こいじまい。 -Ep.the British-

ベンジャミン・スミス

文字の大きさ
59 / 112
第ハ章 Invite

第三話 化学へのお誘い

しおりを挟む
 待ち焦がれていたアルバートの来日。
仕事を済ませ、夕方には春人の家に到着するらしく、ポストに鍵を入れてきた。
帰ったらアルバートがいるのかと思うと春人の顔は緩みっぱなしだ。
 その頬を引き締める声が響く。

「月嶋君! 内線3番!」

遠くからインテリア事業部の社員が叫ぶ。

「ありがとうございます!」

春人は固定電話の3番を押す。

「はい、インテリア事業部、月嶋です!」
『お疲れ様、化学事業部の田中だ。』

(えっ? 田中部長?)

「お疲れ様です!」
『今、大丈夫かな?』
「はい! どうされましたか?」
『今夜空いているかな? 食事でもどう?』

アルバートが家に来ている。
が、さすがに管理職の誘いは断れない。

「はい! 空いてます!」

不本意ながらも、それを隠す元気な声で返事をする。

『じゃ、17時に会社のロビーに来てくれないか?』
「分かりました!」
『ありがとう、またあとで』
「はい! よろしくお願いします!」

田中が電話を切るのを確認して春人も受話器を置く。

(もう逃げられない)

 日程調整をしてくれている佐久間には申し訳ないが、春人はこの食事の誘いから逃げていた。何度日程を聞かれても濁し、今は佐久間がフランスへ出張に行っているのを良いことに返事をしていなかった。
そのせいでかなりの強硬手段をとられた。しかし、いつかはこうなる事を予想していた春人。それでも気が重いのはよりにもよってアルバートとの逢瀬の日に予定を捻じ込まれたせい。

(なるべく早く抜け出したいな。アルに連絡入れとかないと)

 昼休みに田中との食事の旨を伝えると、上司の頼みを断りづらい日本文化を理解してくれている恋人は2つ返事で快諾してくれた。
 残るは17時までに仕事を終わらせること。急な事でも入らないかと願ったが、何も起こらず、約束の時間が来てしまう。

 荷物をまとめて急いでロビーへ向かう。その途中、階段で登ってくる村崎とすれ違う。
 珍しく早く退勤する春人に村崎は声をかけた。

「月嶋、帰るのか?」

時間ぎりぎり。
村崎とゆっくり話す時間がなく、春人は階段で足踏みをする。

「はい! 田中部長に呼ばれて! すいません、お先に失礼します、お疲れ様でした!」
「お疲れ様。」

村崎に見送られ、春人は最後の3段を飛び降りた。
 何とか五分前に到着することができた。田中はまだきていない。
ロビーでしばらく待っていると田中とは違う声が春人を呼ぶ。

「月嶋君!」
「佐久間さん?!」

フランスに行っている筈の佐久間だった。そしてその横には田中もいる。

「急に呼び出してすまないね。2人だと気まずいかと思って佐久間も呼んだ。問題ないかね?」

春人には問題はないが、顔が真っ白の佐久間には大ありだった。
田中を先頭に会社を出る後ろで、春人は佐久間に話しかける。

「大丈夫ですか?」

しかしその質問に答えたのは田中だった。

「大丈夫だ。今日フランスから帰国したばかりでちょっと時差ボケをしているだけだろ」

佐久間がニッコリと微笑む。その作り笑いはどうみても苦しそう。それでも「行こうか!」と春人のこの不可解な食事会への不安を無くそうとしてくれる。

 そして異様な3人で、繁華街の方へと向かう。騒がしい店を通り過ぎ、落ち着いた路地裏に入る。
 脂っぽい匂いがし始め、角を曲がると鶯色うぐいすいろをした暖簾が掛かった老舗の料亭が現れた。横で温かく光る提灯には店名と横に「天麩羅」と滑らかな筆の字で書かれていた。

「いらっしゃいませ」

桜色の和装をした女将が出迎えてくれる。

(流石は部長だ)

春人には無縁の店構えに接客。背中がそわそわして落ち着かない。それでももう逃げ場がない。案内されるがままついていくと、襖の奥に趣のある和室が広がっていた。
 既に準備されている3つのおしぼり。田中の前に春人が座り、その横に佐久間が座る。

「とりあえず乾杯といこうか。」

 女将に目配せをした田中。直ぐにビール瓶と冷やされたコップが運ばれてくる。浮雲小鉢に盛られた御造りは、新鮮な色で照り、春人は普段自分が食している物との違いに圧倒された。
 そして見とれている春人とは違い、時差ボケでも接待を身体に仕込まれた佐久間の動きは速かった。
ビール瓶に直ぐ手を伸ばし、あっという間にお酌の体勢を取る。

「部長」
「ああ、すまないね。月嶋君は私が……」
「いえ! 僕は自分で!」
「いいから、いいから。」

佐久間からビール瓶を受け取った田中が月嶋に傾けてくる。

「すみません。ありがとうございます」

注がれる黄色い液体と白い泡。溢れそうな白い泡に閉じ込められた炭酸は自分のようだ。
 佐久間には春人が注ぎ、田中の音頭で乾杯となる。
食事が始まっても、春人はなぜ自分が呼ばれたのかが分からず、田中の武勇伝に必死に相槌をうった。
 時折「さすがですね」と褒める佐久間は顔色が回復し始めていた。
 だが、その表情が一瞬強張る。それは田中の目つきが変わったからだ。

「月嶋君」

急に名前を呼ばれ、春人は肩が震えた。

「はい!」
「良い返事だ。君は仕事も熱心で、人当たりもよさそうだね。前にも話したけど、佐久間から君の話は聞いているよ。運送経路確保の手際の良さと対応力はその年ではなかなか身につかないよ」

突如褒められ、春人は返す言葉が見つからない。そんな春人にお構いなく田中は続ける。

「村崎部長とは上手くやれているのかな?」
「はい! 一番尊敬する上司で、僕の憧れです!」

一瞬にして室内の空気が凍る。

(やばい。つい本音が……)

春人の頭を「出向」の2文字が過る。

「そうかそうか、私じゃ及ばないかな?」

 接する機会がないタイプの人間に春人は対応する術が浮かばない。
まだ口を付けていない天麩羅の衣の色が視界をチカチカとさせ、危険を知らせる。脳内は真っ白であの2文字が点滅し、来年度の自分の足がちゃんと地についていない。

「いや気にしなくていい。村崎部長はよくできた男だ」

心の籠っていない褒め言葉に、春人は先が読めない。
佐久間も何も言わないというより、田中の目配せで口を閉ざすよう指示されている。
今、この部屋には田中と春人しか存在していないようだ。

「それに比べてうちの部署はあまりよくなくてね……」

珍しく自身の部署を卑下する田中。しかし、その対象は部長としての自分の不甲斐なさではなく、社員の業績の悪さだった。

 やはり田中は田中である。

「せっかく佐久間が来てくれたのに、その後の段取りが悪い。特に……運送関係がね」

あのいやらしい笑みが顔いっぱいに広がる。
横向きの三日月の様な瞳が春人をロックオンし、その瞬間全てを悟った。

出向も転勤の文字も消える。そして勿論、これは田中への接待でもない。

(だとすると……)

「……どうかね? 化学事業部に部署異動願いを出すというのは?」

——これは引き抜きだ

 絶体絶命のピンチだった。
田中のような男の対処法も知らない春人が、有難くもない引き抜きの断り方を知るはずがない。体中の血が逆流する感覚に襲われ、一気に酔いが回る。視界が歪み、畳に爪を食い込ませ身体のバランスを保つ。
歯の隙間からこっそりと酸素を取り込み、精神を落ち着かせる。

「ありがたい申し出なのですが、僕では力不足かと」
「いやいや、君だから来て欲しいのだよ。どうかな?」
「今はまだ考えられません。自分に何ができるのか分からないので」

会社が行けといえば行くだろう。しかし自ら行くかと言われれば行かない。まだ春人は村崎の元で働きたいと思っている。
しかしそんな大それたことをこの場では言えない。

 返答に困っていると田中が手を叩き豪快に笑う。

「いや、結構結構。大いに悩んでくれ。そして良い返事を待っている。だが、私は欲しい物は必ず手に入れたいたちでね。何をしても君を化学事業部に引き抜こうと思っている。でもできれば人事で事を荒立てたくない。だから是非君からのひと声が欲しいのだよ」

荷物をまとめ始める田中。

「君が「化学事業部に異動したい」それさえ言ってくれれば誰も嫌な思いはしないよ。君の憧れの村崎部長もね。では、私は先にお暇しよう。会計は済ませてある。有名な天麩羅だ、堪能してから帰りなさい」

 田中が後ろ手で襖を閉めた瞬間、春人は倒れ込んだ。

「月嶋君?!」
「うえええ、気持ち悪い」
「吐く?!」
「だいじょうぶれす」

呂律がおかしくなり始める。
浮遊感が全身を包み、畳から浮いている気がした。

「さくまさんは、だいじょうぶれすか?」
「俺?」
「じさぼけ」
「こっそり薬飲んだから大丈夫だよ」

うっすら目を開けると、確かに佐久間の顔色は良かった。逆に春人は真っ青だ。

「緊張で酔いが回っちゃったのかな?」

春人はもう喋る元気もなく頷いた。しかしそのせいで脳が揺さぶられ、再び身体が鉛の様に重たくなる。
瞼まで重たくなり、とうとう音まで遠退き始めた。最後に聞いたのは佐久間の「タクシー」という言葉だった。

 そして月嶋が意識を朦朧とさせている間に、佐久間は女将に頼みタクシーを呼んでもらった。タクシーが来るまでの間に、春人に頭を下げ、財布の中から運転免許証を取り出す。住所を確認して、タクシーが待つ場所まで春人を連れて行った。
その時には既に春人は夢の中で、腕を肩にかけて歩く。

「すみません、ここまでお願いします」

と、タクシー運転手に告げて、後部座席でようやく一息つく。

「すー」

と寝息が聞こえる。音に反して苦しそうな表情をしている春人を自分に寄りかからせる。
 その頬を手の甲で優しく撫でた。

 長いフランスへの市場調査から帰国し、久しぶりに春人に会えると思ったのも束の間、報告書を書く佐久間の元へ田中がやって来た。
 田中は夏から春人を狙い始めていた。
佐久間との息の良さが決め手になったようだ。何度も日程調整を促されていたのに、断る春人。そして春人が何を言われるか知っているが故、強く言えない佐久間に田中は痺れを切らしていた。

その結果、強引な食事会のセッティングとなった。

 あの男がどんな人間か知っているが為、佐久間は春人を化学事業部には異動させたくなかった。
 好きが故に一緒に居たいわけではなく、好きが故に酷い目にあってほしくないのだ。

「君の笑顔が消えるくらいなら、俺は田中部長とも戦うよ」

 4月初めの飲み会で、田中はある2人の男に佐久間を自慢した——村崎と春人だ。
 その時の怯えた様な春人の瞳は庇護欲を奮い立たせ、ある日廊下で見た笑顔は佐久間の心臓をひっくり返した。
潤いを与えてくれる光る雫を欲した佐久間。

 しかし数日後、佐久間は春人の違う一面を見る事となる。
空港で、イギリス人に向けていた欲求不満は表情と、その後の悲しみに暮れる背中。

 月嶋春人は一体いくつの表情を隠し持っているのか、佐久間の興味は春人への支配欲へと代わり、彼を欲するようになった。

そこへ立ち塞がったのが……

(邪魔なんだよね)

アルバート・ミラーだった。

 佐久間仁はプライドが高く自分の思い通りに何事もしがちだ。今回も自分の思惑通りに事を進めるつもりだった。
しかし厄介な事に春人の一途さと純情、そしてアンリスクロス貿易会社のエリートがその行く手を阻む。
 遠距離恋愛という脆い綱渡りの筈なのに、その縄は解けず、あと一歩というところで再び絡まり合う。

 困難を極める恋路は佐久間の闘争心に火をつける一方だった。

「早く家に着くといいね」

ようやく春人と密室で2人きりになるまで漕ぎ着けた。今回の事は計算されていない。たまたま渡りに船だった。

 勿論、春人の家に彼がいる事も佐久間は知らない。

 春人のアパートへ到着し、鍵を探そうと声をかける。

「月嶋君?」
「……」
「おーい、月嶋くーん!」
「んんん……」

艶めかしい声に佐久間はこの後の事を期待してしまう。
だが、その膨らんだ気持ちは、ドアの奥で鳴る、ガチャリと解錠する音に亀裂を入れられた。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...