テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

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迎撃

その11

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「なんだ、まだ生きてるのか?。鬱陶しくへばりつきやがって!。離れやがれ!」

オークが声を荒げてはがそうとする中、人影は殴られた頭から血を流しながら、すがりついた腰に手を回すと腰の後ろで両手をクラッチさせる。

「てめぇ、離れ───」
「だっしゃーーーーっ!!」


そして、後ろに反りながら今度は雄叫びと共に後方へとオークを投げ飛ばす。

投げられたオークは大木に当たり落下して、そのままずり落ちる様にその場に尻から着地する。

そして人影は、右腕を横に突き出しそのままオークへと突進してきた。

「ダーーーーっ!!」

そして木と挟むようにオークの首めがけて突っ込んだ。


ドスンという鈍い音と共に人影の腕が首を打撃して、オークを大木と腕に挟む様に叩きつける。

少し遅れてベキベキと音をたてながら、人影が首を打撃した場所から大木がへし折れていく。

いきなり現れた人影に一気に蹂躙された仲間を見て、残されたオークは逃げようと背を向けた、その時だった。

「───麻痺パラライズ

そんなオークの背へと、上空から魔法が飛んできて、オークはそのまま地面に俯せで倒れる。


大木をへし折った人影は、そのままさっき逃げようとして、魔法で倒れたオークへと近寄っていく。

「ふんっ!!」

そして、背後から首に両腕を回すと、腕に一気に力を込めて捻る。

バキッという鈍い音がして、オークは完全に動きを止めた。


「…もう動けるのはいないな?。あとはそこの山で終《しま》いだ」

人影はそう言うと、兄貴オーク達の山へと歩を進めていく。

「て、てめぇは何者だっ!。く、来るんじゃねぇっ!!」
「「「ひぃーーーーーっ!」」」

痺れて動けない兄貴オークは、精一杯の虚勢を張りながら人影を威嚇する。

だがそんなもので怯むはずもなく、人影はおもむろに1匹づつオークを持ち上げると、首をバキっとして淡々と止めを刺していく。

そして最後の一匹まで止めを刺し終わると、上空へと顔を向けた。



オークも倒し終え安全になった地上へとラベンダーはゆっくり降りてくる。

そして、助けてくれた人影を恐る恐る見る。


「…あの、ホーガンさん…ですよね?」

「おう!…ではないですね、はい。ラベンダーさんのおかげで手早く処理できました。ホッホッホ」

さっきまで暴れてた姿がウソのように、優しいおじいさんに戻ったこの村のまとめ役。

そして目の前のラベンダーをじぃーっと上から下まで見る。

「褐色のエルフとは珍妙と思ってましたが、やはり夢魔だったのですね」



言われてラベンダーは今更ながらハッと気付く。

空を飛んでるところも、魔法を使ってるところも、そして背中の羽も隠さないまま、この老人に見られてしまっている事を。


「いや…あの…これはですね…そのっ!」

頭をフル回転させて考えるものの、良い言い訳が全く浮かばないラベンダー。

暫くワタワタした後、観念したように顔を地面に向ける。

「えっと…その…はい…」

そんなラベンダーを見る老人の目は、とても穏やかに見える。


ラベンダーは上目遣い気味に老人を見ると、弱弱しい声で言う。

「…あの、私もこのまま退治されちゃうのでしょうか…?」

そう言われて老人は、堪えきれずに笑い出す。

「ホッホッホ、そんな訳ないじゃないですか。貴女は一人で村を守ろうとしてくれてたのでしょう?」

「…あ、えっと…その…はい。旦那さんもいますし、私が守らないと、と…」

老人はそんなラベンダーを見ながら、うんうんと頷く。

「では、私が貴女を退治する理由はありません。むしろ村の者を代表して言わせていただきます…ラベンダーさん、本当にありがとうございました」

そう言って老人は、ラベンダーに深々と頭を下げた。


「ちょ、ちょっと!。ホーガンさん、そんなのやめてください!。それに、結局私は足止めすらまともに出来なかったわけですし、そんな言われることは…」

老人は頭を上げ目の前のラベンダーを見て、ワタワタと忙しく動いて焦っているラベンダーの手をそっと取ると、まっすぐ見る。

「貴女はこの村の為に戦ってくれた。そしてそのおかげで村には何一つ被害は出ていない。これが全てです」

「ホーガンさん…」

老人は目を細め、うんうんと頷きながら「よく頑張りましたね」とラベンダーにやさしく語りかける。

ラベンダーの視界は一気に滲み、しばらく治まる事はなかった。



「………でも、よく夢魔なんか知ってましたね?、ホーガンさんは」

オークの遺体を片付けながら、ラベンダーは老人に話しかける。

「今は隠居してますが、私は冒険者をしてた事もあるんですよ。…昔々の話ですけれどね」

老人は作業の手は休めないまま、楽しそうにホッホッホと笑う。

ただ、オークの巨体を軽々と持ち上げ、掘った穴へと放り込んでる姿は、どう考えても一般的な老人ではなかった。


「へえー、そうなんですねー」

人知れず動いた2人の活躍で、村の危機はとりあえず回避されるのであった。
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