15 / 66
【先行公開版】第一章 壁 - Wall -
検問所 - Border Crossing - 2
しおりを挟む
◯カナン地区・北の検問所(翌朝)
小麦粉や野菜や豆の袋を抱えたエーリン、再び検問所を訪れる。
「自分が食べる量の食料は持って入れるのよね?」
警備兵「ああ」
エーリン「私はたくさん食べるの」
ウィンクして袋を抱えたまま検問所を通過する。
警備兵「あ、そうだ、商売するなら南へ行け。北に留まるんじゃないぞ。明日から大きな作戦が実行されるから」
エーリン「北はダメなの?」
警備兵「ああ。バラバラになりたくなかったら、南へ行けよ」
✕ ✕ ✕
検問所の内側で、渋い顔をして待っていたゾット。
「こっちだ」
先に立って歩き出す。
ゾット、ロマニ語で「貸せ」
エーリンから食料の袋を受け取る。
エーリン「ありがとう」
小声で「チャパティをスカートに隠して持ってきたわ」
ゾット「助かる。ここは予想以上に食料事情が悪い。検問所で物資が止められるため4カ月も食料が入っていないらしい。荷物を置いたら、お前はすぐに帰れ」
エーリン「ゾットたちは大丈夫なの?」
ゾット「仕事だから、ある程度は覚悟している」
エーリン「検問所で、北に留まるなと言われたけど…」
ゾット「カナン地区北部の主要都市が、砲撃と地上部隊の攻撃を受けている。俺たちもその周りで地下壕を掘ったり、住民の救助や避難の誘導をすることになった」
エーリン「明日から大きな作戦が行われるって」
ゾット「そうか。雇い主に伝えておく」
◯カナン地区・北ガザ県
検問所から続いた更地を抜けると、街の建物が見えてくる。
石灰岩で造られた背の高い建物が密集している。増築工事中の建物も多い。
大通りではロバが荷を引いている。通りから伸びる狭い路地に、色とりどりの洗濯物が干してあるのが見える。
行き交う男たちはクーフィーヤで頭部を覆い、長いチュニックを着ている。女たちはヒジャブを被り、藍色や黒のゆったりとしたトーブ(長袖ワンピース)を着ている。胴やスカート部分に施されている刺繍が美しい。
道端で幼い子供たちが駆け回って遊んでいる。
エーリン「人が多いわ。なにかお祭りでもあるの?」
ゾット「いや。避難民が多いんだ。3年前、シオン教徒がカナン地区を襲撃して、カナン地区の一部を占領したそうだ。その時に追われた住民が流入して人口密度が高くなっているらしい」
◯北ガザ県・ベイト・ハヌーン市・傭兵宿舎
傭兵の宿泊用の建物に入る。
階段を上がり、突き当たりの部屋のドアを開けて無人であることを確認する。
ゾット「俺たちが割り当てられた部屋だ。入り口は俺が見張る。中で食料を出せ」
エーリン「わかったわ」
◯傭兵宿舎・室内
エーリン、スカートの裏地に鱗のように縫い留めておいた大きなチャパティ50枚を外す。
太腿に縛り付けていた腊肉も外す。
「パパさん、役に立ったわ」
◯傭兵宿舎・廊下
ゾット、エーリンに渡された食料を抱える。
「こいつは喜ばれるだろう」
腊肉の包み紙を少し持ち上げる。
「だが…これは豚肉か?」
エーリン「ええ。豚の三枚肉を干したものよ」
ゾット「ディーン教徒は戒律により豚を食べない。俺たちだけでもらおう」
エーリン「そうだったの…」
ゾット「彼らは酒も飲まない。それもディーン教の戒律だそうだ」
ゾット、食料を布で覆い隠し、用心深く抱え直す。
「検問所の兵が言っていたのは大げさじゃない。食べ物を見ると、ここの住人は目の色が変わる。子供をもつ親は特に」
エーリン「ここは攻撃されているのでしょ? ここの人たちは南へ逃げないの?」
ゾット「移動には金がかかる。子供が小さすぎたり年寄りが居て移動できない家もある。抵抗運動のために残っている家もある」
◯ベイト・ハヌーン市・路上
ゾットとエーリン、傭兵宿舎の外に出る。
ゾット、検問所の方角を指す。
「検問所はあっちだ。帰り道はわかるか?」
エーリン「ええ」
ゾット「送ることができず悪い」
エーリン「ううん。早く皆に持って行ってあげて」
ゾット、エーリンをじっと見つめる。
「元気でな。お前の旅に幸いあれ」
エーリン、微笑む。
「ゾットも。会えてよかったわ」
ゾット「ああ」
エーリン、検問所に向かいながら、ゾットに手を振る。
ゾット、手を振り返し、再び食料を抱えて西へ向かう。
◯カナン地区・北の検問所
朝とは別の警備兵が椅子に座っている。
警備兵、エーリンをジロジロ見て、
「האם יש לך אישור מעבר?」
エーリン「え?」
警備兵、フスハー語に言い換える。
「通行証は? 身分を証明するものは持っているか?」
エーリン「…無いわ。私はロマよ」
警備兵、蔑むような目をして、
「なら、ここは通せないな」
エーリン「えっ!? 出られないってこと?」
警備兵「カナン人はここから出さない規則だ」
エーリン「私はカナン人じゃないわ! ロマよ」
警備兵「それを証明するものが無ければ、通せないんだよ。
それに、ここはもうすぐ閉鎖される。カナン地区を出たきゃ、南の検問所へ行け」
エーリン「なぜカナン人は外に出さないのよ?」
警備兵「カナン人は皆、テロリストだからさ」
エーリン「まさか」
警備兵「カナン人のテロによって、罪もないシオン教徒が殺傷されているんだよ。あいつらがシオン国を破壊して殲滅しようとするから、自衛のために閉じ込めてるのさ」
エーリン「テロって…。それだけの事をするには、それだけの理由があるんでしょう?」
警備兵、肩をすくめ「そんなもん無いさ。あいつら、野蛮人だから」
小麦粉や野菜や豆の袋を抱えたエーリン、再び検問所を訪れる。
「自分が食べる量の食料は持って入れるのよね?」
警備兵「ああ」
エーリン「私はたくさん食べるの」
ウィンクして袋を抱えたまま検問所を通過する。
警備兵「あ、そうだ、商売するなら南へ行け。北に留まるんじゃないぞ。明日から大きな作戦が実行されるから」
エーリン「北はダメなの?」
警備兵「ああ。バラバラになりたくなかったら、南へ行けよ」
✕ ✕ ✕
検問所の内側で、渋い顔をして待っていたゾット。
「こっちだ」
先に立って歩き出す。
ゾット、ロマニ語で「貸せ」
エーリンから食料の袋を受け取る。
エーリン「ありがとう」
小声で「チャパティをスカートに隠して持ってきたわ」
ゾット「助かる。ここは予想以上に食料事情が悪い。検問所で物資が止められるため4カ月も食料が入っていないらしい。荷物を置いたら、お前はすぐに帰れ」
エーリン「ゾットたちは大丈夫なの?」
ゾット「仕事だから、ある程度は覚悟している」
エーリン「検問所で、北に留まるなと言われたけど…」
ゾット「カナン地区北部の主要都市が、砲撃と地上部隊の攻撃を受けている。俺たちもその周りで地下壕を掘ったり、住民の救助や避難の誘導をすることになった」
エーリン「明日から大きな作戦が行われるって」
ゾット「そうか。雇い主に伝えておく」
◯カナン地区・北ガザ県
検問所から続いた更地を抜けると、街の建物が見えてくる。
石灰岩で造られた背の高い建物が密集している。増築工事中の建物も多い。
大通りではロバが荷を引いている。通りから伸びる狭い路地に、色とりどりの洗濯物が干してあるのが見える。
行き交う男たちはクーフィーヤで頭部を覆い、長いチュニックを着ている。女たちはヒジャブを被り、藍色や黒のゆったりとしたトーブ(長袖ワンピース)を着ている。胴やスカート部分に施されている刺繍が美しい。
道端で幼い子供たちが駆け回って遊んでいる。
エーリン「人が多いわ。なにかお祭りでもあるの?」
ゾット「いや。避難民が多いんだ。3年前、シオン教徒がカナン地区を襲撃して、カナン地区の一部を占領したそうだ。その時に追われた住民が流入して人口密度が高くなっているらしい」
◯北ガザ県・ベイト・ハヌーン市・傭兵宿舎
傭兵の宿泊用の建物に入る。
階段を上がり、突き当たりの部屋のドアを開けて無人であることを確認する。
ゾット「俺たちが割り当てられた部屋だ。入り口は俺が見張る。中で食料を出せ」
エーリン「わかったわ」
◯傭兵宿舎・室内
エーリン、スカートの裏地に鱗のように縫い留めておいた大きなチャパティ50枚を外す。
太腿に縛り付けていた腊肉も外す。
「パパさん、役に立ったわ」
◯傭兵宿舎・廊下
ゾット、エーリンに渡された食料を抱える。
「こいつは喜ばれるだろう」
腊肉の包み紙を少し持ち上げる。
「だが…これは豚肉か?」
エーリン「ええ。豚の三枚肉を干したものよ」
ゾット「ディーン教徒は戒律により豚を食べない。俺たちだけでもらおう」
エーリン「そうだったの…」
ゾット「彼らは酒も飲まない。それもディーン教の戒律だそうだ」
ゾット、食料を布で覆い隠し、用心深く抱え直す。
「検問所の兵が言っていたのは大げさじゃない。食べ物を見ると、ここの住人は目の色が変わる。子供をもつ親は特に」
エーリン「ここは攻撃されているのでしょ? ここの人たちは南へ逃げないの?」
ゾット「移動には金がかかる。子供が小さすぎたり年寄りが居て移動できない家もある。抵抗運動のために残っている家もある」
◯ベイト・ハヌーン市・路上
ゾットとエーリン、傭兵宿舎の外に出る。
ゾット、検問所の方角を指す。
「検問所はあっちだ。帰り道はわかるか?」
エーリン「ええ」
ゾット「送ることができず悪い」
エーリン「ううん。早く皆に持って行ってあげて」
ゾット、エーリンをじっと見つめる。
「元気でな。お前の旅に幸いあれ」
エーリン、微笑む。
「ゾットも。会えてよかったわ」
ゾット「ああ」
エーリン、検問所に向かいながら、ゾットに手を振る。
ゾット、手を振り返し、再び食料を抱えて西へ向かう。
◯カナン地区・北の検問所
朝とは別の警備兵が椅子に座っている。
警備兵、エーリンをジロジロ見て、
「האם יש לך אישור מעבר?」
エーリン「え?」
警備兵、フスハー語に言い換える。
「通行証は? 身分を証明するものは持っているか?」
エーリン「…無いわ。私はロマよ」
警備兵、蔑むような目をして、
「なら、ここは通せないな」
エーリン「えっ!? 出られないってこと?」
警備兵「カナン人はここから出さない規則だ」
エーリン「私はカナン人じゃないわ! ロマよ」
警備兵「それを証明するものが無ければ、通せないんだよ。
それに、ここはもうすぐ閉鎖される。カナン地区を出たきゃ、南の検問所へ行け」
エーリン「なぜカナン人は外に出さないのよ?」
警備兵「カナン人は皆、テロリストだからさ」
エーリン「まさか」
警備兵「カナン人のテロによって、罪もないシオン教徒が殺傷されているんだよ。あいつらがシオン国を破壊して殲滅しようとするから、自衛のために閉じ込めてるのさ」
エーリン「テロって…。それだけの事をするには、それだけの理由があるんでしょう?」
警備兵、肩をすくめ「そんなもん無いさ。あいつら、野蛮人だから」
0
あなたにおすすめの小説
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる