無口な魔法学生の昼寝場所

Ryo

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第1章

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 相変わらず人の気配のしない森の中を、ブラッドは1人歩いていた。

 その瞬間は学院内で唯一といっても過言ではなく、本来、自分が求めていたものだ。


 しかし今は、その先にある場所が目的地になっている。


 草木のざわめきと、小さな鳥たちの鳴き声だけが漂う空間。普段は意識していない、そんな自然の音だけが、今は心地良く耳に届く。

 春の木漏れ日が優しく差し込む木々の間を抜けーー、そこには1人の先客。



「……」



 ブラッドの気配に敏く気付いたその女生徒は、一瞬だけ顔を上げると、すぐに手元の本へと視線を落とした。

 また来たのか、と言いたげな面倒そうな表情も、こちらに興味がなさそうな視線も、ブラッドにとっては珍しく、そして今は求めてやまないものだ。

 森の中、ポッカリと空いたスペースに、何故かテーブルとソファが置いてある。

 3人掛けの長いソファの端に腰掛けている女生徒に遠慮なく近付き、その反対端へと座った。



「おやすみ、カアム」

「……」



 背凭れに身体を預け、目を閉じる。

 声を掛けても、女生徒カアムから返事はない。いつものことだ。


 ただ拒否するような言葉もなく、ただ静かに本のページを捲る音だけが聞こえる。

 間に1人分のスペースはあっても、近くにある人の気配は感じ取れる。

 いつもは煩わしいだけのそれも、ここでは妙に安心するのだ。


 深く息を吐いて力を抜いたブラッドは、そのまま睡魔へと意識を委ねていった。
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