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羅刹の風神、雷神
現れた、闖入者の女たち
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朝、目が覚めると金縛りにあっていた。腰も手足も動かせず、身体全体が固定された感覚。カーテン越しに差し込む朝日は、平日ならばバイト先に遅刻するのではと驚き、飛び起きるには十分な光量だ。
しかし、今の状況はそんなことをのんびり考えていられるものではなく……。
「はむぅ~。ん……んーん」
ねっとりとした声。やや粘着的だけど、甘ったるい気怠さ。
ぼくの下半身を包み込むようにして覆いかぶさり、露出させた男性器を口に含んでいる女の人。顔以外の全身を一体化しているタイツで覆っているという出で立ちで、豊満な身体の線が強調されており、ぼくの足に布地ごしの二つの大きな弾力がのしかかっている。髪は長く、顔つきは女と言うよりも少女と言った風な印象がある。だから、その行為にはより初心なものが感じられたのかもしれない。
「んん。ん。んー」
彼女は熱心にフェラチオを続けている。その間、延々と同じ行為の繰り返し。まるで、それしか愛撫の手段を知らないと言うように。
「こいつー、全然勃たねーじゃん。不能なんじゃないのー?」
一言で表すと昔のコギャルっぽい口調。動けない身体のまま何とか視線だけを彷徨わせると、もう一人の女性の姿が視界に入った。豊満な胸の膨らみを押し上げて強調するような腕組みをしながら、畳の上に敷いた布団に仰向けになっているぼくを見下ろしている。ぼくのペニスをしゃぶっている人と同じ服装だったが、髪はショートヘアで眼差しは大分冷めている。
「……ん。私、やってみる」
耳元で聞こえた、第三の声。何事かと思っていると、ぼくの視界が見たことのない女の人の顔で遮られ、柔らかい少女の唇が口に押し付けられた。
間近で見た彼女の瞳は栗色で、肌は桃色に上気していた。背中まで伸びた髪の毛の一部が首から垂れ下がり、ぼくの頬に触れる。ぼくの視線に気づいて恥ずかしく思ったのか、綺麗な瞳を閉じ、あわさっている唇に一層の力が込められ、艶めかしい舌の感触がぼくの口内に入り込み、温かい吐息が吹き込まれた。
キス……こんな可愛い女の人と。
これが淫猥な夢なのだとして――実際、稀に見る淫夢のような昂揚感がある――相手が、ぼくの想像力が形作った架空の存在に過ぎないにしても、今というこの時間は至福と呼べた。
ぬちゅ……と音を立て、唇が離される。唐突な接吻の終了に一抹の寂しさを覚えたけど、不安げな表情
の少女の口元からダラリと垂れている、ぼくと彼女のものが混ざった唾液を見ているうちに、何かが身体の奥底から高ぶるのを感じた。
「ね。もっと気持ちよくしてあげたいから……」
少女はそう言うと、身につけた全身タイツの胸元を自らの手でまさぐって見せた。他の二人に比べると小ぶりな乳房。間近で見るその布地は薄く、乳首の突起が透けて見える。
「お、勃ってる。勃ってる」
コギャル女の声。言われてみると、ぼくの股間に熱と重量が集約し、膨張した血管に伴って屹立していく陰茎の感覚がはっきりと伝わってきた。
フェラチオ女がペニスから口を離したらしく、解放された肉棒は天井に照準を合わせるかの如く、全体が持ち上がっていく。身体が麻痺しているというのに、男性器は別の生き物のように蠢いていた。
「これ、ペチャパイが好きなのかなぁ」
フェラチオ女の間の抜けた声。ぼくと顔を見合わせていた少女が少しムッとした顔になったが、ぼくから視線を逸らすこともなく、黙っていた。
「何でもいいよ。早く精子貰っちゃおうよ」
視界の隅で、急に衣装を抜き始めるコギャル女の姿が映った。
「えー。サキ、見ていただけだったでしょ?」
フェラチオ女が抗議の声を上げた。
「あとから変えるのは無しって言ったじゃん。じゅーんばん、じゅーんばん」
コギャル女はあっという間に全裸となり、くしゃくしゃにした己の全身タイツを放り投げた。投げられたそれはぼくの頭のすぐ横に落ち、染みついていた女の体臭が鼻孔をかすめる。
ぼくと一番密着している少女が、さっきまでぼくと接吻していた唇をそっと耳に近づけてきて囁く。
「私、三番目だけど。我慢しなくて、いいから、ね?」
まるで内緒話をしているかのような、耳をくすぐるひそひそ声。その優しい言葉を聞くだけで、ぼくは猶更に興奮してしまった。
「すっげ……やばい。まだ大きくなるじゃん」
コギャル女が嬉々としてぼくの股間に跨ってくる。彼女が腰をゆさぶる度に、二つの大きな乳房がゆっさゆっさと揺れた。
(え……。この人と初めてをやるの?)
口づけをかわした少女に視線を戻す。
(可愛いなあ)
他の二人も客観的に言って美少女なのだと思う。でも、ぼくとしては、こっちの女の子に対して、一番惹かれるものがあったのだ。
ぼくは心の中で強く拒んでみた。夢であるならば……ある程度、自分の意識で融通が利くはず。
「それじゃ、いっただきまーす」
男根の先端が、コギャル女の女陰と接触する。
直後、バシっという高い音とともに、部屋のドアが乱暴に開けられる。コギャル女が「えー」と素っ頓狂な声をもらした刹那、何か鋭いものが空を切る。
「きゃん!」
黄色い悲鳴を上げ、壁に叩きつけられるコギャル女。
「え……なに……なに?」
フェラチオ女が顔を上げ、ドアの方を凝視する。
「あ……まさか、レイヤーズ? どうして、どうして、ここに……」
ぼん、と床から天井に向かって軽快な音が木霊し、フェラチオ女の全身が宙を舞い、床に叩きつけられた。フェラチオ女はカエルみたいな声をもらし、倒れ伏した。
ぼくの意志が届いた……とは、とても思えない。突然の新手の闖入者が割り込んで来たらしい。
「いや、嫌ぁぁ……」
少女がぼくから身を離し、立ち上がる。途端にぼくの身体が地面に落とされた魚のように跳ね上がる。どうやら、ぼくにかけられていた金縛りが解けたらしく、腕に力を込めると動かせるのを実感できた。
「あなたたち、羅刹党の戦闘員ね。誰の命令で、こんなことを?」
凛とした女性の声色。束縛から解放されたぼくは上体を起こし、その人物の方を見つめる。
肩の辺りまで伸ばした髪を青く染め、紫を基調とした和風の衣装。ひらひらとした青紫色の着物を、紋様の描かれた朱色の腰布で結んでいる。胸元は遊女を思わせるほど大きく開かれ、小麦色の肉感的な双丘が目を惹く。そして、下の丈はミニスカート並みに短く、色つやの良い太ももが露わになっており、ひじの上の辺りまで伸ばされた藤色のニーソックスが色香を際立たせていた。
その女性は腰に身につけている鞘から日本刀を引き抜くと、片手で振り上げ、切っ先を相手の少女に向けていた。
「むだむだ。羅刹党の戦闘員が任務そっちのけで男を喰い物にするなんて、こいつら下っ端が勝手に動いているだけでしょ」
ぶっきらぼうな物言い。紫髪の女性の後ろから新たに現れたのは、赤毛のサイドテールの女性。
もう一人のその闖入者はセーラー服と思しき衣装に身を包んでいたが、パッと見てウエディングドレスと見紛うほどの純白と、こちらも短すぎる丈のスカートは、とても現実の学生のものとは思えない。おまけに、彼女は身の丈ほどもある杖を手にしており、派手なピンク色はさながらアニメの魔法少女が使うステッキを連想させる。
二人の女性がゆっくりと詰め寄る。残された少女は怯え切った様子で後ずさりをし、背中が後ろの窓と密着した。
「痛い目にあいたくなかったら、大人しくしていなさい」
青髪の女性は端整な顔立ちを崩さなかったが、そこには有無を言わさぬ気迫がある。
少女は意を決した表情で後ろへ振り返ると、両腕で顔を守りながら窓に突っ込んで、ガラスを突き破った。破れたカーテンが尾を引き、外へ飛び降りた少女の全身から離れ、内側に戻ってきた。
「え……ここ、三階」
ここはアパートの三階なのだ。到底無事とは思えない。
ぼくは急いで窓枠に駆け寄り、道路を見下ろす。見ると、あの少女が一目散に駆けていく様子が目に入った。あの子が無事らしいことを知り、ぼくは自然と安堵していた。
「こちら、カナデ。被検体Gを確保。彼を襲っていた羅刹党の構成員三名と遭遇。二名を拘束、あと一名は現在逃走中……」
女性の声を聞いて振り返ると、青髪の女性がスマートフォンのような形状の黒い端末機を取り出し、誰かと話していた。
もう一人の赤毛の女性は、全裸で大股を開いたまま気を失っているコギャル女の股の辺りにそっと触れていた。ビクンとコギャル女の身体が痙攣し、股間から黄色い液体が垂れて畳を濡らした。その傍らでは、やはり意識のないフェラチオ女が全身を震わせている。
「あの……死んじゃったの?」
ぼくは動揺しながらも、赤毛の女性に話しかけた。女性はコギャル女から手を離し、こちらに振り返る。サイドテールがくるりと翻った。
「まさか。ちょっと痺れさせて動けなくしただけだよー」
彼女はそう言うと、ニヤっと笑って見せた。
「よ、眼福だろう? おとこのこっ」
彼女が指さした先。そこを見ると、怒張したぼくのペニスが男を主張していた。ぼくは猛烈に恥ずかしくなって、股間を両手で押さえる。
「……了解。被検体Gはこちらで保護。引き続き、残りの構成員を追跡します」
青髪の女性が通話を切った。
「あのー。もしかして、被検体Gって僕のことかな……」
ぼくが青髪の女性に尋ねると、赤毛のサイドテールが割って入る。
「ゴキブリの略だよ~、このゴキちゃん」
「え、ええ……?」
あっけにとられてしまい、出す言葉も思いつかない。
「ナギ」
青髪の女性に冷たく睨まれ、赤毛の女性がケラケラと笑い出す。
「へへ。じょーだんじょーだん」
どうも、この人は他人をおちょくるのが好きなタイプなのかもしれない。そして、青髪の女性の方は対照的に、生真面目で大人びている感じがする。服装はどちらもまともじゃない際どいものなんだけど……。
「さっきの子を追うよ。……あなた、早く服を着なさい」
言われて気がついた。あの人たちに下着を脱がされたから下は裸で、上はシャツ一枚という恰好。一番みっともないのはぼくだった。
ぼくと二人の女性は一緒になって外へ飛び出した。
この女性たち――青髪の方はカナデ、赤毛のサイドテールの方はナギという名前らしい。コスプレ衣装にしか見えない出で立ちだけど、明らかに現場慣れした様子だ。
あの二人の全身タイツの女たちは部屋に残してきたけど、あとでこの人たちの仲間が来て連行してしまうらしい。
「カナデが連絡したから五分もしたら回収班が来るよ。ま、あたしの電磁縄は一時間くらい持つけどね~」
ナギは何やら超常的な力を持っているらしい。それはカナデの方も同様だろうし、三階から飛び降りても無事なうえにすぐ走り出せたあの子も……。
「あの……さっきの女の子、見失っちゃったんじゃ……」
ぼくは息を切らしながら、前を走っている二人に声をかけた。
「大丈夫。衛星から送られてくる情報で、あの子の位置情報は把握済みだから。それに、あんな恰好で表通りを走ったら目立ちすぎだもんね。すぐ見つかるよ」
そういうナギさんも随分目立つ恰好じゃあ……と言いかけたところで、カナデが叫んだ。
「いた。こっちよ」
カナデの一言で、一行は方向転換。裏路地を一気に突っ走る。カナデは「いた」と言うけど、あの女の子の姿はまだ見えてこない。まだ走るのかと、げんなりしてしまう。ぼくは付いていくだけで精一杯なのに、二人は全く息を切らしていなかった。
三人で外を走っていると、案の定、裏路地とはいえ人々の視線と遭遇する。映画のロケか何かとでも思われているのか、好奇の視線が身体中に刺さった。ぼくにはその視線の一つ一つが痛いくらいに恥ずかしかったが、一緒にいる二人に気にしている様子は見受けられなかった。
あの子の後ろ姿が見えてきた。あの子は現状に酷く困惑していたらしく、左右を何度も見渡しながら、次に進むべき道を迷っているように見えた。
「もう、逃げられないよ」
「観念してねぇ。痛くしないからあ」
女の子は「ひい」と声を張り上げ、右側に飛び込んだ。
(あ。あっちは……)
そこは袋小路になっていた。女の子は反射的に急停止してしまい、即座に追いつかれる結果となってしまう。
じりじりとにじり寄っていく二人。華奢な足を女鹿のようにガクガクと震わせる全身タイツの少女。この少女の跳躍力を以てすれば、塀を乗り越えてまだまだ逃げようとすることはできたのかもしれないが、それ以上に化け物じみた力を持っている二人が相手では、おそらく無駄だろう。
そんな様子だから、少女が酷く可哀そうに思えてしまう。ぼくは小動物を怖がらせないように気をつけるような足取りで、相手に少しずつ近づいていった。
「あの」
怯える彼女を心配させまいと声をかける。すると、前にいたカナデがさっと腕を横に伸ばし、ぼくの進路を塞いだ。
「……え」
険しい顔つきのカナデ。それに、ナギも急に目を細め、「気をつけて」とぼくに言った。
対峙する少女のすぐ後ろの空間で、黒い渦巻のようなものが出現した。それは瞬く間に人間の形となり、一人の女の人の姿が現れた。
尻の辺りまで伸ばされた黒髪。異様なほどグラマラスで、ムチムチした肉体を覆う布地は極わずか。黒で統一されている、紐のような細いランジェリーに、Tバック。衣装というよりも、もはや裸に近い。
そして、手に持っている丸めた鞭には、鉛色のトゲ上の突起物が幾つもついている。……一目で、今まで一番ヤバイ人だというのが分かった。
「あうぅ。ライキさまぁ……」
女の子が震えながら、相手の名前らしき言葉を言う。それは、許しを請い、懇願する者の姿に見えた。
「勝手なことばかりやってくれたね、おまえ」
新手の女はそう言うと、鞭で車道をバシンと叩いた。少女は驚き、すくみあがった。
「あの……全部、サキが計画したことなんです。私は付き合わされただけで……あの、た、助けてください」
「もういいわ。あなた、消えなさい」
鞭を持った女の全身が空間に溶け込むようにして薄れだし、朱色の炎の渦へと変じた。少女は慌てて逃げ出そうとしたが、その両足を絡み取るようにして、炎が少女の全身を呑み込む。
「う、ぎゃあ! 熱い……熱いよぉ……」
「あ……」
思わず飛び出そうとするぼくを、カナデが制する。
「カナデさん、このままじゃ、あの子が……」
「……私たちに任せて」
カナデはそう言うと、隣のナギと頷き合う。カナデが日本刀を引き抜き、ナギは杖を振りかざした。
二人が口をそろえて掛け声を上げ、カナデの日本刀が振り下ろされ、ナギの杖が緑色の光を放った。すると、少女を捉えていた炎が真っ二つに裂け、そこに緑色の可視化された風のようなものが追い打ちをかけ、炎を吹き飛ばし、かき消した。
炎が消えた時、少女はしばらく無言で立ち尽くしていたが、やがて、どさりと音を立てて地に伏した。不思議なことに、少女の服装は全く焦げておらず、火傷の跡も見られなかった。
「あれ……炎だったの?」
恐る恐る尋ねたぼくに、カナデが答える。
「いいえ。この子が感じた熱さは本物だけど、今のはライキが投影した炎のイメージ。ライキ自身も幻影だったみたいね」
「そ、それじゃあ、あの子は何ともないの?」
「いや……」
言いかけて、言葉を切るカナデ。不穏な気配。
「この子……今ので、内なるサイオエナジーの大半を燃焼させられてしまった。生存にサイオエナジーを要するサイオニックにとって、これは大変危険な状態。このままだと……死ぬわ」
意味の分からない言葉が複数あったが、少女が命の危機に瀕しているという事実だけはわかった。ぼくは背筋が凍りつくような恐怖を抱くと同時に、ぼくの中で、少女があまりにも可哀そうだという想いが沸き起こる。
「そんな……。助けられないの?」
「…………」
口を閉ざしてしまう、カナデ。ぼくはすがる想いで彼女に頭を下げ、少女を助けてあげてと頼んだ。
「方法が無いわけじゃあ、ないよー」
口を挟んだのは、ナギの方だった。ぼくの頼みの綱は、すぐさまナギの方へと繋がる。
「本当? どうすれば良いの?」
「ナギ、あなた」
カナデがやや咎めるように言った。
「……教えても良いでしょ。今から本部に運んだところで間に合わないだろうし、そもそもうちの設備でどうなるかも定かじゃないんだからさあ」
ぼくはナギに頼み込んだ。もし少女の命を助けられるのなら、どんなことをしてでも助けたいと、心の底から思った。
「えーとね。あたしに頼んでどーこーして貰うってわけじゃあないんだよね。頑張るのはあんたの方だよ、ゴキちゃん」
「え……ど、どうすれば……」
「サイオニックのサイオエナジー。これを損なわれた分だけ補充してやれば、生き永らえさせて、完全に回復することだってできてしまうのよね」
得意げに話を続けるナギ。カナデがため息をついた。
「そして、ゴキちゃん。あんたは、被検体の中でも類まれなサイオエナジーの持ち主。自分自身でサイオエナジーを行使することは一切できないけど、体内で生成した上質なサイオエナジーを他人に分け与えることができるんだ。……ただし、女性限定で」
「え、ええ……それって」
何やら、どこぞのアダルト向けな創作作品みたいなことを言い出した。
「勿論、性行為。あんたが好きそうなセックスだよ、ゴキちゃん」
やっぱり。
「男性であるあんたなら、この子を抱いて……勿論、性的な意味で……サイオエナジーを精と一緒に子宮に注ぎ込んでやれば、この子のサイパワーが活性化し、命も助かる」
カナデがまた大きなため息をついた。見やると、そっぽを向いてしまっていた。あっけらかんとした態度のナギと違い、恥ずかしいのかもしれない。
「この子たちがあんたを襲ったのも、被検体の持つサイオエナジーの籠った精液が目当てだったからね。単純に、自らのサイパワーをより強くするためにも使えるんだよ、ゴキちゃんのせーえき」
「そ、そんなあ……」
その時、少女が身動きをした。ぼくははっとなって彼女へ視線を向ける。ナギとカナデも少女の様子を見守っていた。
「あ……う……」
少女が苦しそうに呻き声をもらす。ぼくはその声を聞いて、今、少女は危機的な状況なのだという事実をはっきりと認識した。
何と声をかけて良いものかと逡巡していると、少女が震える唇で言葉を紡ぎ出す。
「お……お願い。だ、抱いて……抱いてください。…………私、死にたくない」
少女はぼくを見上げ、弱々しい視線を向けてきた。少女はぼくにすがっている。
ぼくは、この子を助けたい。そして、少女はぼくに救いを求めている。もう、迷う理由などなかった。
しかし、今の状況はそんなことをのんびり考えていられるものではなく……。
「はむぅ~。ん……んーん」
ねっとりとした声。やや粘着的だけど、甘ったるい気怠さ。
ぼくの下半身を包み込むようにして覆いかぶさり、露出させた男性器を口に含んでいる女の人。顔以外の全身を一体化しているタイツで覆っているという出で立ちで、豊満な身体の線が強調されており、ぼくの足に布地ごしの二つの大きな弾力がのしかかっている。髪は長く、顔つきは女と言うよりも少女と言った風な印象がある。だから、その行為にはより初心なものが感じられたのかもしれない。
「んん。ん。んー」
彼女は熱心にフェラチオを続けている。その間、延々と同じ行為の繰り返し。まるで、それしか愛撫の手段を知らないと言うように。
「こいつー、全然勃たねーじゃん。不能なんじゃないのー?」
一言で表すと昔のコギャルっぽい口調。動けない身体のまま何とか視線だけを彷徨わせると、もう一人の女性の姿が視界に入った。豊満な胸の膨らみを押し上げて強調するような腕組みをしながら、畳の上に敷いた布団に仰向けになっているぼくを見下ろしている。ぼくのペニスをしゃぶっている人と同じ服装だったが、髪はショートヘアで眼差しは大分冷めている。
「……ん。私、やってみる」
耳元で聞こえた、第三の声。何事かと思っていると、ぼくの視界が見たことのない女の人の顔で遮られ、柔らかい少女の唇が口に押し付けられた。
間近で見た彼女の瞳は栗色で、肌は桃色に上気していた。背中まで伸びた髪の毛の一部が首から垂れ下がり、ぼくの頬に触れる。ぼくの視線に気づいて恥ずかしく思ったのか、綺麗な瞳を閉じ、あわさっている唇に一層の力が込められ、艶めかしい舌の感触がぼくの口内に入り込み、温かい吐息が吹き込まれた。
キス……こんな可愛い女の人と。
これが淫猥な夢なのだとして――実際、稀に見る淫夢のような昂揚感がある――相手が、ぼくの想像力が形作った架空の存在に過ぎないにしても、今というこの時間は至福と呼べた。
ぬちゅ……と音を立て、唇が離される。唐突な接吻の終了に一抹の寂しさを覚えたけど、不安げな表情
の少女の口元からダラリと垂れている、ぼくと彼女のものが混ざった唾液を見ているうちに、何かが身体の奥底から高ぶるのを感じた。
「ね。もっと気持ちよくしてあげたいから……」
少女はそう言うと、身につけた全身タイツの胸元を自らの手でまさぐって見せた。他の二人に比べると小ぶりな乳房。間近で見るその布地は薄く、乳首の突起が透けて見える。
「お、勃ってる。勃ってる」
コギャル女の声。言われてみると、ぼくの股間に熱と重量が集約し、膨張した血管に伴って屹立していく陰茎の感覚がはっきりと伝わってきた。
フェラチオ女がペニスから口を離したらしく、解放された肉棒は天井に照準を合わせるかの如く、全体が持ち上がっていく。身体が麻痺しているというのに、男性器は別の生き物のように蠢いていた。
「これ、ペチャパイが好きなのかなぁ」
フェラチオ女の間の抜けた声。ぼくと顔を見合わせていた少女が少しムッとした顔になったが、ぼくから視線を逸らすこともなく、黙っていた。
「何でもいいよ。早く精子貰っちゃおうよ」
視界の隅で、急に衣装を抜き始めるコギャル女の姿が映った。
「えー。サキ、見ていただけだったでしょ?」
フェラチオ女が抗議の声を上げた。
「あとから変えるのは無しって言ったじゃん。じゅーんばん、じゅーんばん」
コギャル女はあっという間に全裸となり、くしゃくしゃにした己の全身タイツを放り投げた。投げられたそれはぼくの頭のすぐ横に落ち、染みついていた女の体臭が鼻孔をかすめる。
ぼくと一番密着している少女が、さっきまでぼくと接吻していた唇をそっと耳に近づけてきて囁く。
「私、三番目だけど。我慢しなくて、いいから、ね?」
まるで内緒話をしているかのような、耳をくすぐるひそひそ声。その優しい言葉を聞くだけで、ぼくは猶更に興奮してしまった。
「すっげ……やばい。まだ大きくなるじゃん」
コギャル女が嬉々としてぼくの股間に跨ってくる。彼女が腰をゆさぶる度に、二つの大きな乳房がゆっさゆっさと揺れた。
(え……。この人と初めてをやるの?)
口づけをかわした少女に視線を戻す。
(可愛いなあ)
他の二人も客観的に言って美少女なのだと思う。でも、ぼくとしては、こっちの女の子に対して、一番惹かれるものがあったのだ。
ぼくは心の中で強く拒んでみた。夢であるならば……ある程度、自分の意識で融通が利くはず。
「それじゃ、いっただきまーす」
男根の先端が、コギャル女の女陰と接触する。
直後、バシっという高い音とともに、部屋のドアが乱暴に開けられる。コギャル女が「えー」と素っ頓狂な声をもらした刹那、何か鋭いものが空を切る。
「きゃん!」
黄色い悲鳴を上げ、壁に叩きつけられるコギャル女。
「え……なに……なに?」
フェラチオ女が顔を上げ、ドアの方を凝視する。
「あ……まさか、レイヤーズ? どうして、どうして、ここに……」
ぼん、と床から天井に向かって軽快な音が木霊し、フェラチオ女の全身が宙を舞い、床に叩きつけられた。フェラチオ女はカエルみたいな声をもらし、倒れ伏した。
ぼくの意志が届いた……とは、とても思えない。突然の新手の闖入者が割り込んで来たらしい。
「いや、嫌ぁぁ……」
少女がぼくから身を離し、立ち上がる。途端にぼくの身体が地面に落とされた魚のように跳ね上がる。どうやら、ぼくにかけられていた金縛りが解けたらしく、腕に力を込めると動かせるのを実感できた。
「あなたたち、羅刹党の戦闘員ね。誰の命令で、こんなことを?」
凛とした女性の声色。束縛から解放されたぼくは上体を起こし、その人物の方を見つめる。
肩の辺りまで伸ばした髪を青く染め、紫を基調とした和風の衣装。ひらひらとした青紫色の着物を、紋様の描かれた朱色の腰布で結んでいる。胸元は遊女を思わせるほど大きく開かれ、小麦色の肉感的な双丘が目を惹く。そして、下の丈はミニスカート並みに短く、色つやの良い太ももが露わになっており、ひじの上の辺りまで伸ばされた藤色のニーソックスが色香を際立たせていた。
その女性は腰に身につけている鞘から日本刀を引き抜くと、片手で振り上げ、切っ先を相手の少女に向けていた。
「むだむだ。羅刹党の戦闘員が任務そっちのけで男を喰い物にするなんて、こいつら下っ端が勝手に動いているだけでしょ」
ぶっきらぼうな物言い。紫髪の女性の後ろから新たに現れたのは、赤毛のサイドテールの女性。
もう一人のその闖入者はセーラー服と思しき衣装に身を包んでいたが、パッと見てウエディングドレスと見紛うほどの純白と、こちらも短すぎる丈のスカートは、とても現実の学生のものとは思えない。おまけに、彼女は身の丈ほどもある杖を手にしており、派手なピンク色はさながらアニメの魔法少女が使うステッキを連想させる。
二人の女性がゆっくりと詰め寄る。残された少女は怯え切った様子で後ずさりをし、背中が後ろの窓と密着した。
「痛い目にあいたくなかったら、大人しくしていなさい」
青髪の女性は端整な顔立ちを崩さなかったが、そこには有無を言わさぬ気迫がある。
少女は意を決した表情で後ろへ振り返ると、両腕で顔を守りながら窓に突っ込んで、ガラスを突き破った。破れたカーテンが尾を引き、外へ飛び降りた少女の全身から離れ、内側に戻ってきた。
「え……ここ、三階」
ここはアパートの三階なのだ。到底無事とは思えない。
ぼくは急いで窓枠に駆け寄り、道路を見下ろす。見ると、あの少女が一目散に駆けていく様子が目に入った。あの子が無事らしいことを知り、ぼくは自然と安堵していた。
「こちら、カナデ。被検体Gを確保。彼を襲っていた羅刹党の構成員三名と遭遇。二名を拘束、あと一名は現在逃走中……」
女性の声を聞いて振り返ると、青髪の女性がスマートフォンのような形状の黒い端末機を取り出し、誰かと話していた。
もう一人の赤毛の女性は、全裸で大股を開いたまま気を失っているコギャル女の股の辺りにそっと触れていた。ビクンとコギャル女の身体が痙攣し、股間から黄色い液体が垂れて畳を濡らした。その傍らでは、やはり意識のないフェラチオ女が全身を震わせている。
「あの……死んじゃったの?」
ぼくは動揺しながらも、赤毛の女性に話しかけた。女性はコギャル女から手を離し、こちらに振り返る。サイドテールがくるりと翻った。
「まさか。ちょっと痺れさせて動けなくしただけだよー」
彼女はそう言うと、ニヤっと笑って見せた。
「よ、眼福だろう? おとこのこっ」
彼女が指さした先。そこを見ると、怒張したぼくのペニスが男を主張していた。ぼくは猛烈に恥ずかしくなって、股間を両手で押さえる。
「……了解。被検体Gはこちらで保護。引き続き、残りの構成員を追跡します」
青髪の女性が通話を切った。
「あのー。もしかして、被検体Gって僕のことかな……」
ぼくが青髪の女性に尋ねると、赤毛のサイドテールが割って入る。
「ゴキブリの略だよ~、このゴキちゃん」
「え、ええ……?」
あっけにとられてしまい、出す言葉も思いつかない。
「ナギ」
青髪の女性に冷たく睨まれ、赤毛の女性がケラケラと笑い出す。
「へへ。じょーだんじょーだん」
どうも、この人は他人をおちょくるのが好きなタイプなのかもしれない。そして、青髪の女性の方は対照的に、生真面目で大人びている感じがする。服装はどちらもまともじゃない際どいものなんだけど……。
「さっきの子を追うよ。……あなた、早く服を着なさい」
言われて気がついた。あの人たちに下着を脱がされたから下は裸で、上はシャツ一枚という恰好。一番みっともないのはぼくだった。
ぼくと二人の女性は一緒になって外へ飛び出した。
この女性たち――青髪の方はカナデ、赤毛のサイドテールの方はナギという名前らしい。コスプレ衣装にしか見えない出で立ちだけど、明らかに現場慣れした様子だ。
あの二人の全身タイツの女たちは部屋に残してきたけど、あとでこの人たちの仲間が来て連行してしまうらしい。
「カナデが連絡したから五分もしたら回収班が来るよ。ま、あたしの電磁縄は一時間くらい持つけどね~」
ナギは何やら超常的な力を持っているらしい。それはカナデの方も同様だろうし、三階から飛び降りても無事なうえにすぐ走り出せたあの子も……。
「あの……さっきの女の子、見失っちゃったんじゃ……」
ぼくは息を切らしながら、前を走っている二人に声をかけた。
「大丈夫。衛星から送られてくる情報で、あの子の位置情報は把握済みだから。それに、あんな恰好で表通りを走ったら目立ちすぎだもんね。すぐ見つかるよ」
そういうナギさんも随分目立つ恰好じゃあ……と言いかけたところで、カナデが叫んだ。
「いた。こっちよ」
カナデの一言で、一行は方向転換。裏路地を一気に突っ走る。カナデは「いた」と言うけど、あの女の子の姿はまだ見えてこない。まだ走るのかと、げんなりしてしまう。ぼくは付いていくだけで精一杯なのに、二人は全く息を切らしていなかった。
三人で外を走っていると、案の定、裏路地とはいえ人々の視線と遭遇する。映画のロケか何かとでも思われているのか、好奇の視線が身体中に刺さった。ぼくにはその視線の一つ一つが痛いくらいに恥ずかしかったが、一緒にいる二人に気にしている様子は見受けられなかった。
あの子の後ろ姿が見えてきた。あの子は現状に酷く困惑していたらしく、左右を何度も見渡しながら、次に進むべき道を迷っているように見えた。
「もう、逃げられないよ」
「観念してねぇ。痛くしないからあ」
女の子は「ひい」と声を張り上げ、右側に飛び込んだ。
(あ。あっちは……)
そこは袋小路になっていた。女の子は反射的に急停止してしまい、即座に追いつかれる結果となってしまう。
じりじりとにじり寄っていく二人。華奢な足を女鹿のようにガクガクと震わせる全身タイツの少女。この少女の跳躍力を以てすれば、塀を乗り越えてまだまだ逃げようとすることはできたのかもしれないが、それ以上に化け物じみた力を持っている二人が相手では、おそらく無駄だろう。
そんな様子だから、少女が酷く可哀そうに思えてしまう。ぼくは小動物を怖がらせないように気をつけるような足取りで、相手に少しずつ近づいていった。
「あの」
怯える彼女を心配させまいと声をかける。すると、前にいたカナデがさっと腕を横に伸ばし、ぼくの進路を塞いだ。
「……え」
険しい顔つきのカナデ。それに、ナギも急に目を細め、「気をつけて」とぼくに言った。
対峙する少女のすぐ後ろの空間で、黒い渦巻のようなものが出現した。それは瞬く間に人間の形となり、一人の女の人の姿が現れた。
尻の辺りまで伸ばされた黒髪。異様なほどグラマラスで、ムチムチした肉体を覆う布地は極わずか。黒で統一されている、紐のような細いランジェリーに、Tバック。衣装というよりも、もはや裸に近い。
そして、手に持っている丸めた鞭には、鉛色のトゲ上の突起物が幾つもついている。……一目で、今まで一番ヤバイ人だというのが分かった。
「あうぅ。ライキさまぁ……」
女の子が震えながら、相手の名前らしき言葉を言う。それは、許しを請い、懇願する者の姿に見えた。
「勝手なことばかりやってくれたね、おまえ」
新手の女はそう言うと、鞭で車道をバシンと叩いた。少女は驚き、すくみあがった。
「あの……全部、サキが計画したことなんです。私は付き合わされただけで……あの、た、助けてください」
「もういいわ。あなた、消えなさい」
鞭を持った女の全身が空間に溶け込むようにして薄れだし、朱色の炎の渦へと変じた。少女は慌てて逃げ出そうとしたが、その両足を絡み取るようにして、炎が少女の全身を呑み込む。
「う、ぎゃあ! 熱い……熱いよぉ……」
「あ……」
思わず飛び出そうとするぼくを、カナデが制する。
「カナデさん、このままじゃ、あの子が……」
「……私たちに任せて」
カナデはそう言うと、隣のナギと頷き合う。カナデが日本刀を引き抜き、ナギは杖を振りかざした。
二人が口をそろえて掛け声を上げ、カナデの日本刀が振り下ろされ、ナギの杖が緑色の光を放った。すると、少女を捉えていた炎が真っ二つに裂け、そこに緑色の可視化された風のようなものが追い打ちをかけ、炎を吹き飛ばし、かき消した。
炎が消えた時、少女はしばらく無言で立ち尽くしていたが、やがて、どさりと音を立てて地に伏した。不思議なことに、少女の服装は全く焦げておらず、火傷の跡も見られなかった。
「あれ……炎だったの?」
恐る恐る尋ねたぼくに、カナデが答える。
「いいえ。この子が感じた熱さは本物だけど、今のはライキが投影した炎のイメージ。ライキ自身も幻影だったみたいね」
「そ、それじゃあ、あの子は何ともないの?」
「いや……」
言いかけて、言葉を切るカナデ。不穏な気配。
「この子……今ので、内なるサイオエナジーの大半を燃焼させられてしまった。生存にサイオエナジーを要するサイオニックにとって、これは大変危険な状態。このままだと……死ぬわ」
意味の分からない言葉が複数あったが、少女が命の危機に瀕しているという事実だけはわかった。ぼくは背筋が凍りつくような恐怖を抱くと同時に、ぼくの中で、少女があまりにも可哀そうだという想いが沸き起こる。
「そんな……。助けられないの?」
「…………」
口を閉ざしてしまう、カナデ。ぼくはすがる想いで彼女に頭を下げ、少女を助けてあげてと頼んだ。
「方法が無いわけじゃあ、ないよー」
口を挟んだのは、ナギの方だった。ぼくの頼みの綱は、すぐさまナギの方へと繋がる。
「本当? どうすれば良いの?」
「ナギ、あなた」
カナデがやや咎めるように言った。
「……教えても良いでしょ。今から本部に運んだところで間に合わないだろうし、そもそもうちの設備でどうなるかも定かじゃないんだからさあ」
ぼくはナギに頼み込んだ。もし少女の命を助けられるのなら、どんなことをしてでも助けたいと、心の底から思った。
「えーとね。あたしに頼んでどーこーして貰うってわけじゃあないんだよね。頑張るのはあんたの方だよ、ゴキちゃん」
「え……ど、どうすれば……」
「サイオニックのサイオエナジー。これを損なわれた分だけ補充してやれば、生き永らえさせて、完全に回復することだってできてしまうのよね」
得意げに話を続けるナギ。カナデがため息をついた。
「そして、ゴキちゃん。あんたは、被検体の中でも類まれなサイオエナジーの持ち主。自分自身でサイオエナジーを行使することは一切できないけど、体内で生成した上質なサイオエナジーを他人に分け与えることができるんだ。……ただし、女性限定で」
「え、ええ……それって」
何やら、どこぞのアダルト向けな創作作品みたいなことを言い出した。
「勿論、性行為。あんたが好きそうなセックスだよ、ゴキちゃん」
やっぱり。
「男性であるあんたなら、この子を抱いて……勿論、性的な意味で……サイオエナジーを精と一緒に子宮に注ぎ込んでやれば、この子のサイパワーが活性化し、命も助かる」
カナデがまた大きなため息をついた。見やると、そっぽを向いてしまっていた。あっけらかんとした態度のナギと違い、恥ずかしいのかもしれない。
「この子たちがあんたを襲ったのも、被検体の持つサイオエナジーの籠った精液が目当てだったからね。単純に、自らのサイパワーをより強くするためにも使えるんだよ、ゴキちゃんのせーえき」
「そ、そんなあ……」
その時、少女が身動きをした。ぼくははっとなって彼女へ視線を向ける。ナギとカナデも少女の様子を見守っていた。
「あ……う……」
少女が苦しそうに呻き声をもらす。ぼくはその声を聞いて、今、少女は危機的な状況なのだという事実をはっきりと認識した。
何と声をかけて良いものかと逡巡していると、少女が震える唇で言葉を紡ぎ出す。
「お……お願い。だ、抱いて……抱いてください。…………私、死にたくない」
少女はぼくを見上げ、弱々しい視線を向けてきた。少女はぼくにすがっている。
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