黙っていれば優良物件

ベンジャミン・スミス

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第一章 ギルベルト・ライズナー

第六話 屈辱の皺

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 ギルベルトは、持ってきたボトルをドレッシングのボトルを扱うように透明の包装を取り除き、ベッドに投げた──ローションが隣に無造作に転がり、航は顔をしかめる。
「新品なのは不自然か。使うかい?」
 ギルベルトは、ローションのボトルを拾い上げ航に向けた。
「使いません」
「そうか」
「演出として使ったほうがいいならどうぞ」
「……今日はやめておこう。量を減らしてくるから、いい加減準備してもらっていいかな?」
 まだ衣服を身にまとい、綺麗なベッドの上で不貞腐れる航は、ギルベルトの背中を睨みつけ、ようやく上半身の衣服を脱いだ。枕を斜めにし、シーツに皺をつくる。適当にあちこち拳で殴り、クレータのような皺と凹みをつくる。戻ってきたギルベルトは、すぐに皺をもとに戻してしまう。
「不自然だろ。どんな乱暴な自慰に見せる気だ」
「だったら主任がすればいいじゃないですか」
「それもそうだね」
 邪魔になってはいけないと、航はベッドから退こうとしたが、ギルベルトに肩を押され、ベッドに逆戻りする。
「え?」
「失礼するよ」
 ギルベルトが覆いかぶさり、困惑する部下をしり目に、首筋にキスをした。
「ああッ」
 自分の声に驚き、航は、慌てて口を塞いだ。しかし、その手を取られ、シーツを握らされる。
「感じるままに強く握るだけでいい」
 ギルベルトは自分の跡がつかないように、膝を航のふくらはぎの横あたりに沈め、手は両方、露になっている上半身においた。人差し指で優しく突起をはじくと、キスで放心していた男が跳ねる。
「んんッ……」
「腰も揺らして。もっと体全体で悶えて」
 言いなりになりたくないのに、首筋への優しいキスと、激しくなる突起への刺激に、航は、下半身を揺らす。親指と人差し指で摘ままれ、シーツを握っていた手で、枕を掴む。身体が仰け反り、膨らんだ雄がギルベルトの腹部にあたる。
「すみま……せん……」
「構わないよ」
 ギルベルトは航から離れた。そしてかさが減ったローションのボトルを枕の横に転がし、航にカメラを握らせる。自分で撮らないと意味がないと分かっていても力が入らない。結局、ギルベルトに握らされ、シャッターも押してもらう羽目になる。
 ベッドで収まらない熱と羞恥心で動けない航を置いて、ギルベルトはタブレットにデータを移し、サイトへアップする作業に入っていた。
「……主任」
「なに?」
「やっぱり俺のこと知っていますよね?」
 ギルベルトは何も答えない。
「知ってるからこんなことしたんでしょ? でないと犯罪ですよ」
「本社であったのは覚えているよ」
「それだけじゃないでしょ!」
 航は前回と同じ事しか答えないギルベルトに詰め寄る。
「例えば、何を知っていると思っているの?」
 ギルベルトはタブレットを閉じ、航を見つめた。
「それは……」
 間違いであったときのリスクを考え、航は口をつぐんだ。ギルベルトは、もう一度タブレットを開き、「また新しいメールが来ている。返しておくよ」とだけ言って作業に戻る。
「自分でも確認しておいてくれ。おやすみ」
 人のことなどお構いなしにさわやかに航の部屋から去っていく。
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