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迎撃
その8
しおりを挟む(…もぉ見つかりましたか!)
狙われたラベンダーは木を飛び出し、羽ばたき宙に出る。
飛びながら魔法の詠唱をするのは大したことではないが、それを下から飛んでくる矢や石等を避けながらとなると難易度は跳ね上がる。
幸いオーク達の遠隔攻撃の精度は低く、ほとんど避けなくても当たりそうにもない。
だが万が一命中して地面に落下しようものなら、こちらが魔法を放つよりも早く命を奪われるのは想像に難くない。
(…でも、そろそろ最初の3人の麻痺《パラライズ》が切れます)
ラベンダーは飛びながらなんとか詠唱を完了して、兄貴オークへと魔法を撃ちこむ。
たまたま寄ってきていたオークを1匹とはいえ巻き込めたのは幸運だったと思う。
(…私がここで食い止めるのです!)
ラベンダーは飛び新たに詠唱をしながら、口には出さずに強く思った。
「森の中から集団出ました!」
街を囲む高い壁の上で見張っていた兵士の一人が声をあげる。
「よし、儂等も出るのじゃ!。さっき言った作戦で皆は動くのじゃー!」
「「「お─────っ!!」」」
兵隊長を差し置いて、夢魔王は兵士達に号令を飛ばし、兵士は拳を上げて答える。
元々そういう素質があったのか、それとも気分を害さない様に空気を読んでいるのか、兵士達は異論も出さずに夢魔王に従っている。
片や「姫って実はすごいんですね!」と無礼に感心して、片や「…あぁ、姫様。あまり目立ちすぎるのは…」とハラハラしながら見守っている。
(…とりあえず、デイジーはあとでしっかり教育しなおせばいかんのじゃ)
お気楽に拍手をしている茶髪の夢魔は、自分の姫にこんな事を思われてるとは夢にも思っていない。
北門から夢魔王達が出ると、扉は再び閉ざされる。
森から出てきた集団は、東西に広がるように何個かのそれなりの部隊に分かれて配置され、それが何列かになって前進してくる。
夢魔王達も3部隊に分かれ、同じく東西に広がり少し前進していく。
「…しかしなんじゃ?。なんか壁みたいのが見えるんじゃが?」
おでこに手を当てて、目を細めながら夢魔王が前を見る。
言う様に、巨大な壁みたいなものが先頭にいて、距離があるのではっきりは見えないものの、その陰に隠れる様にオーク達が寄ってきている。
「なにやら、オークよりも大きな魔物があの壁を持っているようですが…」
望遠鏡を持った兵士が夢魔王に報告をする。
「オークよりも大きいじゃと!?。ちょっと望遠鏡《それ》を貸すのじゃ!」
兵士からひったくり、夢魔王は望遠鏡を覗く。
兵士が言う様にオークよりも大きな魔物がチラチラと壁の向こうに見えた。
(…あれは、トロールか!)
夢魔王は目をつぶり、急いで意識を飛ばした。
【不死王よ、不死王よ!】
【うるさい…もうすぐ着く。もう暫く耐えろ】
目をつぶったまま、夢魔王は不快さを顔に出す。
まぁ、黒衣に覆われているので他からは見えないのだが。
【そうではない、少々厄介な事になったのじゃ】
【一体何だ?。まさか夢魔王ともあろうものが、足止めすらも出来なかったとか言わないだろうな?】
念話だからこそ、普通の会話より相手の感情がこもるのか、不死王の発言はとても不愉快そうな響きに聞こえた。
【足止めも何も、先ほどやっと互いに進軍を開始したところじゃ、安心するのじゃ】
【そうか…では厄介とはなんだ?】
【………オーク共にトロールが混ざっておるのじゃ】
さて、不死王はどう答えるのか、夢魔王としてもとても興味のあるところだった。
【…………トロールは殺すな。絶対に、だ】
【そうはいっても、人間共はそうもいかんのじゃ?】
念話だから聞こえない筈の、大きなため息が聞こえた気がした。
【………人間に魔法なり撃ち込んででも、何としても止めろ】
【……あちらの王に代わって言う、感謝するのじゃ】
なんとなく「そうか」と聞こえた気がした。
夢魔王は不死王との念話を終えると、そのまま部下達へと一気に念話を飛ばす。
【トロールには傷つけてはならんのじゃ。これは絶対じゃ】
【でも姫、それを人間は聞き入れるんですか?】
【…一応そう伝えますけど、人間にとってトロールもオークも魔族で差はないかと思われますが?】
夢魔王はまた「はぁ…」と大きくため息をつくと、キッと表情をこわばめる。
【何をしてでも止めるのじゃ。これは命令じゃ、よいな?】
【わ、わかりました】
【…わかりました】
外には聞こえようのない聞こえない念話で忙しい夢魔王へ、横から気弱そうな声が聞こえた。
「…あの~。そろそろ望遠鏡を返してもらえませんか、魔術師殿?」
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