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前兆
その5
しおりを挟む───同時刻、ルビナの村。
そこにある冒険者ギルドという名の、村の代表ホーガンの家。
そこに1人の女性が訪れていた。
「ホーガンさんー、朝早くすいません。ラベンダーですー」
言いながら紫髪の女性がドアをコンコンとノックをする。
「あー、開いてるから勝手に入ってきなさい」
ドアの向こうから優しい老人の声がする。
「では失礼しますー…」
キィィーと音をさせながら扉が開く、中には優しい顔をした白髪白髭の老人がお茶を煎れていた。
「とりあえずお茶でも飲むかね?。ほれ、そこの席にでもかけなさい」
「あ、それでは一杯だけ…」
ズズズ…
…
……
………
…………はっ!?。
「いや、のんびりお茶を飲んでる場合じゃなくてですね!?」
既に2杯飲み終わって、3杯目を煎れてもらうのを待っていたラベンダーが席を立ちあがり叫ぶ。
「そうなのかい?。じゃあ…はい、お茶はいったよ」
老人がススっとお茶を差し出す。
ラベンダーは「どうも…」と言いながら席に座る。
ズズズ…
…
……
………
…………はうっ!?
「いや、だからですねっ!!?」
またガタっと立ち上がったラベンダーを、椅子に座ったままの老人《ホーガン》は優しい目で見る。
「で、話とは?」
「あ、それなんですけど…」
言いながら席に座り、一口お茶を含み、口を湿らせる。
「近日中、もしかしたら村にオークが来るかもしれません」
ラベンダーが真面目な顔をしてホーガンに言う。
老人は顔色も変えずにラベンダーをじっと見る。
「なぜそんな事が分かりますか?、と訊いても良いですかな?」
「昨晩、ウィズ=ダムに偵察のオークが現れて、捕縛されました」
老人は「ほーう…」とラベンダーを目を細めて見る。
「…ワシのとこにはそんな話来ないが、なぜあなたはその話を?」
「そ、それは、今朝早く街に居る知り合いが知らせてくれたんですっ!」
すこし慌てだしたラベンダーを興味深げにホーガンは見る。
「…じゃあ、折角知らせてくれたんだ、その知り合いにお茶位は出さないとですな」
「それがですね…あー、別のとこにも知らせに行くと、私に告げたらすぐに発ってまして、もう居ないのですよ」
ラベンダーは視線を微妙に逸らしながら「残念だな~」などと言っている。
「…なるほど、分かりました。では、ワシはどうすればよろしいですか?」
「村の皆さんに、村の外に出ない様注意勧告と、もし見かけた場合は立ち向かったりせずに、即逃げる様に言ってもらえたら大丈夫かと」
老人は目を細め、うんうんと頷く。
「…では、この老体ひとつで村の皆に伝えるのもひと仕事です。あなたにも手伝っていただけても?」
老人の言葉に、ラベンダーは頭を下げる。
「私は少しやる事がありまして、お手伝いは出来ないのです…すいません」
「…そうですか、分かりました。では、村の皆には私が伝えていきましょう」
なにか言われるかと不安だったラベンダーは、すんなり受け入れてもらった事に感謝をしつつ、一礼をして老人《ホーガン》の家を出ていった。
そんなラベンダーの背を見送りつつ、老人はボソリとつぶやく。
「…久々に気合を入れるかね…うん」
そして、体をほぐすように何度も肩を回すのだった。
「───ガーベラのヤツは私一人だと心配とか言ってましたけど、見事な交渉術じゃないですか、私も♪」
村を一望出来る少し離れた丘の上。
その頂上付近にある大木の枝の上でラベンダーが言う。
背には透明な大きな羽を生やし、軽口を叩きながらも油断なく周囲を見渡す。
そして空へと飛び出し、次の高台を目指し飛んでいった。
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