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第四章 Virgin
第六話 変態は薔薇の香り
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寝返りをうった際、腰に走った鈍痛で春人は瞼を上げた。目の前には裸のアルバート。勿論自分も裸で、腰と臀部の痛みが昨夜最後まで繋がった事を再認識させてくれる。
幸せの痛み。
自慰で痛みを和らげどうにか最後まですることが出来た。変な達成感もあるが、どうしても気がかりなのはあの合コンだ。
(エッチできたから大丈夫だよね?)
何処にもいかないで欲しいという願いを込めて頬にキスをする。するとアルバートの瞼がピクっと動き水色の瞳が光を纏う。
行為をした後というものを感じさせない涼しい顔は少し怒っている様にも見えたが挨拶をするときちんと返してくれた。
何も言わず掛け布団の裾をいじる春人。
「……」
その横でベッドが軋み、アルバートが身体を起こし、逞しい背中が去ろうとする。それが本当に何処かへ行ってしまうと錯覚して春人は、慌てて手を伸ばした。
「待って!」
掴む事の出来ない背中に必死に抱きつく。
「待って! 待ってよアルバート!……どうして合コンに行ったの? 僕が喘ぐのを我慢するから? それとも最後まで出来ないから?!」
全ての不安を必死に吐き出す。
「でも昨日は我慢しなかったし、最後までできたよ?! だから、お願い……行かないで」
最後は消え入りそうな声で額を背中に擦りつける。背筋が膨らみ、ため息が聞こえる。
「君は何か勘違いをしているんじゃないか?」
「え?」
振り向いた困り顔に春人は首を傾げる。
「私は何処にもいかないよ」
「で、でも昨日合コンに行ってたじゃん」
「合コン……昨日覚えた新しい日本語だ」
「え?! 知らなかったの?!」
「最初はね。しかし赤澤さんが教えてくれたのだ。だが君は違うだろ?」
咎めるようにアルバートが春人の顎を持ち上げ視線を合わせる。
「君はあの食事会が何か知っていたはずだ。そして私たちが行く様な場所ではない事も」
「知ってたよ! でも僕はアルバートが行くって聞いたから!」
「私も春人が行くと聞いた。それで快諾したのだ」
「……」
「一度昨日の事を確認してみようか。君が合コンの話を聞いたのはいつだ」
「えっと……」
2人は昨日の朝の出来事を話した。
最初に合コン話が出たのは松田の口。しかしあの時、アルバートには合コンの意味どころか話自体出ていなかった。「アルバートも来るから」というのは松田の嘘だったのだ。
それが発覚し、春人は先輩に怒りよりも呆れが湧いてしまう。
「もう! 松田さん!」
「騙されていたようだな。ん?」
脱ぎ散らかされた服の山から音がし、アルバートがそこから春人のスマートフォンを救い出す。そこには今話していた首謀者の名前が表示されていた。
「噂をすれば」
「貸して!」
スマートフォンをひったくり、一言怒鳴りつけてやろうと春人は電話に出た。
怒る恋人を残し、アルバートは衣服を纏い部屋から出て行く。
「もしもしおはようございます‼ ちょっと松田さん!」
一人になった寝室で電話越しに先輩と後輩は対峙した。
だが、電話口の先輩の声は何とも情けなかった。
『つーきーしーまー』
「何ですかそんな声出して、それよりも昨日の合コンの事なんですけど! 騙しましたね?!」
『悪かったよ‼ それに騙されたのはこっちだ!』
「?」
松田にも何やら事情がありそうだと、春人は目をぱちくりさせた。
『お前らが帰ったあとさ、みんな残念がってたわけ。俺は眼中になかったわけだ』
「はあ……」
『おまけにジョシュアがさ、一人女の子お持ち帰りしてやんの』
「はあ……」
合コンを回していた男に最後の最後までツキは回ってこなかったようだ。
そして全く良い事が無かった松田の悲劇は更に続く。
『俺、悲しくなってさ、誰かに慰めて貰いたくなったわけ』
「僕じゃ無理ですよ」
『男に頼むわけないだろ。あれだよ、夜の店に行ったんだよ』
「電話切っていいですか?」
『最後まで聞け。というか懺悔させろ。そして盛大に笑え』
あまりの辛さにネタにして笑い飛ばしてもらわないと立ち直れないような事が先輩の身に振りかかったようだ。
『騙されたんだよ』
「だから何に?」
『風俗嬢に決まってんだろ!』
「……」
『いくら出したと思う?! 5万だぞ、5万!』
相場が分からない春人には何も言えない。
しかし先輩が給料の4分の1をはたいて慰めて貰いに行ったことは分かる。心と身体を。
『CAさんのコスプレまでつけてもらったのにさ……』
「松田さん、流石としか言いようがないです」
『何か言ったか?』
「いえ。で、そこまでしたのに何を騙されたんですか?」
悲惨な合コンを癒すコスプレまでしてもらったというのに重たいため息を漏らす松田が風俗にありがちな事をぶちまけた。
『写真と違ったんだよ! しかも体型が……体型が機内の通路も通れないようなフォルムで……あれはマジで機体だった。』
「最低。つまり、ふくよかだったんですね」
『良く言えばな!』
先輩の失敗に春人は苦笑いした。
『もっと笑えよ。虚しいだろ』
「あははははは」
わざとらしく笑い「次は失敗しませんように」というと『2度と行かねえ』と懲りた声が返ってきた。
『そういえば仕事は大丈夫だったのか?』
「仕事?」
『赤澤さんの呼び出しだよ。電話の声、凄い怒ってただろ?』
「あっ! 大丈夫でしたよ! えーと、無事に解決しました!」
嘘の仕事の電話に、一瞬何のことか分からず作戦がバレてしまうところだった。
『本当か? お前がミスなんて珍しいから心配だったけど大丈夫ならまあいいか。何かあれば言えよ』
「まさかそれで電話をかけてくれたんですか?」
『……馬鹿野郎。笑ってほしかっただけだよ! 色々悪かったな。じゃ、切るわ』
本当は優しい先輩の最後の慌てぶりに、春人は2回目の苦笑いが零れた。そして出た時とは真逆の穏やかな気持ちで「ありがとうございます」とお礼を言って切った。
安堵のため息を漏らす春人の鼻を甘い香りが掠める。それにつられるように鼻をスンスンさせながらキッチンへ向かうと、アルバートが紅茶を淹れていた。
「電話は終わった?」
「うん。松田さんにはきちんと罰がくだったみたい。」
「そうか」
アルバートの横に並ぶとバラのフレーバーティーが香る。
「良い匂いだね」
「お気に入りだ。昨夜の君は最高に可愛かったからね。気分がとても良い」
と怒りの消えたアルバートが嬉しそうに口角を上げる。年上の彼のそんな姿を見る事ができ、春人は贅沢な気持ちになる。
「ねえ」
「ん?」
「正直、僕なんかより昨日の女の人たちの方がアルバートには似合うんじゃないの? 凄く絵になってた。……もう行ったりしないよね?」
「行くわけがないだろ。私には君がいる。それに……」
アルバートが蒸らす時間を測る為の砂時計をひっくり返す。
「私は同性愛者だ」
そういった横顔は少し辛そうで、その手元では金色の粒が重たそうに時間を落としていく。その砂につられて春人も下を向いて考え込んでしまう。
「気にすることはない。イギリスは日本より寛容な国だ」
それでも大手を振れる世の中ではない。
「だが、ここは日本だ。そして君は日本人だ。私との付き合いに迷いが生じてしまったのでは——その不安で昨夜は激しくしてしまった。」
「そんな事ないよ」
「それが分かって安心したよ」
半分落ちて軽くなった砂は柔らかく見える。
「じゃ、女の人に全く興味がないの?」
「ない。そうだな、昨日の合コン、もし私が狙うとしたら向かいの女性達ではなく、隅に座っていた日本人男性だっただろうね。」
「……僕じゃん」
「そうだね。連絡先を渡すなどという先手を取られてしまったよ」
まるで女性達を仕事の競争相手の様に表現するアルバート。
「あの短期決戦の場合、相手に牽制をしてもあまり効果がない。あの女性は私が春人を狙っているなどとは思わないだろ。そうなると残された手段は一つだ」
「何?」
にやりと笑ったアルバートが、人差し指を唇の前で「1」と立てる。そして滑らかに背中に持っていき背骨を撫でた。
「ひうッ!」
「食われる前にマーキングしておくことだ」
撫で上げた人差し指を、今度は背骨の凹凸に合わせるように滑り落とす。
「そして攫ってしまうに限る。その後は、家でじっくりいただくよ」
なんだかんだといって合コンを違う方面から楽しんでいたアルバートに「へんたーい!」と叫んで春人は人差し指を弾いた。
「そ、そんなにしたいなら最初から僕が痛がっても最後までエッチしたらよかったじゃん!」
恥ずかしさで顔を赤らめた春人に向けられていた野獣と化した視線が大人しくなる。
「何度も言うが私は身体だけで君と付き合っているわけではない」
春人が最近やたらと夜の営みに関して気にしている事に気づいていた。
どうにかアルバートを気持ちよくさせたい——それが先行し、精神的な疎通はお構いなしになっている。だからこそアルバートははっきりと言った。
「春人の全てが愛しいから付き合っているのだ。断じて肉体が目的ではない」
「でも喘いでほしいんでしょ? どうして喘いでほしいの?」
「それは一種の支配欲だ」
「?」
「私だけが春人を乱れさせているという証拠が欲しい。君が私の愛撫で色めいた声を上げる姿は本当に興奮するよ。満たされていく」
アルバートは春人が思っている以上に強欲だった。
「我慢されると、支配欲が増して激しくしてしまう。だから……」
ティーポットを持っていた熱い手が後頭部にあてがわれ、アルバートの方へ引き寄せられる。
「激しくされたい時は我慢してごらん。喘ぎ声が止まらなくなるほど快楽を刻んであげるから」
と頭上からつま先まで染みわたるような甘い声でアルバートが誘ってくる。
「やっぱり変態‼ 変態、変態、へんたーい‼」
と胸に叫ぶが、変態と言われた男は優しく後頭部を撫でた。
「すまない」
「……でももう我慢しないよ。喘ぐ方が、浸れて気持ちが良かったから」
「それは残念だ」
と口角を上げるアルバート。
「どっちにしても喘ぎ声が聞けるからそんな事思ってないくせに!」
「ははは。そうだな」
「もー!」
「さて、紅茶の時間にしようか」
ようやく波乱の合コンに幕が下り、幸せを胸に溜め、2人は寄り添いながら紅茶のカップを傾けた。
幸せの痛み。
自慰で痛みを和らげどうにか最後まですることが出来た。変な達成感もあるが、どうしても気がかりなのはあの合コンだ。
(エッチできたから大丈夫だよね?)
何処にもいかないで欲しいという願いを込めて頬にキスをする。するとアルバートの瞼がピクっと動き水色の瞳が光を纏う。
行為をした後というものを感じさせない涼しい顔は少し怒っている様にも見えたが挨拶をするときちんと返してくれた。
何も言わず掛け布団の裾をいじる春人。
「……」
その横でベッドが軋み、アルバートが身体を起こし、逞しい背中が去ろうとする。それが本当に何処かへ行ってしまうと錯覚して春人は、慌てて手を伸ばした。
「待って!」
掴む事の出来ない背中に必死に抱きつく。
「待って! 待ってよアルバート!……どうして合コンに行ったの? 僕が喘ぐのを我慢するから? それとも最後まで出来ないから?!」
全ての不安を必死に吐き出す。
「でも昨日は我慢しなかったし、最後までできたよ?! だから、お願い……行かないで」
最後は消え入りそうな声で額を背中に擦りつける。背筋が膨らみ、ため息が聞こえる。
「君は何か勘違いをしているんじゃないか?」
「え?」
振り向いた困り顔に春人は首を傾げる。
「私は何処にもいかないよ」
「で、でも昨日合コンに行ってたじゃん」
「合コン……昨日覚えた新しい日本語だ」
「え?! 知らなかったの?!」
「最初はね。しかし赤澤さんが教えてくれたのだ。だが君は違うだろ?」
咎めるようにアルバートが春人の顎を持ち上げ視線を合わせる。
「君はあの食事会が何か知っていたはずだ。そして私たちが行く様な場所ではない事も」
「知ってたよ! でも僕はアルバートが行くって聞いたから!」
「私も春人が行くと聞いた。それで快諾したのだ」
「……」
「一度昨日の事を確認してみようか。君が合コンの話を聞いたのはいつだ」
「えっと……」
2人は昨日の朝の出来事を話した。
最初に合コン話が出たのは松田の口。しかしあの時、アルバートには合コンの意味どころか話自体出ていなかった。「アルバートも来るから」というのは松田の嘘だったのだ。
それが発覚し、春人は先輩に怒りよりも呆れが湧いてしまう。
「もう! 松田さん!」
「騙されていたようだな。ん?」
脱ぎ散らかされた服の山から音がし、アルバートがそこから春人のスマートフォンを救い出す。そこには今話していた首謀者の名前が表示されていた。
「噂をすれば」
「貸して!」
スマートフォンをひったくり、一言怒鳴りつけてやろうと春人は電話に出た。
怒る恋人を残し、アルバートは衣服を纏い部屋から出て行く。
「もしもしおはようございます‼ ちょっと松田さん!」
一人になった寝室で電話越しに先輩と後輩は対峙した。
だが、電話口の先輩の声は何とも情けなかった。
『つーきーしーまー』
「何ですかそんな声出して、それよりも昨日の合コンの事なんですけど! 騙しましたね?!」
『悪かったよ‼ それに騙されたのはこっちだ!』
「?」
松田にも何やら事情がありそうだと、春人は目をぱちくりさせた。
『お前らが帰ったあとさ、みんな残念がってたわけ。俺は眼中になかったわけだ』
「はあ……」
『おまけにジョシュアがさ、一人女の子お持ち帰りしてやんの』
「はあ……」
合コンを回していた男に最後の最後までツキは回ってこなかったようだ。
そして全く良い事が無かった松田の悲劇は更に続く。
『俺、悲しくなってさ、誰かに慰めて貰いたくなったわけ』
「僕じゃ無理ですよ」
『男に頼むわけないだろ。あれだよ、夜の店に行ったんだよ』
「電話切っていいですか?」
『最後まで聞け。というか懺悔させろ。そして盛大に笑え』
あまりの辛さにネタにして笑い飛ばしてもらわないと立ち直れないような事が先輩の身に振りかかったようだ。
『騙されたんだよ』
「だから何に?」
『風俗嬢に決まってんだろ!』
「……」
『いくら出したと思う?! 5万だぞ、5万!』
相場が分からない春人には何も言えない。
しかし先輩が給料の4分の1をはたいて慰めて貰いに行ったことは分かる。心と身体を。
『CAさんのコスプレまでつけてもらったのにさ……』
「松田さん、流石としか言いようがないです」
『何か言ったか?』
「いえ。で、そこまでしたのに何を騙されたんですか?」
悲惨な合コンを癒すコスプレまでしてもらったというのに重たいため息を漏らす松田が風俗にありがちな事をぶちまけた。
『写真と違ったんだよ! しかも体型が……体型が機内の通路も通れないようなフォルムで……あれはマジで機体だった。』
「最低。つまり、ふくよかだったんですね」
『良く言えばな!』
先輩の失敗に春人は苦笑いした。
『もっと笑えよ。虚しいだろ』
「あははははは」
わざとらしく笑い「次は失敗しませんように」というと『2度と行かねえ』と懲りた声が返ってきた。
『そういえば仕事は大丈夫だったのか?』
「仕事?」
『赤澤さんの呼び出しだよ。電話の声、凄い怒ってただろ?』
「あっ! 大丈夫でしたよ! えーと、無事に解決しました!」
嘘の仕事の電話に、一瞬何のことか分からず作戦がバレてしまうところだった。
『本当か? お前がミスなんて珍しいから心配だったけど大丈夫ならまあいいか。何かあれば言えよ』
「まさかそれで電話をかけてくれたんですか?」
『……馬鹿野郎。笑ってほしかっただけだよ! 色々悪かったな。じゃ、切るわ』
本当は優しい先輩の最後の慌てぶりに、春人は2回目の苦笑いが零れた。そして出た時とは真逆の穏やかな気持ちで「ありがとうございます」とお礼を言って切った。
安堵のため息を漏らす春人の鼻を甘い香りが掠める。それにつられるように鼻をスンスンさせながらキッチンへ向かうと、アルバートが紅茶を淹れていた。
「電話は終わった?」
「うん。松田さんにはきちんと罰がくだったみたい。」
「そうか」
アルバートの横に並ぶとバラのフレーバーティーが香る。
「良い匂いだね」
「お気に入りだ。昨夜の君は最高に可愛かったからね。気分がとても良い」
と怒りの消えたアルバートが嬉しそうに口角を上げる。年上の彼のそんな姿を見る事ができ、春人は贅沢な気持ちになる。
「ねえ」
「ん?」
「正直、僕なんかより昨日の女の人たちの方がアルバートには似合うんじゃないの? 凄く絵になってた。……もう行ったりしないよね?」
「行くわけがないだろ。私には君がいる。それに……」
アルバートが蒸らす時間を測る為の砂時計をひっくり返す。
「私は同性愛者だ」
そういった横顔は少し辛そうで、その手元では金色の粒が重たそうに時間を落としていく。その砂につられて春人も下を向いて考え込んでしまう。
「気にすることはない。イギリスは日本より寛容な国だ」
それでも大手を振れる世の中ではない。
「だが、ここは日本だ。そして君は日本人だ。私との付き合いに迷いが生じてしまったのでは——その不安で昨夜は激しくしてしまった。」
「そんな事ないよ」
「それが分かって安心したよ」
半分落ちて軽くなった砂は柔らかく見える。
「じゃ、女の人に全く興味がないの?」
「ない。そうだな、昨日の合コン、もし私が狙うとしたら向かいの女性達ではなく、隅に座っていた日本人男性だっただろうね。」
「……僕じゃん」
「そうだね。連絡先を渡すなどという先手を取られてしまったよ」
まるで女性達を仕事の競争相手の様に表現するアルバート。
「あの短期決戦の場合、相手に牽制をしてもあまり効果がない。あの女性は私が春人を狙っているなどとは思わないだろ。そうなると残された手段は一つだ」
「何?」
にやりと笑ったアルバートが、人差し指を唇の前で「1」と立てる。そして滑らかに背中に持っていき背骨を撫でた。
「ひうッ!」
「食われる前にマーキングしておくことだ」
撫で上げた人差し指を、今度は背骨の凹凸に合わせるように滑り落とす。
「そして攫ってしまうに限る。その後は、家でじっくりいただくよ」
なんだかんだといって合コンを違う方面から楽しんでいたアルバートに「へんたーい!」と叫んで春人は人差し指を弾いた。
「そ、そんなにしたいなら最初から僕が痛がっても最後までエッチしたらよかったじゃん!」
恥ずかしさで顔を赤らめた春人に向けられていた野獣と化した視線が大人しくなる。
「何度も言うが私は身体だけで君と付き合っているわけではない」
春人が最近やたらと夜の営みに関して気にしている事に気づいていた。
どうにかアルバートを気持ちよくさせたい——それが先行し、精神的な疎通はお構いなしになっている。だからこそアルバートははっきりと言った。
「春人の全てが愛しいから付き合っているのだ。断じて肉体が目的ではない」
「でも喘いでほしいんでしょ? どうして喘いでほしいの?」
「それは一種の支配欲だ」
「?」
「私だけが春人を乱れさせているという証拠が欲しい。君が私の愛撫で色めいた声を上げる姿は本当に興奮するよ。満たされていく」
アルバートは春人が思っている以上に強欲だった。
「我慢されると、支配欲が増して激しくしてしまう。だから……」
ティーポットを持っていた熱い手が後頭部にあてがわれ、アルバートの方へ引き寄せられる。
「激しくされたい時は我慢してごらん。喘ぎ声が止まらなくなるほど快楽を刻んであげるから」
と頭上からつま先まで染みわたるような甘い声でアルバートが誘ってくる。
「やっぱり変態‼ 変態、変態、へんたーい‼」
と胸に叫ぶが、変態と言われた男は優しく後頭部を撫でた。
「すまない」
「……でももう我慢しないよ。喘ぐ方が、浸れて気持ちが良かったから」
「それは残念だ」
と口角を上げるアルバート。
「どっちにしても喘ぎ声が聞けるからそんな事思ってないくせに!」
「ははは。そうだな」
「もー!」
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