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高位鑑定士
その15
しおりを挟む「それでは、目の前の魔石に手を当てて下さい。何も痛みとかはないので、気持ちを落ち着けてゆったりしててくださいね」
言われた神官の少女が魔石に手を触れる。
魔石から少女の体内へ流れ込み、巡ってゆく魔力の流れを見る事ができ、その流れから分かる情報を読み解く。
それが私達、高位鑑定士なのです。
そう。手から流れ込んだ魔力がつま先まで行き、胸で一回消えて、しばらくしたらまた現れて、頭を巡って手に戻ってきて魔石に戻ってくるこのサイクルを…。
(…んん!?)
もう一度集中して魔力の流れを見てみる。
手から足へ、そして体を上ってくると一度消えて、また頭を巡って手から魔石へ。
(…え?、え?。これどういう事ですか?)
ちゃんと魔力が全身巡ってるのは普通です。
でも、なんで一回消えるんですか?。
そもそも消えるって何!?。
そこで吸収されるとかならまだ理解できます。
そこで流れが滞っていたら、そういう人は魔法の素養がない人の場合が多いからです。
それにしろ、魔石に戻ってくる魔力が減る事こそあれ、全く消える人は今まで見たことありませんが。
それでこの少女です。
流れ込んだ魔力はある程度減ってますが、ちゃんと魔石に戻ってるので問題ないです。
ただ、これだけ魔力が減ってるということは、多分それほど魔法の素養は高くないと思われます。
問題は『一度消えている』というところです。
全く意味が分かりません。当然こんな症例を見るのは、私は初めてです。
「…あの、まだですの?」
いつの間にか目を開いた少女が、かなり怒りを含んだ感じでこっちを睨んでます!。
いやいや、でも仕方ないんです。
私にもさっぱり意味が分からないんです!!。
「…すいません、一度魔石から手を放してもらって大丈夫です」
そう言うと少女は手を放し膝に置くと、こちらの診断結果を待つ。
「それでですね、少し質問があるのですが、よろしいでしょうか?」
「それは構いませんの…でも、鑑定結果はどうなってますの?」
(…鑑定結果は待ってください。お願いします!!)
「あの、いま魔力を吸収したりとか、阻害するとか、そんな魔道具を持ってたりしませんか?」
「…何も持ってませんの」
そうですか、と女性は手元の紙にメモをする。
「では、何かしらの呪いの魔道具の所持、もしくは呪いをうけていたりはありませんか?」
「…ありませんの」
高位鑑定士の女性は腕を組んで考え出す。
外でリズに聞いてた話とは全然違う対応に、少女もかなり不思議がっていた。
(…やっぱり意味が分かりません)
魔力の流れが全く意味わからないのもそうなのですが、魔力量がどう考えてもおかしい。
あるはずなのにない感じというか、もぉなんと言ったらいいかが分からない。
「あの、マレットさん。本当に申し訳ないのですが、この魔石の調子が悪いようなのです。一度外で待っていただける事は出来ますか?」
「…結果が聞けてませんしそれは仕方ないですの。分かりましたの、待ってますの」
そう言うと少女は席を立ち、てくてくと扉へと向かう。
そしてこちらに一礼すると、扉を開け部屋の外に出ていった。
少女が部屋の外へ出たのを確認すると、女性は奥の扉を開け、大声で同僚達を呼び寄せる。
加えて監視でいてもらっている兵士にお願いして、司祭長様を呼んで来てもらうように頼んだ。
集まってきた同僚は何事かと女性に尋ねる。
女性はさっき書いたメモを机に拡げ、いま自分の見たことをそのまま説明する。
同僚は最初「そんな事あるわけない」「冗談もいい加減にしろ」と笑っていたが、あまりに真剣に話す女性の言葉に、いつの間にか真剣な表情になる。
そもそも、この女性は高位鑑定士としてはトップクラスに優秀であり、そんな鑑定ミスをするとは考えられないからだ。
ただ、そんな症状を見た事のある者もなく、答えは全く見えなないままだった。
そんな風に話をしていると、何事ですかと司祭長が司祭数名を連れてやってくる。
女性は状況を説明して、その少女を自分と一緒に見て欲しいと頼む。
司祭長も何を言ってるのかと呆れた様子だったが、部屋全ての高位鑑定士《ハイウォッチャー》が真面目にこちらを見てる事に、悪い冗談ではないのだと理解する。
「え?、じゃあマレットちゃんはまだ鑑定終わってないの?」
「えぇ、なにか魔石?の調子が悪いとかで、一度外で待っててくれと言われましたの」
横でラーズが不思議そうな顔をした。
「でも、あの部屋で俺も見てもらったけど、何もそんな事いってなかったぞ?」
「えー?。じゃあマレットちゃんの番で壊れたってこと?」
それはついてないねと、2人は少女を慰める。
「でもそれなら、隣の部屋で見てくれたらいいのにね?」
そう言うとリズが見てもらった、隣の部屋を見る。
そちらからは次々と冒険者が入れ替わり出入りをしていっている。
そうこう言っていると、少女の出てきた部屋の扉が開き、女性が声をあげる。
「お待たせしました、マレットさん。いらっしゃいますか?。お部屋へお願いします」
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