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第十章 Every day life
第四話 もう一度恋をする
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名前を呼びながら抱きつく春人の手はいつもより力強い。
ソファーで身体を並べてもやたらとくっつきたがる。だが甘えてくる仕草とは違う。
「どうかした?」
その微かな仕草の変化にアルバートは必ず気付く。
「何もない。アルこそ、どうしたの?」
「君にキスがしたくなっただけだよ。それで? 春人はどうしたの?」
何もないと嘘をついている事もバレている。そして春人が眼鏡ショップのロゴが印字されている紙袋に視線を下ろした事も。
「やはり老眼は嫌だった?」
「違うよ! そっちじゃなくて」
「じゃ、何?」
「……眼鏡、かけて」
春人のお願いと今のこの状況のつながりがまだ見えていないが、アルバートは恋人の願いを聞き入れる。
黒い眼鏡ケースから出てきた眼鏡は、ショップで見た時とは別物に見える。沢山の中から選ばれた一つはとても特別で、アルバートにかけて貰いたくてここまで自分で歩いてきたかのようだ。
そしてようやく持ち主の元で働く時が来た。
ゆっくりと耳にかけられた眼鏡。
アルバートは急に鮮明になった視界に眉を顰めるも、快適な使い心地に満足した。そのまま春人の方を「どう?」と見る。
横から首を傾げて眼鏡の感想を聞いて来るアルバートに春人は目を逸らした。
「かっこよすぎ。店員さんもずっと見てたし」
春人の様子がおかしい答えを見つけて、アルバートはその嫉妬で苦しむ顎を捕らえた。
「こちらを向いてくれ」
「やだ」
「お願いだ。君にキスがしたい」
春人の身体から力が抜け、アルバートが捕らえた顎を引き寄せる。
眼差しだけは、違う場所を見ているが、人差し指で柔らかい唇に触れると、嫉妬で濡れた漆黒の瞳と交差した。
「君こそ私を惑わしてばかりだ」
優しく唇を押すと、軽い弾力が押し返してくる。そのやり取りが気持ちよくて、何度も春人の唇に触れる。横に滑らせて伝わる感触は細かい砂浜に沈めているようだった。
その砂浜に透き通った水色の瞳の持ち主が、波が打つような心地よいキスをする。
「君は飾らなくても常に私を誘惑してくる」
「別に何もしてないよ」
「その何気ない仕草が堪らないのだ。私しか知らない君の姿を見たくて我慢が効かない」
次のキスは押し付ける様に、そして下唇を何度も啄む。
「僕だって、会社で見る度にキスしたくなるよ。眼鏡をかけた姿も本当にかっこよくて……誰かにとられちゃうんじゃないかなって」
「私は春人以外に興味ない」
「でも誰かに告白されたりとか」
「日本にきて、それはまだ一度もない」
「だから眼鏡かけたら、余計にカッコよくなって、今度こそ誰かがアルに……」
いくら言っても春人の不安は消えない。
「眼鏡ではそんなに変わらないよ」
「変わるよ! ちょっと貸して!」
春人はアルバートから眼鏡を外して、自身の耳にかけた。
「うっわぁ!!」
視力の良い春人にはきつい。眉間に皺を寄せて痛いくらい目をつぶる。
「これすごッ!」
嫉妬していた事など忘れて眼鏡の性能を体験している春人の見た目は一段と幼い。
まるで高校生のようだ。
「アルがぼやけてる!」
楽しそうにレンズ越しでアルバートを見た後、少しずらして裸眼で見上げる。
その眼鏡の上から覗く上目遣いにアルバートは理性の切れる音がした。
「アル?」
「前言撤回だ」
「へ?」
今度は普通のキスでは済まさないと、荒々しく唇を押し付け、下を捻じ込んだ。
苦しそうに呼吸をしながらキスを受け入れる春人。かけている眼鏡は鼻の中腹までズレ、二人の熱で曇り始める。
紅潮した肌に、更に幼くなった見た目、そしてフレームをずらして見上げる上目遣いの春人にアルバートは
「もう一度君に恋をしたみたいだ」
と告げ、目の前に突如現れたもう一人の恋人をベッドへ誘うべく口説いた。
——結局、眼鏡の最初の仕事は春人との情事に使われてしまった。
あまりの興奮っぷりに春人は文句を言う事も出来ず、嫉妬の事も忘れていた。
だが、彼の心配は最悪の形で実現してしまう。
数日後……
「私、ミラー副部長が好きなんです」
春人はアルバートの告白現場に出くわしてしまう。
「大丈夫? 月嶋君」
佐久間と共に。
ソファーで身体を並べてもやたらとくっつきたがる。だが甘えてくる仕草とは違う。
「どうかした?」
その微かな仕草の変化にアルバートは必ず気付く。
「何もない。アルこそ、どうしたの?」
「君にキスがしたくなっただけだよ。それで? 春人はどうしたの?」
何もないと嘘をついている事もバレている。そして春人が眼鏡ショップのロゴが印字されている紙袋に視線を下ろした事も。
「やはり老眼は嫌だった?」
「違うよ! そっちじゃなくて」
「じゃ、何?」
「……眼鏡、かけて」
春人のお願いと今のこの状況のつながりがまだ見えていないが、アルバートは恋人の願いを聞き入れる。
黒い眼鏡ケースから出てきた眼鏡は、ショップで見た時とは別物に見える。沢山の中から選ばれた一つはとても特別で、アルバートにかけて貰いたくてここまで自分で歩いてきたかのようだ。
そしてようやく持ち主の元で働く時が来た。
ゆっくりと耳にかけられた眼鏡。
アルバートは急に鮮明になった視界に眉を顰めるも、快適な使い心地に満足した。そのまま春人の方を「どう?」と見る。
横から首を傾げて眼鏡の感想を聞いて来るアルバートに春人は目を逸らした。
「かっこよすぎ。店員さんもずっと見てたし」
春人の様子がおかしい答えを見つけて、アルバートはその嫉妬で苦しむ顎を捕らえた。
「こちらを向いてくれ」
「やだ」
「お願いだ。君にキスがしたい」
春人の身体から力が抜け、アルバートが捕らえた顎を引き寄せる。
眼差しだけは、違う場所を見ているが、人差し指で柔らかい唇に触れると、嫉妬で濡れた漆黒の瞳と交差した。
「君こそ私を惑わしてばかりだ」
優しく唇を押すと、軽い弾力が押し返してくる。そのやり取りが気持ちよくて、何度も春人の唇に触れる。横に滑らせて伝わる感触は細かい砂浜に沈めているようだった。
その砂浜に透き通った水色の瞳の持ち主が、波が打つような心地よいキスをする。
「君は飾らなくても常に私を誘惑してくる」
「別に何もしてないよ」
「その何気ない仕草が堪らないのだ。私しか知らない君の姿を見たくて我慢が効かない」
次のキスは押し付ける様に、そして下唇を何度も啄む。
「僕だって、会社で見る度にキスしたくなるよ。眼鏡をかけた姿も本当にかっこよくて……誰かにとられちゃうんじゃないかなって」
「私は春人以外に興味ない」
「でも誰かに告白されたりとか」
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「だから眼鏡かけたら、余計にカッコよくなって、今度こそ誰かがアルに……」
いくら言っても春人の不安は消えない。
「眼鏡ではそんなに変わらないよ」
「変わるよ! ちょっと貸して!」
春人はアルバートから眼鏡を外して、自身の耳にかけた。
「うっわぁ!!」
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「これすごッ!」
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「アル?」
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「へ?」
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佐久間と共に。
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