
と、三輪さんは同意してくれる。
「そして高遠さんが来はったのが」
「三時半ごろだったと思いますが?」
と自信なさげに、高遠さんが僕の顔を見た。
「はい。高遠さんが僕たちの部屋に来たのは午後三時半で間違いないです」
「そのあと彼女は、一度外へ出はったな」
先輩は完全に独立した司会に徹するらしい。
「そうです。三十分ほどしてからです。高遠さんは自室へ一度戻り、四時六分にまた僕たちの部屋に来ました。僕は時計を見てます」
そう証言し、高遠さんに間違いないか目で確認する。彼女は心細げに、しかししっかりとした動作で頷いた。
「他に、何か話せる人はいませんか?」
三輪さんが皆を見渡すが、これ以上のアリバイ証言は出てこなかった。そして次第に、全員の目が二人の人物に集中する。村上さんは小刻みに震えながら、テーブルに置いた手を見つめ、飯畑さんは血の気の引いた顔で正面を向いたまま固まっていた。ゴクリ……、誰かが唾を飲み込む大きな音が響く。
「これだけで何もお二人のうちどちらかが犯人というわけやないです。しかし、」
三輪さんがそこまで言ったところで、ガタンと大きな音を立て飯畑さんが立ち上がった。
「当たり前よ! なんで私が和花ちゃんを殺さなきゃならないの!」
目を剥いて三輪さんに怒鳴り散らす姿には、美しく冷静だった飯畑さんの面影もない。
「飯畑さん、落ち着いてください」
隣に座った高遠さんが、その手をとって座らせようとするが、
「これが落ち着けるわけないわ。みんな私を犯人にするつもりなんでしょ!冗談じゃない。そんなの、そんなの……」
そう言って、彼女の手を振り払った。飯畑さんの瞳からは、溢れるように涙が流れ出している。
「それに、それに、あなた。あなたも自分にはアリバイがありますよなんて、呑気に構えてるけど、あなただって怪しいわ」
飯畑さんの怒りの矛先が三輪さんから、高遠さんへ移った。そうなのだ。高遠さんも、犯行は可能だったはずである。
「どういうことですか」
静かに、高遠さんは飯畑さんに問うた。殺人の容疑者の一人になると名指しされたにもかかわらず、彼女の冷静さは変わらない。反対に飯畑さんの苛立ちは治らないようだ。
「どう言うも、こう言うもないわ。和花ちゃんを殺した犯人は、頭を殴ってから胸をナイフで切り裂いた、そうよね?」
荒々しい口調で三輪さんに確認をとる。
「そうだと思います。頭に傷が一つ、そして腹から胸にかけてナイフの傷がありました」
恐ろしい事実を三輪さんは淡々と認めた。
「そうよね。私も見たわ。それなら、そんなことなら、あの可哀想な和花ちゃん。彼女は小柄で力も弱かった。そんな彼女が標的なら、最初から覚悟さえ決めていれば五分もあれば犯行は可能なはずよ。そうでしょ?」
そう言って、傍に座る高遠さんを睨んだ。
飯畑さんが言いたいことはわかる。やろうと思えば、そして友人として油断したところを狙えれば、犯行は十分もあればできる。だから三時から三時半の間、そして四時ごろの数分間。これらのアリバイがない高遠さんも犯人たりえるのだが、
「いえ、それはないです。高遠さんは犯人ではないと思います」
思いも掛けない人物から、新しい証言が出て来た。皆の視線が、今度は竜二さんに集まる。
「どういうことでしょうか?」
冷徹な司会者三輪が、善意の証言者である竜二さんに続きの話を促す。
「こういうことです。私と妻は台風対策に一階の窓の雨戸閉めや玄関の戸板、外の片付けなどをしていました。そして裏に並ぶ自転車を、母屋横の倉庫へ移したんです」
そこまで言ったところで、彼は妻を見た。
「その作業を始めたのが、午後四時を過ぎてからでした。そうだよな?」
夫の問いかけに、妻である敦子さんはコクリと頷き、
「台風情報から四時のワイドショーに番組が変わった後だから間違いないわ」自信を持って断言した。
「その時に、自転車を片付けた時に、あれはなかった?」
何がと三輪さんは言わない。しかしそれが何かは、ここにいる全員が知っている。
「はい。あれば気づかないはずない。全部の自転車や農具を、倉庫に運ぶのに二十分以上かかってます。水戸さんが、あそこで殺されたのは四時二十分よりも後のはずです」
そう言い切った竜二さんの証言で、高遠さんが犯人である可能性はほぼ無くなった。
「あああ」
飯畑さんが、言葉にもならない嗚咽を漏らして崩れ落ちた。
「僕と先輩は、ずっと同じ部屋にいました。そしてその部屋に高遠さんも来ています」
僕の証言に、
「そうやったな。俺とアオイはずっと同じ部屋にいて出てへん」
と、三輪さんは同意してくれる。
「そして高遠さんが来はったのが」
「三時半ごろだったと思いますが?」
と自信なさげに、高遠さんが僕の顔を見た。
「はい。高遠さんが僕たちの部屋に来たのは午後三時半で間違いないです」
「そのあと彼女は、一度外へ出はったな」
先輩は完全に独立した司会に徹するらしい。
「そうです。三十分ほどしてからです。高遠さんは自室へ一度戻り、四時六分にまた僕たちの部屋に来ました。僕は時計を見てます」
そう証言し、高遠さんに間違いないか目で確認する。彼女は心細げに、しかししっかりとした動作で頷いた。
「他に、何か話せる人はいませんか?」
三輪さんが皆を見渡すが、これ以上のアリバイ証言は出てこなかった。そして次第に、全員の目が二人の人物に集中する。村上さんは小刻みに震えながら、テーブルに置いた手を見つめ、飯畑さんは血の気の引いた顔で正面を向いたまま固まっていた。ゴクリ……、誰かが唾を飲み込む大きな音が響く。
「これだけで何もお二人のうちどちらかが犯人というわけやないです。しかし、」
三輪さんがそこまで言ったところで、ガタンと大きな音を立て飯畑さんが立ち上がった。
「当たり前よ! なんで私が和花ちゃんを殺さなきゃならないの!」
目を剥いて三輪さんに怒鳴り散らす姿には、美しく冷静だった飯畑さんの面影もない。
「飯畑さん、落ち着いてください」
隣に座った高遠さんが、その手をとって座らせようとするが、
「これが落ち着けるわけないわ。みんな私を犯人にするつもりなんでしょ!冗談じゃない。そんなの、そんなの……」
そう言って、彼女の手を振り払った。飯畑さんの瞳からは、溢れるように涙が流れ出している。
「それに、それに、あなた。あなたも自分にはアリバイがありますよなんて、呑気に構えてるけど、あなただって怪しいわ」
飯畑さんの怒りの矛先が三輪さんから、高遠さんへ移った。そうなのだ。高遠さんも、犯行は可能だったはずである。
「どういうことですか」
静かに、高遠さんは飯畑さんに問うた。殺人の容疑者の一人になると名指しされたにもかかわらず、彼女の冷静さは変わらない。反対に飯畑さんの苛立ちは治らないようだ。
「どう言うも、こう言うもないわ。和花ちゃんを殺した犯人は、頭を殴ってから胸をナイフで切り裂いた、そうよね?」
荒々しい口調で三輪さんに確認をとる。
「そうだと思います。頭に傷が一つ、そして腹から胸にかけてナイフの傷がありました」
恐ろしい事実を三輪さんは淡々と認めた。
「そうよね。私も見たわ。それなら、そんなことなら、あの可哀想な和花ちゃん。彼女は小柄で力も弱かった。そんな彼女が標的なら、最初から覚悟さえ決めていれば五分もあれば犯行は可能なはずよ。そうでしょ?」
そう言って、傍に座る高遠さんを睨んだ。
飯畑さんが言いたいことはわかる。やろうと思えば、そして友人として油断したところを狙えれば、犯行は十分もあればできる。だから三時から三時半の間、そして四時ごろの数分間。これらのアリバイがない高遠さんも犯人たりえるのだが、
「いえ、それはないです。高遠さんは犯人ではないと思います」
思いも掛けない人物から、新しい証言が出て来た。皆の視線が、今度は竜二さんに集まる。
「どういうことでしょうか?」
冷徹な司会者三輪が、善意の証言者である竜二さんに続きの話を促す。
「こういうことです。私と妻は台風対策に一階の窓の雨戸閉めや玄関の戸板、外の片付けなどをしていました。そして裏に並ぶ自転車を、母屋横の倉庫へ移したんです」
そこまで言ったところで、彼は妻を見た。
「その作業を始めたのが、午後四時を過ぎてからでした。そうだよな?」
夫の問いかけに、妻である敦子さんはコクリと頷き、
「台風情報から四時のワイドショーに番組が変わった後だから間違いないわ」自信を持って断言した。
「その時に、自転車を片付けた時に、あれはなかった?」
何がと三輪さんは言わない。しかしそれが何かは、ここにいる全員が知っている。
「はい。あれば気づかないはずない。全部の自転車や農具を、倉庫に運ぶのに二十分以上かかってます。水戸さんが、あそこで殺されたのは四時二十分よりも後のはずです」
そう言い切った竜二さんの証言で、高遠さんが犯人である可能性はほぼ無くなった。
「あああ」
飯畑さんが、言葉にもならない嗚咽を漏らして崩れ落ちた。
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