テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

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闘技大会

その15

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「うおぉぉぉぉっ!」

戦戟ハルバードを握り、槍使いが黒衣の青年に飛び込んでくる。

持ち上げ上段に構えた斧を振り下ろすと、青年は向って左に避ける。

ゲイダは武器を捻り避けた方を斧で薙ぐ、青年がそれを下がって避ける…。

(…ここですっ!)

薙いでる途中の斧がぴたりと止まり、そのまま下がった青年に向けて、槍使いは全体重を載せて一気に突いてきた。

狙いは腹部、避けている途中の不安定な態勢のところに、避けにくい場所へと最速の攻撃を加える。

最悪命を奪うことになっても、ここはそういう場所なのだ。


槍使いは勝利を確信しながら突きを放つ。

その時手に持った槍に「ガンっ」と衝撃を感じたと思うと、その衝撃で体ごと横に流れる。

次の瞬間、腹部にとんでもない衝撃を感じ、戦戟ハルバードも手放してそのまま両膝を崩す。


余りの痛みに腹部を両手で押さえ、膝をつき体を丸めた状態だったゲイダの目の前が影で覆われる。

痛みで呼吸すらままならないまま視線を上げると、そこには黒衣の青年の拳が目の前で止まっていた。

「…参りました。私の負けです」

青年が審判の方を向くと、審判ははっとした顔をし、すぐに右手を上げて高らかに宣言する。

「勝者、シェイド選手!」



「わーーーっ!!」と観客席から歓声が上がる。

圧倒的不利な状況からの逆転劇だ。

初戦のような驚きはなかったが、それでも十分に盛り上がった。

こんな熱戦を見せられては、いつの間にかランク1がどうこうという観客はいなくなっていた。




『第2試合、勝者はシェイド選手でした!』

アナウンスが勝者を称えていた。

青年が通路へと戻ると「お疲れ様でしたの」と少女が声をかけている。

その後ろには次の対戦者であるルークが立っていた。


「次のあんたの相手は俺だ。いい試合をしようぜ」

それだけ言うと、ルークは2人に背を向け控室の方へと戻っていった。


「いや、お強かったです。国指定枠は伊達じゃなかったのですね」

腹部を押さえ戦戟ハルバードを杖代わりにして多少ふらふらしながら、さっきの対戦相手のゲイダがやってきた。

「次の試合頑張ってください。私は試合を見させてもらって、自分に何が足りなかったのかを勉強させていただきます」

そう言うとゲイダは「では」と頭を下げると控室の方へと消えていった。

少女はなぜかうんうんとうなずきながら納得している感じであった。



『続きまして2回戦第3試合を開始します…』

アナウンスが流れると通路の奥から闘場へと、大男がやってきた。

手には異形の両手斧をを持ち、趣味の悪い甲冑を着込んでいる。

大男は軽く青年を一瞥すると、そのまま何も言わずに横を抜けて闘場へと進んでいった。

青年の横で文句は言わないまでも唸ってる少女の、怒りはまだ収まってない様子である。



『以上を持ちまして、2回戦を終了します。しばらくの休憩の後第3回戦を開始します』

アナウンスが闘場に響き渡る。

「なんと…冒険者殿は勝ち抜いているみたいですな…」

目の前にあるトーナメント表を見ていた大臣は、知らない間に驚きの声をあげていた。


ここは観客席の上段につくられた、所謂いわゆる閲覧席という場所である。

中央には豪華な椅子があり、両側にある出入り口には2名ずつ兵士が立っていた。

ウィズ=ダム王は席に着く前に、観客席に向って軽く手を振ってアピールを忘れない。

そして席に着くと横の大臣が、どこか嬉しそうに話しかけてきた。


「相手に恵まれただけかもしれませんが、2回戦までは抜けていただけたみたいで、本当に一安心ですな…できればそのまま優勝して頂けたら…」

無理と分かっていながらも祈らずにはいられない。

国民が闘技大会の度に不満を募らせているのは城にも届いているのだ。

これからの準決勝、そして決勝と、その幸運が続いてくださいと、大臣は祈るばかりであった。



『お待たせしました。これより闘技大会3回戦を開始します』

闘技場にアナウンスが響く。

闘場への通路で出番を待っていたルークは「よっしゃ」と声をあげると気合を入れた。

『3回戦第1試合、ルーク選手、シェイド選手。闘場へお越しください』


ルークは闘場までの通路で、横に立っている黒衣の青年を見る。

ランク1ながらも国指定枠の選手というので、正直捨て駒だと思っていた。


でも実際は開始即で1回戦を制するというとんでもないことをしたり、2回戦ではかなりの腕の槍使い相手も、一撃も被弾しないままに倒している。

格闘家モンクという職業柄、鎧も着込まずに身体一つで戦うので他の職業よりも防御…特に回避に長けているのかもしれない。


自分も体術にや速さには自信があるが、油断せずにいかないと思わぬところで足を掬われるかもしれない。

「先行くぜ」とだけ言うと、ルークは先に闘場へと向かって進みだす。

後ろで少女が青年に何やら言ってたが、大したことは言ってないだろう。


遅れて闘場へ入ってきた青年が目の前に立つ。

やはり強者独特の胸を締め付けるような雰囲気は感じなかった。

(…こんなタイプの強者もいるって事か?)

ルークは一度大きく深呼吸をして、自分に気合を入れ直すのだった。

 
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