59 / 133
思惑
その6
しおりを挟むシックでなんとも独特な雰囲気の入り口の宿屋がある。
入り口の大きな扉を開けると、そこにはそこそこ広いロビーとカウンターがあり、数人の受付が並んでいた。
黒衣の青年はつかつかと受付の方へと進み、神官の少女はその後を追う。
「お客様、いらっしゃいませ。『青い巨蟹亭』へようこそ。どのようなご用件でしょうか?」
「ここにダースって冒険者が泊ってる筈だ。案内してくれ」
『赤い雄羊亭』でアドルを訪れたその日は、そのまま教会に戻り夜を過ごした。
日が明け宿屋の営業が始まるのを待って、少女達はこの『青い巨蟹亭』へとやってきていたのだ。
「こちらのお部屋となります。ダース様、お客様をお連れしました」
扉をノックして受付が告げると、中から全身よく鍛えられた、壮年の男性が現れた。
昨日はマントや鎧で気付けなかったが、全身いたる所に鉤爪の跡の様な古傷が見て取れる。
「おう、アンタ達か。とりあえず立ち話はなんだ、中に入ってくれ」
2人が部屋に案内されるのを確認すると、連れてきた受付は「失礼します」と一礼をすると、カウンターホールに戻っていった。
「で、どうだ。オレと戦ってくれる気には、なってくれたか?」
目の前に座る青年に、前のめりがちになって男性は尋ねる。
「それなんだが、折角お前が得た賞金を懸けてまで戦うわけだろう?。少し派手にやりたいとは思わないか?」
青年の言いたい事がいまいち見えずに、詳しい説明を求める男性。
青年は「これは城にも協力してもらう前提なんだが」と前振りをしてから概要を伝えた。
「…なるほど、確かにそっちの方が面白そうだ。だがいいのか?、それだと負けた時に大恥をかく羽目になるが?」
男性がすこし意地悪な笑いをしながら質問をする─────が、それに青年は動じた様子もなく、ごく自然に返した。
「…それはそっちも同じことだろう?」
「ほう、言うねえ…だが確かに違いないな。よし、オレはその話に乗ろう」
横でおとなしく話を聞いていた少女が、パチパチと拍手をして2人を祝福する。
「んじゃ、今日はアンタ達を待ってる以外の予定は入れてねぇんだよ。アンタ達さえよければ、このまま城に行くかい?」
「そうだな、よろしく頼む」
準備をするのでホールで待っててくれと男性は言うと、部屋の奥においてある自分の装備の装着を始める。
2人は言われたまま部屋を出ると、カウンターのあるホール横に据えてある、長椅子に座り待つことにする。
しばらくすると下りてきた大剣を背負ったベテラン感漂う男性に合流すると、3人は宿を出発して城を目指した。
城に着いて、昨日の大臣に会いたいと告げると、応接室へと案内されて待つように言われる。
しばらくすると「私もそんな暇な身ではないんですよ…」とブツブツ言いながら、大臣が数人の兵士を引き連れてやってきた。
早速、大剣使いが大臣にさっき宿で合意した内容と、そしてちょっとした提案を告げる。
最初は不信感を前面に出しながら聞いていた大臣だったが、話を聞き進めるたびに目は輝き、最後の方は前のめりになり話を聞いていた。
「─────そちらの言う事は可能とは思います。闘技場の使用もその条件だというのならば許可致しましょう。ただ、問題はアレですが、そればかりは城の方では何とも…」
大臣は申し訳なさそうな顔をして、正面の男性に言う。
「あぁ、それに関してはこちらでやる。小遣い稼ぎの不正をしない様に監視する、数字に強い人員さえ借りれたら大丈夫だ」
「それならばなんとか…」
大臣は忙しいくなるなとつぶやきながら、うんうんうなって今後を考えてるようだった。
「─────では確認ですの。準備兼こちらのコンディションを整えるために1週間後に、お二人が闘技場で対決という事でいいですの?」
少女が2人に尋ねると、2人は大きく頷くと、大臣も横で「こちらもそのように進めます」と言ってくれた。
話もまとまったので、3人は大臣に礼を言うと、兵士の案内のもと外に出る。
「ところで、こちらの都合でダースさんの滞在が長引きますの。せめて宿代くらいは、こちらで出させていただきたいですの」
少女が男性に提案をした。
「…それなら、その金額でしこたま酒を買ってくれりゃそれでいい」
ワッハッハと楽し気に笑いながら男性は言う。
「飲み過ぎは体に毒なんですのよ?」と少女に釘を刺されながら、3人は街の酒屋目指して街の人ごみへと消えていった。
20
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】初恋の彼が忘れられないまま王太子妃の最有力候補になっていた私は、今日もその彼に憎まれ嫌われています
Rohdea
恋愛
───私はかつてとっても大切で一生分とも思える恋をした。
その恋は、あの日……私のせいでボロボロに砕け壊れてしまったけれど。
だけど、あなたが私を憎みどんなに嫌っていても、それでも私はあなたの事が忘れられなかった──
公爵令嬢のエリーシャは、
この国の王太子、アラン殿下の婚約者となる未来の王太子妃の最有力候補と呼ばれていた。
エリーシャが婚約者候補の1人に選ばれてから、3年。
ようやく、ようやく殿下の婚約者……つまり未来の王太子妃が決定する時がやって来た。
(やっと、この日が……!)
待ちに待った発表の時!
あの日から長かった。でも、これで私は……やっと解放される。
憎まれ嫌われてしまったけれど、
これからは“彼”への想いを胸に秘めてひっそりと生きて行こう。
…………そう思っていたのに。
とある“冤罪”を着せられたせいで、
ひっそりどころか再び“彼”との関わりが増えていく事に──
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる