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最終章 騎士と碧眼と月
第五話 月と陽がのぼる
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ブライアンの決意にルーカスは声を荒げた。
「何故だ?!」
あまりの勢いに馬が進路を変えそうになる。
「貴方を二回も騙したのです。当然の罰かと。一つは仮面の男ザックとして近づいた事。そして出会ってからずっと過去の事を隠していた事。」
港町に近づき、馬を止めるブライアン。
「こんな嘘つきと貴方はいるべきではない。」と言いながら馬をおりてルーカスに背を向ける。その背中に飛びつく様にルーカスは抱きついた。手は震えている。
「あの男から君の事を聞いた時は死ぬほど辛かった。しかし、心の底から身体を許していたわけではなかったのだろ。」
ハーデルに話を聞いた時、ルーカスはブライアンも同意の上だと勘違いした。しかし、それは違っていた。
それと同時にルーカスは自分自身を酷く責めた。
「同じ屋敷にいたというのに、君がそんな目にあっていると気が付けずすまなかった。償わせて欲しい。」
懺悔の頭を垂れ、ブライアンの背中に擦りつける。それでもブライアンは同じことを繰り返した。
「償う必要など何処にもありません。貴方は何も悪くない。悪いのは…私です。」
その言葉にルーカスはブライアンの肩を掴み、面と向かい合わせ、大きく口を開いた。
「俺は、妻と領地ひいては民をも捨てた男だ。これでもまだ悪くないと言えるか?!」
「それは違います。」とブライアンは言うが、「それなのに……」とルーカスは遮った。
そして胸の中にブライアンを閉じ込め、強く彼を抱きしめた。
「それなのに!今度は愛しい男を捨てろというのか?!」
「?!」
まだルーカスに愛されていると分かる告白にブライアンの心が揺れる。
「これ以上俺を非道にして、君がどこかへ消えたら、俺は立ち直れない。」
そして「好きだ。」「愛している。」「俺のそばにいてくれ。」と消え入りそうな声で訴えるルーカスに、自分が本当に必要とされていることを痛感してしまう。
「私は汚れています。」
「汚れているのはあの男だ!」
「それに二度も貴方を騙しました。」
ルーカスがブライアンの顔を上向きにする。そして見つめ合い、はっきりと
「しかしブライアンは二度も俺を助けてくれた。」
と、言った。妻からそしてハーデルから。ブライアンがあの隠し通路とハーデルの男色を知っているからこそ最悪の状況は防げたのだ。ブライアンにとって裏切りだと思っていた事は、結果的にルーカスを助けていた事になる。
ルーカスはそれを分かっている。
「君は汚れてなどいない。俺を助けてくれた優しい男だ。……だから、そばにいてくれないか?これからもずっと。」
——ゾクリ
ブライアンは身震いした。
愛する人に求められる事は一種の快楽に似ている。ブライアンはそう思った。
卑猥さを含んでいないのに身体の底から熱い物が込み上げ、その独占欲に応えたいと思う自分がいた。
それはまだブライアンもルーカスを愛している証拠だった。
「ああ、本当に困ったお人だ。」
今度はブライアンがルーカスを抱きしめる。
(快楽に堕ちたのは私もか。)
——しかし決して悪いものではない。
「私でいいのですね?」
「ブライアンがいい。君こそ俺で良いのか?」
急に自信を無くしたルーカスに、強く頷いて、ブライアンはキスをした。
「勿論です。」
ルーカスもキスを返し、本当に隔たりはなくなった。逃げる事を忘れ、そのまま何度もお互いの愛を唇で確かめ合う。目の前に港町はあるのに視界には入らない。
町の門をくぐったのは陽が暮れてからだった。
どうにか最後の船便に間に合い、馬と共に乗りこむ。「遠征や視察とは違った緊張感があるな。」と先に乗り込むルーカスのボヤキに相も変わらぬ騎士らしさを感じ、クスリと笑ったブライアン。
そして皆が寝静まった夜、誰もいない甲板で二人は肩を並べていた。
「一面海ですね。」
「海は初めてか?」
「はい。」
美しいが何もない水平線には少しだけ恐怖心がある。だが、隣にいる恋人に一瞬で、恐怖が安堵と焦がれた気持ちに塗り替えられる。
波の音ですらそんな愛し合う男たちを攫う事はできない。
「この船はどちらへ?」
「東の大陸だ。あそこなら治安も安定している。」
これからの日々を思い、ルーカスな胸を押さえた。
それは隣のブライアンも同じだった。初めて領土を出て、そして知らぬ土地で始まるルーカスとの門出に嬉しくて胸が張り裂けそうだった。
同じ個所を押さえる姿に微笑み合う。そして二人同時に胸を押さえていた手をお互いの頬に添える。
「ルーカス。」「ブライアン。」
声が重なり、唇も重なる。
そしてブライアンがルーカスの腰に手を添え、これから始まる行為へと期待を高めさせる。
呼吸が熱い吐息に変わり、ブライアンがルーカスを押し倒す。
懇願するようにブライアンを見つめるルーカスの瞳には、自分を攫った碧眼とその背後で2人を見下ろす満月だけが映っていた。
そして、絡み合う二人を乗せた船は門出を祝うように、波を切り開きながら静かに進んでいく。
陽のいづる東の大陸へと。
―完―
読みにくい箇所が多々あったと
思いますが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
「何故だ?!」
あまりの勢いに馬が進路を変えそうになる。
「貴方を二回も騙したのです。当然の罰かと。一つは仮面の男ザックとして近づいた事。そして出会ってからずっと過去の事を隠していた事。」
港町に近づき、馬を止めるブライアン。
「こんな嘘つきと貴方はいるべきではない。」と言いながら馬をおりてルーカスに背を向ける。その背中に飛びつく様にルーカスは抱きついた。手は震えている。
「あの男から君の事を聞いた時は死ぬほど辛かった。しかし、心の底から身体を許していたわけではなかったのだろ。」
ハーデルに話を聞いた時、ルーカスはブライアンも同意の上だと勘違いした。しかし、それは違っていた。
それと同時にルーカスは自分自身を酷く責めた。
「同じ屋敷にいたというのに、君がそんな目にあっていると気が付けずすまなかった。償わせて欲しい。」
懺悔の頭を垂れ、ブライアンの背中に擦りつける。それでもブライアンは同じことを繰り返した。
「償う必要など何処にもありません。貴方は何も悪くない。悪いのは…私です。」
その言葉にルーカスはブライアンの肩を掴み、面と向かい合わせ、大きく口を開いた。
「俺は、妻と領地ひいては民をも捨てた男だ。これでもまだ悪くないと言えるか?!」
「それは違います。」とブライアンは言うが、「それなのに……」とルーカスは遮った。
そして胸の中にブライアンを閉じ込め、強く彼を抱きしめた。
「それなのに!今度は愛しい男を捨てろというのか?!」
「?!」
まだルーカスに愛されていると分かる告白にブライアンの心が揺れる。
「これ以上俺を非道にして、君がどこかへ消えたら、俺は立ち直れない。」
そして「好きだ。」「愛している。」「俺のそばにいてくれ。」と消え入りそうな声で訴えるルーカスに、自分が本当に必要とされていることを痛感してしまう。
「私は汚れています。」
「汚れているのはあの男だ!」
「それに二度も貴方を騙しました。」
ルーカスがブライアンの顔を上向きにする。そして見つめ合い、はっきりと
「しかしブライアンは二度も俺を助けてくれた。」
と、言った。妻からそしてハーデルから。ブライアンがあの隠し通路とハーデルの男色を知っているからこそ最悪の状況は防げたのだ。ブライアンにとって裏切りだと思っていた事は、結果的にルーカスを助けていた事になる。
ルーカスはそれを分かっている。
「君は汚れてなどいない。俺を助けてくれた優しい男だ。……だから、そばにいてくれないか?これからもずっと。」
——ゾクリ
ブライアンは身震いした。
愛する人に求められる事は一種の快楽に似ている。ブライアンはそう思った。
卑猥さを含んでいないのに身体の底から熱い物が込み上げ、その独占欲に応えたいと思う自分がいた。
それはまだブライアンもルーカスを愛している証拠だった。
「ああ、本当に困ったお人だ。」
今度はブライアンがルーカスを抱きしめる。
(快楽に堕ちたのは私もか。)
——しかし決して悪いものではない。
「私でいいのですね?」
「ブライアンがいい。君こそ俺で良いのか?」
急に自信を無くしたルーカスに、強く頷いて、ブライアンはキスをした。
「勿論です。」
ルーカスもキスを返し、本当に隔たりはなくなった。逃げる事を忘れ、そのまま何度もお互いの愛を唇で確かめ合う。目の前に港町はあるのに視界には入らない。
町の門をくぐったのは陽が暮れてからだった。
どうにか最後の船便に間に合い、馬と共に乗りこむ。「遠征や視察とは違った緊張感があるな。」と先に乗り込むルーカスのボヤキに相も変わらぬ騎士らしさを感じ、クスリと笑ったブライアン。
そして皆が寝静まった夜、誰もいない甲板で二人は肩を並べていた。
「一面海ですね。」
「海は初めてか?」
「はい。」
美しいが何もない水平線には少しだけ恐怖心がある。だが、隣にいる恋人に一瞬で、恐怖が安堵と焦がれた気持ちに塗り替えられる。
波の音ですらそんな愛し合う男たちを攫う事はできない。
「この船はどちらへ?」
「東の大陸だ。あそこなら治安も安定している。」
これからの日々を思い、ルーカスな胸を押さえた。
それは隣のブライアンも同じだった。初めて領土を出て、そして知らぬ土地で始まるルーカスとの門出に嬉しくて胸が張り裂けそうだった。
同じ個所を押さえる姿に微笑み合う。そして二人同時に胸を押さえていた手をお互いの頬に添える。
「ルーカス。」「ブライアン。」
声が重なり、唇も重なる。
そしてブライアンがルーカスの腰に手を添え、これから始まる行為へと期待を高めさせる。
呼吸が熱い吐息に変わり、ブライアンがルーカスを押し倒す。
懇願するようにブライアンを見つめるルーカスの瞳には、自分を攫った碧眼とその背後で2人を見下ろす満月だけが映っていた。
そして、絡み合う二人を乗せた船は門出を祝うように、波を切り開きながら静かに進んでいく。
陽のいづる東の大陸へと。
―完―
読みにくい箇所が多々あったと
思いますが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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