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迎撃
その13
しおりを挟む先程までオーク達が陣営としていた小高い丘。
そんな丘に1つだけ人影が残っていた。
それは、さっきバルガスの横に現れた骸骨兵《スケルトン》である。
その骸骨兵は胸元から黒い布を取り出すと、自分にくるくると巻いていく。
そしてしばらくしてそこに立っていたのは、黒衣の冒険者───不死王その人だった。
「ちょ、ちょっと待つですのぉ!…シェ、シェイドさん。置いて行かないでくださいですのぉ」
ハァハァと息を切らしながら、少女が丘の下から登ってきており、その後ろからは、巨大な馬の様にも見える骨が着いてきていた。
神官の少女と、不死王の愛馬(?)である。
そんな少女の方に首を向けると、不死王は愛馬に手を向ける。
その瞬間、愛馬は黒い霧に包まれ忽然と姿を消した。
「…あれ?。愛馬さんはどこに行きましたの?」
少しだけ息を整え終わった少女が黒衣を纏った不死王へと声をかける。
「知らん…とりあえず呼べばまた出てくるので気にするな」
「そーなんですの…まだここまで走ってきてくれたお礼も言ってませんのに。今度言いますの」
不死王はそうかというと、遠くの戦場に目を向ける。
どーやら夢魔王達が上手くやったらしく、オーク達はほぼ壊滅状態に見える。
「…今から戦場に向う。ある程度離れた場所に女は置いていく、大人しく待ってろ」
「分かりましたの。シェイドさん、皆さまをよろしくお願いしますの」
何も答えずに不死王は軽々と少女を抱えると、そのまま一気に丘を駆け下りていった。
「残りはあの部隊だけなのじゃが…」
夢魔王は少し離れた場所にあるオークの部隊を見る。
壁を手に持ち、こちらを向いて立っているのは、間違いなく昔に魔王城で会ったことのあるトロール王本人だった。
(…正直、撤退してもらいたかったんじゃが)
夢魔王は遠くに見えるトロール王をじっと見た。
「魔術師殿、あと1部隊です!。さぁ、行きましょう!」
夢魔王の悩みも知らず、順調に討伐を出来て機嫌のよくなった兵士が話しかけてくる。
「兵士達よ、少し待つのじゃ…」
そう言うと夢魔王は周囲を見る。
両脇のガーベラやデイジー達も上手く対処できたようで、部隊を壊滅させたのかこちらへと寄ってきている。
「なるほど、全軍揃ってから行くわけですね!。さすが魔術師殿です!」
兵士はお気楽に夢魔王を称賛していたが、そんな声を耳に入れずに夢魔王は、ガーベラ達に念話で指示を送っていた。
【ガーベラ、デイジー。目の前のトロールが見えるか?】
【…はい、姫様。本当にあの方がオークに従っていたのですね】
デイジーは良く分からず、疑問を2人に投げかけた。
【あのトロール、なんか凄いんですか?】
【…ちょっと!。トロール王に対して、いくらなんでも不遜ですよデイジー!】
夢魔王がリアルではぁと大きなため息を漏らした。
念話の聞こえない横にいた兵士が不思議そうな顔で見ている事に、夢魔王が気付くことはなかったが。
【………デイジー、おぬし後で説教じゃからな?】
【!?。なんでですかぁぁぁぁぁっ!】
「…他の部隊が全滅、だと!?。バルガス様からの指示はまだか!?」
「いえ、まだ退却の指示の狼煙《のろし》も上がっていません…どうしますかっ!?」
この部隊の隊長を任されていたオークは冷や汗を流す。
このままここに居ても、他の部隊同様に倒されるのは明確だ。
では自分達の部隊だけでもバルガス様の元に戻り、再戦に備えるのが得策ではないのか?。
そう都合よく解釈をすると、振り返り部下達に指示を飛ばす。
「退却の指示はないが、バルガス様の方のなにか不手際であろう。我らは再戦に備え一時退却を……グッ!?」
指示を言い切る前に、隊長のオークは胸部に走ったとんでもない痛みに声を失う。
下に目を向けると、自分の胸から血を滴らせた巨大な剣が生えてきていた。
次の瞬間その剣は横に薙がれ、隊長のオークの体は血をぶちまけながら真っ二つになって転がった。
そんな隊長の姿を見て、周囲のオーク達が言葉を失って立ち尽くす。
動けなくなっているオーク達の首辺りを、ブンッと風を切って巨大な剣が横に薙がれる。
そして、手前に並んでいたオーク達の首が全て宙に飛び、体は頭のあった部分からドクドクと血を流しながら、地面に次々に倒れていった。
「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」」」
我に返り、残ったオーク達が翻って逃げようとする。
そんなオーク達の目の前を、回り込んできた巨大な影がふさぐ。
「…退くものか!…退かせるものかっ!!」
そう言い放ち、巨大な人影はオーク達へと容赦なく剣を振るう。
そして30秒と経たず、動くオークはそこからいなくなり、残ったのは返り血に染まった巨大な影…トロール王だけとなった。
「エボニーよ…ランスウッドよ…ウィローよ…お前達の無念、ここで晴らす!。うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
目からは涙を流しながら、トロール王は空へと大声で吠えた。
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