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第1章『白昼夢の胎動』
第1話『雨の白昼夢』
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雨の匂いがした。
五月の末。まだ湿り気を帯びるには早すぎるはずの空気が、重く、低く、住宅展示場の優雅なエントランスに溜まっている。
私は、真由美。
44歳という年齢は、世間一般では落ち着きという名の諦念を身につける頃合いなのだろう。
淡いベージュのタイトスカートを皺一つなく穿きこなし、胸元には控えめな真珠のブローチ。
誰が見ても、ここに展示された「理想の住まい」の一部として溶け込むような、穏やかで品のある受付。
それが……、私の輪郭を縁取る、冷たい陶器の仮面だった。
「お疲れ様です、真由美さん。今日も相変わらず、完璧な笑顔でしたね」
同僚の若い女性が、軽やかな足取りで帰っていく。
私はただ、いつものように口角を数ミリだけ引き上げ……、柔らかな微笑みを返した。
そう。
私は、微笑む人形。
夫との生活に不満があるわけではない。
誠実な夫、健やかに育った娘、ローンを完済しかけているマイホーム。
私の人生は、一点の曇りもないはずの、美しい硝子の箱庭。
けれど……。
その箱庭の隅で、何かが静かに腐食しているのを……、私は知っている。
夕闇が迫る展示場は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
最新式のシステムキッチンの輝きも、ふかふかの絨毯も、すべては誰かの幸せを演出するための、空虚な舞台装置に過ぎない。
誰もいなくなったモデルハウスのリビングに、一人で立つ。
窓の外、厚い雲が街を飲み込もうとしていた。
雨が、降りだした。
激しく、叩きつけるような雨が。
スマートフォンの画面が、短く震えた。
夫からのメッセージ。
『接待で遅くなる。夕飯はいらない。ゆっくり休んで』
記号のような言葉。
慈しみはあっても、情熱はない。
私たちは、いつから……、お互いの輪郭に触れることを忘れてしまったのだろう。
私は「妻」であり「母」であり「受付の真由美」ではあるけれど。
誰一人として……、この仮面のすぐ下で、脈打っている「私」を見ようとはしない。
じわり、と。
下腹の奥が、重く、痺れるような感覚に襲われた。
それは、空腹にも似た、切実な渇き。
平穏という名の枷が、私の首を静かに絞め上げている。
もっと、強く。
もっと、暴力的なまでの……、何かに。
この整えられた日常を、めちゃくちゃに壊してほしい。
そんな、言葉にできない衝動が、指先からじわじわと這い上がってくる。
ふと、背後に気配を感じた。
入り口のドアは、もうロックしたはずだった。
けれど……。
しっとりと湿った空気が、不意に流れ込んでくる。
背筋を伝う、冷ややかな、戦慄。
「……まだ、いたんですね」
低く、どこか冷徹な響きを含んだ声。
振り返ると、そこに彼は立っていた。
瀬戸 蓮。
この展示場の設計にも携わっている、新進気鋭の建築家。
30代前半の彼は、常に無機質な眼鏡の奥で、すべてを見透かすような鋭い視線を投げかけてくる。
彼は、ずぶ濡れだった。
黒いジャケットが雨を吸って重く垂れ下がり、前髪から滴る雫が、彼の端正な頬を伝って落ちる。
私は……、息を呑んだ。
彼と目が合った瞬間、私の内にあった硝子の壁が、微かな音を立てて……、軋んだから。
「閉館時間は……、過ぎておりますが」
震える声を必死に抑え、私はいつもの「役割」を演じようとする。
けれど、瀬戸は動かない。
ただ、じっと。
獲物を定めるような眼差しで、私の全身を舐めるように見つめている。
雨の音が、一段と激しくなった。
窓を叩く、乱暴なまでの……、水音。
その音が、私の理性を少しずつ、少しずつ……、削り取っていく。
「知っていますよ。……でも、あなたは帰りたくないんでしょう?」
彼が一歩、踏み出す。
濡れた靴が絨毯を汚し、私との距離を、容赦なく詰めてくる。
彼の体温と、雨の、青臭い匂い。
その匂いが鼻腔を突いた瞬間、私の膝が、かすかに震えた。
「何をおっしゃっているのか……。私、主人が待っておりますので……」
嘘。
心にもない言葉が、乾いた唇から零れる。
彼はフッと、残酷なほど美しい笑みを浮かべた。
そして、私のすぐ目の前で立ち止まると、冷たい指先を……、私の顎に添えた。
「そんな顔で、よく言えますね。……あなたの瞳は、ずっと叫んでいる。誰かに見つけてほしい、壊してほしいと。……そうでしょう? 真由美さん」
名前を、呼ばれた。
夫でも、娘でもない、一人の男に。
その響きが、私の奥底に眠っていた「獣」を呼び覚ます。
顎を持ち上げられ、逃げ場を失う。
私は……、ただ。
彼の深い瞳の奥に吸い込まれるように、まばたきさえ、忘れていた。
ここから先は……、もう、戻れない。
日常の向こう側へと、私は一歩踏み出そうとしていた……。
瀬戸の濡れた指先から伝わる冷たさが、私の顎の皮膚を通して、脳の芯まで痺れさせていく……。
私は……、拒絶しなければならなかった。
この場所は、私がもっとも『完璧な受付』として、お客様を受け入れるべき空間に相応しい清潔な偶像でいなければならない職場なのだから……。
けれど。
見つめ返す彼の瞳は、暗い海の底のようにどこまでも深く……、私の嘘を見透かしていた。
「震えている……。怖いのですか? それとも、何かを期待しているんですか……?」
瀬戸の声が、鼓膜を優しく、それでいて暴力的に震わせる。
「ち、違います……。やめて……ください……っ」
私の唇から溢れたのは、否定の言葉。
けれど、その声はひどく掠れていて……、熱を帯びていた。
彼は私の顎を捉えたまま、もう片方の手で、私の首筋に沿ってゆっくりと指を滑らせた……。
喉仏のあたりを、爪の先でなぞるような微かな刺激。
ひっ、と短い吐息が漏れる。
首筋は、私の弱点だった。
夫との営みの中では、もう何年も触れられることのなかった……、忘れ去られていた場所。
「この家には、生活感がない。完璧に整えられていて、呼吸すら拒んでいるようだ。あなたと同じですね、真由美さん」
瀬戸の指が、私のブラウスの第一ボタンに掛かる。
指先が、鎖骨のくぼみに沈み込む。
「あ……、だめ……っ、ここは、職場……ですから……」
「職場……? いいえ、ここはただの箱だ。誰も見ていない、雨に閉ざされた密室ですよ」
指先に力がこもり、ぷつり、と。
小さな音を立てて、ボタンが外れた。
肌寒い外気が、私の秘められた肌に触れる。
その冷たさが……、逆に、体内の熱を急速に煽っていくのがわかった。
彼は私の耳元に顔を寄せ、湿った吐息を吹きかけた。
「……本当のあなたが、この下で……どんな風に脈打っているのか。僕が、教えてあげましょうか」
「あ……っ、んんっ……」
耳朶を、熱い唇が食む。
じゅ、と微かな水音がして、全身に電撃が走った。
膝の力が……、抜ける。
私は彼に支えられるようにして、近くにある高級なイタリア製ソファへと押し倒された……。
沈み込む、背中の感触。
44年の間、積み上げてきた理性が、泥濘に沈んでいくような感覚。
「……はぁっ、はぁ……、だめ、そんな……っ」
仰向けにされた私の視界には、無機質なダウンライトの光と、その光を背負って影となった瀬戸の姿だけが映る。
彼は私の足元に膝をつき、タイトスカートの裾に手をかけた。
「……きれいな脚だ。普段、そんな風に隠しているのが……、勿体ないくらいに」
スカートがずり上がり、ストッキングに包まれた太ももが、雨の日の薄暗いリビングに晒される。
彼の大きな掌が、膝から上へと、ゆっくりと……、這い上がってくる。
ナイロンの摩擦音が、静寂の中で異様に大きく響いた。
「あ……っ、ああ……っ、ん、んうっ……」
自分のものとは思えない、淫らな吐息が、喉の奥からせり上がってくる。
彼の掌が、私の内腿の、もっとも柔らかい場所に触れた瞬間……。
私の身体は、大きく、弓なりに跳ねた。
「……まだ、何もしていないのに。……もう、こんなに、熱い」
瀬戸の指が、私の下着の中心を捉えた……。
そこはすでに、自分でも信じられないほど、じっとりと、湿り気を帯びていた。
「あ……、あ゛っ……、ひぐっ……、ん、んん……っ♡」
顔が、熱い。
恥辱と、それ以上の、得体の知れない歓喜。
私は、自分が壊されていくのを……、全身の細胞で、歓迎していた。
彼は……、容赦しなかった。
私の脚を強引に割り、その深淵を、眼鏡の奥の冷徹な瞳で見つめる。
「……綺麗だ。……真由美さん、あなたは今、最高に……、惨めで、美しい」
「や……っ、見ないで……、見ないでっ……、あ、あああっ♡」
私は両手で顔を覆った。
けれど、指の間からこぼれるのは、快楽に歪んだ自分の声。
展示場の外では、雨がますます激しく叩きつけ……。
私の日常の残骸を、すべて洗い流そうとしていた。
瀬戸の指先が、私の秘部の、もっとも敏感な突起を……、じゅぷ、と。
湿った音と共に、捉えた。
「ひいっ……! あ、あ゛っ……、あ、ああああああっ♡」
脳内が、真っ白に染まる。
震える指先が、ソファの革を必死に掴む。
ぎり、と爪が食い込み、身体の奥から、蜜が、溢れ出して止まらない……。
「……ふふ。……溢れている。……この家には、水もガスも通っていないはずなのに。……ここだけは、こんなに、溢れているじゃないか」
「ひぐっ……、う、ううっ……。……はぁっ、はぁ……っ、ん、ああ……っ♡」
彼の冷たい嘲笑が、一番の媚薬だった。
私は……、支配されている。
私がずっと求めていた、言葉にならない、悦び……。
このまま……、どうにかなってしまいたい。
「真由美」という名前も、「妻」という役割も、すべて、この雨の中に溶けてしまえばいい。
瀬戸は、濡れた指を私の唇へと運んだ。
「……自分の蜜の味を、知っていますか?」
「ん……っ、んん、んむっ……!?」
強引に差し込まれた指を、私は拒むことができなかった。
鉄のような、そして甘い、私の欲望の味。
それを味わわされながら、私は……。
さらに深い、底のない快楽の淵へと、沈んでいった。
「……本番は、これからですよ。……たっぷり、教えてあげます。……あなたがどれほど、淫らな女かということを」
瀬戸がベルトを解く音が……、カチャリ、と。
不吉で、甘美な旋律として、私の耳に届いた。
五月の末。まだ湿り気を帯びるには早すぎるはずの空気が、重く、低く、住宅展示場の優雅なエントランスに溜まっている。
私は、真由美。
44歳という年齢は、世間一般では落ち着きという名の諦念を身につける頃合いなのだろう。
淡いベージュのタイトスカートを皺一つなく穿きこなし、胸元には控えめな真珠のブローチ。
誰が見ても、ここに展示された「理想の住まい」の一部として溶け込むような、穏やかで品のある受付。
それが……、私の輪郭を縁取る、冷たい陶器の仮面だった。
「お疲れ様です、真由美さん。今日も相変わらず、完璧な笑顔でしたね」
同僚の若い女性が、軽やかな足取りで帰っていく。
私はただ、いつものように口角を数ミリだけ引き上げ……、柔らかな微笑みを返した。
そう。
私は、微笑む人形。
夫との生活に不満があるわけではない。
誠実な夫、健やかに育った娘、ローンを完済しかけているマイホーム。
私の人生は、一点の曇りもないはずの、美しい硝子の箱庭。
けれど……。
その箱庭の隅で、何かが静かに腐食しているのを……、私は知っている。
夕闇が迫る展示場は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
最新式のシステムキッチンの輝きも、ふかふかの絨毯も、すべては誰かの幸せを演出するための、空虚な舞台装置に過ぎない。
誰もいなくなったモデルハウスのリビングに、一人で立つ。
窓の外、厚い雲が街を飲み込もうとしていた。
雨が、降りだした。
激しく、叩きつけるような雨が。
スマートフォンの画面が、短く震えた。
夫からのメッセージ。
『接待で遅くなる。夕飯はいらない。ゆっくり休んで』
記号のような言葉。
慈しみはあっても、情熱はない。
私たちは、いつから……、お互いの輪郭に触れることを忘れてしまったのだろう。
私は「妻」であり「母」であり「受付の真由美」ではあるけれど。
誰一人として……、この仮面のすぐ下で、脈打っている「私」を見ようとはしない。
じわり、と。
下腹の奥が、重く、痺れるような感覚に襲われた。
それは、空腹にも似た、切実な渇き。
平穏という名の枷が、私の首を静かに絞め上げている。
もっと、強く。
もっと、暴力的なまでの……、何かに。
この整えられた日常を、めちゃくちゃに壊してほしい。
そんな、言葉にできない衝動が、指先からじわじわと這い上がってくる。
ふと、背後に気配を感じた。
入り口のドアは、もうロックしたはずだった。
けれど……。
しっとりと湿った空気が、不意に流れ込んでくる。
背筋を伝う、冷ややかな、戦慄。
「……まだ、いたんですね」
低く、どこか冷徹な響きを含んだ声。
振り返ると、そこに彼は立っていた。
瀬戸 蓮。
この展示場の設計にも携わっている、新進気鋭の建築家。
30代前半の彼は、常に無機質な眼鏡の奥で、すべてを見透かすような鋭い視線を投げかけてくる。
彼は、ずぶ濡れだった。
黒いジャケットが雨を吸って重く垂れ下がり、前髪から滴る雫が、彼の端正な頬を伝って落ちる。
私は……、息を呑んだ。
彼と目が合った瞬間、私の内にあった硝子の壁が、微かな音を立てて……、軋んだから。
「閉館時間は……、過ぎておりますが」
震える声を必死に抑え、私はいつもの「役割」を演じようとする。
けれど、瀬戸は動かない。
ただ、じっと。
獲物を定めるような眼差しで、私の全身を舐めるように見つめている。
雨の音が、一段と激しくなった。
窓を叩く、乱暴なまでの……、水音。
その音が、私の理性を少しずつ、少しずつ……、削り取っていく。
「知っていますよ。……でも、あなたは帰りたくないんでしょう?」
彼が一歩、踏み出す。
濡れた靴が絨毯を汚し、私との距離を、容赦なく詰めてくる。
彼の体温と、雨の、青臭い匂い。
その匂いが鼻腔を突いた瞬間、私の膝が、かすかに震えた。
「何をおっしゃっているのか……。私、主人が待っておりますので……」
嘘。
心にもない言葉が、乾いた唇から零れる。
彼はフッと、残酷なほど美しい笑みを浮かべた。
そして、私のすぐ目の前で立ち止まると、冷たい指先を……、私の顎に添えた。
「そんな顔で、よく言えますね。……あなたの瞳は、ずっと叫んでいる。誰かに見つけてほしい、壊してほしいと。……そうでしょう? 真由美さん」
名前を、呼ばれた。
夫でも、娘でもない、一人の男に。
その響きが、私の奥底に眠っていた「獣」を呼び覚ます。
顎を持ち上げられ、逃げ場を失う。
私は……、ただ。
彼の深い瞳の奥に吸い込まれるように、まばたきさえ、忘れていた。
ここから先は……、もう、戻れない。
日常の向こう側へと、私は一歩踏み出そうとしていた……。
瀬戸の濡れた指先から伝わる冷たさが、私の顎の皮膚を通して、脳の芯まで痺れさせていく……。
私は……、拒絶しなければならなかった。
この場所は、私がもっとも『完璧な受付』として、お客様を受け入れるべき空間に相応しい清潔な偶像でいなければならない職場なのだから……。
けれど。
見つめ返す彼の瞳は、暗い海の底のようにどこまでも深く……、私の嘘を見透かしていた。
「震えている……。怖いのですか? それとも、何かを期待しているんですか……?」
瀬戸の声が、鼓膜を優しく、それでいて暴力的に震わせる。
「ち、違います……。やめて……ください……っ」
私の唇から溢れたのは、否定の言葉。
けれど、その声はひどく掠れていて……、熱を帯びていた。
彼は私の顎を捉えたまま、もう片方の手で、私の首筋に沿ってゆっくりと指を滑らせた……。
喉仏のあたりを、爪の先でなぞるような微かな刺激。
ひっ、と短い吐息が漏れる。
首筋は、私の弱点だった。
夫との営みの中では、もう何年も触れられることのなかった……、忘れ去られていた場所。
「この家には、生活感がない。完璧に整えられていて、呼吸すら拒んでいるようだ。あなたと同じですね、真由美さん」
瀬戸の指が、私のブラウスの第一ボタンに掛かる。
指先が、鎖骨のくぼみに沈み込む。
「あ……、だめ……っ、ここは、職場……ですから……」
「職場……? いいえ、ここはただの箱だ。誰も見ていない、雨に閉ざされた密室ですよ」
指先に力がこもり、ぷつり、と。
小さな音を立てて、ボタンが外れた。
肌寒い外気が、私の秘められた肌に触れる。
その冷たさが……、逆に、体内の熱を急速に煽っていくのがわかった。
彼は私の耳元に顔を寄せ、湿った吐息を吹きかけた。
「……本当のあなたが、この下で……どんな風に脈打っているのか。僕が、教えてあげましょうか」
「あ……っ、んんっ……」
耳朶を、熱い唇が食む。
じゅ、と微かな水音がして、全身に電撃が走った。
膝の力が……、抜ける。
私は彼に支えられるようにして、近くにある高級なイタリア製ソファへと押し倒された……。
沈み込む、背中の感触。
44年の間、積み上げてきた理性が、泥濘に沈んでいくような感覚。
「……はぁっ、はぁ……、だめ、そんな……っ」
仰向けにされた私の視界には、無機質なダウンライトの光と、その光を背負って影となった瀬戸の姿だけが映る。
彼は私の足元に膝をつき、タイトスカートの裾に手をかけた。
「……きれいな脚だ。普段、そんな風に隠しているのが……、勿体ないくらいに」
スカートがずり上がり、ストッキングに包まれた太ももが、雨の日の薄暗いリビングに晒される。
彼の大きな掌が、膝から上へと、ゆっくりと……、這い上がってくる。
ナイロンの摩擦音が、静寂の中で異様に大きく響いた。
「あ……っ、ああ……っ、ん、んうっ……」
自分のものとは思えない、淫らな吐息が、喉の奥からせり上がってくる。
彼の掌が、私の内腿の、もっとも柔らかい場所に触れた瞬間……。
私の身体は、大きく、弓なりに跳ねた。
「……まだ、何もしていないのに。……もう、こんなに、熱い」
瀬戸の指が、私の下着の中心を捉えた……。
そこはすでに、自分でも信じられないほど、じっとりと、湿り気を帯びていた。
「あ……、あ゛っ……、ひぐっ……、ん、んん……っ♡」
顔が、熱い。
恥辱と、それ以上の、得体の知れない歓喜。
私は、自分が壊されていくのを……、全身の細胞で、歓迎していた。
彼は……、容赦しなかった。
私の脚を強引に割り、その深淵を、眼鏡の奥の冷徹な瞳で見つめる。
「……綺麗だ。……真由美さん、あなたは今、最高に……、惨めで、美しい」
「や……っ、見ないで……、見ないでっ……、あ、あああっ♡」
私は両手で顔を覆った。
けれど、指の間からこぼれるのは、快楽に歪んだ自分の声。
展示場の外では、雨がますます激しく叩きつけ……。
私の日常の残骸を、すべて洗い流そうとしていた。
瀬戸の指先が、私の秘部の、もっとも敏感な突起を……、じゅぷ、と。
湿った音と共に、捉えた。
「ひいっ……! あ、あ゛っ……、あ、ああああああっ♡」
脳内が、真っ白に染まる。
震える指先が、ソファの革を必死に掴む。
ぎり、と爪が食い込み、身体の奥から、蜜が、溢れ出して止まらない……。
「……ふふ。……溢れている。……この家には、水もガスも通っていないはずなのに。……ここだけは、こんなに、溢れているじゃないか」
「ひぐっ……、う、ううっ……。……はぁっ、はぁ……っ、ん、ああ……っ♡」
彼の冷たい嘲笑が、一番の媚薬だった。
私は……、支配されている。
私がずっと求めていた、言葉にならない、悦び……。
このまま……、どうにかなってしまいたい。
「真由美」という名前も、「妻」という役割も、すべて、この雨の中に溶けてしまえばいい。
瀬戸は、濡れた指を私の唇へと運んだ。
「……自分の蜜の味を、知っていますか?」
「ん……っ、んん、んむっ……!?」
強引に差し込まれた指を、私は拒むことができなかった。
鉄のような、そして甘い、私の欲望の味。
それを味わわされながら、私は……。
さらに深い、底のない快楽の淵へと、沈んでいった。
「……本番は、これからですよ。……たっぷり、教えてあげます。……あなたがどれほど、淫らな女かということを」
瀬戸がベルトを解く音が……、カチャリ、と。
不吉で、甘美な旋律として、私の耳に届いた。
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