テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

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闘技大会

その16

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『お待たせしました。これより3回戦第1試合を開始します』


音響魔法による2人分のコールが終えた。

ルークは腰から剣を抜くと構え、相手の黒衣の青年も拳を軽く握る。

ルークは軽く息を吐き、余分な緊張も一緒に吐き出した。



『では、第1試合開始してください』

試合開始の打鐘《かね》が鳴り響いた。



開始と共にルークは一気に距離を詰め、まだ動きのない青年に向かって剣を振る。

さっきの試合を見る限り、様子見なんかは無駄。

むしろ動きを観察されて、癖なりを盗んでいるのかもしれない。


そもそも自分の戦い方は一気に攻めて勝つ、だ。

それは人相手でも魔獣相手でも変わらない。

その為に修行に耐え、今の力を手に入れた。

ランクこそまだ3だが、決して自分が上のランクのやつに劣ってるとは思わない。


(…まぁ、じじいみたいな化け物もいるけどな)

攻撃の手は休めないまま、ふと頭に浮かんだ自分の師匠の顔に笑ってしまう。

あれだけ名の通った現役冒険者なのに、孫の俺には甘々だというのだから、人間分からないものだ。



「ふんっ!」

ルークが強めに横に薙ぐと、青年は後ろに飛び距離を取った。

前の試合を見て分かってはいたが、回避能力が本当にすさまじい。

自分がこれだけ攻めているのに、未だに一回も当てれないというのは初めてだ。


(…いい感じに体も温まってきた。そろそろギア上げていきますかね)

ルークは更に腰を落とし、突きをくり出しつつ再び青年に飛び込んだ。

円運動の動きをうまく使い、更に斬撃の回転力を上げていく。


ビリっという感触を剣に感じた。

どうやら青年の纏っている黒衣に、剣が少しかすったらしい。

(…よし、いける!)

ルークは自分にそう言い聞かせると、更にギアを上げて青年に向って剣を振っていく。

未だに直撃こそないものの、少しずつ黒衣をかする事が増えていっていた。



「───っらぁ!」

右肩から袈裟懸けに強めの斬撃をくり出したが、青年は後ろに飛び回避する。

かするようにはなったものの、それから直撃がまだ遠い、というのがルークの感想だった。


「…なかなかいい筋をしている。だが惜しいな」

突然、目の前の対戦者が話しかけてきた。

「は?。一回も攻撃すら出来ずに専守防衛してたやつが、上から目線で言ってくれるじゃないか」

話しかけてる間に攻めてくる可能性を考えて緊張は保ったまま、更に言葉を返す。

「あと、今言った惜しいってのはなんだ?。何について言ってる?」

「…はっきり言うと、攻撃が軽すぎるな。現状だと手数以外に何もない、ってとこだな」

ルークが怒りのこもった視線をぶつけている中、青年は更に言葉を繋ぐ。

「その絶え間ない斬撃で繋ぐ事を意識過ぎだな。威力より手数…といったところか?」

言いながら青年は拳を握りなおし、足を少し広めに開いた。

「まぁ、言われても伝わらんだろう?。分からせてやるから来い」

そう言うと青年は手の平を前に伸ばすと、ルークに向かってかかって来いというジェスチャーをした。



そんな中、ルークはふと昔を思い出していた。


自分がまだ修行でじじいと一緒に住んでいた頃。

旅に出る直前だったのでほんの1年前の話だが。

その頃には、手合わせでじじいとやっても半々位では勝てていた…まぁじじいがどの程度本気だったかは分からないが。

ただそんな手合わせの度に、必ず「手打ちになっている。それじゃいつかは通じなくなる」と言われていた事を。


ただ、じじいに半分通じるなら、大抵のやつに負けないという事なので、別に戦い方の修正とかは考える必要性は感じなかった。

そしてその後、喧嘩別れで家で同然に旅に出た事も。



(…イラつくことを思い出させてくれるよ)

ふぅ、と一息吐くとルークは構えた。

その目つきは怒りからか更に鋭くなり、まるで本気で殺し合いをするかのようだった。


「それだけ偉そうに言ったんだ。こっからはケガじゃ済まなくなっても文句は言うなよ?」

なるべく感情を押さえながら言うと、ルークは青年に斬りかかっていった。



ルークが斬りかかると、青年はその場で動かずに上体だけを反らす事で避ける。

そこから斬り上げ、打ち下ろし、そして逆袈裟と斬撃を繋いでゆく。

ただ、ガンっと金属を打つような音が時々聞こえるのは何だろうか?。


一度下がり横に回り込む様に動くと、青年はその場で正面に捉える為に体の向きだけを変える。

ルークは再び飛び掛かると、斬り、突き、再び斬り、離れては、また勢いよく飛び込んでゆく。

闘場からは金属を打つような音が徐々に頻繁に聞こえてくる様になってきていた。

それを何度か繰り返した後、ルークは大きく後ろに飛んで青年との距離を開ける。

激しい攻撃を続けていたためか、息はかなりあがっていた。

にもかかわらず、目の前の青年の方には目立ったダメージは見て取れないし、疲労している様子すらもない。



「お前、一体なにを…」

いや、実のところは分かっているのだ。

それは持っている剣に伝わる衝撃がすべてを物語っていたのだから。


あの青年は、こちらの攻撃をその場であるものは避け、あるものは殴って払っていたのだと。

その証拠に、対戦相手の立ち位置は、向きを変えただけでほとんど動いてない。

憶測だが、飛んで避けれるものを意図的に叩き落していた、という事ではないだろうか。


(…化け物かよ)

ルークは額から疲労とはまた別の冷たい汗が、ツーっと流れ落ちるのを感じていた。

 
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