こいじまい。 -Ep.the British-

ベンジャミン・スミス

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第十章 Every day life

第五話 二人の想い人

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 春人の予想通り眼鏡のアルバートはたちまち社内の話題となった。食堂や給湯室、休憩所で女性社員がコソコソと話しているのを耳にする。

「柔らかい感じになった。」「似合っている。」そしてやはり「結婚してないんだよね? 彼女いるのかな?」「今度食事に誘ってみようかな?」など、動きに移そうとしている人もいる。

 その度に聞き耳を立てて話を伺うが、仕事熱心で厳しい姿に声をかけづらいという結果で終わるようだ。

 当の本人は老眼なのにあまり話題に登るのは嬉しくないという感じだった。

「はあ」

モテる恋人にため息をつきながら休憩室の自販機でコーヒーを買う。
今日は残業だった。眠い脳を起こすためにブラックコーヒーのボタンを強めに押す。

「お疲れ様」
「佐久間さん!」

 後ろには化学事業部の佐久間がいた。
財布を握っているということは佐久間も自販機に用があるのだろう。

「残業?」
「はい! 佐久間さんも?」
「うん。お互い苦労するね」

佐久間に自販機の前を譲る。その時微かに甘い香りがした。

「何か食べてます?」
「ん? 飴」

ベーっと舌を出した佐久間の舌先にはもうすぐ溶けてなくなりそうな緑の飴が乗っていた。

「マスカット?」
「そう、マスカット」

ガリッと噛む。飲み物を飲むためだろうかとも思ったが、コーヒーを買った後それをポケットに入れて、別の飴を取り出して口に入れた。

「グレープ?」
「うん。美味しいよ」
「何だか意外ですね! 飴なんて!」
「禁煙しているんだ」
「えっ?」

じゃ、もう煙草の匂いしないんだという表情をした春人に佐久間は優しく微笑んだ。

「他に大切な人できたからね。その人のために止めたの」

佐久間が慈愛の籠った眼差しで飴の袋を眺める。

(そうか……他に出来たんだ)

「あっ! あからさまにホッとしてるでしょ!」
「そ、そんなことないですよ!」
「だからもう心配しないでよ、何もしないから」

ゴミになった袋をポケットにしまう。

「幸せになってくださいね!」

愚問だった。佐久間の今の恋人との生活は顔が物語っている。

「もう幸せだよ」

(ああ、佐久間さんの上にも幸せが降り注いでよかった)

と安堵する春人の肩を、佐久間は軽く叩く。

「ってことで、ミラーさんも心配事なくなっただろうからそのうち飲みに行こう」
「はい! でも……」
「その前にお互い仕事片付けないと」
「そうですね!」

ニシシと2人で笑う。

「そういえば、ミラーさんまだ残ってたね」
「そうなんですか?」
「さっき人事・広報部に資料持っていったから」
「へぇ」
「覗きに行く?」
「えっ?」
「何か疲れてたし、癒しがあった方がいいかなって」

 幸せそうな佐久間の気前の良い誘いに、春人は照れながらも乗ることにした。

 人事・広報部のオフィスには明かりが灯っていて佐久間がコソッと覗く。扉付近はガラス張りのため、ガラス張りから少し離れた窓から中の様子を伺うことにした。

換気のため窓は開いていた。

「あっ、いたいた……あれ?」

佐久間の様子が変わり、何事かと頭を出そうとした春人の頭頂部を押さえつける。
覗かせまいとするような力に抵抗し、春人も窓から中を覗いた。
そこにはアルバートと……

「誰だろう、あの人」

女性が立っていた。見たことのある後ろ姿だった。

「仕事かな?」

何かボソボソ言っているのが聞こえ、2人で聞き耳をたてる。

——私、ミラー副部長のことが好きです

「「ッ?!」」

お互いの口を塞ぎ合い、人差し指を当てる。
佐久間はそこまでだったが、春人の思考は停止していた。

(今、何て? あの女の人なんて言った?)

ズルズルとへたり込む春人。佐久間はジーッと中を見つめている。

二人の会話が聞こえる。

「それは、どうも」
「えっと……付き合ってもらえませんか?」
「すまないが恋人がいる」

きちんと断るアルバートにホッとするが女性が立ち去る気配はない。

「食事だけとかは?」
「無理だ。君の気持ちに応えることが出来ないのにそんな迂闊なことはできない」
「一回だけでもいいんです。それで十分なんで」

それで落とせる自信があるのか。女性は引き下がらない。それどころか佐久間が見つめる先で、女性とアルバートの距離が縮まり始めた。
その瞬間、人間的に問題を抱える上司を抱える佐久間の危機管理能力が働き、身体が勝手に動いてしまった。

——ガチャ!

「ミラー副部長! すみません、先ほどの資料にミスがありまして」

春人を置いて人事・広報部のオフィスへと勢いよく入って行った。

「あっ、お取り込み中でしたか?」
「大丈夫ですよ、資料の受け取りですか? 終わるまで待っていてもいいでしょうか? 私のは後で大丈夫ですので」

アルバートではなく女性が我が物顔で答える事に違和感を隠し切れない。だが、さっきまでここで告白していたという事実を隠したいのだろう。
そしてどうやら佐久間がいなくなるまで女性は居座る気だ。

「結構なミスなので資料の訂正にかなり時間がかかりますよ」
「じゃ、指摘だけしてもらってあなたは自分のオフィスで書かれては?」

女性はどうにかして佐久間を排除しようとしている。
火花を散らす2人。もちろんアルバートは助け舟を出してくれた佐久間に加担する。

「かなりミスがある。またミスがあると困るから一緒に修正した方が早いだろう。すまないが、優先順位的に佐久間さんの方が急を要するので、引き取って貰えないだろうか」

アルバートの低い仕事用の声に、女性もあとずさる。そして恨めしそうに佐久間を睨み付け踵を返した。
 女が去ったのを確認して佐久間はアルバートに向き直り肩を竦めた。

「堂々と浮気ですか?」
「どこをどうみたらそうなるんだ。」
「しつこい女でしたね。あれ、下手したら明日の会議で「人事・広報部副部長セクハラ疑惑」って上がるところでしたよ」

女の武器を使って脅されれば男性は確実に不利になる。佐久間は手癖の早い上司を持っている為、ここら辺の対応はきちんと身についていた。

「助かった」
「あなたの為じゃない。月嶋君の為ですよ」

佐久間が、外にいますよと、親指で合図する。

「まさか見ていたのか?」
「じゃないと、あんな登場の仕方しません」
「なるほど。変だと思ったのだ。資料にミスなど無かったから。でも、本当に助かった、感謝する」

春人への思いを断ち切った今でも、アルバートにお礼を言われるのは何となく気持ちが悪い。やれやれと肩を上げた佐久間は春人の元へと戻ったのだが……

「いない……」

そこに彼の姿な無かった。

「春人……」
「落ち込んでどこかに行っちゃったんじゃないですか?」
「ちゃんと、断っていただろう」
「そういう問題じゃないと思いますけど」

キョロキョロするが見当たらない。

「探してきますよ!」
「いや、私が」
「多い方がいいでしょ。先に見つけた方が月嶋君を慰めるってことで」

アルバートは先ほどの恩人に怪訝そうな顔をする。
転んでもただでは起きない男は、もう恋人がいるにも関わらず、アルバートに一抹の不安を植え付けて、手を翻し去っていった。

アルバートも別の方へと向かう。
それを背中で感じ、佐久間も春人捜索に集中した。

まさか見つかりやすいオフィスに戻っているとは思えず先程いた自販機の所へ向かう。が、自販機のジーッという機械音がするだけで人の気配はない。
しかし休憩室の近くにある男子トイレの電気が点いていた。

 会社のトイレは人感知式の電気だ。つまり誰かいる。トイレに入ると水の流れる音がした
そしてそこにはやはり春人がいた。
 顔を勢いよく洗っている。

「ぷはッ……わっ! 佐久間さん!」

濡れた顔のまま鏡越しに目が合う。

「ごめんなさい、せっかく助けてもらったのに」

春人は顔をハンカチで勢いよく拭きながら、その場から消え去ったことを謝る。

「気にしないで。何事もなく終わったよ」
「あの人、確か総務部の白石さんですよね」
「知ってる人?」
「綺麗な人ですよね……たしか」
「興味あるの?」
「そうじゃなくて! 前に松田さんがいいなぁって言ってたから!」
「はっ? 要が?」

少し佐久間の口調が変わる。

「どうかしましたか?」
「いや、何も」
「やっぱりアルバートはすごいな……そんな人に告白されるなんて」

(僕なんてあんな綺麗な人には敵わない)

陰る春人の瞳に、輝きを取り戻そうと佐久間が顔を覗き込む。

「性格最悪だったよ」
「でも顔がよければ……」
「ミラーさんは大丈夫だよ。月嶋君以外のところになんて行かない。今も君を探してる」
「アルバートが?」
「戻ろう」
「でも何だか気まずいな」
「とりあえずオフィスに戻る?」
「そうですね! さすがに残業する気にならないや。帰ろうかな……」

もう今日は頭が回らない。佐久間とトイレを出てインテリア事業部に行く。

その途中で……

「月嶋さん」

丁寧に恋人の名を呼ぶ低い声。

「ア……えっとミラー副部長」
「へぇ、ちゃんと使い分けてるんだ。じゃ、俺はこれで。お疲れ様です」

感心している佐久間が背中を軽く押して、隣の化学事業部のオフィスへと消えていく。
 2人きりになった廊下の沈黙を破ったのはアルバート。

「まだ仕事は残っているだろうか」
「いえ、もう帰ります」
「では、帰りに人事広報部に寄ってくれ」
「……分かりました」

行きたくないがさすがに今は断れない。管理職の命令を無視しているような気分になる。
 デスクを片付けて、オフィスの戸締りをする。重い足取りでさっき盗み聞きをしていた人事・広報部の跳ね窓の前を通りすぎ今度はきちんとドアの前に立つ。

 戸締りをしている最中なのかウロウロしているアルバート。
 ガラスのドアにもたれて待つ。やはり中に入る気にはならなかった。
 モテているだろうなと頭では分かっていてもやはり直接その場面に遭遇してしまうと衝撃的だった。しかも女性の必死さに少し引いてしまった。綺麗だと噂の人だ。たぶん落とせるという自信があったのだろう。

 恋人の立場を揺るがす存在に春人は不安が止まらない。つま先で床を突き、一定のリズムを奏で落ち着こうとするが、足が震えて定まらない。

——コンコン

背中が振動する。
アルバートが戸を叩いていた。
春人がもたれていたから開けられなかったようだ。

「あっ、ごめん」
「待たせたか?」
「大丈夫。仕事いいの?」
「終わったよ」

扉を閉めて施錠をしている。

「行こうか」

どこに行くのかは分からなかったが、とりあえずついていくことにした。

 アルバートの家の方向だった。

「いいの?」
「問題ない。ちゃんと部屋は片付いている」

春人が家に行っていいのか尋ねていると勘違いしているアルバート。

「そうじゃなくて白石さん」
「シライシサン?」
「さっきの女の人!」
「彼女か……やっぱり気にしているのかい? 外で聞いていたらしいが」
「綺麗な人だったのにいいのかなぁって」
「君はそれでいいのか?」

——嫌だけど……

「アルがいいなら僕は別にいいよ」

強がる。

「君は、さっきの女性が付き合いたいと告白してきたら付き合うのか?」
「はっ?! 付き合うわけないじゃん!」
「何故?」
「興味ないし、アルがいるし!」
「だろ? つまりはそういう事だ。私も彼女には興味もないし、春人がいる」
「でも綺麗な人だよ?」
「女性に興味はない」

——じゃ、男性なら? もしアルバートのタイプの男性だったらどうするの?

告白現場を目撃してしまった衝撃で、あれもこれもと悲観的な妄想が春人の中で広がる。
もし今ここに、アルバートのタイプの男性が彼を誘惑してきたら彼はどうするのだろう。そんな人が目の前に現れたら彼はどうするのだろうか。

(そして僕はどうするのだろう)

今日みたいに強がっていられるだろうか。
アルバートがとられそうになって、黙って見過ごせるのだろうか。

(僕はいったい……)

春人の不安そうな顔を感じ、アルバートの大きな手が頭を撫でる。柔らかい髪はそれに絡みつき離すまいとしている。それを楽しむ様にアルバートも何度も黒い波の上を往復している。
アルバートを見上げると安心させてくれる優しい笑みを向けてくれる。

「心配することは無い。私は君以外……」

安心する彼の低い声が、愛を紡ごうとしているのに……

「Hey! Albert!」

春人への愛をかき消すように被せられた言葉は英語。そして母国の言葉を耳にしたアルバートは、安心するでもなく表情をこわばらせた。
 恐怖のような物を纏ったアルバートの表情に春人は、彼が遠くに行くような気がしてしまった。
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