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迎撃
その10
しおりを挟む「おい!。さっさと追わないと村が無くなっちまうぜぇ?」
地面に倒れたままの兄貴オークが上空のラベンダーへと言う。
これであいつが先行した二匹を追えば、少しすれば自分達は動けるようになる。
そうなれば、今度は各個ばらばらに散って、確実にあいつを倒せばいい。
魔力も無限ってわけではあるまいし、いつまでも弓を避け続けるとも思わない。
(…もう少し耐えれば状況は好転する)
兄貴オークはこの後の必勝を頭に描き、未だ痺れてまともに動かない体をモゾモゾさせていた。
(…このままじゃ村が!、旦那様がっ!!)
ラベンダーは考える───今すぐにでもあの二匹を追うべきではないのかと。
本当は麻痺で動けないオーク達に止めを刺してから追いたいところだが、止めを刺すために地上に降りたら逆に自分の身が危ない。
未だ拘束出来ていない4匹を一気に拘束出来ればそれも可能なのだが、かなり広めに距離を取られているためにそれも無理だ。
(…どうしたら、どうしたら───痛っ!?)
迷っていつの間にか動きが止まっていたのか、出鱈目に放たれていた矢が、腕をかすめたらしい。
そこまで大量ではないにしろ二の腕から血が流れるのが見えた。
飛んで避けて何度も魔法を撃って、正直自分の体力もそろそろ限界が近い。
それなのにオークは未だ1匹も減らせておらず、それどころか村に向かった2匹はかなり離れていってしまっている。
(…あとから動けるようになったオークが来るでしょうけど、それでも今あの二匹を止めないとそれこそ取り返しがつかなくなります!)
ラベンダーはもう一度だけ倒れてる兄貴オーク達に麻痺を打ち込むと、先行して既に小さくなりつつあるオーク2匹を追おうと村の方を向く。
村を目指して走っていたオークの目の前に、道横の草陰から一つの人影が飛び出してくる。
「ハッハーーーーっ!」
その人影は地面を滑ってるような低い体勢、まるで低空タックルの様な格好で2匹に迫る。
そして飛び出した勢いを保ったまま、人影は左右に両手を広げ、拳を握る。
「「っ!!?」」
いきなり飛び出してきた人影に驚く2匹のオークの腰を各々の手で刈ると、そのままラベンダー達が戦っている戦場へと戻ってきた。
「嬢ちゃんはそのまま、そこで止めとけっ!」
人影は上空に向って声をあげると、そのまま2匹を未だ動けない兄貴オーク達の山に投げつける。
「今だ!。こいつらもまとめて止めとけ!」
「は、はいっ!?。───麻痺」
ラベンダーの放つ魔法で、兄貴オークと追加の2匹は麻痺で動けなくなる。
そして人影は、次に弓を放っているオークへと狙いを定めたのか、また低い体勢で飛び出す。
狙われたオークは弓を捨て、腰の棍棒を抜くと向ってくる人影めがけて全力で振り下ろした。
ドカッと地面を打撃する音が響き、人影は棍棒を斜め前にズレて回避すると、そのままオークの背に回る。
そして腰を抱くように腕を回すと腰の前で両手をクラッチして、そのまま後方へと一気に反り返った。
「ダーーーーーーーッ!」
グシャっという鈍い音を響かせて、まるで橋を架けたかの様に、オークの頭が地面に衝突する。
反り投げられたオークの重量が首にのしかかり、オークの首は変な方向に曲がっている。
人影はクラッチを解き、次のオークへと目標を定めると再び飛び出した。
地面に突き刺さっていたオークは、思い出した様に体を倒し、ドスンと倒れる。
その姿は誰が見ても息を引き取ってるのは明らかだった。
目の前で倒された仲間を見て気合を入れ直したのか、オークは腰を落とし迫ってくる人影を見る。
そして大振りはせずに軽く棍棒を横に薙ぐ。
軽くと言ってもオークは、人より一回りは大きい上に、筋力には恵まれた種族で、当たればただで済まない威力であった。
飛び掛かっていた人影は薙がれた棍棒を見て足を止め、軽く腰を落とした態勢で身構える。
「くらえーっ!」
オークが人影めがけて振りかぶると、そのまま殴りかかってくる。
「ウィーーーーっ!」
人影は少し横に避け棍棒を躱すと、横に突き出した腕を振りかぶって頭の下がったオークの首めがけて、雄叫びをあげながら振り切る。
それはいわゆるプロレス技のラリアットと呼ばれるものだった。
この小さい体のどこにそんな力があったのか、首を刈られたオークはその場で一回転をして地面に俯せに落下する。
「この、人間がーーーっ!」
腕を振り切った人影へと、別の駆け寄ってきたオークが棍棒を振り下ろす。
棍棒は人影の頭に当たり、ゴツっという鈍い音が響く。
打たれた人影はオークの方へ倒れ、その腰にすがる様に抱きついた。
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