こいじまい。 -Ep.the British-

ベンジャミン・スミス

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第六章 Another Sky

第四話 佐久間 仁

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 それからさらに1か月後の7月。
 熱帯夜となったある夜、玩具で自分の身体を何度も弄んだ春人。3度目のアラームでようやく目を覚まし慌てて出社した。
外はセミが鳴き始めていて、それに通ずる暑さで会社に着いた頃には昨夜の事もあり、鉛のような疲労感に襲われていた。

(恋人が近くにいないのにエッチな事で疲れるって相当だよ)

自分に呆れかえりながらもギリギリでオフィスに滑り込んだ。
 そして昼休み、1階の自販機の前で朝チェックし損ねていたスマートフォンを見ると嬉しい事があった。
アルバートから連絡が来ている。

 元気にしているのか、食べているのか、心配ばかりの内容が載ったメール。

(日本は今、昼の1時……)

時計のガラス面に人差し指を這わせ9時間戻す。
もうアルバートはベッドの中だ。睡眠の邪魔をするのが嫌で、返信せずにポケットにスマートフォンを戻した。
連絡があると安心感から少しだけ足取りが軽くなる。

(また夕方近くになったら返そう)

しかしその足を透き通ったテノールが止める。

「月嶋君!」
「あっ、佐久間さん!」

化学事業部の佐久間だ。

「久しぶり、元気?」
「はい! 佐久間さんはお仕事の調子どうですか?」

よく見るとネクタイをしていない。クールビズが推奨されていても立て込んでいる時の佐久間はネクタイをしている。彼がしていないという事は仕事が落ち着いている証拠だ。

「ひと段落したところ」

 インテリア事業部と化学事業部は隣同士とはいえ、お互いの部署に行き来することはほぼない。
 それでも仲が悪いわけではないのに、佐久間はインテリア事業部の敷居を跨ぐのを躊躇う。それは廊下でも同じで化学事業部から奥へは行かない。
 不思議そうに佐久間の足元を見る春人に、困ったような声が発せられる。

「田中部長は俺がインテリア事業部に行くのを嫌がるから、今年1年は大人しくしておくつもりなんだ。2年目も化学事業部に居れば少しは部長も安心するんじゃないかな」

田中は恐れていた。
社内でも人気の村崎の仕事ぶりや性格に触れれば、佐久間を逃すことになるのではないかと。佐久間もそれに気が付いていた。
 現に、田中は佐久間を単独でインテリア事業部に行かせたことはない。

(触らぬ神になんとやら……)

 だからこそせめて最初の1年は大人しくしていようと決めたのだ。転勤したばかりで敵(ましてや上司)を作る必要はない。

「本当は月嶋君の所に行きたいんだけどね」

そう微笑む彼は正直28歳には見えない。
しかし童顔ながらも仕事ができる姿は見る人を圧倒する。

「来ても何もないですよ!」
「そんな事ないよ。 そうだ、行けない代わりに連絡先を教えてよ」
「僕のですか? でも内線くらいなら大丈夫と思いますよ」
「さすがに内線で月嶋君をご飯に誘うわけにはいかないでしょ?」
「ご飯?」
「この前、空港でぶつかっちゃったからお詫びにどう?」

ケラケラと笑う佐久間。

「お詫びなんてそんな! 僕の不注意ですから! 僕の方こそご馳走させてください!」
「じゃ、飲みに行くの決定ね!」

どちらにしても決定になる寸法だったようだ。佐久間は連絡先を記入した名刺をサッと渡す。

「はいこれ。いつが都合いいの?」
「いつでも大丈夫です!」
「そうなの? でも月嶋君、結構遅くまで仕事しているよね?」
「それは……でも大丈夫です!」
「本当に?」
「はい! 今日でもOKです!」
「じゃ、今日にしない? 俺も落ち着いたし。」
「分かりました!」

とんとん拍子に進み、この短時間で連絡交換と食事の約束が済んでしまった。

(飲みに行ったりすれば少しはアルバートの事を考えずに済むかな?)

春人はそんなことを考える。
好きで考えてしまう。しかし、考えてしまうと会いたくなる。でも会えない。

——そんな悪循環に嵌っている。

仕事で忘れようにも、仕事にだって決められた配分がある。最近ではする仕事が尽きてきたほどだった。その為、飲みの誘いはとても嬉しかった。

一瞬だけ、夕方アルバートに連絡することを忘れてしまうほど。

 そして定時後、まだ明るい街へと繰り出す。足を延ばして小倉まで出ても空は明るかった。

「夏だね」
「そうですね。 僕、北海道出身なのであまり得意じゃないんです」
「そうなの? ってことは台風もあまり経験ないんじゃない?」

昨年は新人研修を経て福岡へ来た為、春人はまだ一度も九州で台風を経験していなかった。

「まだです。佐久間さんは?」
「俺は広島だからそこそこ経験あるよ。怖かったらいつでもうちにおいで。あっ、着いた。ここだよ」

赤い暖簾の店の前で足を止める。佐久間の方が福岡に来て間もないのに案内がスムーズだった。

「七時に予約している佐久間です」

予約までしてくれていた。
 通されたのは和室で、隣の客との間には衝立があるのみ。しかし、他の客は2人が来た事にも気が付かない。

「お酒飲める?」
「はい!」
「とりあえず生2つと冷やしトマトと枝豆で!」

頭にタオルを巻いたお兄さんが「あいよ!」と返事をして踵を返した。

「月嶋君は何が好きなの?」
「海鮮が好きです!」
「海鮮、海鮮……あっ、ここ」

海鮮のページを開き、春人の前に置く。

「んー、エビフライとイカゲソと唐揚げにしようかな。あとご飯も! 佐久間さんは何にしますか?」
「定食屋みたいだね。んー、俺はサラダと焼き鳥とあとここコロッケが美味しいんだよ」

と言いながら手を上げ再び定員を呼ぶ。
サッと注文を済ませ、交代で来た瓶ビールを春人より先に手にした。

「あの、僕が注ぎます!」
「気にしないで、この前のお詫びなんだから。」
「でも……」
「ほら、中身零れちゃうよ」

ビール瓶をひっくり返す振りをする佐久間に春人は慌ててコップを手にした。

「ありがとうございます! 僕も」
「じゃ、お言葉に甘えて」

満たされたグラスをカチンとぶつけ、夏の暑さで疲弊した喉を潤す。
 全てを飲みきった春人はグラスをテーブルに置き、腕の時計に視線を下ろした。
そして表面のガラスを人差し指で撫で、数字を8つ跨ぐ。

「やっぱり仕事があったんじゃないの?」
「え?」

指はそのまま、顔だけを上げる。

「本当に問題ないですよ?」
「ならいいけど。時計を気にしていたから、海外との商談が入っているのかと思って。もしかしてイギリス?」

佐久間は細かいところまで春人を観察していた。

「僕、運搬関係だし、インテリア事業部はイギリスとは提携を結んでいません!」

慌てて人差し指で時間を9時間戻した理由を隠す。

「あっ! 佐久間さんは営業ですよね!」
「就職してからずっとね。最初の上司に広島でみっちり鍛えて貰ったから」
「田中部長も自慢していました!」
「噂が独り歩きしているだけ。実際は貿易実務として当然の事をしているだけだよ。月嶋君こそ有名人だよね?」
「そんな事は……」
「化学事業部に君の事を「可愛い」って噂する女性社員がいるからとても気になっていたんだ。あと、仕事もできるって。だから一度こっそり外から見たんだけど田中部長に捕まっちゃって」

その時に何を言われたのかは分かる。佐久間の視線はグラスに残ったビールをじっと見つめている。

「でも、4月の飲み会で会えたからよかった」
「僕もです。佐久間さんの事、とても気になっていて」
「どういう意味で?」

ビールに落ちていた視線が上を向く。

「営業のエリートって呼ばれているからどんな人なのかなって」

春人がそう言うと、本人に聞こえない声量で「そっちか」と零した佐久間。

「何回も言うけど大したことはできないよ」

佐久間のその言葉は謙遜にしか聞こえない。
今日1日だけでも彼の流れ通りに進んでいる。そのレールに乗っていると気付いた時にはもうグラスにビールが注がれていた。
 出来る人は普段から違うとグラスを握りしめた春人。そこへビール瓶が差し出される。

「僕も当たり前をきちんとできるようになりたいな。まだ経験不足だ」
「まだ君は若いじゃん! 俺はもう社会にある程度揉まれたからね。月嶋君もいつか……でも、村崎部長は良い人だって聞くからまだ先の話になるかな?」

自虐的に笑う黒い瞳の奥は過去を閉じ込めていた。

「村崎部長ってどんな人? 直接はあまり関わらないから教えてよ!」

またごく自然に話の流れは代わり、落ち込んだ雰囲気が一気に変わる。

「仕事も完璧で気配りもできる、憧れの上司です! 目がいくつあるんだっていうくらい社員を見ていて、適した時に完璧なフォローをくれます!」
「その目、うちの部長にもくれないかな。でも、村崎部長って部長にしては若いよね。」
「今年で42かな」

アルバートと同じだ。

「じゃ、人事・広報部の赤澤さんと同じか。」
「……佐久間さん、どうして赤澤さんを知っているんですか?」

赤澤はもう1月から福岡空港支社へ行っている。ほぼこちらに戻ってくることはない。転勤して人事・広報部の社員と軽い顔合わせがあるが、赤澤はその担当ではない——彼はグローバル推進担当だ。

「この前会ったから。福岡空港支社で。田中部長に頼んで、空路を頻繁に使うあっちの支社を見せて貰ったの。いざと言う時連携だって取りやすいし。おかげでメリット、デメリットが分かった。クライアントにとって、大切な商品を運ぶ経路の安全は100以上でも足りないくらいだからね、手にした情報を最大限に活用して相手の信頼を得ないと」

佐久間の営業の顔を垣間見て春人は口をポカンと開けた。それを見て「ごめんね真面目な話しして。何だっけ? ああ、赤澤さんだ!」と話を戻した。

「福岡空港支社にお邪魔した時に会ったんだよ。赤澤さん大変そうだね、研修生3人も抱えて」
「まだ3人いる時だったんですね」

つまり5月の長期休暇より前だ。

「今は2人ですけどね」

春人の声のトーンが落ちる。そして心まで沈む。

「あのダンディーなイギリス人、ミラーさんだっけ? 帰国したらしいね」
「……はい。」

話せば話すほど春人の心は重くなり、表情がそれに合わせて暗くなる。佐久間がその陰った顔を覗き込んだ。

「あっ、ごめんなさい! えっと、実は門司支社で研修していた時は僕が担当だったんです!」
「ああ、なるほどそれで。じゃ、急に帰国して寂しかったんじゃない?」

その単語に春人は息が詰まった。

「寂しい」といえば佐久間に関係がバレてしまうかもしれない。
「寂しい」といえば幼稚な考えでアルバートとの関係が壊れてしまうかもしれない。

 春人は時計のガラス面を撫でる。

「……いえ、寂しくないです。仕事ですから!」

無理に作った笑顔を隠すように「料理まだかな。」と厨房の方に首を回す。

「確かに遅いね。俺、外で煙草吸ってきていい?」
「灰皿ありますよ?」
「月嶋君が喫煙者じゃないなら煙草の煙きついかなって」
「喫煙していませんけど大丈夫です! 遠慮せずどうぞ!」

黒い灰皿を差し出すと、「ありがとう」とハニカム佐久間がポケットから煙草を取り出した。

(あれって……)

佐久間愛用の銘柄は赤いパッケージが特徴的だった。春人はこれに見覚えがある。

(アルバートと同じ銘柄だ)

煙草の自販機でも、コンビニエンスストアでも見かける赤いパッケージ。
何処にでもあるそれは春人にとっては特別な色のパッケージ。

 煙草に火をつける佐久間。
小さく上がった火が春人の心までも温かくする。しかしそれは熱すぎて痛い。

「ふうう」

と充満する煙、香りに胸が高鳴る。
そして煙草を咥える佐久間の唇はアルバートと違うのに、その唇、咥内の味までわかる。

——それは空港で最後にキスをした時と同じ味。

 急に咥内が苦くなり、春人の下半身は疼いた。

(やばい……したい……)

秘部が締まり、力加減が出来ずにヒクヒクし始める。

「月嶋君、酔っちゃった?」
「え?」
「顔が赤いから。もしかして弱い?」
「大丈夫です!」

頬を引きつらせて口角を上げる。

「それより広島支社の事教えてください!」

話を無理矢理すり替える。
佐久間は不振がる事もなく「いいよ!」と春人の要望に応えてくれた。

 その後は佐久間の話術のお陰で高揚した身体は治まったが、会計間際に佐久間がもう1本吸った事で、帰路につく春人の脳内はめちゃくちゃになっていた。
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