こいじまい。 -Ep.the British-

ベンジャミン・スミス

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第一章 Unrequited love

第四話 埋まらぬ距離

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 研修は滞りなく進んだ。
「さすが期待の新人」と周りははやし立てた。もう勤務数年目の社員と変わらぬ程きちんとこなす事ができている。
だが、春人にとってはどれもこれも村崎に褒めて欲しいから。
好きな人の前で、失敗している醜態は晒せない。
 しかし、春人が褒められるのは彼一人の力だけではなかった。

「問題ありません!」
「ありがとうございます」

全く修正する箇所のない書類をアルバートに返却した春人。実は教える事がほとんどないのだ。
なのに、それとは裏腹にアルバートは春人を褒めた。

「月嶋さんの説明はとても分かりやすいです。何かコツが?」

 春人の視線が、部署を見渡せる前方中央に設置されている部長席に行く。
アルバートもつられてそちらを見た。

「なるほど」

指南の相手を理解したアルバートの声に春人が慌てて視線を逸らす。

「新人研修の時にお世話になって。とても優しくて分かりやすかったんです!」
「立派な上司だ」
「はい!」

元気よく答えた春人。
その表情に微笑み返したアルバートだったが、他とは違う春人の笑顔に気が付き眉間の皺を深くした。
そしてそれに気が付いていない春人は透明ファイルを胸に抱き締める。その書類には「部長行き」と記載があった。
 それにアルバートの親切心が動いた。

「では、これは村崎部長に提出しておきますね。一緒にそれも」

 先ほど春人が返却した書類は村崎の最終確認がいる。それを提出するついでに春人が抱きしめる書類も提出しようとアルバートが掌を差し出した。

「いえ! 僕が!」

 いつかの椅子の如く、春人も同じ仕草をしたが、今回は前の様にしどろもどろにはならない。

「出しておきます!」
「しかし……」
「気にしないでください!」

頑なに譲らない春人。しかしアルバートにも意地がある。
 数分の攻防の末、二人は一緒に村崎の元へ行くこととなった。

「村崎部長、今お時間よろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。」
「書類の確認をお願いします!」

 書類を提出し、確認してもらっている間、春人は村崎を見つめていた。

(身体が熱い)

 書類の上に滑らせる指。その一本には指輪がはめられている。まるで春人に見せつけるかのように。
しかし、その輝きすら胸を焦がす材料にしてしまう程、恋は盲目だ。
どうにか視線が合わないか、じっと見つめるが、書類の文字を追うばかり。

「完璧だよ。二人ともご苦労様」

最後までやはり目は合わなかった。
それでもいい。彼を見られるだけで春人は幸せなのだから。

「それにしてもよくできている報告書だ。日本人と大差ないくらい日本語が完璧だな。ん? どうした?」

鼓膜を震わす村崎の声、しかしそれは自分に向けられたものではなかった。アルバートを褒める言葉に、春人は落ち込んだ。
そしてそれが表情に現れ、心配されたかと思いきや、後半の発言もアルバートに向けられたものだった。

「いえ、何も」

声をかけられたアルバートが何かから視線を外す様に頭を振る。自身をもっと褒めてもらえなかった事に気を取られていた春人には、彼の異変には全く気が付かなかった。

(どうしたんだろう)

 やはり春人にはアルバートが何を考えているのかが分からない。
すでに研修生を受け入れて一か月が経っているが、ギクシャクした関係は消えない。それは春人がアルバートに嫉妬しているからなのか…この縮まることのない年の差から来るものなのか…それすら分からない10月上旬。
 そんな秋の冷たい風が吹くある日、通勤してきた春人が自身のデスクで手を擦っていると、松田に何やら書類を渡された。
早速仕事かと思ったが、書類の文字は賑やかだ。

「歓迎会?」
「そう! 研修生たちのな。」

もう一度視線を落とす。
日付は……

「今週の金曜日ですか?」
「デートでもあんのか?」

「デート」という単語に社食で食事をした女性社員がピクリと反応した。

「僕、彼女いませんから!」
「寂しいな」
「そういう松田さんはどうなんですか?」

と聞くと、肩を落とした。

「忙しいんだ。今は無理」

松田は、まだ出勤していない研修生のデスクを見つめる。

「俺、お前みたいに器用じゃねえからな」

と、口を尖らせる松田。指導に難航しているのだろうか。松田とヴェネットからはそんな様子は微塵も感じない。

「仕事観について話が弾んで進まない」

にひひと笑う松田に、春人は安堵の意味も込めてため息をついた。

「そっちですか。仲いいですもんね!」
「おう! もう昔からの友人みたいだぜ! 年上だけどな!」
「こっちも年上ですけど、そんなに上手くいっていません。」
「そうか? 順調に見えるけど」
「それは……」

 それはアルバートに改善点が一つもないからだ。
 村崎が褒めるほどで春人は嫉妬していた。指導員より有能な研修生に必死に奮闘するも、やはり彼の方が先を見通している。基礎を教えようとしているのに、既に応用と新しい方程式を編み出しているような人間を相手にしている気分だ。今日はどんな方法で教えようか、でもそれすらも見抜かれていると気落ちした春人は俯いてしまった。
 そして松田はそれを見逃さなかった。

 気分が沈んでいた春人の表情が明るくなったのは朝礼。やはり元気になるのも落ち込むのも彼の存在があるからだ。

「おはようございます!」

いつもの村崎の朝の挨拶から一日が始まる。連絡事項を終えた頃には春人の頬は緩むのを押さえて強張っていた。
 そして社員が仕事に取り掛かり始めた頃、上の人事・広報部で朝礼を終えた赤澤がやってきて、他の研修生たちも指導員の元へ行く。
春人も例外でなく、もう何度も嗅いだことのある良い匂いがして、今度は気分が滅入った。
 案の定、振り向くと高い位置にプラチナブロンドの整ったオールバックが見えた。

「おはようございます! ミラーさん!」
「おはようございます月嶋さん」

 元気よく挨拶をするも、既に頬は疲労困憊でぎこちなくなってしまった。

「Good morning!」

と、隣では流暢な英語で挨拶が交わされている。
こことは少し離れた奥の赤澤とダグラスも普通に挨拶を交わしていた。
 やはり春人にはどうしても自分だけ不適切な気がしてしまう。


「今日は荷為替書類の……」

 視線を下ろすと既にアルバートの手には今日の書類が握られていた。

「エスパー? あっ!」

驚愕のあまり心の声が漏れ出た。相手が気が付いていない事を祈ったが

「いいえ。月嶋さんが、本日の指導内容を事前に教えてくれました。昨日です、覚えていませんか?」

と、残念ながらしっかりと聞き取られていた。
そして必死に記憶を辿るが、今日の研修内容を事前に伝えた覚えはなかった。
頭を捻るが答えは出ず、咳払いをして体勢を立て直した。

「ごほん。では、ミーティング室に行きましょうか」
「あっ、俺も行くわ」

と、松田が手を上げる。ついでにアイコンタクトと指さしでヴェネットにその旨を伝えた。
 四人でミーティング室に入り、春人は奥の方に資料を置いた。以前は椅子を引いていたアルバートだが、今はしていない。春人が止めてもらうようお願いしたのだ。
 二人は向かい合って座り、荷為替書類をいくつか広げたのだが、どうも狭く感じる。

「松田さん?」
「何?」

 研修内容も春人たちの方が先に進んでいる。一緒にミーティングをする必要がないのに松田は横に着席していた。
 
「松田さん達も荷為替ですか?」
「いや、俺たちは昨日の続き」
「昨日は確か、価格競争の話で盛り上がって終わったね」

 アルバートの横に座ったヴェネットが楽しそうに言う。そして松田も強く頷いた。

「話術や知識を最大限に生かし、相手の数手先を読む。いやあ、実に有意義な討論だったよ。要の話も興味深かった。根回しの話だったかな? その後、結局どこまで話したっけ?」
「アジア市場!」
「そうだった!」

 額を突き合わせて悪ガキの様に笑いあう二人はとても楽しそうだ。
根回しの話からどう転がってアジア市場の話に辿り着いたのかは分からないが二人は遊んでいるようでお互いを高めあうパートナーの様に見えた。

「お前たちもこれくらい軽く行こうぜ! 何事も楽しく! な、月嶋?」
「でも研修期間は年内までですよね?」
 
研修生が門司支社で研修する期間は年内までだ。年が明ければ、彼らは福岡空港支社に行ってしまう。
 陽気な松田だけでは不安だと、アルバートにも確認をする。

「……それで、あっていますよね?」
「あっていますよ。それまでよろしくお願いします月嶋さん」
「ですよ、いたっ!」

アルバートに返事をしていた春人のこめかみに松田がデコピンをかました。

「何するんですか!」
「固い! ほらもっと砕けて!」
「砕けるって?」
「とりあえず名前で呼んでみろよ! そしたら距離も深まると思うぞ?」

 松田の目的はこれだった。朝の落ち込んだ春人を見て、どうにか仲良くさせようと作戦に出たのだ。
その意図が春人に伝わったかは分からないが、春人がゆっくりアルバートを見た。

「私は構いませんよ」

当人に異論はなし。
だが、どこからどう見ても年上、それもかなり上の人を呼び捨てになんて春人は今までで一度もしたことがなかった。

「……」
「月嶋、ほらいけよ! アルバートもミラーもどっちもカタカナだろ! な、アルバート!」

松田が一足お先に名前を呼ぶ。
それに対して笑顔で返すアルバート。
春人にとってこの何を考えているか分からない笑顔も距離が出来る原因だった。人生の先輩としての貫禄にたじろいてしまうのだ。
 呼ぶのを躊躇う春人の沈黙を破ったのは、ヴェネットだった。

「じゃ、俺からならどう? 春人ほら」

急にひょっこりと視界に入って来たヴェネットが催促する。
ヴェネットは松田より少し上の好青年。皺も一つもない。しかし若く見えないのは、着こなしているスーツのせいだろう。メーカーは分からないが高い物であるとは春人にも理解できた。
きちんとした装いをしているが、砕けた研修生には春人も少し気持ちが楽になる。

「……ジョシュア」
「ほら言えるじゃないか! Next stage!」

横のアルバートに的を移したジョシュア。
何とも上手い二人のチームプレイにやられ、さすがに春人も口を開いた。

「アルバート!!」
「あああ」

松田が頭を抱えた。ついでにヴェネットも。
 その様子を見て、春人が呼ぶより先にアルバートの名を呼んだ赤澤が眉を顰める。

「何だよお前ら。まあいい。アルバート、ちょっといいか?」
「構わないよ」

急に砕けた話し方になったアルバートに松田が目をつけた。

「二人は仲がいいんですか?」
「あ? あー、歳が一緒だからな」

赤澤が松田の質問に答える。

「今年で41歳だからなあ……俺も、お前みたいにダンディーに老けてみたいもんだわ!」

 豪快に笑う赤澤は既にダンディーとは程遠い。
そしてそのままアルバートをミーティング室から連れ出そうとした。今この空気ならどうにかなるかもしれないと春人は口を開いた。

「あ、あの」

アルバートが扉の前で足を止める。
そしてゆっくりと振り向いた。

「ここで待っています……アルバート」

 一瞬目を見開いたアルバート。
そしてその目が細くなり、春人が今までに見た事がない様な柔らかな微笑みを向けた。

「ああ」

そう言って、彼は出て行った。
 春人は脱力し、椅子の背に全体重をかけた。

「ふうう」
「どうだ? 仲良くやれそうか?」
「松田さん、もしかして……」
「ギスギスすんの嫌だろ。社内の空気も悪くなるしな!」

先輩の表情になる松田。その目の前で小さく拍手が聞こえた。

「Bravo! なんだそういう事だったのか」
「え? 分からずに話に加わっていたのか?」
「ああ、全くね。いや要、やはり君は凄いね!」

それに関しては春人もヴェネットに激しく同意した。

「凄いですね。名前を呼ぶか……」
「合コン必勝法!」
「一気に感謝する気が失せました」

 しかし、名前を呼べた事と、先ほどの心からの笑顔を見られた事で春人は軽くなった。
 奇妙な感覚だが、彼も同じ人間だと安心してしまう。その後、驚くほど苦手意識も無くなり、仕事のストレスも減った。無駄なストレスでミスでもしようものなら大惨事だ。

(村崎部長に格好悪いところは見られたくない)

しかし、春人の根底にある気持ちは結局これなのだ。

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