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第7話 風呂場にて……
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「あー、疲れたぁ」
湯船に身体を沈めると、俺はつい言葉を漏らしてしまった。
こちらの世界に来てからというもの、毎日が激しい訓練で身体がボロボロになっていたからだ。
倒れそうになるまで走り込まされたり、剣を振らされたり、実戦訓練をしたり。
過酷な訓練を終えて一息ついたかと思えば、食事を挟んだ後は魔法の訓練に始まり、この世界の一般常識や他国の状況を学んだりする。
元の世界とは違い、覚えること一つ一つが自分の今後に直結するため、召喚された他の連中も文句は言いつつ必死に学んでいる。
「……能力差か」
湯船から右手を出し、手を開閉してみる。
訓練用の剣を振っていたため、鈍い痛みが走る。この一ヶ月で鍛えられたのか、身体も大分引き締まってきた。
「元の世界では佐藤とも小林とも力の差はなかったのにな」
同じ訓練をしているはずなのに、差がついてしまう。
それが異世界召喚の影響だと言われてしまえばその通りなのだが、このせいで最近は同じ召喚者同士でも軋轢が生まれ、険悪な雰囲気を漂わせている者もいる。
この国の制度で、星によって身分の差を明確にしているためだ。能力がある人間にとってはある意味住みやすい国なのだろうが、自分が無能力者側に回ってしまうとなんとも息が詰まりそうだ。
「とはいえ、今は訓練を続けていくしかないか」
曲がりなりにも一ヶ月で城に勤める一般兵士と戦えるようになっているのだ。この先も地道に努力をしていけば、最終的には星三くらいにはなれるだろう。
「それに、この環境は割と悪くないしな」
オリヴィアにやる気がないので、王選の負けは決まっている。
だが、元々権力争いに興味はなかったし、国の上に立ちたいという野望も持っていない。
パメラとも仲良くできているので、ここでのんびりと結果が出るのを待つのは良いことかもしれない。
「そろそろ上がるか」
身体も暖まり、気が緩んだからか眠気を覚える。
俺は風呂を出て脱衣所の戸を開けると、
「えっ?」
そこには、一糸まとわぬ姿のオリヴィアが立っていた。
ゴクリと喉が鳴る。
肌は白く、小柄ながら身体の一部が主張をしている。官能的というより神秘的に映るのは彼女の表情がまるで作り物めいているせいだろうか?
まるで芸術を見せつけられたかのような完璧なシルエットに俺は見惚れてしまっていた。
オリヴィアは俺に気付いていないのか、脱いだ服を地面に散らかしたままぼーっとしている。
俺は何か言わなければならないと思うが、突然視界に飛び込んできたオリヴィアの裸に視線が釘付けになっており、言葉が出てこなかった。
気配を感じたのか、オリヴィアが俺を見る。半眼で正面から見つめられるのだが、この状況に動じていないのか表情が変わらない。
彼女はゆっくりと目線を上下させ、俺の全身を一瞥すると、そのまま浴場へと入っていった。
それからしばらくの間、俺は身動きを取れないでいた。
今見てしまったオリヴィアの肢体が目に焼き付いてしまったこともあるのだが、相手はあの『いばら姫』。戻ってきてどんな制裁を加えるのか気が気ではなかったからだ。
結局、彼女は戻ってこず、中からお湯が流れる音が聞こえたので、俺は音を立てないように身体を拭き、服を身に着けて浴場を後にした。
「あっ、お風呂から上がったんですね。そろそろ夕飯にしましょうか」
食堂に行くと、パメラがパタパタと動き回っていた。
十人は座れそうなテーブルには白のテーブルクロスが敷かれていて、燭台が設置されロウソクが燃えている。
当初「魔法の明かりが灯っているのに何故ロウソクが?」などと首を傾げたが、この火をつかってチーズやパンなどを暖めなおすためと聞いた時は驚いた。
彼女は俺の様子に気付くと、近寄ってきて顔をじっと見上げる。
「シンジさん、顔が赤いですよ? 湯あたりしましたか?」
「いや、そういうわけではないんだけど……」
まさか浴場でオリヴィアと遭遇したと告げるわけにもいかない。俺がどう答えるか悩んでいると、パメラは視線を外した。
「ならいいです、それじゃあ私はスープをよそってきますから」
パメラはそう言うと皿を手にスープを用意しはじめた。
「あっ、美味しいな」
スープを一口食べると、素直な感想が出てくる。
「そう言ってもらえると、私も嬉しいです」
パメラは嬉しそうにそう顔を綻ばせると、自分もスープの味を確かめた。
しばらくの間、会話が弾む。
話題は俺が住んでいた日本の文化の話だ。
「遠く離れた相手と話したり、凄い速度で移動したり、自分の生活状況を配信したり、本当にそんな凄い魔導具の数々が存在しているんですか?」
「ああ、しかもそれが道具さえあれば誰にでも簡単に扱うことができるんだ」
「いいなぁ、私も一度見てみたいですよ」
想像を膨らませたのか、パメラは頬に手を当てると遠い目をしてそう言った。
俺はスプーンを皿に置くと真剣な表情を作る。
「なあ、一つ聞きたいんだけど……」
「なんですか?」
「本当に俺たちは元の世界に戻れないんだろうか?」
次の瞬間、パメラの笑顔が消える。
「この世界が決して嫌いというわけじゃないんだ」
今はまだ良い。このくらいの時間なら外国に留学したと思えなくはない。
「だけど、やっぱり俺は元の世界に帰りたいんだ」
その時、食堂の扉が開き、オリヴィアが入ってきた。
視線が俺を捉えている。
「あっ、姫様、また髪が濡れてます! 他の部屋で乾かしますからお待ちください!」
視線を外すと、オリヴィアが出ていく。
「まったくもう。ちょっと姫様のお世話してきますね」
さきほどの雰囲気は霧散してしまい、パメラはいつもの明るい表情を俺に向けてきた。
「あっ、そうだ……」
彼女は、キョロキョロと周りを見渡し、注意深く周囲を観察してから俺に近付くと……。
「さっきの話は聞かなったことにします。盗み聞きしている人は潜んでないと思いますけど、あまりよくありませんからね」
そう、耳元で囁くと出て行ってしまった。
湯船に身体を沈めると、俺はつい言葉を漏らしてしまった。
こちらの世界に来てからというもの、毎日が激しい訓練で身体がボロボロになっていたからだ。
倒れそうになるまで走り込まされたり、剣を振らされたり、実戦訓練をしたり。
過酷な訓練を終えて一息ついたかと思えば、食事を挟んだ後は魔法の訓練に始まり、この世界の一般常識や他国の状況を学んだりする。
元の世界とは違い、覚えること一つ一つが自分の今後に直結するため、召喚された他の連中も文句は言いつつ必死に学んでいる。
「……能力差か」
湯船から右手を出し、手を開閉してみる。
訓練用の剣を振っていたため、鈍い痛みが走る。この一ヶ月で鍛えられたのか、身体も大分引き締まってきた。
「元の世界では佐藤とも小林とも力の差はなかったのにな」
同じ訓練をしているはずなのに、差がついてしまう。
それが異世界召喚の影響だと言われてしまえばその通りなのだが、このせいで最近は同じ召喚者同士でも軋轢が生まれ、険悪な雰囲気を漂わせている者もいる。
この国の制度で、星によって身分の差を明確にしているためだ。能力がある人間にとってはある意味住みやすい国なのだろうが、自分が無能力者側に回ってしまうとなんとも息が詰まりそうだ。
「とはいえ、今は訓練を続けていくしかないか」
曲がりなりにも一ヶ月で城に勤める一般兵士と戦えるようになっているのだ。この先も地道に努力をしていけば、最終的には星三くらいにはなれるだろう。
「それに、この環境は割と悪くないしな」
オリヴィアにやる気がないので、王選の負けは決まっている。
だが、元々権力争いに興味はなかったし、国の上に立ちたいという野望も持っていない。
パメラとも仲良くできているので、ここでのんびりと結果が出るのを待つのは良いことかもしれない。
「そろそろ上がるか」
身体も暖まり、気が緩んだからか眠気を覚える。
俺は風呂を出て脱衣所の戸を開けると、
「えっ?」
そこには、一糸まとわぬ姿のオリヴィアが立っていた。
ゴクリと喉が鳴る。
肌は白く、小柄ながら身体の一部が主張をしている。官能的というより神秘的に映るのは彼女の表情がまるで作り物めいているせいだろうか?
まるで芸術を見せつけられたかのような完璧なシルエットに俺は見惚れてしまっていた。
オリヴィアは俺に気付いていないのか、脱いだ服を地面に散らかしたままぼーっとしている。
俺は何か言わなければならないと思うが、突然視界に飛び込んできたオリヴィアの裸に視線が釘付けになっており、言葉が出てこなかった。
気配を感じたのか、オリヴィアが俺を見る。半眼で正面から見つめられるのだが、この状況に動じていないのか表情が変わらない。
彼女はゆっくりと目線を上下させ、俺の全身を一瞥すると、そのまま浴場へと入っていった。
それからしばらくの間、俺は身動きを取れないでいた。
今見てしまったオリヴィアの肢体が目に焼き付いてしまったこともあるのだが、相手はあの『いばら姫』。戻ってきてどんな制裁を加えるのか気が気ではなかったからだ。
結局、彼女は戻ってこず、中からお湯が流れる音が聞こえたので、俺は音を立てないように身体を拭き、服を身に着けて浴場を後にした。
「あっ、お風呂から上がったんですね。そろそろ夕飯にしましょうか」
食堂に行くと、パメラがパタパタと動き回っていた。
十人は座れそうなテーブルには白のテーブルクロスが敷かれていて、燭台が設置されロウソクが燃えている。
当初「魔法の明かりが灯っているのに何故ロウソクが?」などと首を傾げたが、この火をつかってチーズやパンなどを暖めなおすためと聞いた時は驚いた。
彼女は俺の様子に気付くと、近寄ってきて顔をじっと見上げる。
「シンジさん、顔が赤いですよ? 湯あたりしましたか?」
「いや、そういうわけではないんだけど……」
まさか浴場でオリヴィアと遭遇したと告げるわけにもいかない。俺がどう答えるか悩んでいると、パメラは視線を外した。
「ならいいです、それじゃあ私はスープをよそってきますから」
パメラはそう言うと皿を手にスープを用意しはじめた。
「あっ、美味しいな」
スープを一口食べると、素直な感想が出てくる。
「そう言ってもらえると、私も嬉しいです」
パメラは嬉しそうにそう顔を綻ばせると、自分もスープの味を確かめた。
しばらくの間、会話が弾む。
話題は俺が住んでいた日本の文化の話だ。
「遠く離れた相手と話したり、凄い速度で移動したり、自分の生活状況を配信したり、本当にそんな凄い魔導具の数々が存在しているんですか?」
「ああ、しかもそれが道具さえあれば誰にでも簡単に扱うことができるんだ」
「いいなぁ、私も一度見てみたいですよ」
想像を膨らませたのか、パメラは頬に手を当てると遠い目をしてそう言った。
俺はスプーンを皿に置くと真剣な表情を作る。
「なあ、一つ聞きたいんだけど……」
「なんですか?」
「本当に俺たちは元の世界に戻れないんだろうか?」
次の瞬間、パメラの笑顔が消える。
「この世界が決して嫌いというわけじゃないんだ」
今はまだ良い。このくらいの時間なら外国に留学したと思えなくはない。
「だけど、やっぱり俺は元の世界に帰りたいんだ」
その時、食堂の扉が開き、オリヴィアが入ってきた。
視線が俺を捉えている。
「あっ、姫様、また髪が濡れてます! 他の部屋で乾かしますからお待ちください!」
視線を外すと、オリヴィアが出ていく。
「まったくもう。ちょっと姫様のお世話してきますね」
さきほどの雰囲気は霧散してしまい、パメラはいつもの明るい表情を俺に向けてきた。
「あっ、そうだ……」
彼女は、キョロキョロと周りを見渡し、注意深く周囲を観察してから俺に近付くと……。
「さっきの話は聞かなったことにします。盗み聞きしている人は潜んでないと思いますけど、あまりよくありませんからね」
そう、耳元で囁くと出て行ってしまった。
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