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急転
その10
しおりを挟む「………ほう、詳しいな」
王は目の前の冒険者を改めて見る。
全身黒衣で覆われて詳細は全く分からない。
強者の自然と発する威圧的なものも感じない。
首に見えるのは石の冒険者章───ランク2ならばそんなものなのだろうと思う。
だが逆に、自分が目の前の冒険者を、ふとすると見失いそうなほど存在感を感じないのが、分からないので分かっている。
今でこそ玉座に座るこの身だが、若いころは騎士団と共に剣を持ち戦場を駆けていた。
目の前の騎士団長ほどではないにせよ、それなりの実力は未だにあると自負している。
その自分が測り兼ねる実力者の可能性。
(…そして、的確に言い当てる推察力と知識量か)
これは横の神官の少女の受け売りなのかもしれない。
だが、そもそも夢魔の情報はそこまで出てきていない。
いくら神官と言え、果たしてどの程度知っているものだろうか?。
「……確かに。そなたの言う様に、我が国は夢魔に襲われている」
周囲から「王っ!?」と驚きの声が上がるが、片手をあげてそれを制する。
「だが、それを知ってどうする?。一冒険者に何かできるとでも?」
王は威厳を込めたまま冒険者を見る。
「ふむ……これは勘だが、さっきの箱の中身は破夢の秘石か?」
聞いたことのない単語に、周囲のほとんどの者はただ戸惑っていた。
明らかに驚きを隠せていない初老のエルフ、騎士団長、そして王と王妃を除いて。
「…夢魔に続きそれまで知っておるのか。そなた一体何者だ?」
王は驚いた顔を戻し、どこか楽し気に冒険者に問う。
言われた冒険者は軽く肩をすくめただけで何も言わなかった。
王は初老のエルフに指示を出し、先ほどの小さな宝箱を冒険者の目の前に持って行かせ、そこで蓋を開かせる。
そこには、大きな深紅の宝石を使ったペンダントが入っていた。
「いかにも、そなたの言う通りだ。破夢の秘石を加工して作られた『破夢の首飾り』…我が国の誇る秘宝の1つであり、夢魔に対抗し得る唯一のものだ」
王が威厳を込めて言い切った。
「…なるほど、それで他の手を使い盗ませたってわけか」
冒険者は一人納得していたが、いい加減話が分からず退屈してきたのか、少女が質問を投げてきた。
「シェイドさん。その夢魔やら破夢やらとはなんですの?」
少女に質問された冒険者は一度王の方を見て、王に何も動きがないのを確認してから簡単に説明をする。
・夢魔とは弱体魔法と呼ばれるものを得意とする魔族の1種だということ。
・通路で拾った邪夢の秘石は、そのうち弱体魔法の範囲を広げるための魔道具だということ。
・破夢の秘石は、その宝石の周囲の弱体魔法をすべて無効化することのできる魔道具であること。
「…つまり、その夢魔が自分の魔法を邪魔されないように盗もうとしたって事ですの?」
その通りだ───少女の理解が早くて助かると青年は思った。
その時、後ろの扉が開き、一人の兵士が入ってきた。
入ってきたのは城門で、青年が最初に起こしたあの兵士だった。
「申し上げます。現場にいた盗人3名を拘束しました、如何いたしますか?」
兵隊が声をあげると後ろには、縄で後ろ手に縛られ身動き出来ないようになった3人が、騎士達に囲まれ立っていた。
「夢魔の手先になるとは許し難い。夢魔の情報を吐かせたら処刑とするのである!」
騎士団長が声をあげ、横の王も王妃も、初老のエルフも何も言わない。
縛られた3人は何も言わず、大人しくする事しかできなかった。
そんな中、玉座の前の黒衣の冒険者が手をあげると、声を発した。
「おい、そいつらは宝を守っていたやつだぞ?。なぜ縛られている?」
謁見の間全ての人が耳を疑った。
どこをどう見ても盗賊の恰好をした3人組が宝を守ったというのだ。
信用しろというのは明らかに無理があるだろう。
「詳しくは知らんが、俺が行くとモンスターが数体いて、そいつらにやられたのか、倒れてたのがそいつらだ」
そんな周囲の疑問は他所に、冒険者は更に言葉を繋げていく。
「後からきた俺を見て、モンスター共はそのまま逃げていったが、そいつらが足止めしてなかったら全部持っていかれてたところだったぞ?」
冒険者の言ってる事は分かるが、目の前の盗賊が果たしてそんな事をするだろうか?。
捕まった盗賊を助けるために、冒険者が出鱈目を言っている可能性もあるのではないだろうか?。
でもそうなると、この冒険者がこの盗賊を守る理由が分からない。
もし盗賊組んでるのなら、そのまま逃げればよかったのだ。
仮に組んでないのなら、自分が倒して捕まえさせた盗賊を守る理由が分からない。
全ての騎士達が頭を捻ってるところに、王の声が飛んだ。
「速やかに拘束を外し解放せよ。これは王の命である!」
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