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第5章 三日目の午後、そして再び事件は起こる
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あれだけ多くの人がいて、いつも賑やかだったロビーに、今残るのは5人だけだ。気まずい時間が流れる。犯人は誰なのだろう?
僕は犯人ではない。当然だ。そして先輩は?
そう、僕は三輪さんを信じられる。
ではあとの三人のうち誰かか?
あるいはみな共犯?
ここまでに起こった様々な出来事と、形をなさない推論が、ぐるぐると頭の中をまわり続ける。皆が同じようなことを考えているのだろうか。
無言のまま、カチカチと時計の秒針がすすむ音だけが響き続ける。そんななか突然「ガタン!」と大きな音をたて、村上さんが立ち上がった。
「ど、どうしようっていうの」
ぎょっと身を竦めた飯畑さんが、咎めるように声をあげた。
「部屋に帰るんですよ。いけませんか?」
怪物を見るかのような飯畑さんの瞳を、彼は嫌悪感たっぷりに見返し階段へ向かう。
「一緒が確実です。一人になるのは危ない」
そんな村上さんを追いかけて三輪さんは、肩に手をかけ静止しようとしたが、
「どいてくれ!」
強い口調で先輩の腕を振り払った。そして、
「どうせ、みんな僕を疑ってるんでしょ!」
僕たちが座るソファーに向い、悲しげな顔でそう言った。
「ええ、疑ってるわよ。だからこそ野放しにできないのよ」
もうこいつが犯人と決めつけたのだろう。飯畑さんの言葉が辛辣だ。
「一体なんの権利があってそんなことを!」
「まあ、まあ、落ち着いて」
飯畑さんの方に向かいかけた村上さんの前に、三輪さんは立ち塞がる。
「僕に触るな! 僕が犯人じゃないことは、僕が一番知っている。こんな疑惑の目の中で朝までなんて耐えられない!」
そこまで言うと村上さんは踵を返し、ズカズカと階段を駆け上がる。そしてドアが乱暴に開け閉めされ、鍵の閉まる音が聞こえた。
「止めなくてよかったんですか?」
「無理だろ。それこそ刃傷沙汰になりそうやったわ」と、三輪さんがため息を吐いた。
「でも、部屋で次の準備をしていたら」
「なんや、お前も村上さんが犯人だと思ってるのか?」
そう言われ、自分で自分にギョッとする。確かに、まだ何もわからないこの状況で、僕は一人の人間を犯人だと決めつけている。
「先輩……」
「大丈夫や。このまま皆で一緒にいたら」
どうしてこの人は、ここまで冷静でいられるのだろう。僕はもう、自分の感情の暴走をうまく制御できるか自信がない。何かの拍子に、大きな声で叫び出しそうな、そんな衝動をギリギリのところでコントロールしていた。そしてそれは、この人も同じだったのだろう。
「ごめんなさい。私も部屋に戻ります」
ポツリと、しかし強い意志を持った声で飯畑さんはそう言った。
「え、飯畑さん」
「ここに残っているみんなを疑ってるんじゃないの。でもね、このままここで六時間もなんて、心がもたないわ」
「それなら、ソファで寝ても良いです。ここで僕らが見てますから」
僕もベッドに帰って眠りたい。その気持ちを押し殺し、彼女を説得しようとするが、
「ごめんさない、向井くん。それでも、ここじゃあ寝れない」
話しているうちに、彼女の決意はより硬いものになったようだ。
「お互いを見張るために、この場所なんでしょ。でもこれじゃあ意味がないじゃない。それなら部屋に帰って鍵かけてるのが一番よ」
そう言って立ち上がると、涙が滲んだ瞳を掌でこすり少し恥ずかしそうに笑った。
「あんなドア、蹴破ろうとすればすぐに」
「大丈夫。そんな騒動が起これば、助けに来てくれるんでしょ?」
笑顔で返す彼女に僕の説得の声は届かない。困り果てて三輪さんを振り向き、応援を頼もうとするが「やめておけ」と言うかのように首を横に振っている。
「飯畑さん」
白い顔をした高遠さんが、泣きそうな声でささやく。
「ごめんね高遠。明日、無事で会いましょ」
飯畑さんはは、優しく彼女に微笑んだ。
「何かあったら大きく叫んでくださいね」
僕は精一杯の気持ちを込め忠告すると、彼女は無言で頷き二階の自室へ帰って行った。
僕は犯人ではない。当然だ。そして先輩は?
そう、僕は三輪さんを信じられる。
ではあとの三人のうち誰かか?
あるいはみな共犯?
ここまでに起こった様々な出来事と、形をなさない推論が、ぐるぐると頭の中をまわり続ける。皆が同じようなことを考えているのだろうか。
無言のまま、カチカチと時計の秒針がすすむ音だけが響き続ける。そんななか突然「ガタン!」と大きな音をたて、村上さんが立ち上がった。
「ど、どうしようっていうの」
ぎょっと身を竦めた飯畑さんが、咎めるように声をあげた。
「部屋に帰るんですよ。いけませんか?」
怪物を見るかのような飯畑さんの瞳を、彼は嫌悪感たっぷりに見返し階段へ向かう。
「一緒が確実です。一人になるのは危ない」
そんな村上さんを追いかけて三輪さんは、肩に手をかけ静止しようとしたが、
「どいてくれ!」
強い口調で先輩の腕を振り払った。そして、
「どうせ、みんな僕を疑ってるんでしょ!」
僕たちが座るソファーに向い、悲しげな顔でそう言った。
「ええ、疑ってるわよ。だからこそ野放しにできないのよ」
もうこいつが犯人と決めつけたのだろう。飯畑さんの言葉が辛辣だ。
「一体なんの権利があってそんなことを!」
「まあ、まあ、落ち着いて」
飯畑さんの方に向かいかけた村上さんの前に、三輪さんは立ち塞がる。
「僕に触るな! 僕が犯人じゃないことは、僕が一番知っている。こんな疑惑の目の中で朝までなんて耐えられない!」
そこまで言うと村上さんは踵を返し、ズカズカと階段を駆け上がる。そしてドアが乱暴に開け閉めされ、鍵の閉まる音が聞こえた。
「止めなくてよかったんですか?」
「無理だろ。それこそ刃傷沙汰になりそうやったわ」と、三輪さんがため息を吐いた。
「でも、部屋で次の準備をしていたら」
「なんや、お前も村上さんが犯人だと思ってるのか?」
そう言われ、自分で自分にギョッとする。確かに、まだ何もわからないこの状況で、僕は一人の人間を犯人だと決めつけている。
「先輩……」
「大丈夫や。このまま皆で一緒にいたら」
どうしてこの人は、ここまで冷静でいられるのだろう。僕はもう、自分の感情の暴走をうまく制御できるか自信がない。何かの拍子に、大きな声で叫び出しそうな、そんな衝動をギリギリのところでコントロールしていた。そしてそれは、この人も同じだったのだろう。
「ごめんなさい。私も部屋に戻ります」
ポツリと、しかし強い意志を持った声で飯畑さんはそう言った。
「え、飯畑さん」
「ここに残っているみんなを疑ってるんじゃないの。でもね、このままここで六時間もなんて、心がもたないわ」
「それなら、ソファで寝ても良いです。ここで僕らが見てますから」
僕もベッドに帰って眠りたい。その気持ちを押し殺し、彼女を説得しようとするが、
「ごめんさない、向井くん。それでも、ここじゃあ寝れない」
話しているうちに、彼女の決意はより硬いものになったようだ。
「お互いを見張るために、この場所なんでしょ。でもこれじゃあ意味がないじゃない。それなら部屋に帰って鍵かけてるのが一番よ」
そう言って立ち上がると、涙が滲んだ瞳を掌でこすり少し恥ずかしそうに笑った。
「あんなドア、蹴破ろうとすればすぐに」
「大丈夫。そんな騒動が起これば、助けに来てくれるんでしょ?」
笑顔で返す彼女に僕の説得の声は届かない。困り果てて三輪さんを振り向き、応援を頼もうとするが「やめておけ」と言うかのように首を横に振っている。
「飯畑さん」
白い顔をした高遠さんが、泣きそうな声でささやく。
「ごめんね高遠。明日、無事で会いましょ」
飯畑さんはは、優しく彼女に微笑んだ。
「何かあったら大きく叫んでくださいね」
僕は精一杯の気持ちを込め忠告すると、彼女は無言で頷き二階の自室へ帰って行った。
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