こいじまい。 -Ep.the British-

ベンジャミン・スミス

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最終章 Gentleman & Sun

第二話 ラクサス・ミラー

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──ブー、ブー、ブー

どこからかバイブレーションの音がする。硬いものの上で震えているのか、板が削れる様な音が部屋に響く。

「んん、アルぅ……電話……」

スマートフォンは春人側の床に落ちてしまっていて、眠い目を擦りながらアルバートに差し出す。
もちろん落とした記憶はない。

昨日の良い夫婦の日で、春人からサプライズのお菓子を頂いたあと、さらに甘い時間をベッドで過ごし、ほんの四時間前に就寝したばかりだ。しかし時刻はもう午前9時を回ろうとしていた。

アルバートは震えるスマートフォンごと春人の腕を引き寄せる。そのまま抱きしめれば彼の身体に昨日の熱は残っておらず、ほのかに温もりだけを纏っていた。部屋を見渡せば服があちこちに散乱していた。この機械もその時に落ちたのだろう。

アルバートはどうにか目をこじ開け画面を見る。

「?!」

思わず二度見してしまった。
久しぶりに見るその名前に脳が一気に覚醒する。寝起きにも関わらず、1度のタップで応答することができた。

「Hello.」

(あちらは日付が変わったくらいか。若い彼なら普通に起きている時間だろう)

『──!!』

元気な声が聴こえ、アルバートは思わず耳を離してしまった。春人にも声は漏れていて、電話の主が誰か伝えてしまう。
アルバートは相手と二言三言話し、「君に話があるそうだ」と設定をスピーカーに変更した。

首をかしげた春人が「もしもし」と声を発すると、大きな声が返事をした。

『おはよう、春人! はじめまして、ラクサスです!』

電話の主はアルバートの弟ラクサスだった。春人も前に見せてもらった動画や遠距離中に電話口で少しだけ声を聞いたことがある。
そのおかげで直ぐに誰と電話しているのか分かったのだが、どうしてラクサスが春人に電話を変わる必要があるのかはさっぱりだった。

「おはようございます、月嶋春人です! いつもお兄さんにはお世話になってます!」
『こちらこそ兄がお世話になってます! やっぱり一緒にいたね!』
「えっ?」

確かになぜラクサスはアルバートと春人が一緒にいることを知っているのだろうか。
不思議な顔をしたアルバートが口を挟んだ。

「ラクサス、要件は何だ」
『あっ、兄さん、スピーカーにしてるな! 大丈夫だって! 別に春人に兄さんの恥しい話なんてしないから!』

ケラケラと笑うラクサス。
春人の瞳が「聞きたい」と光っている。

「切るぞ」
『ごめんって! 要件だけどさ、今日、日本は祝日なんでしょ?』
「ああ」
『それに昨日は夫婦の日だったんでしょ?』
「なぜそれを知ってるのだ」
『兄さんは知らないかもだけど数年前からうちでは父さんと母さんが祝ってるよ! 第2の結婚記念日だ、とか言って。日本文化だろうが、あの2人には関係ないからね!』
「想像出来るな。それにあの2人は常に夫婦の日のような関係だが。しかしそれと私が春人といることに何の関係があるのだ」
『今日は祝日だしお祝いしてるだろうなって! あっ、もしかしてまだラブラブ中だった?』

アルバートは今、ラクサスがどんな表情をしているのか想像に容易かった。

「もう少しオブラートに包たまえ。とりあえず私と春人が一緒にいるのを君が知ってることは分かった。では、それと君の電話、なんの関係があるのだ」
『兄さんも、父さんと母さんも日本文化に興じてるから、俺も興じてみようかなと!』

まさか……

「結婚するのか?」
「えっ?!」

春人も声を上げる。
ラクサスが結婚する。アルバートにとってこんなに嬉しいことは無い。

『えへへ、実は……』

アルバートの顔がほころぶ。大好きな弟の結婚など拍手でもして喜びたい事だろう。しかし大げさな喜び方を彼はしない。動きは何一つ変わらないが、心の底から喜んでいることだけは顔を見れば分かった。

「おめでとう、ラクサス」

幸せを噛み締めるアルバートに春人まで嬉しくなる。

『まっ、冗談だけどね!』
「はっ?」「えっ?」

アルバートの顔が真顔に戻る。
それとは逆にしてやったりと楽しそうに笑うラクサスの声が聞こえる。

『残念ながら恋人すらいないよ! アハハハ!』
「ラクサス……では君は何を興じるつもりなのだ」
『ごめん、ごめん。夫婦の日は興じれないけど今日なら問題ないでしょ?』

これは日本人の春人が1番に気がついた。

「今日って……勤労感謝の日?」
「そうだな」

カレンダーは手元にないが、春人の記憶が正しければ今日は勤労感謝の日だ。
しかし、イギリスは違うはず。

『No!! 今日は良い兄さんの日だよ! おめでとう兄さん!!』

アルバートが反応に困っている。

「1123……あー! なるほど、良い兄さん! おめでとうアル!」
『おめでとう兄さん!!』

さらに複雑な顔をするアルバート。

「何がおめでたいのだ」

アルバートの言う通り、「おめでとう」とは、少し違う。

『確かに一理あるね……んー、じゃ産まれてきてくれてありがとう、アルバート兄さん!』

アルバートがそっぽを向く。

「あっ、照れてる」
『本当かい?! 春人、シャッターチャンスだよ!』
「OK!」
「拒否する」

アルバートが春人をギュッと抱きしめてホールドする。布が擦れる音をスマートフォンがキャッチしたのか『こらこら、イチャイチャしないの、おふたりさん!』とキャッキャッ楽しそうに言うラクサス。

「していない」
「してます!」
「こら、春人」
『仲良いんだね、本当に。兄さん……』
「なんだ?」

真剣な兄弟の声色に春人は口を閉じて見守った。

『本当にありがとう。アルバート兄さんは世界一素敵な兄さんだ』
「君も私の世界一愛しい弟だ」
『兄さん……』
「ラクサス……」

(僕、お邪魔かな?)

と春人は緩んだアルバートの腕からすり抜けようとしたが……

『優しい俺のアルバート兄さん……迎えに来てくれない?』
「はっ?」
『アハハハ。実は俺、迷子みたい……日本で』
「それを早く言わないか!」

声を上げないアルバートが珍しく声を上げ、勢いよく立ち上がったせいで春人はベッドから落ちてしまった。

「す、すまない春人」

助け起こしてくれたアルバートと春人を無視して、ベッドの上に放置されたスマートフォンからはラクサスの笑い声が聞こえていた。

 その後、ラクサスから現住所が送られてきて、アルバートがため息をつく。

「行こうか、春人。思っていたより近くにいるようだ」
「僕も行っていいの?」
「もちろんだ。ラクサスに君を紹介したい。それにラクサスも君に会いたがっている」

2人ですぐさま着替える。
そしてアルバートが黒のトレンチコートのポケットから何かを出した。

「車の鍵だ!」

車のキーだった。

「えっ?! 買ったの?! いつ?!」
「先月だったかな。近場にいるようだが、外は冷える。車で迎えに行こう」

春人からすれば大きな買い物なのに、アルバートはあっけらかんとしている。
そして外へ出ると冷たい風が頬に貼りついた。

「さむっ! 急がないと!」

裏の駐車場へ向かう。
車のフロントガラスには朝霜が融けて水滴がついていた。

「アルの車どれ?」
「あれだ」

アルバートが指さした方向には
他の車同様、水滴が光る黒いセダンタイプの車があった。セダンタイプの車はよく見るが正面のエンブレムは見たことがなき。

「見たことないエンブレム……まさかこれ……外車?」
「外車だな」
「……分割支払い?」
「一括だ」

この人給料いくら貰ってるんだと固まっているとアルバートが運転席の扉を開けた。

「どうぞ」
「えっ?」

アルバートが乗るのかと思いきや、春人に運転席に座るように促す。扉をあけ、ヘッドの部分に手を当て頭を打たないようにしてしてくれる彼は執事のようなのだが……

「僕が運転するの?」
「運転したいのかい?」

中を覗くと……

「左ハンドル?!」
「ああ」

アルバートが春人のために開けてくれた扉は助手席だった。ハンドルはなく、シートがあるのみだ。

(外車で、左ハンドル本当にこの人はいくら貰ってるのかな)

車に乗り込めば新車の匂いがした。シートも革張りでリッチな気分だ。

「結構乗ってる?」
「いや、まだ数回だ。ちなみに助手席に乗るのは君が初めてだよ」

とシートベルトを締めながら細く微笑むアルバート。春人も緩む口角を抑えて平常心を保っていたが、その心はアルバートのシートベルトを締める所作に持っていかれてしまった。

大きな手がシートベルトを掴み一度でガチャっと締めてしまう。そして眼鏡をかける。眼鏡をかけ終え、眼鏡に触れていたその手がハンドルとギアに移動する。硬く骨ばった手なのに、柔らかな感触がするのではと勘違いしてしまうほど優しく握られている。ギアにあてがわれた手を見て、春人は自分の頭を撫でてくれるあの感触を思い出す。

「ん? どうした春人」

ボーッと手を見つめていた春人は名前を呼ばれているのに気がつけなかった。

「春人」
「えっ? あっ!」

目の前には眼鏡をかけたアルバートがいた。

──ドクッ

とその姿に心臓が跳ね上がる。
眼鏡をかけたアルバートを間近で見るのは久しぶりだ。
そしてスーッとその目の前をグレーのベルトが遮る。

「シートベルト」
「あっ、ごめん!」

慌ててシートベルトを締めようとしたが、彼が締めてくれたためロックの部分でアルバートの手と自分の手が重なった。

「やっぱり先に君を家まで送ろうか?」
「えっ?! 僕も行くよ!」
「顔が赤いぞ。寝れなかったのではないか?」

心配そうに頬に手を添えるアルバート

(ダメ。今その手で触られると……)

やはりアルバートの手は骨ばっていて柔らかいとは程遠いのにすごく優しい感触がする。
春人は、俯きながらアルバートの手の甲に自分の手を重ねる。

「春人?」

名前を呼ばれて視線をあげれば眼鏡姿の彼に再び胸が高鳴り、ゆっくりと唇を近づけて触れるだけのキスをした。唇を離し、またゆっくりと近づける。そのうち、アルバートからも春人にキスをしてくる。チュッとリップ音を鳴らすアルバートのキスに、貪るように吸い付き激しさを増していく。

「アル……ラクサス君待ってるから行こうか……」
「そうだな」

離れていくアルバートの唇を春人は名残惜しそうに見つめる。扉は閉じきっているのに唇が外の風に触れたように冷たくなる。

──ガチャ

アルバートのシートベルトのロックが外れた音がする。そして次の瞬間春人に覆いかぶさってきた。

「アル?! んっ!」
「誘ったのは君だ、春人」

アルバートがペロリと春人の唇を舐め、舌でこじ開け、中で暴れる。シートベルトを押さえつけられた春人は身動きができない。

「だ、だめってば! ラクサス君が」
「説得力がないな」

アルバートが春人のそれをズボンの上から人差し指でなぞる。

「反応しているではないか」
「ち、ちがう……」
「昨夜あれほど愛し合ったのにまだ足りないのかい?」
「そんなにしてないもん」
「そうだったかな? 私の記憶では君は3回ほど達していたような気がするが?」
「アルが激しくするから……ッあっ!」

春人の膨らんだ先端にアルバートの指が沈み込む。

「君があんなに激しく乱れるからいけないのだ」
「乱れて……ない……んんっ」
「なら、思い出させてあげようか? 昨晩君は──」

アルバートの囁き声が春人を昨夜の情事へと連れ去る。

「シャワールームで1回、その後、ベッドルームで私に跨って腰を振りながら自分の手で達し、最後は私の下で喘ぎながら……」
「あぁ! もうっ……んっ!」

アルバートの唇を塞ぐ。

「積極的だな」
「黙らせただけですぅ!」

窓ガラスは2人の熱気にやられて曇っていた。その曇ったガラスの向こうで何か金色の影が揺れる。

「アル! 弟!」
「分かっている。流石にこれ以上は待たせられないからそろそろ……」
「じゃなくて!!」

──コンコン

と窓ガラスを叩く音がしアルバートがハッとなる。
そして窓ガラス越しに

「兄さーん!」

と陽気な声がした。
春人は「見られたよ! どうするの?!」と羞恥で焦り出すが、アルバートは焦りもさず、顔が綻び、春人から離れた車の外へと出ていった。
春人も脱がされはしなかったものの身だしなみを入念に整えて外へ出る。
丁度春人が車の扉を閉め終えた時

「ラクサス!」
「兄さん!」

と2人が抱き合っているところだった。

「ラクサス、会いたかった。元気にしていたかい? よく顔を見せて」

と、アルバートがラクサスの顔を大きな手で包み込み嬉しそうな顔をしている。その大きな手に包み込まれている弟は、アルバートとそっくりだった。
流石にほうれい線などはなく、髪型も若者らしいツーブロックだが、目や髪色、スッとした鼻筋に口も全てアルバートだった。

2人が顔を近づけて英語で何かを話し始めたあと、頬にキスをして再会を喜ぶ。

「……」

アルバートの両親が来日した時はどうも思わなかったのに、春人は何故か目を逸らしてしまった。あれが普通なのだと自分に言い聞かせるが、無性に気持ちの整理がつかない。
 それはラクサスが弟と言えど春人と同い年だからなのか、それともアルバートの顔が春人以外にあんな笑顔を向けているからなのか……

(弟じゃん。嫉妬する必要ない。なのにどうして……)

そんな春人に気づくことなく、兄弟は英語で「迷子ではなかったのか?」「俺としたことがタクシーの存在を忘れていたよ!」と会話を続け、アルバートはやれやれと首を振った。
そこでようやくアルバートの視界に春人が入る。

「すまない。春人、紹介するよ、弟のラクサスだ」
「やぁ、春人! 初めまして!」

こちらに近寄ってくるラクサスはアルバートより低いにしてもゆうに190cm近くはある。

「こんにちは、ラクサス君!」

どうにか笑顔をつくる。するとラクサスの瞳がキラキラと光りだす。

「Cute! ああ、イギリスに連れて帰りたいよ!」

──ギュッ、チュッ

「?!」

と、春人を抱きしめて、ラクサスは春人の頬にもキスをする。チラリとアルバートを見たが、微笑ましそうにこちらを見ていた。その顔に無性に腹が立ち、やけくそで春人もラクサスの頬にキスをする。
しかしそれでもアルバートは微笑んでいた。

(弟なら頬にキスしてもいいんだ……)

所詮、アルバートからすればこれは挨拶。しかしそんなことに気づかないほど春人の胸はかきむしられていた。

「あー、それにしてもごめんね! お邪魔しちゃったみたいで!」

ニヤニヤ顔になるラクサス。流石にアルバートはニヤニヤ顔をした事がないので、そっくりな彼がその顔をすることに違和感がある。

「えっ?! あっ……えーと……」

さっきの場面を見られたかと思うと途端に恥ずかしさが戻ってくる。

「まぁ気にしないよ! 俺の家じゃ、日常茶飯事だからね!」

うんうんと頷くアルバート

「父さんと母さんに比べたらなんてことないよ! ほんと、うちはイチャイチャの無法地帯だから! だから──」

すると、アルバートが春人とラクサスの会話を遮り、自分と同じ肌色の手を握る。

「そんなことよりラクサス、手が冷えている。とりあえず家に入るかい?」
「トランクだけ置いていい? その後はすぐに観光に行きたいな! 案内してよ!」
「私が持っていくから、君は春人と車内で待っていてくれ」
「もー兄さん! 俺ももう子どもじゃないんだから! それにロンドンに比べたらこんな寒さどうってことないよ!」

兄弟愛を繰り広げる2人に完璧に置いてけぼりになっている。
ラクサスはアルバートから鍵を受け取りトランクを押して家の方へ向かった。
ラクサスの姿が消えてもアルバートはその方向を嬉しそうに見つめている。

「アルバート」
「ん?」

アルバートの視線は春人の方を向かない。

「僕、帰る」

アルバートがここでようやく、きちんと春人と向き合った。それが春人にとっては悔しい。

「なぜ?」
「別に……」

今のアルバートはあまり見たくなかった。弟とは分かっていても、嫉妬している自分がいる。さすがにスティーヴンの時とは違う。嫉妬をしていい対象じゃないし、この気持ちを吐露するわけにはいかない。

「家族水いらずの時間を過ごしてほしいし」
「気にするな、君も一緒に行こう」
「帰る。また明日、職場で」

弟に嫉妬なんて、兄からしたら複雑に決まっているし、改善のしようもない。今まで元恋人やアルバートに迫る女性にしてきたものとはわけが違う。
春人は唇をかみ締め、必死に耐える。

「春人、何かあるなら……」
「ただいまー!」

しかし、丁度ラクサスが戻ってきてしまう。

「さぁ行こう! 俺、小倉城みたいんだ!」

と意気揚々と言い、春人はそのままラクサスによって車の後部座席に連れ込まれてしまった。
楽しげに話す2人の声が後部座席から運転席のアルバートに聞こえる。

「でも春人、本当に可愛いね!」
「えっ、えーと……」
「兄さんに写真を見せてもらった時から会いたくて仕方がなかったんだ」
「写真?!」
「うん! 可愛い君の寝顔のね!」

後部座席から無言の圧力を感じるがアルバート無視した。
しかし一応、言い訳はする。

「見せたのではない。私のスマートフォンの画面を勝手に見たのだ」
「アルバート!」

顔は見えないが声の感じからいつもの春人だと分かる。

(いつも通りだ。さっきは帰ると言いだしたから、どうしたのかと思ってしまった)

バックミラーに映る春人もいつもと何ら変わりはない。安心したアルバートは前を向き、運転にだけ集中した。その真剣なアルバートが映るバックミラーを春人は不満げな眼差しで見つめる。
2人の視線が車内で交差することは無かった。

そして……

「おお! 立派だ!」

小倉城につき、はしゃぐラクサスについて行く。ラクサスの方が見た目は大人だが、アルバートからすれば今は春人の方が落ちつていてどこか大人に見えている。
枯れた木々の合間から城を見上げ、石段を登る。石段の上に先について手を振る弟の笑顔は相変わらず元気で愛しくて、気持ちを温かくしてくれる。

「ふっ。可愛いな」

そんな弟を見つめるアルバートを春人が一瞥する。

「ラクサス君、元気だね」
「そうだな」

アルバートより少し前をスタスタと歩く春人。声のトーンは普通なのにどこか違和感を感じた。

「大丈夫か?」
「何が?」
「やはり体調が……」
「大丈夫! ほら、元気だよ! アルも早く!」

タッと駆けて、春人はラクサスの元へ行く。
その後、一通り観光を済ませ、ようやく家に着いた時には、夕闇が迫っていた。

「ラクサス、先に家で休んでおいてくれ、私は春人を送ってくるから」
「OK!」

ラクサスはグッと親指を突き立てる。

「僕、寄るところあるから大丈夫だよ! ラクサス君、しばらく日本にいるの?」
「ああ、勿論さ! 春人、また遊ぼう! 今度は温泉に行くぞ!」

楽しげに笑うラクサスにアルバートも自然と笑顔になってしまう。

「兄さんの家に泊まるつもりだから、いつでも遊びに来てよ!」
「君の家ではないだろ」

アルバートの家を自分の家のように言うラクサスへ小言を言うが、その言葉は小躍りしている。

「うん! じゃ、またね! アルバートも、また職場で!」
「春人、どこかへ寄るなら一緒に……」
「大丈夫、せっかく弟がイギリスから来てるんだよ! 一緒にいてあげなきゃ!」

春人はラクサスの方は見るのに、アルバートには1度も顔を向けない。

(やはり疲れていたのではないのだろうか)

春人の顔が見たくて手を伸ばしたが、踵を返したため、アルバート手は空をかいてしまう。
追いかけようと足を出したが、

「兄さん、家に入ろ! 風邪ひくよ!」

家族という存在に足が止まってしまった。

「そうだな。今日は春人のお言葉に甘えさせてもらおう。ラクサスと話したいことも沢山ある」

ラクサスと過ごす家族の時間に胸を高鳴らせ、ワクワクと年甲斐も無く嬉しくなったアルバートは、春人が振り向いたことに気がつくこともなく家の中へ入ってしまった。

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