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第16話 一夜が明けて
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「ふぅ、今日はここまでですかね?」
俺は息を吐くと、オリヴィアに確認をした。
魔法の照明が薄暗くなってきている。
この魔法は一度使えば最大で十二時間ほど周囲を照らしてくれると聞いているので、それなりに長い時間を探索していたことになる。
「なによ、全然進んでいないんじゃない?」
「仕方ないですよ、ちょっと歩くとモンスターと遭遇していたんですから」
迷宮が入り組んでいることもさながら、探索途中でオークやコボルト、ゴブリンなどのモンスターと遭遇したのでその都度戦った。
そのお蔭であまり進むことができず、こうして時間を費やしてしまったのだ。
「他の陣営はどのくらい進んでいるんでしょうかね?」
オリヴィアの魔法による援護がなく、俺は一匹のモンスターを相手にするのもやっとなので、複数のモンスターがたむろしている場合は引き返したりもしている。
一方、ローウェルとアマンダの陣営は人も多く、戦力も充実しているであろうことから多数のモンスターがいようが気にすることなく最短ルートを通っている可能性が高い。
「ん?」
気が付けば魔法の光が明るさを取り戻していた。
頼まずともオリヴィアが再度魔法を使ったのだろう。気を利かせてくれるとは珍しい。
「ひとまず何があるかわかりません。ちょうどよい広めの場所なので、補給して今日のところはここに落ち着きましょう」
行き止まりにちょっとした部屋ほどの大きさの空間があったので、ここで身体を休めることに決めた。
鍋に水を張りスープを作って暖まる。火や水を出す簡易的な魔導具も用意していないので、その都度オリヴィアに魔法で出してもらった。
一通り身体を休ませるための準備をしていると、だんだんとオリヴィアの元気がなくなってきた。
彼女は普段から屋敷に籠っているせいか、体力がない。これだけ長時間、モンスターがいる場所を歩き回ったので疲れているようだ。
「敵が接近してくれば俺の危険察知能力でわかると思うので、食べたらゆっくり休んでください」
「……うん」
もはや返事も億劫なのか、オリヴィアは食事を摂りながら瞼が落ちている。皿を落としそうで見ているこっちがハラハラするが、どうにか食べ終えると毛布にくるまり横になった。
「しかし、思ってるより大変だな。明日で決着がつくといいんだけどな」
オリヴィアに買い与えられた高性能の装備のお蔭でなんとかやれているが、元の実力のせいで苦戦をしている。これを装備したのが佐藤や小林なら無双しているのだろうが、能力が違うのでそれを言っても悲しくなるだけ。
オリヴィアの援護は最初の一発だけなので、明日も頑張らなければならない。
俺は、深い眠りに落ちているオリヴィアを見る。普段の様子はどうあれ、今は儚げな少女のようだ。
「守らないとな……」
覚悟を口にすると、明日の探索のため毛布にくるまると身体を休めるのだった。
「ん、モンスターは襲ってこなかったようだな?」
眠りから覚めると身体を動かす。
地面がごつごつしているので、背中が痛んだ。
「それにしても、こういう時は危険察知能力に感謝だ」
自分に死が迫ると痛みをもって知らせてくれるこの能力のお蔭で、寝ずの番をする必要がなかった。
実際に、先日の探索でも何度か死の気配を感じることがあった。迷宮の分岐で片方を選択すると痛みが走る。
恐らく、俺の手に負えないモンスターがいたのだろう。
そうやって危険な場所を避けたお蔭で、昨日は強力なモンスターと戦うことはなかった。
「だけど、こんな生活あと何日も続けたくないぞ」
昨日の疲労がまだ残っている。軽いとはいえ、武器と防具を持ち歩いているわけだし、戦闘時に緊張したので精神的にも疲労している。
「起き上がろうにも何かが乗っているみたいに身体が重いしな」
さきほどから身体を起こそうとするのだが、自分の意志に反して身体が動かなかった。
俺が首を動かし下を見ると、身体に掛けてある毛布が盛り上がっていた。
何事かと思い、俺は毛布をめくってみる。
「スースースー」
細い髪が流れ、俺の胸に広がっている。自分の寝床で寛ぐ猫のように、オリヴィアが全身を預け俺の上に覆いかぶさって寝ていた。
あどけない寝顔が目に映ると同時に、彼女の身体の柔らかさと暖かさが伝わってくる。
普段起きている時に見せる憎たらしい表情ではなく、安心しきった幼子のような寝顔を見ていると自然と目じりが下がった。
「う、うーん?」
「ちょ、ちょっと……それはまずいって」
毛布を取ったことで違和感を覚えたのか、オリヴィアは両手を動かし俺の顔を撫でる。相変わらず覆いかぶさっている格好なので、オリヴィアが動くたびに胸が潰れ、俺はその破壊的な柔らかさをどうしたって意識せざるを得ない。
やがて、彼女は動くのをやめると、俺の頬に自らの頬を寄せると、安心したのか再び眠りへと落ちていく。
「これ、多分殺されはしないんだろうな?」
彼女が起きたときに気まずくなるのだろうが、とりあえず自分の能力が発動しないことに安堵すると、俺は彼女が目を覚ますまで寝たふりをするのだった。
「さっさと出発するわよ」
あれから、しばらくして本当に眠ってしまった俺だったが、オリヴィアに起こされた。
「いい加減起きなさい」
腰に手を当てそう言った彼女。とても朝方まで俺にぴったりくっついて寝ていたとは思えない普段通りの様子だ。
もしかすると、あれは俺自身の願望が見せた夢だったのではないだろうか?
そんなことを考え彼女を見ていると、フイと視線を外される。
「寝起きも最悪だったし、これだから迷宮は嫌なのよ。今日中に攻略して屋敷に帰るわよ」
「姫様、嫌な夢でもみたんですか?」
いつもにまして不機嫌そうな表情をしているので俺は聞いてみる。すると、彼女は苦い顔をすると答えた。
「ええ、とびっきり、最悪の夢を、ね」
これ以上突っ込むのは藪蛇になりそうだったので、俺は口を噤んだ。
「今日は絶対に野宿しないんだから……、一生の不覚だわ」
よほど迷宮が嫌いなのだろう。彼女はそう言うと、迷宮の奥を睨みつけていた。
俺は息を吐くと、オリヴィアに確認をした。
魔法の照明が薄暗くなってきている。
この魔法は一度使えば最大で十二時間ほど周囲を照らしてくれると聞いているので、それなりに長い時間を探索していたことになる。
「なによ、全然進んでいないんじゃない?」
「仕方ないですよ、ちょっと歩くとモンスターと遭遇していたんですから」
迷宮が入り組んでいることもさながら、探索途中でオークやコボルト、ゴブリンなどのモンスターと遭遇したのでその都度戦った。
そのお蔭であまり進むことができず、こうして時間を費やしてしまったのだ。
「他の陣営はどのくらい進んでいるんでしょうかね?」
オリヴィアの魔法による援護がなく、俺は一匹のモンスターを相手にするのもやっとなので、複数のモンスターがたむろしている場合は引き返したりもしている。
一方、ローウェルとアマンダの陣営は人も多く、戦力も充実しているであろうことから多数のモンスターがいようが気にすることなく最短ルートを通っている可能性が高い。
「ん?」
気が付けば魔法の光が明るさを取り戻していた。
頼まずともオリヴィアが再度魔法を使ったのだろう。気を利かせてくれるとは珍しい。
「ひとまず何があるかわかりません。ちょうどよい広めの場所なので、補給して今日のところはここに落ち着きましょう」
行き止まりにちょっとした部屋ほどの大きさの空間があったので、ここで身体を休めることに決めた。
鍋に水を張りスープを作って暖まる。火や水を出す簡易的な魔導具も用意していないので、その都度オリヴィアに魔法で出してもらった。
一通り身体を休ませるための準備をしていると、だんだんとオリヴィアの元気がなくなってきた。
彼女は普段から屋敷に籠っているせいか、体力がない。これだけ長時間、モンスターがいる場所を歩き回ったので疲れているようだ。
「敵が接近してくれば俺の危険察知能力でわかると思うので、食べたらゆっくり休んでください」
「……うん」
もはや返事も億劫なのか、オリヴィアは食事を摂りながら瞼が落ちている。皿を落としそうで見ているこっちがハラハラするが、どうにか食べ終えると毛布にくるまり横になった。
「しかし、思ってるより大変だな。明日で決着がつくといいんだけどな」
オリヴィアに買い与えられた高性能の装備のお蔭でなんとかやれているが、元の実力のせいで苦戦をしている。これを装備したのが佐藤や小林なら無双しているのだろうが、能力が違うのでそれを言っても悲しくなるだけ。
オリヴィアの援護は最初の一発だけなので、明日も頑張らなければならない。
俺は、深い眠りに落ちているオリヴィアを見る。普段の様子はどうあれ、今は儚げな少女のようだ。
「守らないとな……」
覚悟を口にすると、明日の探索のため毛布にくるまると身体を休めるのだった。
「ん、モンスターは襲ってこなかったようだな?」
眠りから覚めると身体を動かす。
地面がごつごつしているので、背中が痛んだ。
「それにしても、こういう時は危険察知能力に感謝だ」
自分に死が迫ると痛みをもって知らせてくれるこの能力のお蔭で、寝ずの番をする必要がなかった。
実際に、先日の探索でも何度か死の気配を感じることがあった。迷宮の分岐で片方を選択すると痛みが走る。
恐らく、俺の手に負えないモンスターがいたのだろう。
そうやって危険な場所を避けたお蔭で、昨日は強力なモンスターと戦うことはなかった。
「だけど、こんな生活あと何日も続けたくないぞ」
昨日の疲労がまだ残っている。軽いとはいえ、武器と防具を持ち歩いているわけだし、戦闘時に緊張したので精神的にも疲労している。
「起き上がろうにも何かが乗っているみたいに身体が重いしな」
さきほどから身体を起こそうとするのだが、自分の意志に反して身体が動かなかった。
俺が首を動かし下を見ると、身体に掛けてある毛布が盛り上がっていた。
何事かと思い、俺は毛布をめくってみる。
「スースースー」
細い髪が流れ、俺の胸に広がっている。自分の寝床で寛ぐ猫のように、オリヴィアが全身を預け俺の上に覆いかぶさって寝ていた。
あどけない寝顔が目に映ると同時に、彼女の身体の柔らかさと暖かさが伝わってくる。
普段起きている時に見せる憎たらしい表情ではなく、安心しきった幼子のような寝顔を見ていると自然と目じりが下がった。
「う、うーん?」
「ちょ、ちょっと……それはまずいって」
毛布を取ったことで違和感を覚えたのか、オリヴィアは両手を動かし俺の顔を撫でる。相変わらず覆いかぶさっている格好なので、オリヴィアが動くたびに胸が潰れ、俺はその破壊的な柔らかさをどうしたって意識せざるを得ない。
やがて、彼女は動くのをやめると、俺の頬に自らの頬を寄せると、安心したのか再び眠りへと落ちていく。
「これ、多分殺されはしないんだろうな?」
彼女が起きたときに気まずくなるのだろうが、とりあえず自分の能力が発動しないことに安堵すると、俺は彼女が目を覚ますまで寝たふりをするのだった。
「さっさと出発するわよ」
あれから、しばらくして本当に眠ってしまった俺だったが、オリヴィアに起こされた。
「いい加減起きなさい」
腰に手を当てそう言った彼女。とても朝方まで俺にぴったりくっついて寝ていたとは思えない普段通りの様子だ。
もしかすると、あれは俺自身の願望が見せた夢だったのではないだろうか?
そんなことを考え彼女を見ていると、フイと視線を外される。
「寝起きも最悪だったし、これだから迷宮は嫌なのよ。今日中に攻略して屋敷に帰るわよ」
「姫様、嫌な夢でもみたんですか?」
いつもにまして不機嫌そうな表情をしているので俺は聞いてみる。すると、彼女は苦い顔をすると答えた。
「ええ、とびっきり、最悪の夢を、ね」
これ以上突っ込むのは藪蛇になりそうだったので、俺は口を噤んだ。
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よほど迷宮が嫌いなのだろう。彼女はそう言うと、迷宮の奥を睨みつけていた。
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