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第十章 佐久間仁と消失
第七話 ライバル
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「はぁ」
要は仁のアパートの扉にもたれ、ズルズルと座り込む。冷たいコンクリートがジーパン越しに伝わり、終わった二人の関係を痛烈にする。
(あれはもうツンデレとかじゃねーな、意地っ張りだ。かなり重症の)
「アメリカに行こう」「わかった」とは直ぐに答えられるわけが無い。何度聞いてもいくら説得しても答えは変わらないだろう。
「あいつが素直になるわけがない」
しかしこれで良かったのだ。
遠距離恋愛の継続を避ける事ができた、要にとっては目的を果たしたようなものだった。
「あとはあいつに……よし、行くか。よっこらせ」
と、立ち上がりアパートの階段を降りる。階段の終わり、ちょうど最後の一段を男が塞いでいた。
「そこの柴犬のお巡りさんどいてくんない?」
「誰が柴犬のお巡りさんだ」
不機嫌そうに振り向いた柴は二人がどうなったのかを要の顔色から伺おうとしている。
「お巡りさんって言ったら犬だろ。名前だってちょうどいいじゃねぇか。ジロジロ見るなよ……振られたよ」
その台詞に柴は驚いた顔をする。
「はっ? 嘘だろ?」
「嘘じゃねぇよ。きっちり振られてきたんだよ」
「俺が言うのも何だけど、佐久間は僕ちゃんのこと忘れてないでしょ?」
「僕ちゃん……まぁいいや。ちょっとこい」
僕ちゃんに関してはもうツッコムのも疲れた。
「俺、佐久間以外の男に口説かれるのは勘弁なんだけど」
「気持ち悪いこと言うな!」
二人でアパートの隣にある、砂場と鉄棒、ベンチ、あと自販機がある小さな公園に行く。
「で? 何?」
「あんた、いつから仁と付き合ってんの?」
「えーと、たしか──」
日付を聞いて要は安堵のため息を心の中でついた。この日付によっては二股をしたいた事になるが、幸か不幸かその数字は別れた次の日だった。
しかし、柴の口から飛び出した単語で、要は仁の悲しみの深さを再確認してしまう。
「煙草吸ってる綺麗な奴がレトロ地区にいたからナンパしたの」
「煙草?」
(また喫煙しだしたのかよ。しかもレトロ地区って最後にいったところじゃねぇか)
「お巡りさんがナンパかよ。しっかりしろよ」
「冗談に決まってんだろ。あまりにも切羽詰まった顔してたから自殺かと思って声をかけたんだよ。で、よく見たら佐久間だったってわけ。俺と佐久間、高校の同級生かつ元恋人なんだよ」
早い段階で恋人ができたことに合点がいく。
「そんなに切羽詰まった顔してたの?」
「ああ」
やはり仁はおかしくなっていた。あの振られた金曜日、あの日が限界だったのだ。
そう再認識した要は星の見えない秋の空を見上げた。
「……今の仁はおかしくなっている」
「分かってるよ。その原因が僕ちゃんって事なのも」
要が視線を申し訳なさそうに下ろすと、柴が眉を下げてやれやれと肩をすくめていた。
「なんで別れたんだ?」
「聞いてないのか?」
「聞いてない」
「遠距離になったんだよ、俺たち」
要の出向、それが全ての始まりだった。その出向の寂しさが、仁の隠していた愛の大きさ、深さを浮き彫りにし、そして悲しみの底へ落としてしまった。
「いい奴なんだな」
「何だよ急に」
「理由も知らないのにあの仁を支えてくれてたんだろ?」
「ばーか。好きで付き合ってるだけだよ。僕ちゃんの事なんて俺には関係ない。僕ちゃんも……というより俺たち二人だけが佐久間の本性を知っている。佐久間は……」
「弱い。でもそれを隠している。それに仁は……」
「素直じゃねーんだよ。頼ればいいのに、中途半端に維持を張りやがる。高校の時から何も変わってないんだな」
「そうだな。俺たちの付き合い始めもそうだった。仁は苦しそうで、必死で、隠しているようで隠せていない。だから……」
——放っておけない
二人の声が重なり、初めて敵意のない視線が交差した。
要は柴の真っ直ぐな瞳を見つめ、胸を撫で下ろした。
(こいつならきっと今の仁を任せることが出来る)
「柴」
「何だ?」
「仁を頼む」
「?!」
怒りに満ちた表情が迫り、一瞬にして柴に胸ぐらをとられる。
「それでいいのかよ!!」
要は、人が頭に血が上る瞬間を始めて目の当たりにした。
「佐久間にとってあんたがどんだけデカイ存在か分かんねぇのかよ!」
「ッ! ……そんなの」
要は自分の頭にも血が上るのが分かる。身体が熱く、負のエネルギーに満ち溢れる爆発する。
「分かってんだよ! 分かってるから、一緒にはいられないんだよ!!」
二人の男が声を張り上げる。
仁の悲しみをぶつけるように、仁のそばにいられない悔しさを込めるように。
「俺の存在が仁を苦しめてんだよ! いつ帰ってくるかも分からない男を待ち続けて、あいつはおかしくなってんだ!」
せめて、確実に福岡に戻れるような話しでもない限りきっとこの状態はつづく、そう確信していた。そしてそれが悔しかった。
「俺のせいであいつがおかしくなってるのに、それを遠くでしか知ることが出来ない! そばにいられない! どうすることもできない! あいつをこれ以上おかしくしないためには、これしかないんだよ。だから今は切るしかないんだ」
「俺が佐久間貰うぞ! いいのかよ!」
「それで少しでも楽になるならそうしてやって欲しい。あんたはちゃんと仁が好きなんだろ?」
柴は胸ぐらから手を離し、そのまま自分の頭をガシガシと掻き、セットしたであろう髪をグシャグシャにしていく。
「だぁー!! もうお前むかつく! 佐久間がどんだけお前のこと好きか分かってるから余計にむかつく! 言っとくけどな俺の好きな気持ちなんてお前ら二人の間にあるものに比べたらちっぽけだぞ。俺はどちらかというとあいつが心配な気持ちの方がでかいんだ」
「それでも好きならいてやってくれ」
「あーもう! くそ……」
深いため息をつき、今度は柴が秋の空を仰いだ。熱を持った吐息が冷却され白く昇っていく。
「まじでお前むかつく」
「悪かったな」
「……」
「柴……」
「……分かったよ」
もう一度向き合った柴は、怒りに満ちたそれが消え、決意した顔だった。
「佐久間は俺に任せろ。今の佐久間はただ流されるように生きてる。危なっかしくて見てらんねぇ……俺がそばにいてやるよ」
責任感溢れるその顔に、この男の職業を思わせるものがある。
「でも俺が福岡戻ったら容赦しねーから」
「その頃には俺にベタ惚れに決まってんだろ。第一戻ってくる可能性あんのかよ」
「ある」
「嘘つけ」
「嘘じゃねーよ。人間なりふり構わず必死にやれば可能性なんて0から100にいくらでもなんだよ」
「中途半端に50とかで現れんなよ。佐久間がそういうの嫌いなの分かってるだろ。幻滅されるぞ?」
「そんな男が廃ることするかよ」
その言葉に呆れたような、しかし相手を認める様にフッと笑う柴が要に手を差し出す。
柴はどうして仁がこの男に惹かれたのかが分かった気がした。若いだけではない、何かを引っ張るような魅力を持っていると感じた。
「ただの口の悪い僕ちゃんじゃないみたいだな」
要はその手を握り返す。
「あんたもな」
要はまだベッドで俯いているであろう元恋人がいる方角を見上げる。
「じゃ……頼む」
「後で吠え面かくなよ」
「かかねぇよ。最後に仁を幸せにするのは俺だ」
もう一度柴の手を握って、離す。
「はいはい、俺は俺の綺麗な恋人のところに戻るわ。僕ちゃんのせいで泣いてるだろうよ」
「はっ。馬鹿だなお前、仁は綺麗なんじゃねーよ、可愛いんだよ。目がおかしいんじゃねーか?」
「僕ちゃんもいい趣味してんな」
「お前もな。あと僕ちゃんはやめろ」
「へいへい」
適当な、しかし信頼できる男にあとは任せる。
「……そろそろ、行くわ」
「おう、要」
アパートへ向かう柴の姿を見るのは嫌で、そばにいたい気持ちだけ置いて、先に公園を去る。完璧にアパートも公園も見えなくなって、ようやく足を止め、スマートフォンを取り出す。
「もしもし、こんばんは。遅くにすみません。ご無沙汰してます……村崎部長」
久しぶりの会話をした上司は、声がいつもより重たかった。
要は仁のアパートの扉にもたれ、ズルズルと座り込む。冷たいコンクリートがジーパン越しに伝わり、終わった二人の関係を痛烈にする。
(あれはもうツンデレとかじゃねーな、意地っ張りだ。かなり重症の)
「アメリカに行こう」「わかった」とは直ぐに答えられるわけが無い。何度聞いてもいくら説得しても答えは変わらないだろう。
「あいつが素直になるわけがない」
しかしこれで良かったのだ。
遠距離恋愛の継続を避ける事ができた、要にとっては目的を果たしたようなものだった。
「あとはあいつに……よし、行くか。よっこらせ」
と、立ち上がりアパートの階段を降りる。階段の終わり、ちょうど最後の一段を男が塞いでいた。
「そこの柴犬のお巡りさんどいてくんない?」
「誰が柴犬のお巡りさんだ」
不機嫌そうに振り向いた柴は二人がどうなったのかを要の顔色から伺おうとしている。
「お巡りさんって言ったら犬だろ。名前だってちょうどいいじゃねぇか。ジロジロ見るなよ……振られたよ」
その台詞に柴は驚いた顔をする。
「はっ? 嘘だろ?」
「嘘じゃねぇよ。きっちり振られてきたんだよ」
「俺が言うのも何だけど、佐久間は僕ちゃんのこと忘れてないでしょ?」
「僕ちゃん……まぁいいや。ちょっとこい」
僕ちゃんに関してはもうツッコムのも疲れた。
「俺、佐久間以外の男に口説かれるのは勘弁なんだけど」
「気持ち悪いこと言うな!」
二人でアパートの隣にある、砂場と鉄棒、ベンチ、あと自販機がある小さな公園に行く。
「で? 何?」
「あんた、いつから仁と付き合ってんの?」
「えーと、たしか──」
日付を聞いて要は安堵のため息を心の中でついた。この日付によっては二股をしたいた事になるが、幸か不幸かその数字は別れた次の日だった。
しかし、柴の口から飛び出した単語で、要は仁の悲しみの深さを再確認してしまう。
「煙草吸ってる綺麗な奴がレトロ地区にいたからナンパしたの」
「煙草?」
(また喫煙しだしたのかよ。しかもレトロ地区って最後にいったところじゃねぇか)
「お巡りさんがナンパかよ。しっかりしろよ」
「冗談に決まってんだろ。あまりにも切羽詰まった顔してたから自殺かと思って声をかけたんだよ。で、よく見たら佐久間だったってわけ。俺と佐久間、高校の同級生かつ元恋人なんだよ」
早い段階で恋人ができたことに合点がいく。
「そんなに切羽詰まった顔してたの?」
「ああ」
やはり仁はおかしくなっていた。あの振られた金曜日、あの日が限界だったのだ。
そう再認識した要は星の見えない秋の空を見上げた。
「……今の仁はおかしくなっている」
「分かってるよ。その原因が僕ちゃんって事なのも」
要が視線を申し訳なさそうに下ろすと、柴が眉を下げてやれやれと肩をすくめていた。
「なんで別れたんだ?」
「聞いてないのか?」
「聞いてない」
「遠距離になったんだよ、俺たち」
要の出向、それが全ての始まりだった。その出向の寂しさが、仁の隠していた愛の大きさ、深さを浮き彫りにし、そして悲しみの底へ落としてしまった。
「いい奴なんだな」
「何だよ急に」
「理由も知らないのにあの仁を支えてくれてたんだろ?」
「ばーか。好きで付き合ってるだけだよ。僕ちゃんの事なんて俺には関係ない。僕ちゃんも……というより俺たち二人だけが佐久間の本性を知っている。佐久間は……」
「弱い。でもそれを隠している。それに仁は……」
「素直じゃねーんだよ。頼ればいいのに、中途半端に維持を張りやがる。高校の時から何も変わってないんだな」
「そうだな。俺たちの付き合い始めもそうだった。仁は苦しそうで、必死で、隠しているようで隠せていない。だから……」
——放っておけない
二人の声が重なり、初めて敵意のない視線が交差した。
要は柴の真っ直ぐな瞳を見つめ、胸を撫で下ろした。
(こいつならきっと今の仁を任せることが出来る)
「柴」
「何だ?」
「仁を頼む」
「?!」
怒りに満ちた表情が迫り、一瞬にして柴に胸ぐらをとられる。
「それでいいのかよ!!」
要は、人が頭に血が上る瞬間を始めて目の当たりにした。
「佐久間にとってあんたがどんだけデカイ存在か分かんねぇのかよ!」
「ッ! ……そんなの」
要は自分の頭にも血が上るのが分かる。身体が熱く、負のエネルギーに満ち溢れる爆発する。
「分かってんだよ! 分かってるから、一緒にはいられないんだよ!!」
二人の男が声を張り上げる。
仁の悲しみをぶつけるように、仁のそばにいられない悔しさを込めるように。
「俺の存在が仁を苦しめてんだよ! いつ帰ってくるかも分からない男を待ち続けて、あいつはおかしくなってんだ!」
せめて、確実に福岡に戻れるような話しでもない限りきっとこの状態はつづく、そう確信していた。そしてそれが悔しかった。
「俺のせいであいつがおかしくなってるのに、それを遠くでしか知ることが出来ない! そばにいられない! どうすることもできない! あいつをこれ以上おかしくしないためには、これしかないんだよ。だから今は切るしかないんだ」
「俺が佐久間貰うぞ! いいのかよ!」
「それで少しでも楽になるならそうしてやって欲しい。あんたはちゃんと仁が好きなんだろ?」
柴は胸ぐらから手を離し、そのまま自分の頭をガシガシと掻き、セットしたであろう髪をグシャグシャにしていく。
「だぁー!! もうお前むかつく! 佐久間がどんだけお前のこと好きか分かってるから余計にむかつく! 言っとくけどな俺の好きな気持ちなんてお前ら二人の間にあるものに比べたらちっぽけだぞ。俺はどちらかというとあいつが心配な気持ちの方がでかいんだ」
「それでも好きならいてやってくれ」
「あーもう! くそ……」
深いため息をつき、今度は柴が秋の空を仰いだ。熱を持った吐息が冷却され白く昇っていく。
「まじでお前むかつく」
「悪かったな」
「……」
「柴……」
「……分かったよ」
もう一度向き合った柴は、怒りに満ちたそれが消え、決意した顔だった。
「佐久間は俺に任せろ。今の佐久間はただ流されるように生きてる。危なっかしくて見てらんねぇ……俺がそばにいてやるよ」
責任感溢れるその顔に、この男の職業を思わせるものがある。
「でも俺が福岡戻ったら容赦しねーから」
「その頃には俺にベタ惚れに決まってんだろ。第一戻ってくる可能性あんのかよ」
「ある」
「嘘つけ」
「嘘じゃねーよ。人間なりふり構わず必死にやれば可能性なんて0から100にいくらでもなんだよ」
「中途半端に50とかで現れんなよ。佐久間がそういうの嫌いなの分かってるだろ。幻滅されるぞ?」
「そんな男が廃ることするかよ」
その言葉に呆れたような、しかし相手を認める様にフッと笑う柴が要に手を差し出す。
柴はどうして仁がこの男に惹かれたのかが分かった気がした。若いだけではない、何かを引っ張るような魅力を持っていると感じた。
「ただの口の悪い僕ちゃんじゃないみたいだな」
要はその手を握り返す。
「あんたもな」
要はまだベッドで俯いているであろう元恋人がいる方角を見上げる。
「じゃ……頼む」
「後で吠え面かくなよ」
「かかねぇよ。最後に仁を幸せにするのは俺だ」
もう一度柴の手を握って、離す。
「はいはい、俺は俺の綺麗な恋人のところに戻るわ。僕ちゃんのせいで泣いてるだろうよ」
「はっ。馬鹿だなお前、仁は綺麗なんじゃねーよ、可愛いんだよ。目がおかしいんじゃねーか?」
「僕ちゃんもいい趣味してんな」
「お前もな。あと僕ちゃんはやめろ」
「へいへい」
適当な、しかし信頼できる男にあとは任せる。
「……そろそろ、行くわ」
「おう、要」
アパートへ向かう柴の姿を見るのは嫌で、そばにいたい気持ちだけ置いて、先に公園を去る。完璧にアパートも公園も見えなくなって、ようやく足を止め、スマートフォンを取り出す。
「もしもし、こんばんは。遅くにすみません。ご無沙汰してます……村崎部長」
久しぶりの会話をした上司は、声がいつもより重たかった。
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