連立スル 夕顔ノ 方程式

ベンジャミン・スミス

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最終章 夕顔達の十年間

第四話 Zの懺悔

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 警察の巧妙な作戦と行為をしながらの宇野の見事な秘技に驚く福山だったが、一つ納得できない事がある。

「でもあの部屋で俺が男としている時、お前と電話しただろ!」
「あー、あれはですね——」


             *

「はあ?! とちった?!」

久保田の拳骨が飛びそうになる。

「すみません。対象者に触れてしまって。もしかしたらバレたかもしれないんで、少し手伝ってくれませんか?」

同窓会もあるのに、福山に触れてしまった事で、あの部屋の謎の男の正体がバレるかもしれないと、宇野は気が気ではなかった。
そうなれば今までしてきた捜査事水の泡になるかもしれない。

「お前なあ……何すればいいんだ?」
「これ」

宇野は久保田にUSBを渡した。

「この中に俺の音声が入っています。これが俺の私用のスマートフォンです。福山先生って入っているんで22時半ごろ、ここにかけてください。そして俺の音声を流してくれませんか? 切断はこっちでします」

と作戦を言うと、首を鳴らしながら了承してくれた久保田が、回した首を彼方へ向ける。

「その代り、あの仕事手伝えよ」

デスクに積まれた大量の書類。

「え?」
「人に仕事お願いしといて同窓会に行く気か?」

宇野は半べそをかきながら欠席の連絡を入れた。久保田と書類を片付けながら……

(いや待てよ。同窓会に行けなかったから、後日先生と二人きりでご飯に行く口実ができたのでは?)

と都合のいい事を思いついていたが、作業は思った以上に早く終わり、「ほら、束の間の休息だ。行ってこい。夜の分は頼んだぞ」と送り出す久保田に「先輩もお願いします」と念を押して署を後にした。

「先生、元気かなあ……」

浮き足だって遅刻すると、店の前には件の人がいた。

「国道の○○ホ……ッ?!」

慌てて口を噤んだが、きちんと聞こえた。

(辻本に会いに行くんだ)

胸に渦巻く黒い煙を吐き出し、ニコリと微笑む。

「やっほ先生!」

あからさまに挙動がおかしくなった福山が「すみません。すぐ行きます」と言って電話を切った。

「電話してた? ごめんなさい」
「いや、もう終わった」

その声は教師の声なのに前を見据える目に生気が宿っていない。

(行かないでよ、先生)

気が付いたら、店の壁を殴り、福山の行く道を鍛えた腕が塞いでいた。

「腕をどかしてくれないか」
「どこ行くんですか? もしかして同窓会終わった?」
「俺は今から仕事だ。まだみんないるぞ」
「先生、戻ってくる?」
「もう戻ってこない」

電話をする口実を捕まえる。

「そっか。俺、先生に話があるんですけど」
「今じゃ駄目なのか?」
「駄目です。長くなります」
「今夜は無理だ。何時になるか分からない」
「電話かけてもいい?」
「たぶん出られないぞ」
「それでもいいです」
「何か相談か?」
「うん」
「分かった。出られなかったらごめん。でも必ず聞くから」

作戦が上手くいき、口角があがる。

「仕事行ってらっしゃい!」

と、見送り。その背中が角を曲がると小さく「今日はもっと気持ちよくしてあげるから」と呟く。
この時間は別の刑事だ。多分今から福山の後をつけている事だろう。その刑事に《国道沿いの○○ホテル》と連絡を入れ、宇野は同窓会会場へと向かった。

その後、アパートへ行く時間が迫り、二次会を断る。《対象者が○○ホテルを出た》という連絡も貰い、掻き毟られる様な気持ちを抑え、いつものアパートへと向かう。福山が最初に来て、その後車からそれを確認した宇野が中に入る。ペンライトを頼りに進むと相変わらずじっと待っている福山。
例の如くリュックを漁り、覚せい剤がないかの確認をした。

(今日もなしか……やっぱりローターで運ばせる作戦か?)

収穫のないリュックのポケットを確認していると福山が声を発した。

「ごめん」

そっと照らすと目隠しをした福山がベッドに横になっていた。

「はああ」

と大きな溜息が聞こえ、どれほど酷い性行為をされたのか胸が痛む。

(今気持ちよくしてあげますよ)

——ギシッ

とわざと音を鳴らせば、福山の身体がピクリと反応する。ベルトを外し合い、すでに勃起した二つの性器を擦り合わせる。

(気持ちいい……)

「ん、ああ」

福山が上げる声に、早く挿れたくて堪らなくなる。さっきまであの男の性器が入っていただろう場所に指をあてがうと「いッ?!」と福山の身体が強張った。

(やばッ、爪を切り忘れたか?)

「だ、大丈夫だ……挿れてくれ……」

(でも、先生が痛がるのは嫌だ。それは辻本と同じだ。どうしよう……)

宇野の指が迷う。
そして丁度その時だった……

——ブー、ブー、ブー

「?!」

(きた!)

迷わせていた指を、すぐさまスマートフォンに伸ばし、タップする。

『もしもし先生? 今何していますか?』

(俺って機械通すとこんな声なのか……)

と、呑気に考えていたが、福山の口を塞ぐ必要がある事に気が付く。
もし会話が始まれば一巻の終わりだ。一方的に話す宇野は返事などしない。

——ピチャッ

福山の秘部に舌先を押し付ける。
身体が跳ね、声を抑えているのが聞こえる。

(先生の熱い……もっと、もっと舐めたい……俺この後何て言うんだっけ?)

『せんせーい! おーい!』

(あっ、思い出した)

舌で肉壁を押し広げる。

「はっ、んあッ」
『先生? 何かあったんですか?!』

ガムテープを千切る音がして、その後は『先生? 福山先生‼』と繰り返し呼ぶ自分の声が部屋に響く。丁度いい頃合いでと思ったが、電話は福山によって切られてしまった。そしてガムテープを剥ぐ音が聞こえ、「ふうう……」と安堵の溜息が漏れる。

(あとは俺に委ねてください)

舌で激しく愛撫し、福山の射精を促す。

「舌……あつ、い。はぁぁんッ……あ、あ、ごめん……ごめんな、宇野」

(違うよ。謝りたいのは俺なんだ。ごめん、ごめんなさい先生。10年前、助けてやれなくて……そして、今、先生の弱みに付け込んでこんなことして)

懺悔しながら、福山を攻めたてる。
こんな事をされているのに、福山は終わった後「あんたはいいのか?」と聞く。

相変わらずな優しさに触れ、この時から宇野はこれが職務である事を段々忘れて始めていた。

——先生がもっと欲しい。身体も……心も……
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