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【先行公開版】第一章 壁 - Wall -
検問所 - Border Crossing - 2
◯カナン地区・北の検問所(翌朝)
小麦粉や野菜や豆の袋を抱えたエーリン、再び検問所を訪れる。
「自分が食べる量の食料は持って入れるのよね?」
警備兵「ああ」
エーリン「私はたくさん食べるの」
ウィンクして袋を抱えたまま検問所を通過する。
警備兵「あ、そうだ、商売するなら南へ行け。北に留まるんじゃないぞ。明日から大きな作戦が実行されるから」
エーリン「北はダメなの?」
警備兵「ああ。バラバラになりたくなかったら、南へ行けよ」
✕ ✕ ✕
検問所の内側で、渋い顔をして待っていたゾット。
「こっちだ」
先に立って歩き出す。
ゾット、ロマニ語で「貸せ」
エーリンから食料の袋を受け取る。
エーリン「ありがとう」
小声で「チャパティをスカートに隠して持ってきたわ」
ゾット「助かる。ここは予想以上に食料事情が悪い。検問所で物資が止められるため4カ月も食料が入っていないらしい。荷物を置いたら、お前はすぐに帰れ」
エーリン「ゾットたちは大丈夫なの?」
ゾット「仕事だから、ある程度は覚悟している」
エーリン「検問所で、北に留まるなと言われたけど…」
ゾット「カナン地区北部の主要都市が、砲撃と地上部隊の攻撃を受けている。俺たちもその周りで地下壕を掘ったり、住民の救助や避難の誘導をすることになった」
エーリン「明日から大きな作戦が行われるって」
ゾット「そうか。雇い主に伝えておく」
◯カナン地区・北ガザ県
検問所から続いた更地を抜けると、街の建物が見えてくる。
石灰岩で造られた背の高い建物が密集している。増築工事中の建物も多い。
大通りではロバが荷を引いている。通りから伸びる狭い路地に、色とりどりの洗濯物が干してあるのが見える。
行き交う男たちはクーフィーヤで頭部を覆い、長いチュニックを着ている。女たちはヒジャブを被り、藍色や黒のゆったりとしたトーブ(長袖ワンピース)を着ている。胴やスカート部分に施されている刺繍が美しい。
道端で幼い子供たちが駆け回って遊んでいる。
エーリン「人が多いわ。なにかお祭りでもあるの?」
ゾット「いや。避難民が多いんだ。3年前、シオン教徒がカナン地区を襲撃して、カナン地区の一部を占領したそうだ。その時に追われた住民が流入して人口密度が高くなっているらしい」
◯北ガザ県・ベイト・ハヌーン市・傭兵宿舎
傭兵の宿泊用の建物に入る。
階段を上がり、突き当たりの部屋のドアを開けて無人であることを確認する。
ゾット「俺たちが割り当てられた部屋だ。入り口は俺が見張る。中で食料を出せ」
エーリン「わかったわ」
◯傭兵宿舎・室内
エーリン、スカートの裏地に鱗のように縫い留めておいた大きなチャパティ50枚を外す。
太腿に縛り付けていた腊肉も外す。
「パパさん、役に立ったわ」
◯傭兵宿舎・廊下
ゾット、エーリンに渡された食料を抱える。
「こいつは喜ばれるだろう」
腊肉の包み紙を少し持ち上げる。
「だが…これは豚肉か?」
エーリン「ええ。豚の三枚肉を干したものよ」
ゾット「ディーン教徒は戒律により豚を食べない。俺たちだけでもらおう」
エーリン「そうだったの…」
ゾット「彼らは酒も飲まない。それもディーン教の戒律だそうだ」
ゾット、食料を布で覆い隠し、用心深く抱え直す。
「検問所の兵が言っていたのは大げさじゃない。食べ物を見ると、ここの住人は目の色が変わる。子供をもつ親は特に」
エーリン「ここは攻撃されているのでしょ? ここの人たちは南へ逃げないの?」
ゾット「移動には金がかかる。子供が小さすぎたり年寄りが居て移動できない家もある。抵抗運動のために残っている家もある」
◯ベイト・ハヌーン市・路上
ゾットとエーリン、傭兵宿舎の外に出る。
ゾット、検問所の方角を指す。
「検問所はあっちだ。帰り道はわかるか?」
エーリン「ええ」
ゾット「送ることができず悪い」
エーリン「ううん。早く皆に持って行ってあげて」
ゾット、エーリンをじっと見つめる。
「元気でな。お前の旅に幸いあれ」
エーリン、微笑む。
「ゾットも。会えてよかったわ」
ゾット「ああ」
エーリン、検問所に向かいながら、ゾットに手を振る。
ゾット、手を振り返し、再び食料を抱えて西へ向かう。
◯カナン地区・北の検問所
朝とは別の警備兵が椅子に座っている。
警備兵、エーリンをジロジロ見て、
「האם יש לך אישור מעבר?」
エーリン「え?」
警備兵、フスハー語に言い換える。
「通行証は? 身分を証明するものは持っているか?」
エーリン「…無いわ。私はロマよ」
警備兵、蔑むような目をして、
「なら、ここは通せないな」
エーリン「えっ!? 出られないってこと?」
警備兵「カナン人はここから出さない規則だ」
エーリン「私はカナン人じゃないわ! ロマよ」
警備兵「それを証明するものが無ければ、通せないんだよ。
それに、ここはもうすぐ閉鎖される。カナン地区を出たきゃ、南の検問所へ行け」
エーリン「なぜカナン人は外に出さないのよ?」
警備兵「カナン人は皆、テロリストだからさ」
エーリン「まさか」
警備兵「カナン人のテロによって、罪もないシオン教徒が殺傷されているんだよ。あいつらがシオン国を破壊して殲滅しようとするから、自衛のために閉じ込めてるのさ」
エーリン「テロって…。それだけの事をするには、それだけの理由があるんでしょう?」
警備兵、肩をすくめ「そんなもん無いさ。あいつら、野蛮人だから」
小麦粉や野菜や豆の袋を抱えたエーリン、再び検問所を訪れる。
「自分が食べる量の食料は持って入れるのよね?」
警備兵「ああ」
エーリン「私はたくさん食べるの」
ウィンクして袋を抱えたまま検問所を通過する。
警備兵「あ、そうだ、商売するなら南へ行け。北に留まるんじゃないぞ。明日から大きな作戦が実行されるから」
エーリン「北はダメなの?」
警備兵「ああ。バラバラになりたくなかったら、南へ行けよ」
✕ ✕ ✕
検問所の内側で、渋い顔をして待っていたゾット。
「こっちだ」
先に立って歩き出す。
ゾット、ロマニ語で「貸せ」
エーリンから食料の袋を受け取る。
エーリン「ありがとう」
小声で「チャパティをスカートに隠して持ってきたわ」
ゾット「助かる。ここは予想以上に食料事情が悪い。検問所で物資が止められるため4カ月も食料が入っていないらしい。荷物を置いたら、お前はすぐに帰れ」
エーリン「ゾットたちは大丈夫なの?」
ゾット「仕事だから、ある程度は覚悟している」
エーリン「検問所で、北に留まるなと言われたけど…」
ゾット「カナン地区北部の主要都市が、砲撃と地上部隊の攻撃を受けている。俺たちもその周りで地下壕を掘ったり、住民の救助や避難の誘導をすることになった」
エーリン「明日から大きな作戦が行われるって」
ゾット「そうか。雇い主に伝えておく」
◯カナン地区・北ガザ県
検問所から続いた更地を抜けると、街の建物が見えてくる。
石灰岩で造られた背の高い建物が密集している。増築工事中の建物も多い。
大通りではロバが荷を引いている。通りから伸びる狭い路地に、色とりどりの洗濯物が干してあるのが見える。
行き交う男たちはクーフィーヤで頭部を覆い、長いチュニックを着ている。女たちはヒジャブを被り、藍色や黒のゆったりとしたトーブ(長袖ワンピース)を着ている。胴やスカート部分に施されている刺繍が美しい。
道端で幼い子供たちが駆け回って遊んでいる。
エーリン「人が多いわ。なにかお祭りでもあるの?」
ゾット「いや。避難民が多いんだ。3年前、シオン教徒がカナン地区を襲撃して、カナン地区の一部を占領したそうだ。その時に追われた住民が流入して人口密度が高くなっているらしい」
◯北ガザ県・ベイト・ハヌーン市・傭兵宿舎
傭兵の宿泊用の建物に入る。
階段を上がり、突き当たりの部屋のドアを開けて無人であることを確認する。
ゾット「俺たちが割り当てられた部屋だ。入り口は俺が見張る。中で食料を出せ」
エーリン「わかったわ」
◯傭兵宿舎・室内
エーリン、スカートの裏地に鱗のように縫い留めておいた大きなチャパティ50枚を外す。
太腿に縛り付けていた腊肉も外す。
「パパさん、役に立ったわ」
◯傭兵宿舎・廊下
ゾット、エーリンに渡された食料を抱える。
「こいつは喜ばれるだろう」
腊肉の包み紙を少し持ち上げる。
「だが…これは豚肉か?」
エーリン「ええ。豚の三枚肉を干したものよ」
ゾット「ディーン教徒は戒律により豚を食べない。俺たちだけでもらおう」
エーリン「そうだったの…」
ゾット「彼らは酒も飲まない。それもディーン教の戒律だそうだ」
ゾット、食料を布で覆い隠し、用心深く抱え直す。
「検問所の兵が言っていたのは大げさじゃない。食べ物を見ると、ここの住人は目の色が変わる。子供をもつ親は特に」
エーリン「ここは攻撃されているのでしょ? ここの人たちは南へ逃げないの?」
ゾット「移動には金がかかる。子供が小さすぎたり年寄りが居て移動できない家もある。抵抗運動のために残っている家もある」
◯ベイト・ハヌーン市・路上
ゾットとエーリン、傭兵宿舎の外に出る。
ゾット、検問所の方角を指す。
「検問所はあっちだ。帰り道はわかるか?」
エーリン「ええ」
ゾット「送ることができず悪い」
エーリン「ううん。早く皆に持って行ってあげて」
ゾット、エーリンをじっと見つめる。
「元気でな。お前の旅に幸いあれ」
エーリン、微笑む。
「ゾットも。会えてよかったわ」
ゾット「ああ」
エーリン、検問所に向かいながら、ゾットに手を振る。
ゾット、手を振り返し、再び食料を抱えて西へ向かう。
◯カナン地区・北の検問所
朝とは別の警備兵が椅子に座っている。
警備兵、エーリンをジロジロ見て、
「האם יש לך אישור מעבר?」
エーリン「え?」
警備兵、フスハー語に言い換える。
「通行証は? 身分を証明するものは持っているか?」
エーリン「…無いわ。私はロマよ」
警備兵、蔑むような目をして、
「なら、ここは通せないな」
エーリン「えっ!? 出られないってこと?」
警備兵「カナン人はここから出さない規則だ」
エーリン「私はカナン人じゃないわ! ロマよ」
警備兵「それを証明するものが無ければ、通せないんだよ。
それに、ここはもうすぐ閉鎖される。カナン地区を出たきゃ、南の検問所へ行け」
エーリン「なぜカナン人は外に出さないのよ?」
警備兵「カナン人は皆、テロリストだからさ」
エーリン「まさか」
警備兵「カナン人のテロによって、罪もないシオン教徒が殺傷されているんだよ。あいつらがシオン国を破壊して殲滅しようとするから、自衛のために閉じ込めてるのさ」
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