こいじまい。 -Ep.the British-

ベンジャミン・スミス

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第六章 Another Sky

第二話 加速する別離

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 オフィスの時計は日付を跨いでいた。

(思った以上に集中していたかも)

仕事にのめり込めば何とかなるかもしれない。そう安直な考えをしながら荷物をまとめる。
 アルバートから着信が来ているスマートフォンもポケットに入れる。
やはりまだ何を話せばいいのか分からなかった。しかしいつ帰国するのかだけでも知りたい、そんな葛藤と戦い、結果前者が勝ちメッセージすら見ることが出来なかった。
 そのせいで今日、第3会議室で顔を合わせた時、とても久しぶりに感じた。

 消灯されている廊下を進み、非常灯とスマートフォンのライトを頼りに降りる。反射で光る自動ドアまであと少しというところで、背中に温もりが降りてきた。

「捕まえた」
「?!」

その声に、心臓が激しく締め付けられる。
そして暗闇に乗じて歪んだ顔のまま振り向けば頭一つ高いところで綺麗な髪が闇に浮いていた。

「アル?」
「残業かい?」
「うん。僕、仕事が遅いから」
「違うだろ?」

後ろから頬を撫でてくるアルバートには全てお見通しだ。しかし、歪んだ顔をもとに戻し、春人は「本当だよ。」と強がった。

「イギリスに帰るのはいつ?」

平常心を装う。

「木曜日の昼の便だ」
「そっか。気をつけてね!」

明るい声は虚しくロビーに木霊する。
そして足を前に踏み出す。だが、背中から回されている力は一向に弱まらない。

「終電、逃しちゃうよ?」

アルバートの家へ帰る電車は残り一本しかない。春人の家まで電車は必要ないのに終電の時刻が分かるのはアルバートとお互いの家で逢瀬を重ねていた為。

「もう電車は終わったよ」
「まだあるよ」
「私の中ではもうない。だから……君の家で一晩過ごしてもいいだろうか?」

珍しく強引なリードの仕方。
ここでまだ断れば、昼間に幼稚な自分を捨てると誓った事が嘘になる。春人は首を縦に振り、ようやく腕から解放された。

 そして、春人の家へ着いた瞬間、玄関でアルバートから熱い抱擁を受ける。そしてまた耳元で何度も謝罪される。
しかしそれはいつの間にか「愛している」という言葉に代わり、服を全て脱ぎ去りベッドの上で激しく交わっていた。
 服を脱がせている時から止まらぬキス。アルバートからのキスは時折、何か言いたそうに口が動いている。しかし、会話をすれば春人は本音を漏らしてしまうかもしれない己が怖くて必死に塞いだ。
 本音を抑えこむ攻防は吐息が喘ぎ声になるまで続き、あとはもう快楽にふけるのみ。
そして2人ともどこかで「今日すればきっと次は……」と予感し、今までで1番長いセックスになった。

「僕は大丈夫だからね。」

言い聞かせるように零し、春人は衣服を纏わぬまま落ちていく。汗か涙か分からない目元の雫をアルバートは舐めとる。塩辛く、やはりどちらなのか分からない。
 寂しさに耐えようとする強い精神を持つ男の寝顔はアルバートから見れば、20代相応の幼さがある。しかし何も帰国について文句を言わない春人にアルバートは困惑していた。そんな姿に自分の心に潜む幼稚さを押し殺す。

(春人が我慢をしているのに、私が弱音を吐いてどうする)

 春人の頬にキスを落とし、起こさぬように抱きしめて目を閉じる。

 カーテンの隙間から覗く月と星だけが、「寂しい」「離れたくない」を耐える2人を見下ろしていた。

 そしてやはりこれが帰国前、最後の行為となった。

◇        ◇        ◇


 アルバートが帰国する前日。
村崎は朝礼で「新年度が始まってしばらく経った。世間が長期休暇にも関わらず会社の性質上全員が休むことは出来なかったと思う。真面目に働いてくれているのは本当に嬉しいが、有休の存在も忘れないでくれ。」と、社員を労いつつ有休を気にせずとるよう催促した。
 この言葉の根底にあるものは社員には伝わらなかっただろう。しかし伝わって欲しい人物にすらそれは伝わっていなかった。

(まさかあいつ見送りに行かない気か?)

真面目に仕事に取り組む春人の背中を見ながら村崎はボールペンをノックした。
 このまま自分が春人の有休届を書いてしまおうかと思ったくらいだ。
そして春人は有休届を出すどころか退勤の時間になっても一向に帰る気配を見せない。
 村崎は帰り際、春人に、声をかけた。

「帰らないのか?」
「まだ仕事があるので。」

デスクにはまだ締め切りが先の書類。

「そうか。お疲れ様。」
「お疲れ様です!」

人様の恋愛に首を突っ込むなんて野暮だ。そう言い聞かせ村崎は頑張る背中にもう一度「お疲れ様」と言った。
 しかしさすがは「超がつくほど優しい男」の異名を持つだけはある。翌日には我慢が出来なくなり、とんでもない行動に出た。



◇         ◇         ◇

 アルバートが帰国する木曜日、春人は目覚めの悪い朝を迎えて出社した。「気を付けてね。仕事で見送りには行けません」とだけメッセージを送り、スマートフォンを電源ごと落とす。
 アルバートが嘘の終電逃しをしてからはあっていない。
さすがにアルバートも帰国準備に追われていた。家に行けば会えたのに「自分にも仕事があるからと」言い訳をして自制をかけた。その仕事はといえばすぐに終わらせる必要のない物ばかり。

 電源の落ちたスマートフォンをポケットの中で弄ぶ。

(……会いたい)

中途半端な強がりが暴れ出す。
会いたくて仕方がない、日本をあとにする彼と最後の最後まで一緒に居たい。
 しかし会ってしまえば何を言うか分からない。言うべきことも見つからない。

(でも……会いたい……)

今になって後悔し、必死に葛藤を繰り返す春人。

(もう遅い。諦めよう。自業自得だ)

そこへ1枚の封筒が差し出される。

「月嶋。」
「おはようございます、村崎部長!」
「すまない、至急出張にいってくれないか?」

問題ない。
寂しさを忘れる為に仕事を先まで終わらせた為、出張を頼まれても差し支えがない。

「分かりました!」

封筒を受け取る。

「それを持っていってくれ……福岡空港支社に。」

その名称を聞いてハッとなり顔を上げる。しかしそこにもう恋人はいないと気が付き視線を下ろす。

「赤澤に持っていってくれ」
「はい」
「あっ、あと……赤澤、昼まで忙しいらしいから空港で時間でも潰してから来るように……だってさ」
「?!」

もう一度顔を上げる春人。その瞳は見開かれ、その姿に村崎も意図が伝わったと満足げに微笑んだ。
 そして「行ってこい。頼んだ」と背中を叩く。
謝罪の言葉すら出ないほど感極まった春人は深く頭を下げてからオフィスを飛び出した。

そして向かう——空港へと。



 平日であまり込み合っていない空港でアルバートを探しまわる。電話をかけながら背の高い恋人を捕まえようと身体と目を必死に動かした。

「いない。」

もう保安検査場を越えてしまったのか。

「アル、もう行っちゃったの? わっ!」

不意に後ろから腕を掴まれる。
この前暗闇で掴まれた時とは違い今日は驚く顔を隠せない。それは春人の腕を掴んだアルバートも同じだ。
 振り向いた先には驚きで放心した口と水色の瞳があった。

「アル!!」
「見間違いかと思った。春人、どうしてここに? 仕事は?」
「それは……」

村崎に渡された封筒を握りしめる。
そして

「アルに会いたかったから」

と必死に声を発する。
そして揺れる瞳を見て目を細めたアルバートが春人をトイレに連れ込んだ。運よく利用客はいない。そのまま個室に連れ込み、強く抱き締める。そしてお互いの匂いを胸に溜めようと狭い個室で更に身体を密着させる。

「少しだけ来てくれるのじゃないかと期待していた。ギリギリまで待っていて正解だった」
「ごめん。遅くなって」

首を横に振り、アルバートは春人の足が床から浮くほど抱きしめた。

「愛している。何があっても、どれだけ離れても君だけを愛している」

ギュッと抱きしめられた春人の胸が、複雑な音を鳴らし、押し上げる様に瞳からは雫が頬を伝った。

「僕も好き、大好き。」

胸に顔を押しつけ、そこへ愛の言葉を浸透させる。

「大好きだよ、アルバート。」

もう一度擦りつけ、顔を上げる。
深い深いキスをされ、それはとてもほろ苦く、アルバートの味がした。

「苦いだろ?」
「うん。でも、アルの味だから好き」

そしてまたキスをする。
煙草のタールの味を絡めとるように激しく舌を絡め、時間ギリギリまでお互いを堪能した。



 シャツの染みは消えておらず、トイレを出る時に春人は申し訳なさそうにそこをチラチラと見た。

「ごめんシャツ汚しちゃって」
「春人がここにいるみたいだ」

嬉しそうに、でも悲しそうに言うアルバート。一緒に居られるギリギリの場所まで寄り添うように歩いた。
 大きな歩幅は小さな歩幅に合わせてくれている。そして最後は大きなそれと小さなそれはつま先を合わせる。

「そろそろ行かなければならない」
「……」

「行かないで」と言いたい。その衝動を飲み込み、春人はアルバートが大好きな笑みを浮かべる。

(言えないならせめて彼が不安にならないように笑顔で送り出そう)

「行ってらっしゃい!!」

と元気に見送る。
そしてアルバートもそれに応える。

「行ってくるよ、春人」

サッと頬にキスをして離れる瞬間少しだけ唇を掠める。
 お見合いしていたつま先。大きいそれが小さい足に踵を向け、一歩を踏み出した。

 アルバートは保安検査場のゲートを越え、向こうから手を振る。しかし春人にはそれがぼやけて見えていない。そしてアルバートも離れがたい気持ちに背を向ける様にゲートをあとにする。

 お互いに弱音は吐かず、遠い地への別れを迎えてしまった。それでも最後の最後まで見ていたいという気持ちは抑えられず、イギリスに帰国すると告げられたテラスで今度は独りで飛行機を見送る。

(アルから僕は見えているのかな?)

 アルバートの搭乗している飛行機が動きだす。

ゆっくり、ゆっくりと滑走路へ向かう。

「……しゃい」

向きを変え、滑走路のスタート地点で大きな機体は一度止まる。

「行ってらっしゃい」

轟音が上がり、機体の後ろに蜃気楼が現れる。
 そしてものすごいスピードで加速し始めた。3回目の「行ってらっしゃい」は目の前を走りぬけた機体が攫って行く。
機体は上半身を持ち上げ、地上から足を離し——離陸した。羽のない人間では届かぬ場所へ。
 雲の中へ消えるまで空を見上げる春人。

「……行かないで、アルバート。」

もうその声は届かない。そして届いてはいけない。
飛行機が完璧に見えなくなった時には涙はほとんど乾いていた。
 軌跡を腕で拭っていると、本来の目的を思い出した。

「あっ! 赤澤さん!!」

拭った手に握られた封筒を見て、出張のことを思い出し、慌ててテラスから館内へ戻る。
勢いよくドアを開け走り出そうとしたが誰かとぶつかってしまった。

「うっわ! ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそすみません。大丈夫?」

倒れた春人に手を差し伸べる男性。

(あれ? どこかで見たことある)

目の前の黒髪の男性。どこかで見た顔だ。

「あっ、えーと……佐久間さん?」

新年度の飲み会で田中に紹介された化学事業部の佐久間 仁だった。

「こんにちは、月嶋君。出張?」
「えっと、はい! 佐久間さんもですか?」
「うん。新しく航路を確保しないといけなくなったからね」

それは佐久間の営業でどこかと提携を結べたことを意味する。

(やっぱりこの人凄いんだ)

呆けて見ていると佐久間が春人の封筒を拾い上げた。

「これ落としたよ」
「そうだ、赤澤さん! すみません急ぐのでまた!」
「うん、またね。」

春人は「やばいやばい。怒ってるかな?」と言いながらその場をあとにした。
 後ろで意味ありげに佐久間が笑った事も気が付かずに。

 その後、無事に赤澤の所へ封筒を持っていったのだが、今回の出張は村崎の単独行動だったらしく、赤澤は春人の姿を変な物でも見るような目で見た。

「知らねえぞ俺」
「でも村崎部長が……」
「封筒貸せ。」

封筒の中にはフレンチのディナー券が2枚入っていた。

「名前使って悪かったな。嫁さんと美味いものでもどうぞ」

という、手紙とともに。

「超絶ド級のお人好しって言っといてくれ」

と赤澤はため息をついていた。





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