テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

文字の大きさ
102 / 133
迎撃

その12

しおりを挟む
 

「どういうことだっ!?…ウィズ=ダムに魔法兵団が編成されたとか、聞いた事ないぞ…!?」

少し小高い丘から戦況を見ていたオークの隊長バルガスは思わず声を漏らす。

見えている戦況は極めて不利な状況だったからだ。


炎や雷的なものは全く見えないが、壁をさせてるトロールと部下達がどんどん倒されていき、そこに人間共が止めを刺していってるのが見える。

10に分けた部隊は既に6が壊滅、3が交戦中、最後尾につけていた部隊は動けずに固まってる、そんな様子だった。


「ぐぅ…忌々しい人間共め。魔法だとあのノロマの壁など無力じゃないか!」

怒りのまま、さっきまで腰かけていた小さな石碑を蹴り飛ばす。

なにか文字の彫られていた石碑は呆気なく崩れ、落ちた衝撃なのかあっけなく2つに割れていた。



「ど、どうなさいますか!?、バルガス様っ!!」

部下がオロオロしながらこちらに指示を乞うてくる。

ただ現状、どこをどう考えても状況を好転できる要素が見当たらない。

(…こんな事が本隊に知られれば、俺様は無能と烙印を押されるどころか、ヴォーグ王に罰されてしまう!)

バルガスは指を噛みながら右に左にとウロウロしながら、なにか逆転の策がないかと考える。


「バルガス様っ!、ここは一刻も早く撤退の指示をっ!」
「バルガス様、早く指示を!」
「バルガス様っ!!」

部下達が群がって体にすがってきた。

「うるさーーーーいっ!。今考えてるんだ!、邪魔するなっ!!」

そんな部下を怒りのままに、思いっきり蹴り飛ばす。



「痛てて、いきなり蹴らなくても…む?、なんだこれは?」

蹴り飛ばされたオークは自分の顔の横の地面がなにがモコモコ動いてるのに気付く。

少し待つとどんどんそれは地面から飛び出してきて、それが手の骨だったんだと分かった。

嫌な予感がして周囲を見ると、周囲からもどんどん腕の骨がまるで急激に成長する草の様に生えてきていた。


「なんでいきなりこんな…ハッ!?」

オークは目の端に映った割れた石碑を見て気付く───もしかしてこれを壊したせいで封印していた魔物が出てきてるのではないのかと。



「なんで、いきなり骨がっ!!?…ぐ、離せっ!」

バルガスが生えてきた腕に足首を掴まれ、剥がそうと暴れている。

周囲のオーク達も足を掴まれ、手にした棍棒等でなんとか対処しているが、どんどん生えてくる腕は止まる事はなかった。


「バルガス様がさっき蹴飛ばした石碑、あれではないでしょうか!!?」

「はぁっ!?、あんな小さな石碑で封印できる量じゃないだろう、これはっ!!」

そう言いながらバルガスは頭に浮かんだ考えに冷や汗を流しだした。


(…俺達が知らないだけで、ウィズ=ダムには優秀な魔法技術があって、それで本当にこのアンデットを封印していた!?)

いやいやと首を振る。そんな訳がないじゃないかと。

そんな技術があったというのなら、この国はもっと大国になっているはずだ。

それなのに他の2国に押さえ込まれたままこんな田舎に引き籠ってるのは、弱小国だからだろう、と。


(…ただもし。もし戦を好まない国民性で、攻めてきてないだけだったとしたら、あるいは…)

どんどん生えてくる骨を処理しながらも、バルガスの顔色は悪化していく。



その時、バルガスの視界の端に黒い影が突然映る。

なんだ?と首をそちらに向けると、そこには黒いフードを身に着けた骸骨兵《スケルトン》が立っていた。

その骸骨兵《スケルトン》が薄気味悪い笑いをしたかと思うと、バルガスの意識はそこで消え去り、そのまま勢いよく地面に倒れる。

周囲のオーク達もバルガス同様に次々に倒れていき、気付けば立っているオークは1人もいなくなっていた。



夢魔王が生命力を奪う技『エナジースティール』を使う様に、高位の不死族にもまた理不尽な技がある。

それが触れる必要すらなく周囲の生命力を奪う、『エナジードレイン』と呼ばれる技である。

その力はまさに理不尽で、裁量次第で範囲内の生物の命を一瞬で奪う事すら可能なものだった。


ちなみに、サンド=リヨンでの戦場にて操られた兵士達が倒れたり、ジュライの街で冒険者が一瞬で灰になったのもこれが理由であった。


───モゾモゾモゾ

生えてきていた腕は、絶命して倒れているオーク達を次々と地面へと引き込んでいく。

そして、数分と経たずに小高い丘は、さっきまでいたオークの影も形もない、静かな風景となった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

【完結】エレクトラの婚約者

buchi
恋愛
しっかり者だが自己評価低めのエレクトラ。婚約相手は年下の美少年。迷うわー エレクトラは、平凡な伯爵令嬢。 父の再婚で家に乗り込んできた義母と義姉たちにいいようにあしらわれ、困り果てていた。 そこへ父がエレクトラに縁談を持ち込むが、二歳年下の少年で爵位もなければ金持ちでもない。 エレクトラは悩むが、義母は借金のカタにエレクトラに別な縁談を押し付けてきた。 もう自立するわ!とエレクトラは親友の王弟殿下の娘の侍女になろうと決意を固めるが…… 11万字とちょっと長め。 謙虚過ぎる性格のエレクトラと、優しいけど訳アリの高貴な三人の女友達、実は執着強めの天才肌の婚約予定者、扱いに困る義母と義姉が出てきます。暇つぶしにどうぞ。 タグにざまぁが付いていますが、義母や義姉たちが命に別状があったり、とことんひどいことになるザマァではないです。 まあ、そうなるよね〜みたいな因果応報的なざまぁです。

優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです

あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。 社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。 辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。 冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。 けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。 そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ“自分の居場所”を取り戻していく。 静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...