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前兆
その4
しおりを挟む「あの、すいません。オークを押さえ込んでいただいたのは有り難いのですが、いきなり王に会わせろというのは、ちょっと…」
門番の兵士は申し訳なささ半分、困惑半分くらいの口調で夢魔王へと言う。
【…これですぐ王に会えると言ったじゃろう!。どういう事じゃ、デイジー!】
【姫、ごめんなさい。ふぁいと】
【デイジー、姫様になんて言い様をっ!?】
夢魔王達は、兵士には分からない念話で話をしている。
「ですが、今は一刻を争います。騒ぎにしたくないので言ってませんでしたが、この街にオークが襲撃すべく向かって来ています」
「え?」と兵士の顔が一気に青ざめる。
そして、「す、少しだけお待ちください!」と言い残すと、城の中へと走っていった。
暫くすると、中から数名の立派な鎧を着た騎士が出てきて、3人は城内へと案内される───案内された場所は、謁見の間であった。
玉座には既に王が座っており、その横には大臣が胸を張って立っていた。
玉座から入口へと敷かれた赤い絨毯の両側には、多数の騎士が立っている。
「街で暴れていたオークを抑えてもらったとの事、まずは礼を言います、ありがとうございます」
大臣が3人に声をかける。
「そんな事はどうでもいいのじゃ。オークがこの街へと向かって来ておる。それに対抗する準備を早くするのじゃ」
周囲が一気にざわつきだす。
「…して、その情報はどこで得た?」
王は3人をじっと見ながら問う。
「この街に来るまでにオークに襲われ、撃退して問い詰めたらそう言ったのじゃ」
夢魔王も王をまっすぐ見ながら答える。
「そのような不確かな情報だけで、我が国の軍を動かすというのは…」
王の横にいる大臣が、王の顔色を窺いながら言う。
周囲の騎士達もその通りだと小さく頷いている。
「じゃが!。オーク共は今夜来るんじゃぞ!?。そんなのんびりしてる時間はないのじゃ!」
夢魔王の発言に周囲が一気にざわつく。
「し、しかし。それも貴女が聞いただけの情報です。それだけで国の軍を動かすのは…」
「襲って来てからでは間に合わんのじゃぞ!?」
未だ弱腰な大臣に、夢魔王は声をあげて睨みつける。
「で、ですが…その、やはりですね…」
こんな時なのにいまだにブツブツ言う大臣に、夢魔王の限界は早々に訪れた。
「急《せ》いていかないかんちゅぅとろぅが、きさんどもっ!。てれてれしちょったら、どぎゃんもならんごつなるっち、なしわからんか!、こんのバカチンがぁっ!」
フーフーっと息を荒げながら夢魔王が吠える。
だが、訛りが酷くて周囲は意味が分からずに呆然としていた。
【もぉ、こいつらダメなのじゃ!。もぉドカッと操ったっ方が早いのじゃ!】
【姫さま、ダメですって!。せめてフワッと位でなんとか!】
【なにいきなり入ってきてるんですか、ラベンダー!。でもさすがに、ドカッはやりすぎですよ、姫様!】
(…なんで擬音で話すんですかね、姫たちは)
自分の先輩たちが別次元でワーワー言い合ってる中、一人がスッと手を上げた。
「元々は我々はシェイドという冒険者に頼まれてオークの動向を見張っていた。それで運良くこうやってオークの先行兵に早く気付けたのだ。お願いだから我々の話を信じて欲しい」
『シェイド』という名前を聞いた瞬間、王や大臣達の顔色が変わる。
そして、巻いた布で顔は見えないながらも、2人も同じ様にデイジーを見た。
「なぜ貴女方とシェイド殿に面識が…?」
「昔何度も戦った仲間なのです。最近どうもオークの様子がおかしい───だが自分は用事で街を離れるので、気に掛けておいてくれと頼まれていたのです」
周囲の人々が「なるほど…」と段々納得の色を見せていく。
そんな中、脳内に響く声が聞こえる。
【あら?。そんな話だったんですか、姫様?。なら最初からこう言えば良かったのでは?】
【…儂はそんな話知らんのじゃ。いつの間にお前はそんな話を不死王としたのじゃ?】
【………デタラメに決まってるじゃないですか?】
【【【っ!!?】】】
【デタラメって、デイジー。あなたそれはどういう事なんですか?】
赤髪の方の先輩の声が響く。
脱線しかけてるから話を戻したのに、ひどい言われ様ですねとデイジーは不思議に思う。
【交渉で名前を出せって言われてたのでしょう?。多少盛ってますけど、話さえ通ればいいのではないですか?】
【…確かに言われたのじゃ…でも、勝手に話を作っていいとは言われておらんのじゃよ?】
【………嘘も方便、です】
王は目の前で顔を見あってる3人組に少し疑問はしたものの、国の窮地かもしれないのだと3人に言った。
「疑って申し訳なかった、あの冒険者の手の者だったか。もう少しオーク共の話を詳しく聞かせてもらえないだろうか?」
先程発言した人影は、別の人影に「後はお願いします」と声をかけると、小さな人影が一歩前に出てくる。
「では、儂らが現状までに知ってる情報を示すのじゃ。国を守るために力を貸せなのじゃ!」
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