【完結済み】君が見た海を探しに 〜風の島の冒険〜

阪口克

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最終章 四日目、そして全て崩壊へ

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 外に出ると、覚悟をしていたとはいえ、圧倒的な雨量に恐怖さえ覚える。気をつけていないと互いを見失いそうだ。六人で一塊りとなって建物の玄関側へ向け移動を始めたところで、先頭にいた三輪さんが大声で叫んだ。

「村上さん!」

 その思いがけない言葉に戦慄が走る。気がつけば全員が駆け出していた。

「先輩……?」

 村上さんの体の横に跪いた三輪さんが、こちらを振り返る。

「ダメや、亡くなってはる」

 現場はまたも自転車置き場の横だった。大雨の中、地面に仰向けに倒れた彼の首には輪になったロープが巻かれ、その長いロープの先端は脇へと投げ捨てられていた。

「このロープは……」

 どこか記憶にあるロープに先輩の顔を見る。

「そうや、俺のや。伊藤さんを担ぎ上げた時に使ったやつや」

 先輩が悔しそうに呟く。

「どこの置いてあったんですか?」
「血もついてたしな、部屋に持ち帰るのも躊躇われたんや。それで帰ってきた時に、竜二さんに相談して、まとめて結び直したんは、自転車の置き場の棚に置いてたはずや」

 竜二さんを振り向くと、そうだと頷いた。

「確かにその通りです。そのまま捨てようかとも思ったのですが、あとで警察から確認があるかもしれません。なのでそのままに」
「ずっとありましたか?」
「いや、全く気にもしてませんでした」

 かがみ込んでよく見てみれば、村上さんの首にはロープで強く締められた跡と、爪で引っ掻いた数本の傷が残っていた。

「自殺、なのよね? 犯行を悔やんでの」

 両手を祈るように胸前で握り合わせ、飯畑さんが懇願するかのように言うが、

「いえ」

 竜二さんは無情にも首を横に振る。

「首のロープの跡は、素人目にも角度違いが複数あるのが分かります。そしてこの傷。それにこの場所で首吊りはできませんよ」

 その言葉の通り、村上さんの倒れている場所は、自転車置き場の屋根から外へ一メートル以上ズレている。梁に結びつけたロープが外れて落下したとしても位置が合わない。

「やはり、誰かに殺された」

 ポツリと呟く自分のセリフに、思わず周囲の人を確認してしまう。残るは六人。

「首を絞めて殺したあと、首吊りに見せかけようとしたのでしょうか」
「そやったら、なんでやめたんやろ」
「この嵐ですし、難しかったのかも」

 遺体の脇に蹲み込んだ三輪さんと竜二さんが、推論を交わすなか、

「もうこんなことしてる暇はないでしょ! 早く行かないと!」

 敦子さんの切迫した声が、我々を現実に引き戻した。そうだ、今この時にも上流のダムは決壊するかもしれない。
「わかりました。村上さんには気の毒だが、このまま急ぎましょう」

 ポケットから取り出したハンカチを村上さんの顔にかけ、三輪さんが立ち上がる。

 雨の勢いは弱まる気配もない。僕たち六人は、外階段の脇から玄関前を駆け抜け、そして幾度も往復したペンション前の通りに出た。そのまま集落方向に足早に進み、湖頭峠へと向かう分かれ道まできたところで、僕たちの輪から離れる人影があった。

「飯畑さん……」

 彼女はひとり、こちらを見ながら、ジリジリと集落へ向かう道へと後ずさって行く。

「飯畑さん、どうしたんですか。湖頭峠の交差点へ向かう道はこっちですよ」

 明らかに不穏な表情の彼女を刺激しないよう、竜二さんが優しく話しかける。しかし飯畑さんは少しずつ我々から離れて行った。

「もういや。あなたたちとは行かない」
「飯畑さん、落ち着いてください。ここは危険なんです」
「ダメよ。みんな信用できない。私は違う方向へ逃げるわ」
「逃げるって、そっちは海ですよ」
「私に、近づかないで!」

 竜二さんの伸ばした手を、鋭く振り払う。台風の強い風の影響もあってか、屈強な彼が思わずその場に倒れ込んでしまった。

「私は、海岸から展望台へ登るわ。いい、こっちへ来ないで」

 悲壮な顔で飯畑さんは、勢いよく振り返ると、雨の中を海岸へ向け駆け出して行った。

「そっちは海です。ダメですって!」

 水溜りに足を取られ、立ち上がれずにもがく竜二さんが絶叫するが、もう飯畑さんの姿は雨の幕の向こうに霞んで見えなくなった。

「アオイ、お前は高遠さんや石田さん達と峠へ向かえ!」

 その飯畑さんを追って駆け出そうとした三輪さんが、僕を振り返って叫ぶ。

「ダメですよ先輩。僕もいきます」
「アホか、共倒れになったらどうすんねん」
「でも行きます。一人では危険かも!」
「私も行きます。決着をつけなければ」

 高遠さんまでが、こちらに付いてくると言いだした。これに今度は竜二さんが反応した。

「お客さんたちを置いて、行けませんよ。私が行きます」
「ダメです。ひとまず全員で危険の中に飛び込むこともない。まず竜二さんは奥さんのことを考えてください」

 三輪さんの言葉に竜二さんはハッとする。そうだ、敦子さんは妊娠している。こんな嵐の中で立っているだけでも辛いはずだ。

「あなた……、私は気にせずに」

 気丈にも敦子さんが申し出るが、ここで問答している時間さえ危険だ。

「海岸の奥にある階段から、展望台へ上がれば、安全…… そうですよね!」

 僕は竜二さんの前に立ち塞がり、大声で確認した。背後で先輩と高遠さんが駆け出す。

「それは、たぶん」

 二人が海方向へ走ったことに気づいたはずだが、やはり竜二さんも敦子さんが心配なのだろう。無理に僕を押し退けようとはしない。

「僕たちは飯畑さんを追いかけ、そのまま展望台へ向かいます。竜二さんたちは崩落現場のある峠まで、まずは急いでください」

「ですが」
「そこで救助を、美鈴浜側から救助隊が来るように依頼をお願いします」
「向井さん」
「竜二さん、時間が惜しいです。お互い急ぎましょう!」

 最後通牒のようにそう怒鳴ると、僕は踵を返して先輩たちを追いかけた。後ろから竜二さんと敦子さんの声が聞こえたが、雨音で何を言ったのかは、わからなかった。
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