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旅立ち
その2
しおりを挟む結局、少女と青年がウィズ=ダムの街に着いたのは陽が落ちてしばらくしてからで、辺りは暗くなっていた。
村でホーガン老人は「町で冒険者ギルドを訪ねなさい」と言っていたが、すでに営業時間外の様で扉は閉ざされている。
「では、この街の教会に行きますの。その土地で神様に挨拶をしておくのは大切なんですのよ?」
神官らしく敬虔なのか、とりあえず教会に向うことにする。
しばらく歩いて着いた教会は、お世辞にも立派といった感じではなく、むしろオンボロといった感じの外観である。
「失礼しますの~」
教会の扉を開け中を見る。中に人影はなかったが、半分ほど溶けた蝋燭が少し前までは人がいたことを表していた。
中央の女神像の前に座り手を合わせると、目を閉じ祈る少女。
青年は教会には入らずに周囲を見渡していた。
見ると、少し離れたところにある建物から明かりが漏れている。
教会内の蝋燭を灯した人間があそこにいるのだろう。
「シェイドさん、お待たせしましたの。近くにどなたかいましたですの?」
少女が尋ねるので、青年はさっき見つけた建物を指さすと、二人並んで建物に歩いていき、少女は扉をノックした。
───コンコン
叩いて少しすると、中で人が歩く音がする。
カチャリと鍵を開け扉を開くと、そこにはシスター服を身にまとった女性が立っていた。
少しやせ気味、多分30代くらい。腰くらいまである金髪の髪が魅力的な女性だった。
「はいー、どちら様でしょうか?」
シスターは扉を開けると、そこに立っていた二人に尋ねる。
見た感じで少女の方は神官なのはわかったが、もう一人が黒衣で顔すら分からないので何とも言えない。
(…扉を開けてすぐに襲ってきたりはしなかったので、悪い人ではなさそうですね)
「夜分遅く申し訳ありません。わたくし達はルビナの村から来ました冒険者ですの。出来れば一晩、教会の方で夜を越させて欲しいですの」
神官の少女は訪ねてきた理由を告げた。
(…でも、要件より名乗るのを先の方がいいと思うんですけどね?)
シスターは心のなかで軽く突っ込みながらも、表には出さずに笑顔を向ける。
「なるほど、お困りのようですね。私はこの教会を管理しておりますナタリーと申します。教会の方はご自由にお使いくださって結構ですよ」
(…こちらが名乗ったのを聞いて、すぐにしまったといった顔になったのが初々しいです。本当に悪い人ではなさそうですね)
「ありがとうございます、シスターナタリー。わたくしはマレット=リラシア、こちらのシェイドさんと旅をしております」
そういうと少女は軽くお辞儀をする。遅れて横の青年も頭を下げる。
軽く雑談をした後、二人は並んで教会の方に戻っていった。
ナタリーは倉庫から毛布を2枚出すと、軽くはたいて教会の方へ持って行った。
少女は疲れていたのか、長椅子の上ですでに寝息を立てている。
黒衣の青年は毛布を受け取ると、そのうち一枚を寝ている少女にかけてやっていた。
「えっと、シェイドさん…でしたよね?。なにか分からないことがあったら、あちらの宿舎を訪ねてくださいね。もう少しは起きてると思いますので」
ナタリーはそう告げると扉の方へ引き返す。
扉前まで見送った青年は軽く頭を下げると、ゆっくり扉を閉じた。
「うん、大丈夫そうですね…」
ナタリーはそう言うと宿舎の方へと戻っていった。
ナタリーは目覚めると、いつものように朝の準備をしていた。
この宿舎の奥の部屋には預かっている孤児が5名ほど寝ている。
食事の準備が終わるとナタリーは寝室に向い子供たちを起こしていく。
着替えて顔を洗い終わった子供たちは、来た者から順に席に着く。
全員が揃ったところで神様へのお祈りを済ませると、やっと食事の始まりである。
昨晩教会の方に泊まっていた二人はもう出発していた。
ナタリーが起きて部屋の明かりを灯してしばらくすると、青年を率いた少女が毛布を持って宿舎を訪れていたのだ。
「すみませんが、この街の冒険者ギルドってご存じですの?。知ってたら場所を教えて欲しいのですの」
簡単な地図を書いて渡すと、感謝の言葉を残し少女は青年と並んで街の方に消えていった。
後で教会の方を見に行くと、教会内の掃き掃除と周囲の雑草を刈ってくれていた跡があった。
最初はどうかと思いましたが、本当に良い子達だったみたいですね。
(…でも、毛布を返しに来たのはまだ暗い早朝でしたよね?。あれ?、ってことは外の草はいつ刈ってくれたのでしょう…?)
何か機会があればまた会えるでしょう、その時に尋ねてみてもいいかもですね…シスターはそんな風に思いながら日課の作業に戻った。
だが、その機会があんなすぐに訪れることをナタリーはまだ知らなかった。
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