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【先行公開版】第二章 灯火 - Torch -
病院 - Hospital - 1
◯カナン地区・ディール・バラフ県・南部・空地(翌朝)
空が白み始める。
サラ・アル・ディン通りの脇の人気のない空地で、固まって寝ている子供たちと、子供たちを囲むように横たわっている女教師たち。その外側を男たちが守るように寝転がっている。
その集団の横で、腰を下ろしたまま眠っていたミロが、目をこする。
差し始めた朝の光で目を覚ましたユスフ、両腕を上げて大きく伸びをし、首をコキコキ鳴らす。
「二日連続の野宿は、さすがにキツいな…」
子供たちも一人また一人と起き上がり、水を飲み堅パンをかじる。
全員が起きてから、男たちが今日の分の水と堅パンを配る。
テクラ、子供たちに声を掛ける。
「みんな、あともう少し頑張りましょう。ハーン・ユーニス県はすぐそこですよ」
◯カナン地区・ハーン・ユーニス県・ハーンユーニス市(昼)
一行、大通りを離れ、ハーン・ユーニス県の県都に向かう。
カリド「学校はまた狙われるかもしれんな…。
病院に行ってみないか? 寝床も食料もあるかもしれない」
ユスフ「それがいい。今夜は、まともな寝床で寝たいよ」
◯ハーンユーニス市・ナセル病院・受付
カナン地区南部で最大の規模を誇り、幅広い専門治療を行う大病院を訪ねる。
テクラ、受付カウンターに向かう。
「ベイト・ラヒア市のアル・シマー小学校教諭、テクラと申します。
シオン国の攻撃によって学校が被災し、孤児たちを連れて避難してきました。
こちらでしばらくお世話になれたら嬉しいのですが」
受付「あいにく病棟は病人と怪我人で満床ですし、他の施設も北部からの避難民で満員なのです。さすがに20人ともなると…」
テクラ「私たちは教師なので、入院している児童に授業もできます。どうか置いていただけませんか」
受付「では、中庭でよければ…」
◯ナセル病院・中庭
病院敷地内の広い中庭に、避難民のテントが所狭しと並んでいる。
ユスフ、当てが外れ、がっくりと肩を落とす。
「結局、地面に寝るのか…」
カリド「テントは今後も必要になるだろうし、買いに行くか」
ユスフ「ついでに街なかの様子も見たいな」
ヤット「俺とミロは、子供たちと場所取りして待っていようか?」
カリド「ああ、頼んだぞ」
テクラ「私たちは病児の授業について、看護師長と話してきます」
◯ナセル病院・外科病棟
女教師たち、ナースステーションに向かうために病棟を通り抜ける。
ライラ「!」
思わず息を呑む。
廊下のいたるところに傷を負った者が寝かされ、病室は全て患者で埋まっている。
ヘナン「…満床どころではないわね…」
◯ナセル病院・ナースステーション
看護師たちが忙しく立ち働いているナースステーション。
柔和な物腰の看護師長が、女教師たちに対応する。
「院内学級ですか」
テクラ「はい。入院をしている児童に、一日に1時間から2時間ほど、勉強を教えることができます」
看護師長「では、お願いしましょうか。
体力が回復してきた子には、良い刺激になるでしょう。
明日から、回診の終わる午後にお願いできますか」
テクラ「わかりました。顔合わせも兼ねて、子供たちの様子を見学できますか?」
看護師長「いいでしょう。
ナジーヤ、案内してさしあげて」
「はい、看護師長」
ナジーヤと呼ばれた、目端が利きそうな看護師が答える。
「小児科病棟にご案内しますね」
ナジーヤ、女教師たちの先に立ち、小児科病棟に向かう。
テクラ、後に続きながら、
「患者さんが多くて驚きました。医師方のご迷惑にならないよう、気をつけますね」
ナジーヤ、苦笑して応える。
「当院は現在、北部から避難してきた患者を受け入れていて、パンク寸前なんです。新規の患者を入院させないようシオン軍に警告を受けていますが、そんなこと聞いていられませんからね。
ただ、小児科だけは、先週の土曜日に9歳までの傷病児をバラトール共和国に送ったので、比較的落ち着いています。
院内学級を行う余裕はあると思いますよ」
◯ナセル病院・小児科病棟・産婦人科
一行、内壁が淡いサーモンピンクに塗られた小児科病棟に入る。
ナジーヤ「この奥が小児科です。産婦人科を抜けて行きますね」
病室にはマットレスが隙間なく並び、腹の大きな妊婦たちが何人も横たわっている様子が、廊下から垣間見える。
ナジーヤ「食糧不足のために、栄養失調で入院する妊婦さんが多いんです。
当院が把握しているだけでも、妊婦と授乳中の女性の9割が重度栄養失調です。それが母乳不足や、早産・流産につながっています」
ナジーヤ、歩調を速めながら声を落とす。
「…流産は侵攻前の2倍に増えました。妊婦の半数以上が、ハイリスク妊娠です」
テクラ「そんなに…」
ナジーヤ「赤ちゃんが早く生まれてしまうケースも多いです。
少なくとも全体の2割の新生児が、早産や合併症で苦しんでいます。
保温器も足りないので、毛布と湯たんぽでしのいでいます」
◯小児科病棟・小児科・乳児室
乳児室の前に差しかかる。
新生児から1歳までの乳児がマットレスの上に隙間なく寝かされ、母親たちが付き添っている。どの母親も痩せ細り、疲れ切った表情を浮かべている。
中を覗いたテクラが、異変に気づく。
「あれだけの赤ん坊が居るのに、静かだわ。誰も泣かないなんて」
ナジーヤ「栄養失調により、泣く体力すら残っていないのです」
骨と皮ばかりの痩せた手足をむき出しにした新生児が、弱々しく身じろぎしている。
未熟児を毛布でくるんで抱く母親は、虚ろな目をしている。
ナジーヤ「…食糧不足で、お母さんたちの母乳が出ないんです。
母乳が足りない場合は、病院の裏庭で飼っているヤギの乳を薄めて与えますが、全ての子に行き渡らなくて…。この3週間で死亡した乳児は…60人です」
テクラ、両手で口を覆う。
ヘナンとライラも、ショックを受ける。
ナジーヤ「先週の土曜日に食料と追加のヤギが届きましたが、既に弱りきった乳児がどれほど回復するか…。
母乳が出るようになるまで時間がかかりますし、治療のために渡した食料を子供に与えてしまうお母さんも居ますから」
空が白み始める。
サラ・アル・ディン通りの脇の人気のない空地で、固まって寝ている子供たちと、子供たちを囲むように横たわっている女教師たち。その外側を男たちが守るように寝転がっている。
その集団の横で、腰を下ろしたまま眠っていたミロが、目をこする。
差し始めた朝の光で目を覚ましたユスフ、両腕を上げて大きく伸びをし、首をコキコキ鳴らす。
「二日連続の野宿は、さすがにキツいな…」
子供たちも一人また一人と起き上がり、水を飲み堅パンをかじる。
全員が起きてから、男たちが今日の分の水と堅パンを配る。
テクラ、子供たちに声を掛ける。
「みんな、あともう少し頑張りましょう。ハーン・ユーニス県はすぐそこですよ」
◯カナン地区・ハーン・ユーニス県・ハーンユーニス市(昼)
一行、大通りを離れ、ハーン・ユーニス県の県都に向かう。
カリド「学校はまた狙われるかもしれんな…。
病院に行ってみないか? 寝床も食料もあるかもしれない」
ユスフ「それがいい。今夜は、まともな寝床で寝たいよ」
◯ハーンユーニス市・ナセル病院・受付
カナン地区南部で最大の規模を誇り、幅広い専門治療を行う大病院を訪ねる。
テクラ、受付カウンターに向かう。
「ベイト・ラヒア市のアル・シマー小学校教諭、テクラと申します。
シオン国の攻撃によって学校が被災し、孤児たちを連れて避難してきました。
こちらでしばらくお世話になれたら嬉しいのですが」
受付「あいにく病棟は病人と怪我人で満床ですし、他の施設も北部からの避難民で満員なのです。さすがに20人ともなると…」
テクラ「私たちは教師なので、入院している児童に授業もできます。どうか置いていただけませんか」
受付「では、中庭でよければ…」
◯ナセル病院・中庭
病院敷地内の広い中庭に、避難民のテントが所狭しと並んでいる。
ユスフ、当てが外れ、がっくりと肩を落とす。
「結局、地面に寝るのか…」
カリド「テントは今後も必要になるだろうし、買いに行くか」
ユスフ「ついでに街なかの様子も見たいな」
ヤット「俺とミロは、子供たちと場所取りして待っていようか?」
カリド「ああ、頼んだぞ」
テクラ「私たちは病児の授業について、看護師長と話してきます」
◯ナセル病院・外科病棟
女教師たち、ナースステーションに向かうために病棟を通り抜ける。
ライラ「!」
思わず息を呑む。
廊下のいたるところに傷を負った者が寝かされ、病室は全て患者で埋まっている。
ヘナン「…満床どころではないわね…」
◯ナセル病院・ナースステーション
看護師たちが忙しく立ち働いているナースステーション。
柔和な物腰の看護師長が、女教師たちに対応する。
「院内学級ですか」
テクラ「はい。入院をしている児童に、一日に1時間から2時間ほど、勉強を教えることができます」
看護師長「では、お願いしましょうか。
体力が回復してきた子には、良い刺激になるでしょう。
明日から、回診の終わる午後にお願いできますか」
テクラ「わかりました。顔合わせも兼ねて、子供たちの様子を見学できますか?」
看護師長「いいでしょう。
ナジーヤ、案内してさしあげて」
「はい、看護師長」
ナジーヤと呼ばれた、目端が利きそうな看護師が答える。
「小児科病棟にご案内しますね」
ナジーヤ、女教師たちの先に立ち、小児科病棟に向かう。
テクラ、後に続きながら、
「患者さんが多くて驚きました。医師方のご迷惑にならないよう、気をつけますね」
ナジーヤ、苦笑して応える。
「当院は現在、北部から避難してきた患者を受け入れていて、パンク寸前なんです。新規の患者を入院させないようシオン軍に警告を受けていますが、そんなこと聞いていられませんからね。
ただ、小児科だけは、先週の土曜日に9歳までの傷病児をバラトール共和国に送ったので、比較的落ち着いています。
院内学級を行う余裕はあると思いますよ」
◯ナセル病院・小児科病棟・産婦人科
一行、内壁が淡いサーモンピンクに塗られた小児科病棟に入る。
ナジーヤ「この奥が小児科です。産婦人科を抜けて行きますね」
病室にはマットレスが隙間なく並び、腹の大きな妊婦たちが何人も横たわっている様子が、廊下から垣間見える。
ナジーヤ「食糧不足のために、栄養失調で入院する妊婦さんが多いんです。
当院が把握しているだけでも、妊婦と授乳中の女性の9割が重度栄養失調です。それが母乳不足や、早産・流産につながっています」
ナジーヤ、歩調を速めながら声を落とす。
「…流産は侵攻前の2倍に増えました。妊婦の半数以上が、ハイリスク妊娠です」
テクラ「そんなに…」
ナジーヤ「赤ちゃんが早く生まれてしまうケースも多いです。
少なくとも全体の2割の新生児が、早産や合併症で苦しんでいます。
保温器も足りないので、毛布と湯たんぽでしのいでいます」
◯小児科病棟・小児科・乳児室
乳児室の前に差しかかる。
新生児から1歳までの乳児がマットレスの上に隙間なく寝かされ、母親たちが付き添っている。どの母親も痩せ細り、疲れ切った表情を浮かべている。
中を覗いたテクラが、異変に気づく。
「あれだけの赤ん坊が居るのに、静かだわ。誰も泣かないなんて」
ナジーヤ「栄養失調により、泣く体力すら残っていないのです」
骨と皮ばかりの痩せた手足をむき出しにした新生児が、弱々しく身じろぎしている。
未熟児を毛布でくるんで抱く母親は、虚ろな目をしている。
ナジーヤ「…食糧不足で、お母さんたちの母乳が出ないんです。
母乳が足りない場合は、病院の裏庭で飼っているヤギの乳を薄めて与えますが、全ての子に行き渡らなくて…。この3週間で死亡した乳児は…60人です」
テクラ、両手で口を覆う。
ヘナンとライラも、ショックを受ける。
ナジーヤ「先週の土曜日に食料と追加のヤギが届きましたが、既に弱りきった乳児がどれほど回復するか…。
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