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第二章 Another Unrequited love
第一話 アルバート・ミラー
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春人が目を覚ますとそこには見慣れぬ天井があった。瞼が重い、それ以上に身体も鉛の様に重たい。その怠さに加え、胸のあたりに違和感がある。
(ムカムカする)
胃のあたりを擦りながら横に寝返る。それでもやはり見慣れぬ風景。重たい首だけを回すと、この部屋にはベッドとナイトテーブルしかなかった。しかもベッドはシングルより大きい。あとは、カーテンがあるのみ。
勝手に男性の部屋だと思い込んだ春人は、安心感から肌触りの良いシーツに頬を擦りつけ、ベッドに身を預けた。
シーツからふわりと舞う香りが鼻孔を擽る。
(良い匂い……でもどこかで……)
寝起きの脳では知った匂いでも、人物を特定することが出来なかった。知っているのに分からない匂いにようやく募る不安。身体に倦怠感と気持ち悪ささえなければ飛び起きていただろう。
「?!」
何か音がした。この部屋より向こうの扉を開ける音……そして、重く掠れた足音。それなりの体格の人物がスリッパで歩いている時の音だ。
気流すら聞こえるほど耳をそば立てる。
——ガチャッ
部屋の扉が開き、ビクッと身体が跳ねてしまう。しかし、焦りから寝たふりという姑息な手しか思いつかず目を瞑った。
——ギシッ、ギシッ……ギシッ
一度深くベッドが沈み、今度は春人の近くでもう一度沈んだ。
シーツと同じ匂いがし、春人の黒髪を揺らし耳元で誰かの吐息を感じる。それがくすぐったくて、眉をピクリと動かしてしまった。
「目が覚めたかい?」
(この声って……)
それは毎日聞くあの男の声だった。思いきり目を開いた春人の視界にプラチナブロンドが揺れる。
「えっ? アルバート?」
そこには研修生のアルバート・ミラーがいた。
「えっ、えっと」
知った相手でも結局しどろもどろの春人は、ようやっと身体を起こした。
マットレスにバランス感覚を奪われる春人の腰にそっと手をあてがうアルバート。
職場ではありえない距離感に身を硬くする。
しかし春人の緊張とは裏腹にアルバートはどこ吹く風で、今後の話を始めた。
「朝食を用意したのだが、食べられそうか?」
断ろうと思った。しかし、口を開く前に春人のお腹が盛大に返事をした。
「ははは。決まりだな」
その音を聞いて、嬉しそうに微笑むアルバートが手を引いてベッドから下ろしてくれる。これではおとぎ話の王子と姫だと恥ずかしくなり「一人で歩け。」と伝えると、良質な残り香を置いて、家の主は身体を離した。
リビングへお邪魔すると朝食の良い匂いが漂っている。
カウンターキッチンに、綺麗に片づけられたリビング。革張りの黒いソファーに本棚、そしてウッドテーブルとその他生活家電もシックにまとめられている。無駄な物は何もない。
「どうぞ」
と、椅子を引いてくれるアルバートはこの部屋に釣り合うハンサムな表情だが、いつもより柔らかく見える。
その原因は服装だった。
いつもはスーツにベストという格好のアルバートが、今は黒のテーパードパンツに、長袖の白のワイシャツとグレーのニット姿だったからだ。私服も着こなす紳士はいつもより親近感が沸いてしまう。
そこでようやく春人も自身の服装に目を向けた。女性の部屋ならすぐに確認したが、男性という先入観で衣服の乱れなど気にも留めなかった。
「僕、スーツだ」
「昨日の歓迎会の後、そのままここに来て貰ったからね」
「来てもらった?」
アルバートに誘われた?しかしそんな記憶は一ミリも存在しない。
記憶を辿っていると、二度目の催促をされ、慌てて椅子に座った。
目の前にパンとベーコンエッグ、サラダに紅茶が並んでいく。
「どうぞ」
「い、いただきます!」
この不可解な状況を振り払おうと大きな音を鳴らして手を合わせる。
それとは逆に静かに手を合わせたアルバート。手を合わせる行為が日本の文化だと再確認してしまう程おかしな光景だった。
アルバートはとても優雅だ。所作全てに目がいく。仕事中もそうだ。流れるような動き、紙をめくる時の長い指、やはりどこか日本人離れした美しさを感じる。だからこそ、そんな彼と食事を共にしている現在に不安を感じる。いくら年下とはいえ、春人は彼の指導係なのだから。
フォークでベーコンエッグを掬って口に放り込む。半熟の卵に、塩コショウの効いたベーコンが口の中で広がる。ジューシーなのに優しい食感と味に頬が痺れた。
「んっ、美味しい!!!」
まだ頬張っているのに、口をついて感想が飛び出す。慌てて口を押さえるが、アルバートは優雅に紅茶を飲んでいる。そして細く微笑んだ。
「それは、よかった」
嬉しそうなアルバートの表情に、春人は何となく恥ずかしくなり、俯きながら黙って食べ進める。しかし、時折美味しさが表情に漏れ出て、アルバートは満足げな笑みを浮かべるのだった。
半分ほど食べ終えた頃、恐る恐る昨日の事を尋ねた。
「僕、何か迷惑かけた?」
「いや、何も」
「あまり覚えていなくて」
何度考えてもアルバートの家に来た記憶はない。覚えているのは……
——ズキリ
胃の辺りを押さえる春人。
「大丈夫かい?」
「大丈夫」
「昨日から体調が悪いのかい?」
「え?」
「いつもの君は笑顔の絶やさぬ青年だ。しかし昨日は辛そうな表情をしていたから、どうしたのかなと」
琥珀色の水面に視線を落とした春人。
そこには泣きそうな表情をした自分が写っていた。そして琥珀色と上司の茶髪が交差する。
慌ててソーサーに乗っていたミルクを入れて色を変える。ミルクティーの湖面には自分の表情すら写らない。
「ちょっと体調が悪かっただけ。もう大丈夫」
本当は大丈夫ではない。しかし、必死に平常を取り繕う。
「それなら良かった。やはりあのまま無理に連れてきて正解だった」
「……」
「歓迎会の後、駅前で倒れていた。意識も朦朧としていたし、君の家も分からないから私の家に来て貰ったのだ」
「なるほど」
納得したが、記憶は戻ってこない。
「あの、そのうちお礼を……」
「いらないよ」
「でも!」
アルバートは日本人の性格を理解している。恩は必ず返す。きっとここで断り続けても春人は折れないと思い、二言目で自分が折れた。
「では、一つお願いがある」
「何?」
「今日一日、君の時間を私にくれないだろうか?」
目をパチクりさせる春人。
それがデートのお誘いだと気が付くのに五分は要した。
(ムカムカする)
胃のあたりを擦りながら横に寝返る。それでもやはり見慣れぬ風景。重たい首だけを回すと、この部屋にはベッドとナイトテーブルしかなかった。しかもベッドはシングルより大きい。あとは、カーテンがあるのみ。
勝手に男性の部屋だと思い込んだ春人は、安心感から肌触りの良いシーツに頬を擦りつけ、ベッドに身を預けた。
シーツからふわりと舞う香りが鼻孔を擽る。
(良い匂い……でもどこかで……)
寝起きの脳では知った匂いでも、人物を特定することが出来なかった。知っているのに分からない匂いにようやく募る不安。身体に倦怠感と気持ち悪ささえなければ飛び起きていただろう。
「?!」
何か音がした。この部屋より向こうの扉を開ける音……そして、重く掠れた足音。それなりの体格の人物がスリッパで歩いている時の音だ。
気流すら聞こえるほど耳をそば立てる。
——ガチャッ
部屋の扉が開き、ビクッと身体が跳ねてしまう。しかし、焦りから寝たふりという姑息な手しか思いつかず目を瞑った。
——ギシッ、ギシッ……ギシッ
一度深くベッドが沈み、今度は春人の近くでもう一度沈んだ。
シーツと同じ匂いがし、春人の黒髪を揺らし耳元で誰かの吐息を感じる。それがくすぐったくて、眉をピクリと動かしてしまった。
「目が覚めたかい?」
(この声って……)
それは毎日聞くあの男の声だった。思いきり目を開いた春人の視界にプラチナブロンドが揺れる。
「えっ? アルバート?」
そこには研修生のアルバート・ミラーがいた。
「えっ、えっと」
知った相手でも結局しどろもどろの春人は、ようやっと身体を起こした。
マットレスにバランス感覚を奪われる春人の腰にそっと手をあてがうアルバート。
職場ではありえない距離感に身を硬くする。
しかし春人の緊張とは裏腹にアルバートはどこ吹く風で、今後の話を始めた。
「朝食を用意したのだが、食べられそうか?」
断ろうと思った。しかし、口を開く前に春人のお腹が盛大に返事をした。
「ははは。決まりだな」
その音を聞いて、嬉しそうに微笑むアルバートが手を引いてベッドから下ろしてくれる。これではおとぎ話の王子と姫だと恥ずかしくなり「一人で歩け。」と伝えると、良質な残り香を置いて、家の主は身体を離した。
リビングへお邪魔すると朝食の良い匂いが漂っている。
カウンターキッチンに、綺麗に片づけられたリビング。革張りの黒いソファーに本棚、そしてウッドテーブルとその他生活家電もシックにまとめられている。無駄な物は何もない。
「どうぞ」
と、椅子を引いてくれるアルバートはこの部屋に釣り合うハンサムな表情だが、いつもより柔らかく見える。
その原因は服装だった。
いつもはスーツにベストという格好のアルバートが、今は黒のテーパードパンツに、長袖の白のワイシャツとグレーのニット姿だったからだ。私服も着こなす紳士はいつもより親近感が沸いてしまう。
そこでようやく春人も自身の服装に目を向けた。女性の部屋ならすぐに確認したが、男性という先入観で衣服の乱れなど気にも留めなかった。
「僕、スーツだ」
「昨日の歓迎会の後、そのままここに来て貰ったからね」
「来てもらった?」
アルバートに誘われた?しかしそんな記憶は一ミリも存在しない。
記憶を辿っていると、二度目の催促をされ、慌てて椅子に座った。
目の前にパンとベーコンエッグ、サラダに紅茶が並んでいく。
「どうぞ」
「い、いただきます!」
この不可解な状況を振り払おうと大きな音を鳴らして手を合わせる。
それとは逆に静かに手を合わせたアルバート。手を合わせる行為が日本の文化だと再確認してしまう程おかしな光景だった。
アルバートはとても優雅だ。所作全てに目がいく。仕事中もそうだ。流れるような動き、紙をめくる時の長い指、やはりどこか日本人離れした美しさを感じる。だからこそ、そんな彼と食事を共にしている現在に不安を感じる。いくら年下とはいえ、春人は彼の指導係なのだから。
フォークでベーコンエッグを掬って口に放り込む。半熟の卵に、塩コショウの効いたベーコンが口の中で広がる。ジューシーなのに優しい食感と味に頬が痺れた。
「んっ、美味しい!!!」
まだ頬張っているのに、口をついて感想が飛び出す。慌てて口を押さえるが、アルバートは優雅に紅茶を飲んでいる。そして細く微笑んだ。
「それは、よかった」
嬉しそうなアルバートの表情に、春人は何となく恥ずかしくなり、俯きながら黙って食べ進める。しかし、時折美味しさが表情に漏れ出て、アルバートは満足げな笑みを浮かべるのだった。
半分ほど食べ終えた頃、恐る恐る昨日の事を尋ねた。
「僕、何か迷惑かけた?」
「いや、何も」
「あまり覚えていなくて」
何度考えてもアルバートの家に来た記憶はない。覚えているのは……
——ズキリ
胃の辺りを押さえる春人。
「大丈夫かい?」
「大丈夫」
「昨日から体調が悪いのかい?」
「え?」
「いつもの君は笑顔の絶やさぬ青年だ。しかし昨日は辛そうな表情をしていたから、どうしたのかなと」
琥珀色の水面に視線を落とした春人。
そこには泣きそうな表情をした自分が写っていた。そして琥珀色と上司の茶髪が交差する。
慌ててソーサーに乗っていたミルクを入れて色を変える。ミルクティーの湖面には自分の表情すら写らない。
「ちょっと体調が悪かっただけ。もう大丈夫」
本当は大丈夫ではない。しかし、必死に平常を取り繕う。
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「……」
「歓迎会の後、駅前で倒れていた。意識も朦朧としていたし、君の家も分からないから私の家に来て貰ったのだ」
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納得したが、記憶は戻ってこない。
「あの、そのうちお礼を……」
「いらないよ」
「でも!」
アルバートは日本人の性格を理解している。恩は必ず返す。きっとここで断り続けても春人は折れないと思い、二言目で自分が折れた。
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