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第5章 三日目の午後、そして再び事件は起こる
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「それで、犯人探しはもう終わりなの?」
意地悪な声で飯畑さんが先輩をチラと見た。
「犯人が誰なのか。俺のような素人が推理するのは無理でしたわ。証拠となるデータも少なすぎますし、誰かを犯人と名指しする胆力もありまへん、情けないことにね」
三輪さんは苦笑したが、飯畑さんの顔色は怖いまま、
「でもあからさまに怪しいのは村上でしょ」
仲の良かった後輩を呼び捨てにし、吐き捨てるように指摘する。
村上さんが緩慢な動きで頭を上げ、ギッと飯畑さんを睨むが、何も言い返さない。
すでに諦めたのだろうか。
「彼が犯人だとは断定できません。それに外部の人物の可能性を否定できないでしょう」
諭すように三輪さんが言うが、
「じゃあ、どうしろと言うのよ」
イライラした声からも、彼女の機嫌は最悪なのがよくわかる。
でも、僕は彼女を非難することができない。彼女の考えは、ここにいる全員の考えでもあった。
「じゃあどうしろって言うんだ!」
僕は心の中で叫ぶ。
しかし、我が先輩はさらに恐ろしいことを言う。
「俺が指摘できるのは、電話と車の破壊で、犯人は我々の足止めをしたということです」
「それはどういう」
「まだ何か、やることがあるということでしょう。犯人には」
「それって」
絶句する飯畑さんの顔を見詰めると、三輪さんは全てを言わず顔を上げ、皆を見まわした。そして緊張を和らげるように少し笑い、「やはりこのロビーで、皆で集まって朝まで過ごすのが安全だと思います」と提案した。
それを受け、高遠さんも「当然の選択ですね」と静かに頷く。
「私は嫌よ。だってこいつが犯人だったらどうすんのよ」
飯畑さんはそう言って、かつて仲の良かった後輩を嫌悪感たっぷりに睨みつける。
「仮にこの中に犯人がいても、皆がいるところでは、どうしようもありませんよ」
「ただ、相手はナイフを使ってますよね」
三輪さんの話を遮って、それまで黙っていた竜二さんが深刻な声で指摘した。
「確かに危険です。ですが、ここには男が村上くんを入れて四人います。外部から襲撃者が来るにしても、この中の誰かが犯人だとしても、ナイフ一本では限界があるでしょう」
しかし身重の妻が横にいる彼は、この話に納得ができないようだった。そして、
「客商売で、言いづらいんですがね。一つ良いですか」と申し訳なさそうに話し出す。
次はどんな不幸が我が身に起こるのかと、全員の注目がこのペンションの主人に集まった。竜二さんは、その視線の集中に少し怖気付きそうになったが、隣に座る愛妻をチラッと見たあと、意を決したように話し出した。
「今までのお話を聞いていてね、東京から来られたお二人は信用できると思います」
そこまで言うと、彼は再び敦子さんと目を合わせ、そして二人で頷きあう。
「ありがとうございます」
思いがけない話の展開に僕はどう返して良いかわからず、つまらない礼の言葉を述べたが、先輩は頷きもせず竜二さんを凝視し、何も言わなかった。ここからが話の要点なのだろう。竜二さんはペロリと舌で唇をひと舐めすると、続きを話し始めた。
「でもね。海洋大の皆さんは、申し訳ないのですが無理ですよ」
何度目かの動揺がこの場に広がる。そして一段、空気が冷たくなったのを僕は感じた。
「それは、どういう意味ですか」
あくまで冷静に、しかし怒りを隠しきれない硬い声で訊ねる高遠さんの顔を、竜二さんは一瞥すると、グッと顔を引き締めた。
「ここまできたら、そう、私のようなお人好しでもわかります。先日亡くなった伊藤さんや藤田さんも、事故や自殺なんかじゃない。そんな偶然が続くはずないんですよ」
「まさか伊藤くんや藤田くんも殺されたと」
戸惑ったような声で呟く飯畑さんに、竜二さんは悲しげな目を向け頷いた。
「そうだとしたら、怪しいのは海洋大生の誰かってことでしょう。しかも犯人は一人とは限らないじゃないですか」
「そ、そんな」
反論しようとしたのだろうか。高遠さんが立ち上がるが、次の言葉が続かない。他の二人も、竜二さんを凝視したまま固まっていた。
「あるいは、残りの三人が全員共犯の可能性もあるでしょう。じゃあもう、無理です。私と妻は自分の家に入って厳重に戸締りします。そんな危険な人たちと一緒は無理です」
立ち上がり大声で「そんなバカなこと」と訴えかける飯畑さんを無視し、
「三輪さんと向井さんは信じています。よかったらうちへ来ますか?」
竜二さんはそう言って僕たちに笑顔を向けた。
このまま、この建物から逃げると言うことか。そんなことして良いのか? 僕は自分の中に答えを見つけられず、助けを求めるように三輪さんに視線を送った。先輩は悲しげに目を伏せると、首を横に数度振る。
「そうですか。では、お気をつけください。逃げるようですみませんが、もう誰も信じられません。どっちにしても、こんな事件が続いたようじゃ、この宿ももうダメでしょう。とにかく私らは自宅に引っ込みます。もしこの中で犯人じゃない人がいるのなら、部屋に入って鍵をかけておくのをお勧めしますね」
そこまで言うと、石田さん夫妻は自宅へ戻っていった。
意地悪な声で飯畑さんが先輩をチラと見た。
「犯人が誰なのか。俺のような素人が推理するのは無理でしたわ。証拠となるデータも少なすぎますし、誰かを犯人と名指しする胆力もありまへん、情けないことにね」
三輪さんは苦笑したが、飯畑さんの顔色は怖いまま、
「でもあからさまに怪しいのは村上でしょ」
仲の良かった後輩を呼び捨てにし、吐き捨てるように指摘する。
村上さんが緩慢な動きで頭を上げ、ギッと飯畑さんを睨むが、何も言い返さない。
すでに諦めたのだろうか。
「彼が犯人だとは断定できません。それに外部の人物の可能性を否定できないでしょう」
諭すように三輪さんが言うが、
「じゃあ、どうしろと言うのよ」
イライラした声からも、彼女の機嫌は最悪なのがよくわかる。
でも、僕は彼女を非難することができない。彼女の考えは、ここにいる全員の考えでもあった。
「じゃあどうしろって言うんだ!」
僕は心の中で叫ぶ。
しかし、我が先輩はさらに恐ろしいことを言う。
「俺が指摘できるのは、電話と車の破壊で、犯人は我々の足止めをしたということです」
「それはどういう」
「まだ何か、やることがあるということでしょう。犯人には」
「それって」
絶句する飯畑さんの顔を見詰めると、三輪さんは全てを言わず顔を上げ、皆を見まわした。そして緊張を和らげるように少し笑い、「やはりこのロビーで、皆で集まって朝まで過ごすのが安全だと思います」と提案した。
それを受け、高遠さんも「当然の選択ですね」と静かに頷く。
「私は嫌よ。だってこいつが犯人だったらどうすんのよ」
飯畑さんはそう言って、かつて仲の良かった後輩を嫌悪感たっぷりに睨みつける。
「仮にこの中に犯人がいても、皆がいるところでは、どうしようもありませんよ」
「ただ、相手はナイフを使ってますよね」
三輪さんの話を遮って、それまで黙っていた竜二さんが深刻な声で指摘した。
「確かに危険です。ですが、ここには男が村上くんを入れて四人います。外部から襲撃者が来るにしても、この中の誰かが犯人だとしても、ナイフ一本では限界があるでしょう」
しかし身重の妻が横にいる彼は、この話に納得ができないようだった。そして、
「客商売で、言いづらいんですがね。一つ良いですか」と申し訳なさそうに話し出す。
次はどんな不幸が我が身に起こるのかと、全員の注目がこのペンションの主人に集まった。竜二さんは、その視線の集中に少し怖気付きそうになったが、隣に座る愛妻をチラッと見たあと、意を決したように話し出した。
「今までのお話を聞いていてね、東京から来られたお二人は信用できると思います」
そこまで言うと、彼は再び敦子さんと目を合わせ、そして二人で頷きあう。
「ありがとうございます」
思いがけない話の展開に僕はどう返して良いかわからず、つまらない礼の言葉を述べたが、先輩は頷きもせず竜二さんを凝視し、何も言わなかった。ここからが話の要点なのだろう。竜二さんはペロリと舌で唇をひと舐めすると、続きを話し始めた。
「でもね。海洋大の皆さんは、申し訳ないのですが無理ですよ」
何度目かの動揺がこの場に広がる。そして一段、空気が冷たくなったのを僕は感じた。
「それは、どういう意味ですか」
あくまで冷静に、しかし怒りを隠しきれない硬い声で訊ねる高遠さんの顔を、竜二さんは一瞥すると、グッと顔を引き締めた。
「ここまできたら、そう、私のようなお人好しでもわかります。先日亡くなった伊藤さんや藤田さんも、事故や自殺なんかじゃない。そんな偶然が続くはずないんですよ」
「まさか伊藤くんや藤田くんも殺されたと」
戸惑ったような声で呟く飯畑さんに、竜二さんは悲しげな目を向け頷いた。
「そうだとしたら、怪しいのは海洋大生の誰かってことでしょう。しかも犯人は一人とは限らないじゃないですか」
「そ、そんな」
反論しようとしたのだろうか。高遠さんが立ち上がるが、次の言葉が続かない。他の二人も、竜二さんを凝視したまま固まっていた。
「あるいは、残りの三人が全員共犯の可能性もあるでしょう。じゃあもう、無理です。私と妻は自分の家に入って厳重に戸締りします。そんな危険な人たちと一緒は無理です」
立ち上がり大声で「そんなバカなこと」と訴えかける飯畑さんを無視し、
「三輪さんと向井さんは信じています。よかったらうちへ来ますか?」
竜二さんはそう言って僕たちに笑顔を向けた。
このまま、この建物から逃げると言うことか。そんなことして良いのか? 僕は自分の中に答えを見つけられず、助けを求めるように三輪さんに視線を送った。先輩は悲しげに目を伏せると、首を横に数度振る。
「そうですか。では、お気をつけください。逃げるようですみませんが、もう誰も信じられません。どっちにしても、こんな事件が続いたようじゃ、この宿ももうダメでしょう。とにかく私らは自宅に引っ込みます。もしこの中で犯人じゃない人がいるのなら、部屋に入って鍵をかけておくのをお勧めしますね」
そこまで言うと、石田さん夫妻は自宅へ戻っていった。
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