テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

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出発

その4

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「よし揃ったな、ではこれより、マーン商団出発する!」

社長兼商団長のジョン=マーン=ジュニアの号令が、まだ夜も明けきれてない早朝の、ウィズ=ダム国西門に響く。

馬車4台、社長他5名の社員と、護衛として雇った冒険者2名を加えた計8名からなる商団キャラバンだ。

目的地はサンド=リヨン王国。

順調にいけば2日後の昼頃には到着する予定ではあるが、そこらへんはモンスターなどの遭遇運次第ともいえる。


出発してしばらく経ち、そろそろ行程の1割ほど進むかなといったところ。

ここまでモンスターなどとは遭遇することもなく順調と言えるだろう。


2台目の馬車の荷台からは、ポロンポロンと心地良いリュートを奏でる音が聞こえる。

普通であれば心安らぐ様なそんな落ち着いた音であった。

そう、普通であれば…だ。



「全車、止まれ!」

先頭の馬車から大きな声があがる。

発したのは商団キャラバンのリーダーであるジョン。

そして4台の馬車が道脇に縦列で停止したのを確認すると、ジョンは荷台から飛び降り2台目の馬車まで走ってきた。


「おいお前、その鬱陶しい楽器を鳴らすのはすぐ止めろっ!。モンスター共に気付かれたらどうするんだっ!!」

顔は紅潮し、明らかな怒りのこもった表情と怒号で、荷台に座ってリュートを奏でていた黒衣の青年を責める。


言われた青年は楽器を置くと、荷台を降りジョンの前に立った。

荷台からは少女が何事だろうと、ひょっこり顔を出して覗いている。


「お前は何を言ってるのだ?。モンスターの耳と鼻をなめるな。これだけの商団キャラバンが動いてたら、例え声1つ発さないとしても間違いなく気付かれてるぞ?」

目の前の青年は、ジョンの怒号に縮まることもなく、バッサリと言う。

「それにこちらから音を発して周囲に知らせる事は、目の前に不用意に出現してしまい突然戦闘になるような、そんな小型モンスターなんかを寄せない効果もあり有用だぞ?」



止めると無駄な戦闘が発生するかもしれないと、護衛の冒険者に言われると黙らざる得ないところなのだが、問題は目の前の冒険者だ。

何年も懇意にしていたベテランのランク4冒険者がケガの為雇えず、急遽代理としてギルドで昨日雇ったのだが、時間的な問題もありランク2の冒険者しか雇えなかったのだ。


元々の予定だったランク4からすれば、の冒険者に反論されるのは正直頭に来る。

(…だが無駄な戦闘を避けるためと思えば)

ジョンは少しの間腕を組んで思案をした。


「そこまで言うなら黙ってやる。だが、それだけ言っておいてモンスターが現れたら、報酬さっ引くからな!。あとそん時はきっちり働けよ!」

ジョンは、捨て台詞を残し、ドスドスと足音が聞こえてきそうなガニ股で1台目の荷台に乗り込むと、「出発するぞっ!」と号令をかける。


「ジョンさんは一応わたくし達の雇い主ですのよ?。もうすこし話し方を考えた方がいいですのよ?」

少女は青年にそう言うと、青年の隣に腰を下ろす。

青年は何も言わず置いていたリュートを取ると、再びポロンポロンと奏でだした。



「よーし止まれ。今日はここで夜を明かす。荷物の確認が済んだら食事の準備を開始するぞ」

ジョンは商団キャラバンに指示をすると、少し離れた場所に立つ護衛の冒険者二人組をじっと見る。


たしかに今日一日、あれだけ進んだのに一度もモンスターはおろか、野生動物すら目の前に現れる事がなかった。

晴・雨の天気にかかわらず、大抵1日進めば1度は遭遇するというのに、今回はこちらの存在をバラす様なあの音を鳴らしていたのに、だ。


(…本当にあの冒険者が言う通りなのか?。ランクの割には有能という話ではあるし)

ジョンは少し考えた後、いやいやと首を横に振る。

(…モンスター共の本領は皆が寝て人数の減る夜だ。まだまだ油断はならない)

ジョンは再び気を引き締め、周囲に指示を飛ばしていった。



少女は今こそ自分の出番と食事の用意を手伝う。

最初は邪魔者扱いしていた商人達だったが、的確に下準備をし料理を進めていく少女に、感嘆の声をあげた。

そして材料はそのままで、予定より少しだけちゃんとした食事が完成する。


火を囲み、商人達は控えめの声で雑談をしながら、食事を進める。

漏れ聞こえる「美味い」という言葉を聞くと、少女は満足そうに席を離れた。


「さぁ、わたくし達も食事にしますの」

少女は自分の鞄から乾パンを取り出し、むこうで雑談してる商人から分けてもらったお湯につけてカリカリと齧る。

美味しくはないが、お腹はとりあえず満たされる。


青年は何やら干し肉のようなものを口に咥えて、相変わらずリュートをポロンポロンと奏でている。

簡単な食事が終わると少女は、食器等の片付けを手伝いに商人達の方へ向かっていくのだった。

 
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