テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

文字の大きさ
97 / 133
迎撃

その7

しおりを挟む
 

「───みつけた!」

日没までまだ少し余裕があるくらいの時間帯、空を飛び丘から丘へと飛びわたっていたラベンダーが言葉を漏らす。

今は木の葉に紛れ、樹上から村へとやって来ているオークの集団を睨んでいた。



【姫様!。オーク共がやはり村の方にもいました。数は…10といったところです。どーしますか?】

気持ち良く兵士達の前で弁を振るっていた夢魔王の頭の中に、村に一人残っていた部下ラベンダーの声が響く。

【いきなり何なのじゃ、お前は!?。こっちはそろそろぶつかるとこなのじゃ、そっちはお前だけで何とかするのじゃ!】

【え?…オーク10匹、私だけで、ですか?】

頭に響く声に、明らかに困惑が混ざってる事に夢魔王は気付く。


【…お前を何のために残したと思ってるのじゃ?】

【で、ですけど!?。でも、どーやれば…?】

はぁ、と夢魔王がリアルでため息を漏らす。

会話の聞こえている両脇の2人は別に反応しないが、脳内の声が聞こえる訳もない周囲の兵士は、いきなりため息をついた小さな人影に少しざわつきだす。


【日頃儂等には魔法しかないのだから腕は磨いておけといつも言っておいたはずじゃが…?】

【う…が、がんばります…】

ラベンダーとの念話も終わり夢魔王は軽く頭を左右に振ると、両脇の夢魔へと視線を飛ばす。


【…………最悪、村は諦めるのじゃ】

【…っ!!?】

【ラベンダー先輩っ!。ホント頑張ってくださいよっ!?】

【………はい。単なるお留守番だと思ってたのに…】

気持ち涙ぐんでる声が3人の頭に響く。

夢魔王は「駄目そうなのじゃ…」とぼんやり考えていた。



「とりあえず、初手でどれだけ纏めれるかが勝負です!」

樹上でラベンダーは気合を入れ、眼下のオークの集団を見る───10人がそれなりにバラバラに歩いてきている。

自分の魔法の範囲は魔道具《アイテム》を使わなければそこまで広くない。

中心に撃ち込んでどの程度巻き込めるか不安もあるが、村までもう距離はなく、ここで止めないといけないというのは十分に分かっている。

気合を入れたラベンダーは、樹上で魔法の詠唱を開始した。



「しかし兄貴。俺達だけで勝手に村襲って、本当に大丈夫なんですか?」

1匹のオークが、隣を歩くオークへと疑問を投げかける。

兄貴と呼ばれた問われた方のオークは、言った方を見ると、声を荒げる。


「バルガスの野郎は、何もかも自分の手柄にして我らが王ヴォーグ様に伝えてるんだぞ?。なら、明らかな手柄を持って帰るしかないだろうが!」

「でも、こんな勝手な事をやって、俺らがバルガス様に罰されやしませんか?」

兄貴オークは、弱気な発言をするオークの頭をゲンコツで殴った。

「いちいちお前はうるせぇんだよ!。とりあえず村落としちまえば、バルガスの野郎だって文句は言えない筈だろうが!」

「まぁまぁ、兄貴。もぉそれくらいで…」

後ろを歩いていたオークが駆け寄ってきて兄貴オークをなだめる。

前を歩いていたオーク達も、何事かと歩みを止めてそんな様子を見ていた。



(…なんか知らないけど、オーク共が集まってます!)

樹上で詠唱をしていたラベンダーは、千載一遇のチャンスと判断して、騒動の中心であるオークへと狙いを定めると、詠唱を終えた魔法を撃ちこむ。

「───麻痺パラライズ!!」



兄貴オークはいきなり体に痺れが襲ってきたことに気付いた。

横の弱気なオークも、自分をなだめに来たオークも同じ様に痺れが来てるのは一目瞭然だった。

「てめえら、魔法だ!。どこかに魔法使いがいるぞ!。探して殺せっ!」

兄貴オークが命令し終わると同時位に、3匹のオークが、麻痺パラライズで体が動かなくなったのか地面に倒れ込む。

無事な残りのオーク達は、広がって術者を探している。



(…3匹だけですか。思ったより巻き込めてませんね)

樹上でラベンダーは表情を暗くする。

出来れば半数位は麻痺させたいところだったが、やっぱりバラバラに広がられ過ぎていた。

暫くは麻痺《パラライズ》の効果が続くが、それもそれほど長くはもたない。

適時重ね掛けしないと、今は動けないあの3人まで加わることになって一層自分が不利になる。


(…あと2度ほど麻痺パラライズした後、あの3人に重ね掛けて時間を延ばさないとです)

とりあえずまだ自分の場所がバレてないうちに少しでも多くのオーク達の動きを止めないとと、ラベンダーは再び詠唱を開始する。

そして、少し離れた場所にいるオークに狙いを定めて魔法を放つ。


「─────麻痺パラライズ

狙われたオークは何か言葉を発すると地面に倒れる。

「いたぞ!そこの木の上だ!」

1匹のオークが木を指さし声をあげる。

指された木に居る人影を見つけると、オーク達は各々弓を射たり、足元にある石等を投じだした。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

【完結】エレクトラの婚約者

buchi
恋愛
しっかり者だが自己評価低めのエレクトラ。婚約相手は年下の美少年。迷うわー エレクトラは、平凡な伯爵令嬢。 父の再婚で家に乗り込んできた義母と義姉たちにいいようにあしらわれ、困り果てていた。 そこへ父がエレクトラに縁談を持ち込むが、二歳年下の少年で爵位もなければ金持ちでもない。 エレクトラは悩むが、義母は借金のカタにエレクトラに別な縁談を押し付けてきた。 もう自立するわ!とエレクトラは親友の王弟殿下の娘の侍女になろうと決意を固めるが…… 11万字とちょっと長め。 謙虚過ぎる性格のエレクトラと、優しいけど訳アリの高貴な三人の女友達、実は執着強めの天才肌の婚約予定者、扱いに困る義母と義姉が出てきます。暇つぶしにどうぞ。 タグにざまぁが付いていますが、義母や義姉たちが命に別状があったり、とことんひどいことになるザマァではないです。 まあ、そうなるよね〜みたいな因果応報的なざまぁです。

優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです

あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。 社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。 辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。 冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。 けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。 そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ“自分の居場所”を取り戻していく。 静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...